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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科2巻10号

1974年10月発行

雑誌目次

新しく脳神経外科を志す人に

著者: 三輪哲郎

ページ範囲:P.653 - P.654

 この扉の内容は冒頭にあるためにまじめな固いものになりがちのように見受けられる.くだけた意見もどうかと編集委員のN教授が何巻目かの本誌に後記として意見を述べておられた.それに便乗させて戴いて卒業前後の学生と交した対話の若干を紹介して扉の責を果したい.
 医学部4年生のクラス担任を大学から仰せつかっていたせいか,昨年より本年にかけて色々の行事や集合に呼ばれることが多かった.卒業試験の終ったこの3月初旬,ある集会でたまたま近い将来の入局問題が話題にのぼった.

総説

脳腫瘍の生化学—脳腫瘍蛋白質と免疫反応

著者: 高倉公朋

ページ範囲:P.655 - P.661

Ⅰ.はじめに
 脳腫瘍の生化学的研究はきわめて広範囲にわたっている,腫瘍の特性としての嫌気性エネルギー代謝16)や,脳組織がコレステロールをはじめとする脂質に富んでいることから,脂質代謝に関連した一連の研究11,40,44)がある.酵素学的な面から見ても,LDHやaldolaseのisozymeの分析は単に診断的価値のほかに腫瘍の分化,脱分化の謎を解く鍵を持ち30,31),lysosomal enzymeの分析は腫瘍化や腫瘍細胞の分裂,崩壊の問題を提起している1)
 一方脳腫瘍蛋白質合成の課程を明らかにすることは,各種制癌剤の作用機序とも関連して有効な化学療法を行う上で重要である34).しかしこれらの研究成果を網羅することは不可能なので,ここでは脳腫瘍特異蛋白質に関する研究をふりかえって眺め,生体が自已防衛の機能を発揮して,これら特異蛋白質をどのように認識して腫瘍細胞を破壊していくのか,その道筋をたどって見たい.脳腫瘍の免疫学的治療を考える場合にとかく細胞性免疫に重点がおかれがちであることから,あらためて液性免疫(humoral immunity)の重要性について考察してみよう.

手術手技

眼窩内腫瘍の手術

著者: 桑原武夫

ページ範囲:P.663 - P.668

Ⅰ.はじめに
 眼窩腫瘍剔出のアプローチは,おおよそ次の3つに分けられる。すなわち,anterior approach,lateral approach(Krohnlein法)およびtransfrontal approachである.anterior approachは腫瘍が眼窩の前方にあるとき,すなわち,眼球と眼窩縁の間に腫瘍を十分に触れうる時は,多くはこの到達法で可能である.このアプローチは眼科医あるいは耳鼻科医によって行なわれることが多い.Krohnlein法は腫瘍が眼球後方にある場合で,もっぱら眼科医によって行なわれている.このアプローチは手術野は狭く,腫瘍が大きい場合には完全剔出は困難であろう.試験切除のためには適している.眼球後方の腫瘍とくに視神経管の近くまで達している時は,transfrontal approachでなければ到底その完全剔出は望めない.このアプローチはもっぱら脳神経外科医により行なわれる.
 しからば,transfrontal approachによれば,眼球後方の腫瘍はいかなるものも確実に別出しうるかといえば,必ずしもそうではない.腫瘍がかなり大なるとき,腫瘍が眼筋より深く存在するとき,あるいは眼窩の下壁に近く存在するときなどは,もっと手術野を拡げた方が,眼筋やこれを支配している神経を損傷しないで確実,せんさいな手術が可能となる.

境界領域

Gasmyelography

著者: 小林直紀

ページ範囲:P.669 - P.673

Ⅰ.はじめに
 Gasmyelographyは1919年Dandyによってその可能性が述べられており,Jacobeau(1921)やDandy(1925)が臨床例を報告して以来,脊髄およびそれをとりまく周囲の疾患のX線診断法として広く用いられて来ている.しかし,Sicard(1922)やRamsey(1944)らによる油溶性造影剤の開発導入によってこれ等が好んで用いられるようになり,特に我国においては脊髄撮影と言えば油溶性造影剤によるものを指すのが一般的のようである.このことは脳室脳槽撮影における造影剤が気体と油溶性造影剤(現在は水溶性造影剤も一般に用いられている)とによって目的を異にしている検査体系とは幾分趣が違うようである.油溶性造影剤の導入によってそれ迄の気体による撮影では得られなかった鮮明な像を得ることが出来るようになり,椎弓や肋骨その他の椎管周囲の構造の陰影との重なりが読影上さほど障害とならなくなった為と思われる.しかしヨード油のクモ膜下腔への注入による障害は無視されるべきものではない.Gasmyelographyでは造影剤そのものによる障害は全く無いといって良く,X線撮影装置の発達した今日,椎管内の全貌を知る上でも,疾患周辺の状況の把握の上でもGasmyelographyが秀れていると考えられる面が多く,本邦においてもさらに広く用いられて良い検査法であると考え,著者らが現在東京女子医大脳神経センター神経放射線科で行なっている方法を中心にその利点を紹介し2,3の問題点について述べる.

研究

新生児脳室内出血—その成因と外科的治療について

著者: 白井鎮夫 ,   竹内豊 ,   牧豊

ページ範囲:P.675 - P.682

Ⅰ.はじめに
 新生児脳室内出血は,新生児頭蓋内出血の20-40%を占めるといわれ5,16),今世紀初頭より注目されており2,10,11,15),文献の数も多い.これ等文献を通覧すると,本症は,未熟児に特有の疾患とされており,成熟児には少いとされている5,6,7,14,16)
 われわれは最近1年間に,新生児脳室内出血の5例を経験しているが,全例成熟児であり,未熟児に特有であるという考え方には疑問を感じている.

Craniopharyngiomaに対するBleomycin局所投与法の研究—Craniopharyngioma培養細胞によるBleomycinの効果及びBioassayによる腫瘍嚢胞内濃度について

著者: 久保長生 ,   高倉公朋 ,   三木啓全 ,   沖野光彦 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.683 - P.688

Ⅰ.緒言
 Craniopharyngiomaに対する治療法は,一般の脳腫瘍と同じく,手術による摘出が最適であるが,良性腫瘍でありながら,その予後は必ずしもよくない.Matsonら1)は初回の手術に全摘出可能なものはその予後もよいが,亜全摘出の場合,再発,症状増悪をしばしば経験すると述べている,Hoff2)はこの亜全摘出症例に対して放射線照射を加えることが最良と述べている.私達はcraniopharyngiomaの腫瘍特異性として,(1)大部分に腫瘍内嚢胞形成がみられること,(2)上皮性腫瘍であるという2点を考慮に入れ,1962年梅沢ら3)により発見され,市川らによりはじめて扁平上皮癌に対する著効が認められたBleomycinを本腫瘍の治療に用いた.
 基礎的研究としてcraniopharyngiomaの組織培養を試み,培養細胞を用いてBleomycinによる細胞変性効果をとらえた.

視神経・視交叉部膠腫の電顕的観察—特にdesmoplastic reactionについて

著者: 副島徹 ,   朝長正道 ,   北村勝俊

ページ範囲:P.689 - P.697

Ⅰ.緒言
 視神経および視交叉部に発生する神経膠腫は,比較的まれな腫瘍ではあるが,主として小児に発生し,部分摘出のみでも術後の生存期間が長いことにより広く知られている.しかし,この腫瘍の細胞由来については,古くから議論され,ほぼ同じ組織像を呈する腫瘍をSpongioblastoma3,12,33,38),(pilocytic) astrocytoma5,24),あるいはoligodendroglioina16)などと1呼び,混乱をまねきやすい腫瘍の1つでもある,また,この腫瘍は,時に周囲結合組織被膜に浸潤し,間葉系成分の著明な反応性増殖を起こすことがある.この場合,組織学的には腫瘍細胞は索状,あるいは渦状に配列し,各腫瘍細胞群間には膠原線維や細網線維などの結合組織成分が豊富に分布し,一見,間葉系細胞由来の腫瘍を思わせる像を呈する.

症例

Megadolichobasilar Anomaly

著者: 大和田健司 ,   鈴木二郎 ,   岩淵隆

ページ範囲:P.699 - P.704

Ⅰ.はじめに
 脳底動脈が異常に延長,拡張あるいは迂曲を呈した場合Megadolichobasilar Anomalyと呼ばれている.一方Dandy4),Sjögren9),Greitz6),Breig2),またBoeri1)らは,これら脳底動脈の異常が臨床所見と可成りの関係を有すると述べている,その他にも,本症が橋腫瘍,小脳橋角部腫瘍と誤診された報告もある10,11).この様に本症は臨床的には決して無視出来ないものであるにも拘らず未だ確実な定義もなく,看過されて来た感がある.そこで経験例に基づいて若干検討を加えてみた.

外傷性中硬膜動静脈瘻の2例

著者: 忍頂寺紀彰 ,   植村研一 ,   山浦晶 ,   銭場明男 ,   渡辺義郎 ,   牧野博安

ページ範囲:P.705 - P.709

Ⅰ.緒言
 外傷性動静脈瘻のうち外頸動脈系より静脈洞への動静脈瘻は珍らしく,中でも中硬膜動静脈瘻は稀である.その報告も欧米,本邦併せても,1951年Fincher2)が最初の報告をして以来,われわれの調べえた限りでは文献報告2,5,6,8,11,12,15-20,23,24)20例,学会報告1,3,7,14,21)7例,計27例であった.外傷性動静脈瘻は臨床的には自覚的な頭蓋内雑音,他覚的なbruit位で特有の臨床症状を欠く.しかし報告例の中には頑固な耳鳴りを訴えるものや硬膜下ないしくも膜下に穿破した症例もあり17),外科的根治療法が望まれる,われわれはこれまでに2例の外傷性中硬膜動静脈瘻を経験したのでここに報告するとともに,若干の文献的考察を加えたい.

新生児・後頭蓋窩硬膜下血腫

著者: 高木卓爾 ,   福岡秀和 ,   永井良治 ,   柴田隆 ,   鈴木三和子 ,   小川次郎

ページ範囲:P.711 - P.717

Ⅰ.緒言
 後頭蓋窩血腫のなかで硬膜下血腫の発生頻度は硬膜外血腫に比較して非常に少ない.Mckissockら10)によると全硬膜下血腫中での頻度は0.5%でMunroら11)によると1.6%である.新生児後頭蓋窩硬膜下血腫の治療に成功した症例はきわめて少なく1,2,8,14,17-19,22),本邦にはまだ報告がないようである.私共は最近,新生児後頭蓋窩硬膜下血腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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