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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科2巻1号

1974年01月発行

雑誌目次

脳神経外科の担手

著者: 岩淵隆

ページ範囲:P.5 - P.6

 我国脳神経外科の開拓者の一人でもある或大御所が,一般向けに話された中で,「私が日本に帰って脳の手術を始めた頃は,患者さんが不幸な結果に終っても,非難めいたことを聞かされることはなかったが,その後,脳外科も非常に安全になって,手術で患者さんを失う様なことは殆どなくなった最近は,却って稀に結果が思わしくないと誰かが文句を云いに来る.」という様な意味のことを云って居られたのを聞いたのは,多分今から24,5年も前のことであったろう.うっかりしていれば聞き逃がしそうな淡々とした口調の中に多くの感慨が込められて居たであろうし,色々の意味にも受取れて非常に味深い.
 この様な事は,各分野に共通する事かも知れず,又聞く側の感受性にもよることであろうが,その時は脳神経外科の強烈な印象と憧憬の様なものを感じ,その後の筆者の進路に可成り決定的な影響を与えたものであった.進歩に向って精進努力して効果が上がる程,報われ方が厳しくなって来る現実の側面を云い得て妙である.

総説

脳腫瘍の硼素中性子捕捉療法—本邦における5年間の歩みと将来

著者: 畠中坦 ,   天野数義 ,   佐野圭司 ,   最上平太郎 ,   早川徹 ,   生塩之敬 ,   半田肇 ,   山下純宏 ,   渡辺哲敏 ,   宮川正 ,   美濃部嶢 ,   三島豊 ,   宮本正光 ,   柄川順 ,   三浦健 ,   小林博

ページ範囲:P.7 - P.16

本療法の原理
 従来の放射線療法では,たとえいかなる方法で狙いを定めて照射しても,元来,悪性腫瘍は,浸潤性で,腫瘍と正常組織の移行部が,直視下手術の時でさえよく判らないほどであるので,腫瘍のみに治療的線量を与えることは全く不可能であった.ことに,他臓器と異り,脳腫瘍の場合は,周辺の正常組織を損傷することは,これ迄でも「なるべく」避けたいとされたし,今後は,「絶対に」避けたいとされつつあるので,腫瘍の浸潤範囲が全く判っていない悪性腫瘍の場合,従来の外科的,放射線学的治療法では,選択的治療は全く不可能であった.結局,腫瘍の真の選択的治療は,何らかの生化学的,免疫化学的な,化学的方法に頼らざるを得ない.
 脳腫瘍には幸い,いわゆる「血液脳関門」現象がなく,各種の物質を,周辺の脳組織よりも遙かに多量にとり込む利点がある.この利点のために,脳腫瘍では,他臓器の癌より先に硼素中性子捕捉療法が始められた.

手術手技

ParasagittalおよびFalx Meningiomaの手術

著者: 西本詮

ページ範囲:P.17 - P.22

Ⅰ.はじめに
 Parasagittalないしfalx meningiomaの摘出手術上,術前によく確かめておかねばならない点としては,1)腫瘍はしばしば正中線をこえて反対側に及んでいることがあり,片側性であるか両側性であるかを鑑別すべきことと,2)上矢状洞が腫瘍によって閉塞されているか否かという点である.腫瘍が上矢状洞の前1/3に発生している場合には上矢状洞と共に摘出してよいが,中および後1/3に発生し,上矢状洞が開存している場合には,これを傷つけることは極力避けねばならぬからである.
 手術方針としてはmeningioma附着部の硬膜を含めて全摘出を行なうべきであり,術中の出血を最少限にとどめ,脳組織の傷害をできるだけ避け,上矢状洞を能うかぎり温存し,しかも再発をきたさないようにするわけであるが,そのため各人各様の工夫があり,一定の術式というものはないようである.したがって私の行なっている方法を中心に手術の順を追って,それらの点にふれてみたいと思う.Parasagittal meningiomaは上矢状洞中1/3に発生する場合が比較的多いので,片側性のそれについて主としてのべ,falx meningiomaについてはそのあと多少ふれてみたいと思う.

境界領域

記憶物質

著者: 永田豊

ページ範囲:P.23 - P.27

 神経活動の物質的背景をさぐる第4回国際神経化学会議は,今年8月26日から31日まで東京の日本都市センターで800人以上の参加者を集めて盛大に開催された.この会議の焦点の一つは近年注目されてきた記憶の神経化学的研究による解明がどの程度まですすめられてきたかという点をとりあげた"記憶の蓄積機構の生化学的研究"という円卓討論会で,米国のカリフォルニア大学のBarondes教授が座長となってミシガン大学のAgranoff教授,ベイラー大学のUngar教授,ノースカロライナ大学のGlassman教授,スウェーデンのHyden教授などが参加して活発な討論がくりひろげられた.
 学習や記憶の能力は人類においてもっとも高度に発達している過程であって,人類に一番近い霊長類よりもきわだってすぐれており,これが人間と他の動物と区別する重要な点の1つにあげられているほどである.このように学習・記憶の現象は人間にとって非常に重要なものであるといわれながらも,従来この方面の研究は主として心理学や精神医学の立場などから抽象的に取扱われてきた.しかし最近20年来この記憶の問題をもより生物学的基盤にたって実験的に研究してゆこうとする勇敢な人々が挑戦を始めて,諸外国では"記憶の神経化学"に関するシンポジウムがしばしば開かれ多くの研究者たちの強い関心を集めている.そしてこれらの発表は数多くの総説や書物1-7)にまとめられて出版されており,今や流行の課題の一つになりつつある.

研究

脳動静脈奇形の外科的療法—88例の統計と手術成績,そのfollow-up

著者: 小沼武英 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.29 - P.37

Ⅰ.緒言
 脳動静脈奇形(以下AVMと約す)に対する外科的療法は,手術法はもとより,その手術適応が予後の上でも重要である.特に最近の保存的療法の報告をみると,かつていわれていた程,予後は悪くなく,死亡率だけからいうと10-20%とかなり低い.そこで著者等は,当教室で経験した88例のAVMについて,その症状,手術法,手術成績等を検討し,更にこれらの症例に予後調査を行い若干の知見を得たので,保存的療法の予後と共に報告する.

頭蓋内圧充進時における脳血流障害の研究(第2報)—傍矢状,静脈血流路の圧勾配について

著者: 中川翼 ,   都留美都雄 ,   矢田賢三

ページ範囲:P.39 - P.45

Ⅰ.緒言
 各種の頭蓋内病変により,頭蓋内圧がある程度以上になると,脳血流量の減少する事は既に良く知られた事実である.しかしながら頭蓋内圧亢進時,どのような機序で脳血流量の減少が引き起こされるのか,或は脳血流量の減少を引き起こす原因は,頭蓋内血流路のどの部分に存在するのか,といった問題については近年迄充分に解明されていなかった.
 この問題に関して著者ら6,7,14)は,成犬を用い,傍矢状部の外径0.6-1.5mmの脳表静脈内圧を頭蓋内圧亢進下で測定し,脳表静脈内圧が頭蓋内圧よりほぼ50-200mmH2O高い事を知った.また,頭蓋内静脈路,特にbridging veinと上矢状静脈洞の間の静脈路であるlateral lacuna of superior sagittal sinusの壁に強度について検討した結果,この部分は,頭蓋内圧の亢進と共に徐徐に圧縮され内腔が狭窄する事を証明した.この2つの実験結果より,頭蓋内圧亢進時狭窄をおこし,血流をうっ帯させるのは,lateral lacunaの部分である事を指摘した.また,lacunaが上矢状静脈洞に移行する部分は,lacunaの内圧と外圧の差が最も大きいはずであるので,この部で狭窄が生じると推定した.

慢性硬膜下血腫の成立機序に関する研究(第1報)—慢性硬膜下血腫(Cystic Hematoma)の臨床病理学的研究

著者: 伊藤梅男 ,   藤本司 ,   稲葉穰

ページ範囲:P.47 - P.61

Ⅰ.緒論
 本論文でいう慢性硬膜下血腫とは,内外二膜で被包されたCystic Hematomaに限る.
 急性硬膜下出血による凝血は,その慢性期に内外二葉の新生膜によって被包される.これらの膜は半透膜として作用するので,高滲透圧の血腫内容は脳脊髄液や新生膜内の毛細血管を流れる血液から水分を吸収して血腫内容は次第に膨張し,これがある大きさに達すると血腫として臨床的に発症すると考えたGardner(1532)5)やZollinger and Gross(1934)24)らの仮説は,本症の特徴である受傷から発症までのlatent intervalをよく説明し得るので,近年に到るまで多くの学者により受け入れられて来た.しかし最近Weir(1971)22)による血腫内容,脳脊髄液,ならびに血液の滲透圧測定結果から,三者間に滲透圧差が存在しないことが証明されて以来,滲透圧説は疑問視されつつある.そこでもう一度Gardner以前に立ち戻り,血腫の構造と臨床経過とを対比させて血腫の成立機序を検討した.

症例

Trigeminal Neurinoma—Ganglion typeとRoot type

著者: 宮上光祐 ,   後藤利和 ,   菅原武仁 ,   坪川孝志 ,   森安信雄

ページ範囲:P.63 - P.70

Ⅰ.緒言
 Peet36)によれば,1836年Smithによって初めてGasserian Ganglion Neurinolnaについて検討され,1849年にその報告がなされている,Trigeminal Neurinomaの頻度は,Schisano & Olivecrona38)によると,572例の脳腫瘍例中,0.2%であったと報告し,著者らの現在までの文献を検索した限りでも,自験例を加え,128例の報告がみられ,決してまれな疾患とはいえない.
 Trigeminal Neurinomaは,解剖学的に,テント下で小脳橋角部に位置するTrigeminal Nerve Rootから発生するRoot typeとテント上で,鞍背,ならびに錐体先端のすぐ外側に位置するGanglion Gasseriから発生するGanglion typeに分類される,これらの解剖学的位置関係から,この両者では,腫瘍の伸展,発育方向,すなわち,臨床像上の相違が明らかに認められる.文献上,Glasauerら18)が述べているごとく,大部分はGanglion typeで,中頭蓋窩を主体としたTumorであり,後頭蓋窩に限局するRoot typeは,非常に少ないとされている.しかし,Ganglion typeかRoot typeかによってその治療指針,とくに,手術法が異なるため,術前の充分なる検索と同時に,その的確な診断が重要となる.

Pituitary hemorrhageの1例

著者: 長野隆行 ,   西村謙一 ,   金谷春之 ,   淵沢敬吉

ページ範囲:P.71 - P.74

Ⅰ.緒言
 いわゆるPituitary apoplexyとは,頭痛・急激な視力障害・意識障害などを主徴する脳下垂体への出血で,比較的まれなものである.われわれは,術前脳下垂体腺腫の診断で開頭したが,組織学的検索により腫瘍を見出し得ない比較的慢性の経過をとった脳下垂体出血と診断された症例を経験したのでその概要を述べるとともに,本邦におけるその報告例について若干の考察を加えてみたい.

クモ膜下出血で発症した脳硬膜動静脈奇形の1例

著者: 藤津和彦 ,   小田正治 ,   桑原武夫

ページ範囲:P.75 - P.79

Ⅰ.はじめに
 脳硬膜動静脈奇形は非常にまれなものであり,Dural Arteriovenous Malformation7,8,12),Congenital Dural Arteriovenous Fistula2,10),Dural Arteriovenous Aneurysm13)などの名称で報告が散在するにすぎない,最近Newton7)が16例をまとめて報告し,彼はこの疾患が後頭蓋窩に好発するのでDural Arteriovenous Malformation in the Posterior Fossaと呼んでいる.Nicola8),Wijngaarden13)なども同じような名称を用いており,この疾患は後頭蓋窩硬膜動静脈奇形として独立した疾患と認められつつある.但しこれらの名称はあくまでも脳血管撮影上の名称であり,病理学的検索を提示した報告は見当らない.われわれの症例においても病理学的にはいわゆる脳動静脈奇形とは異った組織像を示しているが,一応今までの報告にならって脳硬膜動静脈奇形と呼ぶことにする.
 次に,本症は往々にして脳内動静脈奇形を合併し,そのためクモ膜下出血を生じることがあるが,本症が硬膜に限局している場合にクモ膜下出血を生じることはきわめてまれであり,その報告は見当らない.

総頸動脈を経由せる脳動脈内留弾

著者: 山田潔忠 ,   新井弘之 ,   阿部剛

ページ範囲:P.81 - P.84

Ⅰ.はじめに
 直接頭蓋骨を貫通して脳内に入った脳内異物に関しては多くの報告があるが,脳動脈内の異物に関する報告は少い.著者らは狩猟中の事故により,散弾が総頸動脈壁内に留まり,それをレ線透視下で摘出しようとして頸部を動かしたときときに頸動脈内に入り込み,上行して中大脳動脈主幹部に留まり,その後角回動脈と後側頭動脈を支配する中大脳動脈の主枝に嵌入したまれな1例を経験したので報告する.

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キーワード基準例

著者: 編集部

ページ範囲:P.85 - P.85

 本誌ではキーワードの統一のために下記の基準例を設けました.投稿されるかたはこれを中心にキーワードをおつけ下さい.

日本脳神経外科学会事務局ニュース

ページ範囲:P.86 - P.87

第32回日本脳神経外科学会総会
 昭和48年10月18-20日の3日間にわたり,福岡市市民会館で開催され,ほぼ1,000名の会員が参集した.一般演題152題,シンポジウム"頸椎および頸髄の外科"11題,映画供覧11題,早朝セミナー5題,特別講演2題,いずれも予定どおり行なわれたが,特別講演演者のProf. W. Feindelが差支えのため突如来日できなくなったので,共同研究者のAss. Prof. Y. Lucas Yamamotoにより日本語で同じ演題の講演が行なわれた.
 評議員会(10月18日,出席可能評議員数389,出席者213)では,物故会員に黙祷を捧げた後,会長から,今次学術総会のあらまし,昭和50年開催予定の日本医学会総会での特別講演,シンポジウムの演者,司会者の推薦についての報告があり,引き続き,佐野庶務会計幹事による学会本部事務局の会計報告,会員動向(9月26日現在2,126名うち認定医519名そのうち死亡4名),厚生省救急医療研修についての昭和47年度実施概要,昭和48年度の計画概要についての報告があり,ついで,西本前会長により,昨年岡山で行なわれた第31回学術総会会計報告がなされた.次期会長挨拶として,鈴木二郎東北大教授より,第33回総会は,昭和49年10月23-25日の3日間,仙台市で開催の予定であり,シンポジウム予定演題等についても抱負が述べられた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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