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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科2巻5号

1974年05月発行

雑誌目次

学会記録proceedingについて

著者: 工藤達之

ページ範囲:P.353 - P.354

 わが国の脳神経外科領域の研究が近年いよいよ隆盛となって,業績発表が増加し,新雑誌の発刊をみる運びとなったことは,まことに喜ばしいことである.
 元来,出版物の使命が情報の伝達にあることは明らかである.著書では,長期的な観点から,即ち,記録的な意義が重視されるが,雑誌などの定期的刊行物では迅速な広報的機能に主眼がおかれることが多い.しかし,専門的学術雑誌の場合は,必ずしも,このような単純な見方で割り切ることはできない.発表業績の価値と同時に,その発表の時期が重要な意義をもっことが少なくないからである.

総説

脳膿瘍

著者: 喜多村孝一 ,   加川瑞夫

ページ範囲:P.355 - P.364

Ⅰ.緒言
 脳膿瘍の治療の歴史を概観すると,大きくpreantibiotic eraとpost antibiotic eraの時期に分けることが出来よう.確かに抗生物質の登場の時期を画して,脳膿瘍の病態,治療成績等に著しい変換をみたことは疑いのない事実である.
 1893年,Macewen15)が脳膿瘍の手術に成功し,脳膿瘍が手術的に根治し得ることがわかり,以後,この領域での頭蓋内手術操作に小心であった先達に多大の光明を投じたのである.さらにその後,抗生物質という強力な武器が現われ,その支援の下に頭蓋内感染症,特に脳膿瘍に対し種々の外科治療が試みられてきたのである.これら外科治療と抗生物質による治療によって脳膿瘍は前時代的な疾患であるとして片付けられ,一時期脳神経外科医の関心の外におかれたように思われる.しかしながら近年再び発生頻度が増加し,しかも治療成績は必ずしも良好ではなく,脳神経外科領域の諸疾患のなかでも手術成績,死亡率とも最も不良なものの1つである.

手術手技

脊髄髄外腫瘍の手術手技

著者: 森和夫

ページ範囲:P.365 - P.369

Ⅰ.術前の準備
 ミエログラフィーが診断の最後の決め手であるが,他の補助検査所見,臨床神経学的所見とも照し合せて腫瘍の高位と拡がり,横断位をハッキリさせ,手術侵襲範囲を確認しておく.殊に造影剤の停留高位が神経学的所見と一致しない場合の影像の意味づけには慎重を要する.神経学的所見による高位診断に当つては髄節高位とその髄節に所属する神経根の硬膜貫通高位及び脊椎管走出高位との問に夫々ズレのあることを念頭におき,また棘突起,椎弓及び椎体は頸椎,腰椎ではほぼ同高位であるが,胸椎ことにその上中部では棘突起頂と椎弓椎体との問にやはりズレがあり,第5胸椎附近ではほぼ1椎体ズレることを忘れてはならない.なおミエログラフィー施行時,腫瘍の占在高位に相当する棘突起皮膚上に,正中部を離れてメスで軽く傷をつけておき,手術時高位を決める道標としておく.
 椎骨の単純レ線検査も重要で,椎間腔の拡大,椎体縁の変形等骨破壊の有無のほか,腫瘍による異常陰影(例えばparavertebral shadow)にも注意する,これら所見は有力な診断の根拠となるばかりでなく,手術操作の決定や術後処置とも結びつく.ことに頸椎手術の場合,骨破壊が大きく椎弓切除後脊柱の支持が困難となると思われる症例には,固定対策をたて,或は前もってギプス牀やマジックベット等を準備し,窮屈な体位に慣らして後手術を行う.

境界領域

小児脳波—発達脳波学を中心に

著者: 大田原俊輔

ページ範囲:P.371 - P.378

Ⅰ.はじめに
 小児期にはてんかんをはじめとする中枢神経疾患が非常に多く,臨床脳波検査の対象となる場合が多い.又,中枢神経系の急激な発達段階にある小児期には,その成熟過程の客観的評価に脳波が応用される.
 脳波検査は全く無害であり,幼弱な小児,重篤な症例に対しても応用しうる利点があり,さらに「生きている脳」living brainの機能を最も直接的に把握しうる方法として独自性をもつすぐれた検査法である.

研究

"松果体静脈"—その解剖と血管造影

著者: 玉木紀彦 ,   藤原潔 ,   松本悟

ページ範囲:P.379 - P.387

Ⅰ.緒言
 最近脳幹及び後頭蓋窩の微細な動脈および静脈が神経放射線学的に注目され,その解剖学的およびレ線学的研究が行われるようになり,微細な動脈および脚脈の診断的価値が臨床的にとり上げられ報告されている.松果体に分布する血管に関してはその栄養動脈の解剖学的および神経放射線学的研究の報告は最近みられる.しかし松果体自身を灌流する静脈に関する報告は著者らが調査した範囲では見当らない.著者らは以前から脳幹および後頭蓋の静脈系について合成樹脂を両側内頸静脈から注入し,後頭蓋窩および脳幹の静脈合成樹脂標本を作製して研究してきた.松果体および中脳四丘体領域を灌流する静脈について解剖学的に研究していたところ,松果体自身を灌流しガレン大静脈または内大脳静脈に導出する静脈(以下"松果体静脈"または"Pineal Veins"と呼ぶ)を発見した.
 そこでこの"松果体静脈"の局所解剖と解剖学的変異について詳細に研究し,報告する.

下垂体及びその近傍腫瘍の内分泌学的検討(第1報)—術前の下垂体機能について

著者: 魚住徹 ,   森信太郎 ,   渡部優 ,   滝本昇 ,   最上平太郎 ,   橋本琢磨 ,   小豆沢瑞夫 ,   宮井潔 ,   熊原雄一

ページ範囲:P.389 - P.394

Ⅰ.緒言
 下垂体及びその近傍腫瘍の臨床においてはその局在的特徴から見て神経症状以外に内分泌異常及び自律神経異常の適確な把握が必須であることは言うまでもない.内分泌異常に関しては近年に至るまで末梢標的臓器,即ち副腎皮質,甲状腺,性腺等の機能及び成長発育の状態等を示標として間接的に視床下部,脳下垂体の機能を類推するにとどまっていた.これ等を通じて得られた臨床的経験によれば下垂体(及びその近傍)腫瘍症例においてはその診断確定時に既に下垂体機能がかなり低下していると考えられ,又術後においてはその機能が恢復することは稀で,むしろ更に低下することが多いと言われている.しかし末梢標的臓器の機能はあくまで下垂体機能の間接的表現にすぎず,又二次的変化を伴い,かつ上位,下位のホルモン系相互間の干渉があるため視床下部下垂体系の機能の把握は必ずしも容易でない.
 近年ACTH,GH,LH,FSH,TSH,prolactin等下垂体ホルモンの直接測定が可能となり,かつluteinizing hormone(follicle stimulating hormone)releasing hormone〔LH(FSH)RH〕及びthyrotropin releasing hormone〔TRH〕が精製,分離,更に合成されるに至り,これ等を利用して下垂体のLH,FSH,TSHの分泌能を知る検査が可能となった.

脳神経外科領域における副腎皮質ホルモンの術前・術後大量投与—特にその効果と意義について

著者: 太田富雄 ,   西村周郎 ,   白馬明 ,   黒川賢

ページ範囲:P.395 - P.401

 脳神経外科領域において,副腎皮質ホルモン(以下Csと略す)が使用されるようになってから,すでに20余年になる.その使用目的は,①下垂体腺腫,頭蓋咽頭腫など下垂体副腎皮質系の機能不全のある例における手術的治療にさいしてのショックの予防,ならびに術後のreplacement therapyおよび②脳浮腫の治療および予防である.ショックの予防ならびにreplacement therapyを目的としてのCsの使用については,その有用性に関し異論をみない.
 しかし,抗脳浮腫作用を期待してCsを使用する場合には,使用方法に一定の方式はなく,用量についても非常に少最を用ちうるものから大量を投与するものまで種々様々である.このように,本剤の使用方法が全くまちまちであるのは,何といってもCs使用による重篤な副作用,特に致命的な消化管出血発生の恐れがあるのが,その大きな原因であると思われるが,抗脳浮腫作用そのものについては,疑問をもつものはない.

症例

頭蓋底部に広汎な進展をきたしたglomus tumorの1例—手術的治療法の経験

著者: 白馬明

ページ範囲:P.403 - P.408

 極度に進展したglomus tumorに対しては,一般には外科的療法を避け放射線治療が行なわれている.しかし,脳幹部圧迫をきたし,脳圧亢進症状を呈した末期のglomus tumorに対する放射線治療の効果は,あまり期待できないと思われる.事実放射線療法によっては,脳幹部への圧迫が改善されず,死亡した症例がBickerstaffにより報告されている2),われわれは後頭蓋窩より中頭蓋窩へと広汎な進展をきたし,多彩な神経学的症候を示す巨大なglomus jugulare tumorに対し,手術的治療法を施行し,神経学的症状の著明な改善をうることができた1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

頭蓋内圧亢進,うっ血乳頭を伴う脊髄腫瘍

著者: 石川進 ,   梶川博 ,   冨原健司 ,   渡辺憲治 ,   野坂耕起 ,   島健

ページ範囲:P.409 - P.413

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内圧亢進とうっ血乳頭の存在は普通頭蓋内の病変を意味するが,稀に脊髄腫瘍或いは脊髄の血管奇形がこれ等の症候を伴ってくることがある.我々は馬尾に生じたneurinomaの患者でこの現象を認め,腫瘍摘出後4年半経過を観察し,頭蓋内腫瘍が共存する可能性を否定出来たので,本症例を報告すると共にこれまでの記載例を検討し,このような現象の発生機転について考察を加えたい.

急性硬膜下血腫として発症した乳児末梢性脳動脈瘤

著者: 早川勲 ,   杉山弘行 ,   柳橋万之 ,   石井喬 ,   土田富穂 ,   水谷弘

ページ範囲:P.415 - P.420

 脳動脈瘤は一般に,主として40歳代以降に多発する成人の疾患であると考えられがちである.しかし,一方で,突然の意識混濁,痙攣,片麻痺など,脳血管障害を思わせる疾患は小児の場合にも決して少くはない.そして,この様な場合,脳血管撮影が巧妙に行われ,その検討が緻密に行われるにいたって,病因の解明も進んできているのが現状であろう,脳動脈瘤もその様な小児の脳血管障害の1つである.
 従来,小児の脳動脈瘤に関する報告は少く,その発生頻度も,例えば,McDonald & Korb7)(1939)によれば,1125例中15歳未満の症例は2.5%,Krayenbuhl & Yasargil(1958)は276例中2.25%と報告し,特に,新生児,乳児例の報告は数例が散見されるにすぎない.

後頭蓋窩硬膜外血腫の3治験例

著者: 忍頂寺紀彰 ,   植村研一 ,   河野守正 ,   山浦晶 ,   渡辺義郎 ,   牧野博安

ページ範囲:P.421 - P.426

Ⅰ.緒言
 後頭蓋窩硬膜外血腫は,1901年Wharton42)が初めて記載した.1938年Mckenzie25)は3臨床報告をなし,この種の硬膜外血腫が存在し,且つ独立疾患となりうることを示唆した.これを独立疾患として記載し,手術的に救命したのは,1941年Coleman & Thompson6)であり,この1救命例の臨床像を次のごとく記録した.すなわち「後頭部の打撲と骨折,進行性の意識障害,漸次増強する頭痛,患側を下に向けるforced Position,項部強直,眼振,筋緊張低下,小脳症状」を呈したと述べている.
 この記録は克明な観察であり,今もって修正,附加の要のないものと思われる.この疾患について欧米では相当数の報告がなされているが1-4,7-13,15,18-20,24,27,28,32-34,37,38,43),本邦では少ない.われわれは現在までに3治験例を経験したので,多少の文献的考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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