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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科2巻11号

1974年12月発行

雑誌目次

"扉を叩く"

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.723 - P.724

 その昔中国は魏帝の時代,玄海灘を渡って少なからぬ倭人達が中国と交易した.彼等の舟は人力に頼って漕ぎ進む粗末な木造船であったが,その貧弱な船出も海の彼岸にある中国の宝庫に胸をわくわくさせている倭人にとっては,単に欲に目のくらんだ無謀ではなく,自らをためす試練であり,必死の壮挙であったろう.事実渡航に成功すれば,彼等にとって目のくらむような文化と栄華の都を目にすることが出来たし,金銀財宝を持ち帰ることも出来た.ところがこの木造船のへさきには持衰(じさい)と呼ばれる一人の男が航海の間中坐っていた.彼は風雨にふきさらされ波のしぶきにも耐え,衣服は遂にはぼろ布の如くなり,髪はぼうぼうで垢まみれになったというからすさまじい.彼は航海に成功すれば報酬をもらえるが,海が荒れると海中に投げこまれてしまう.そこには試練におもむく倭人達の,息苦しいまでもの心意気がシンボライズされているようである.
 シンボルというものは,多数の人々を共通の意志と目的に統合するのには都合が良い.例えば日本脳神経外科学会のシンボルマークの如く.ところがこのシンボルがそれによって個人の信用獲得手段となると,物事は率直でなくなる.

総説

高血圧性脳出血の手術適応

著者: 水上公宏

ページ範囲:P.725 - P.733

Ⅰ.はじめに
 高血圧性脳出血に対して外科的治療を行うか否かは,現在脳神経外科医の間にも意見の一致をみていない.ことに1961年McKissockら14,15)が本症の外科的治療に悲観的な見解を示して以来,この問題は脳神経外科領域において閑却されてきた傾きがある.しかし,内科的保存療法に限界のみられる現時点18)では,外科的治療の合理性を証明することによって新しい治療法を開拓する必要があろう.ことに本邦においては,本症で死亡するものは年間約9万人にもおよぶという.したがって,われわれ日本の脳神経外科医が積極的に本症にとり組む時期に達しているものと思われる.
 筆者らも1966年以来本症に対し多角的な検討を行い,その病態の正確な把握に努めてきた.研究成果の十分でなかった初期においては,本症の手術成績は必ずしも良好とはいえなかった.しかし,その後本症の病態がしだいに明らかになるにつれ,その手術成績も格段の向上をみるに至った22)

手術手技

高血圧性脳出血の手術

著者: 金谷春之 ,   斉木巌

ページ範囲:P.735 - P.740

Ⅰ.はしがき
 高血圧性脳出血は発作直後から,急速に重態に陥り,死に至る症例が多い.このため本症の手術は緊急手術の性格を有する関係上,手術侵襲の軽減と手術時問の短縮に意を用いるべきは当然であろう.これは,従来の文献からみても,脳室穿刺—減圧,小穿孔—血腫吸引(部分剔除)の姑息的手術から,開頭—血腫剔除(全剔除)の根治的手術に至る2,3の方法が行なわれたことからも窺われよう.
 即ち,比較的多くの外科症例を有する報告として,Browderら3)は,脳室カニューレによる血腫吸引は,73%の死亡率であり,この方法では凝血を除去しえなかったので,姑息的な処置以外は行なわなかった.その後,皮質切開による血腫全剔除では31%の死亡率であり,このことより,血腫の全剔が最良の方法であるとの見解を示している.このような小穿孔—血腫吸引に関しては,その経験症例から,Howell5)は開頭による血腫全剔除よりも危険であるとし,Scott18)も単なる流動性血液の吸引では不充分で,生存した患者には流動性血液,凝血を剔除する必要があったとし,Asenjo2)らも,一般に小穿孔—血液吸引,或いは血腫の直接吸引は成功しなかったので行なわないと述べている.

境界領域

固縮と痙縮

著者: 楢林博太郎

ページ範囲:P.741 - P.745

 固縮rigidityと痙縮spasticityについては,これまで数多くの論文,symposium,特輯等々の試みがあり,その臨床像上の相違,神経生理学的な意味付け,また特定の中枢神経病変との関連については詳細にたびたび論じられてきているし,昨年度の脳波,筋電図学会でもシンポジウムのテーマとして取り上げられた.ここには検査法の紹介や,よくしられている臨床的,筋電図記録上の差異や定義について,繰り返し述べることはさけて,むしろ日常の臨床や,定位脳手術前後の観察から筆者が今後の問題点と考えているものについて述べることとする.

研究

脳腫瘍に対する体液性自己抗体の検出

著者: 清水隆 ,   鬼頭健一 ,   窪田惺 ,   喜多村孝一 ,   高倉公朋

ページ範囲:P.747 - P.756

Ⅰ.緒言
 化学発癌剤やウイルスによって発生した純系動物の腫瘍細胞には,腫瘍特異抗原が存在することが証明され,これを突破口として,ヒトの自然発生癌のいくつかについても,腫瘍特異抗原が確認されてきている1).また,それを裏づけるヒトの悪性腫瘍の自然治癒の報告5)もみられる.
 脳腫瘍の場合,頭蓋外転移は非常にまれであり7,25),脳腫瘍の中でももっとも悪性なglioblastoma multiforme, medulloblastomaでさえも髄腔内に播種性転移をおこすだけである.また,最近は脳腫瘍の補助診断法として,髄液浮遊細胞の細胞培養が広く応用され,臨床的診断に貢献している15).また,脳腫瘍が転移しにくいことより,経験的に脳腫瘍患者の二次的水頭症に対して,転移という観点からみると,他の臓器の癌においては考えられない脳室心房短絡術,脳室腹腔短絡術などがなされている,このように,積極的に脳腫瘍細胞を全身に播種しても,他臓器への転移は極めてまれである13).脳腫瘍がなぜ頭蓋外に転移しないかの理由として,古くより,①中枢神経系にリンパ路を欠くこと.②blood-brain-bar-rierの存在.③脳血管の構築上の特徴.④正常脳組織,細胞の臓器特異性,⑤脳腫瘍細胞に対する腫瘍特異抗体の存在.などが考えられてきた,最近のヒト腫瘍に対する免疫学的知見,および上述した短絡術などの事実より,我々は脳腫瘍の腫瘍特異抗原の存在を推定した.

脳シンチグラムにおけるDoughnut signの検討

著者: 鎌田健一 ,   原野秀之 ,   堀純直 ,   篠原利男 ,   外山香澄 ,   中山耕作 ,   根本弘之 ,   中道五郎 ,   岩崎尚弥 ,   坂本真次

ページ範囲:P.757 - P.762

Ⅰ.はじめに
 ラジオアイソトープ(以下RIと略す)によるシンチグラフィは器械の改良や短半減期核種の開発などにより,最近では脳血管写,気脳写で診断し得ない場合にも有力な検査法としてクローズアップされてきた.脳シンチグラム上のhot lesionの特殊な型として中心部がcoldないわゆるドーナツ型を示す例がある.この所見は1968年Gottschalkら1)により"Doughnut sign"として提唱されたが,現在まで文献上の報告例は彼らの8例,その後O'Maraら2)による7例,本邦における半田ら3)の7例,及びHallowayら4)による2例と比較的少ない.
 昭和44年4月から48年8月まで過去4年間に各種脳疾患に対して,われわれは430例の脳シンチグラフィをおこない,21例にDoughnut signを認め,手術又は剖検所見とほぼ一致する結果が得られた.以下に主な症例についてDoughnut signと手術又は剖検所見との対比を試み,Doughnut sign現出の意義とスキャン技術などによる現出能の差について著干の考察をおこなった.

多発性脳動脈瘤の外科—特に急性期多発性脳動脈瘤について

著者: 唐澤淳 ,   菊池晴彦 ,   古瀨清次 ,   真鍋武聰 ,   榊寿右

ページ範囲:P.763 - P.769

Ⅰ.はじめに
 多発性脳動脈瘤は,諸家の報告によると脳動脈瘤症例の約20%を占めているので2,3,7),くも膜下出血患者の脳血管撮影には4 vessel angiographyが必要である,多発性脳動脈瘤の外科的治療においては,一側性の場合,頸部頸動脈結紮術を行う方法,そして頭蓋内直接手術においては,破裂動脈瘤のみを処置する方法,破裂動脈瘤の処理後,不破裂動脈瘤をfoffow up angiographyで追跡し動脈瘤の大きくなる傾向にある時,それの処理を行う方法,1回または2回の手術で全動脈瘤を処理する方法4,6)などがある.破裂動脈瘤のみの処理で終ると,術後に脳循環動態の変化が起こること,術後の積極的な脳循環改善が行なわれにくいこと,また,多発性脳動脈瘤は単発例に比べ再発裂をおこしやすいこと5),死亡率が高いこと3)などの理由で,われわれはできるだけ早期に,1回の手術で全脳動脈瘤の処理を行っている.
 われわれの多発性脳動脈瘤の症例,診断法,手術法を破裂急性期例を中心に報告する.

症例

天幕切痕部腫瘍—天幕上下にわたるdumbbell型腫瘍の2症例

著者: 尾藤昭二 ,   榊三郎 ,   郷間徹 ,   魚住徹 ,   松岡健三

ページ範囲:P.771 - P.777

Ⅰ.はじめに
 天幕切痕部腫瘍は比較的まれなものであるが,腫瘍がextra-axialにあるので外科的摘出が可能であることが多い.当領域腫瘍のX線診断については既にCastellano3),Taveras9),Zingesser12)等のすぐれた研究があるが,その解剖学的位置関係が複雑なため,なおX線診断が困難であることが少なくない.殊に脳幹部のintra-axial腫瘍との鑑別が問題である.
 従来,当該部腫瘍は脳幹部に対する位置関係からanterior, posteriorおよびlateral typeに大別された9).posteriorおよびlateral typeのうちには天幕の上下にわたる(dumbbell type腫瘍のあることは知られており,文献上報告例の大多数がmeningioma1,3,7,8,9,12)で,一部がneurinomaであった.Carrefour falcotentorial meningioma3)より引用の多くは天幕上下にわたるもので,Cushing, Eisenhardtの言葉を借りれば meningioma perforating of the tentoriumであった.かくの如く当該部に発生した腫瘍としてmeningiomaは古くから知られているが,meningiomaあるいはneurinoma以外の腫瘍については,調べた範囲においてその報告はみられず,まれなもののようである.

海外だより

Yasargil教授の近況

著者: 佐藤修

ページ範囲:P.779 - P.781

 日本の皆様お変りありませんでしょうか.私はこの4月からZurichのYasargil教授のもとで,microsurgeryの勉強をさせていただいていますが,教授と数か月間,親しく接し,教授が大の親日家であることをあらためて確認し,また,極めて人情味に溢れる性格の持主であることを知りました.私が日本に居りました時にいろいろ噂に聞き,また吹き込まれた教授の人がらについて,日本ではかなり誤解があるように思いますので,ここに私が身近に接して感じた教授の人がらについて御紹介し,合わせて教授についての最新の情報を御報告したいと思います.
 Yasargil教授はこの4月で50歳になられたということですが,実に精力的に手術をされております.こちらの病院は週休2日制で,月曜日から金曜日まで毎日,手術があります.金曜日は朝7時半から教授回診がありますので手術は9時から始まりますが,その他の日は,朝8時から手術が始まります.教授も7時半すぎには早くも手術室に顔を出され世界各国からの見学者(Gast)に,その日の手術例のレントゲン写真を供覧し,解説をされます.そして,自分の手術する患者については,麻酔がかかってから自から卒先して抱きかかえ,手術台に移し,頭位の固定,散髪,時には剃毛まですべて自分でやられます.やはり,自分の手術に絶対責任を持つという考え方に徹しておられるのでしょうか,実に頭の下る思いがします.こちらの手術室は脳神経外科専用で,看護婦,麻酔医もすべて専属です.

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日本脳神経外科学会事務局ニュース

ページ範囲:P.769 - P.769

お知らせ
 パキスタン精神医学会主催の国際会議が明年1月カラチで開催されるむね,日本学術会議より日本脳神経外科学会事務局へ連絡がありました.参加希望の方は,日本学術会議事務局へご照会下さい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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