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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科2巻7号

1974年08月発行

雑誌目次

第5回国際脳神経外科学会を終えて

著者: 石井昌三

ページ範囲:P.509 - P.510

 1969年9月20日ニューヨークで行なわれた国際学会の初日に,第5回国際脳神経外科学会の開催地は東京に,会長に佐野圭司教授が選出された.この決定は必ずしも寝耳に水と云ったものではなく,或る程度予測はされていた.大方の見るところ,第5回学会の最有力候補地はモスコーであったが,1968年8月ソ連軍によるチェッコスロバキア侵攻事件が起ってから,特にヨーロッパ各国から猛烈な反撥が起った.その後にあれやこれやの経緯があったが,結局日本でやる事に決った訳である.
 私は第2回のワシントンでの学会から第3回のコペンハーゲン,第4回のニューヨークと欠かさず出席して来たが,何時も一聴衆,或は一出題者として,誠に気楽な参加者であった.興味深い演題だけを聞き,会場で久方ぶりの旧友に出会うとゆっくり再会を楽しんだり,sight seeingに出かけたりしてのんびり楽しむのを常とした.ところがニューヨークで私が組織委員長に選出された事を,佐野会長から耳打された時点から事態は一変した.最早のんびり講演を聞いているどころのさわぎではない.会場のあちらこちらを駆けずり廻り,会場の大きさ,同時通訳の仕組,開会式の式次第,展示場の様子等を調べたが,所謂,表向きの学会業務の概略を理解するには,それ程時間はかからなかった.ところが,混乱を避ける様なregistrationをどうやるか,原稿の受付,或は種々の苦情処理,参加者間の連絡方法や,旅行業務の斡旋,レディスプログラム,報道陣とのインタビューetc.etc..

総説

悪性脳腫瘍とcyclic AMP

著者: 永井政勝 ,   寺岡暉 ,   降旗俊明 ,   野村和弘 ,   松谷雅生

ページ範囲:P.511 - P.519

Ⅰ.はじめに
 cyclic AMP(cAMP)が中枢神経系に於て占める役割の大きいことは従来よりよく知られていたが,近年,各方面からの研究が著しく進歩して来たことは注目に値する.cAMPを発見したSutherlandおよび彼の共同研究者達がすでに1962年に,この物質に関与する酵素—adenyl cyclaseと,phosphodiesteraseが,脳においてずばぬけて高い活性をもっていることを報告したが4,44),その後,cAMPそのものの定量法の発達につれて,中枢神経系の各部位におけるcAMPレベルについても報告が相次いだ6,7,40).同時にこのようなcAMPの脳内レベルに,norepinephrineやhistamineのような活性アミンが密接に関与していることが明らかにされ18,19,41),これを媒介として神経生理学的研究へも進展するに至ったのである20,42).このような経過を通覧するためには,さらに2冊のmonograph11,12)を参照していただきたい.またわが国でもcAMPに関する特集雑誌が出され,垣内,宮本らの,脳とcAMPに関する論文が参考となる46,52),なお,現在までに得られたcAMPの作用機序と代謝に関する総括的なシエマをFig.1に掲げておく.

手術手技

脊髄髄内腫瘍の手術

著者: 千ケ崎裕夫

ページ範囲:P.521 - P.527

Ⅰ.脊髄手術の特殊性
 脊髄疾患に対する手術手技としては,脳手術のときに脳組織病変の操作に使われる諸手術の応用にすぎず,特別のものはない.脊髄髄内腫瘍の直接手術として,ependymomaの摘出手術に成功した最初の人としてCushingの名があげられるのも,彼の開発した綿密,ていねいな脳外科の手術手技が脊髄の手術においても,必要,有益であったというよい証であろう.
 しかし脊髄は脳組織以上に直接侵襲を加える際に特に慎重を期さなければいけない.比較的神経的無症状野が残され,切除の際余裕のある脳組織と違って脊髄は狭い領域の中に重要な神経核および神経系路が密集し,わずかばかりの外科的侵襲に対して重篤な欠損症状を示しやすく,また血流分布が比較的単純な血管系に支配されているので,たとえ小血管といえども,動脈系はもちろん,静脈系も不注意な傷害が加わると,広汎囲な循環障害が脊髄組織におこり,術後予期せぬ神経症状の悪化をもたらすことはときどき経験することである.

境界領域

「慢性進行性外眼筋麻痺」の多彩な臨床像と,その外眼筋の形態学的特徴について

著者: 向野和雄

ページ範囲:P.529 - P.535

Ⅰ.はじめに
 眼球運動障害は各種病変を知る手掛りの1つとして眼科領域のみでなく,脳神経外科的にも極めて重要である.眼科領域でまとめられた最近の日本における統計1,2)をみると,後者を表1で示したが,部位別(種類別)の頻度では核・核下性神経原性障害が約50%を占め,重症筋無力症が約20%となっている.それに比し核上性麻痺はその頻度が少ないが,それは眼科医の宣場よりの統計であるため遭遇する機会が少ないためと考えられる.本稿では脳神経外科的に日頃馴みの少ないと考えられる外眼筋疾患の中で,1つのトピックスである「慢性に進行する眼瞼下垂,眼球運動障害」をその臨床的特徴とする"慢性進行性外眼筋麻痺chronic progressive external ophthalmoplegia(CPEOと略)"と称される疾患群について述べる.表1では一応筋原性障害に含まれる.
 CPEOは1868年von Graefeの記載以来その原因が不明なまま,神経原性(眼球運動神経核異常その他),筋原性(外眼筋原発のジストロフィー),両者混在,代謝異常,その他などという症例が色々と報告されているが,1900年の初めは主として,眼球運動神経核の異常と考えられたためにprogressive nuclear ophthalmoplegiaと呼ばれていた.

研究

高血圧性脳内出血に対する超早期手術の試み

著者: 金子満雄

ページ範囲:P.537 - P.542

Ⅰ.はじめに
 高血圧性脳内出血に対する手術適応や手術時期については,1903年のCushingの報告以来,議論の多いところであるが,これまでの諸家の報告及び臨床例の検討から,主たる血腫が多分,動脈性出血により最初の数時間で形成されることを老えれば11,13,19),なるべく早期に血腫の進展を阻止することにより救命をはかり,脳の障害を最小にして,機能予後をより良好ならしめるべきことは,まず,考慮されるべき治療法である.又,これによって,脳浮腫と共に二次的に起ってくる脳嵌頓や脳幹部出血を防止することができる.
 手術時期に関しては,これまでの多数の高血圧性脳内出血外科治療報告を見るに,ほとんどが発作数日以後の間歇期手術であり1,2,6,9,12,15,17),又,積極的早期手術の試みでも特に7,8,10,13),発作後なるべく早期に止血血腫除去を行うことによって機能予後を改善する意図が明確でない.これまでの方法の難点は,手術生存率は向上してきたが,機能予後には依然として著明な向上が見られないことであり,又,脳浮腫が最高に発現する発作後24時間前後の死亡が依然として高いことである.極言すれば急性期を生きのびた症例で,破壊をまぬがれた機能をもって生き延びさせようとする手段が,これまでの手術治療であったといえる.

小児の急性硬膜下血腫—その臨床的特徴

著者: 早川勲 ,   杉山弘行 ,   柳橋万之 ,   石井喬 ,   橋本邦雄 ,   土田富穂 ,   水谷弘

ページ範囲:P.543 - P.551

Ⅰ.はじめに
 成人の急性頭蓋内血腫のうち,急性硬膜下血腫の治療成績は極めて悪く,悲観的である.他方,小児においては,急性硬膜下血腫は,外傷性頭蓋内血腫のうちの多数を占め,特に2歳未満児にあっては珍らしくないにもかかわらず,この血腫が臨床的にとりあげられ,討論されたものは少い.しかし,われわれは,小児期の本血腫が成人のそれと同一の範疇に入れるべきか否かに疑問を感じており,さきの小児の硬膜外血腫とは別に,今回は小児の急性硬膜下血腫をとりあげ,いささかの検討を加えてみたいと思う.
 Ingraham & Matson10)によれば,乳児期に治療を要した硬膜下出血の1/4以上が分娩外傷によるものであり,又,Craig1)は,頭蓋内出血が死因となった126例の新生児の49%が硬膜下出血であったことを報告している.この様に,すでに分娩障害の結果として硬膜下出血—血腫は臨床上重要な意味をもっている.しかし,残念ながら本邦でこの問題を追求したものは皆無であり,新生児期の硬膜下出血が幸い致命的にいたらなかったものが,後に,乳児硬膜下血腫或は水腫Infantile subdural hematoma;subdural effusionとして第2の問題点を提起するにとどまっている.以上の如き,分娩障害による急性血腫はわれわれ自身手にし得たものは,すでに報告した1例6)にすぎず,したがって,今回の検討は分娩障害としての急性硬膜下血腫とは別に,出生後の外傷による急性硬膜下血腫に限定することとする.

Carotid-Ophthalmic Aneurysm—5例からの検討

著者: 榊寿右 ,   菊池晴彦 ,   古瀨清次 ,   川合省三 ,   唐沢淳 ,   真鍋武聰 ,   内田泰史 ,   北村純司

ページ範囲:P.553 - P.558

Ⅰ.はじめに
 内頸動脈眼動脈分岐部に発生する脳動脈瘤は,比較的少なく,Locksleyらのcooperative study4)での記載をみると,脳動脈瘤2,672例中,143例5.4%である.またこの動脈瘤は,その解剖学的位置が,他の脳動脈瘤に比して,視神経,海綿静脈洞,内頸動脈,前床突起と密接な関係にあり,そのため手術が困難なことが多く,諸家の報告をみても,特に直達手術の成績は,決して良いとはいえない.我々は,1971年9月より,脳動脈瘤手術の際,顕微鏡下に,microsurgical techniqueを用いているが,1973年5月まで,54例の脳動脈瘤を経験した.そのうち,内頸動脈眼動脈分岐部動脈瘤は5例であり,4例に直達手術を行い,いずれも神経学的欠損なく,治癒せしめた.
 内頸動脈眠動脈分岐部動脈瘤に対する我々の手術法は,もちろん各症例によって,多少の点で全て異なっているが,大きく分けて,3つの型に分つことができる.そこで,5症例のうち,それぞれの型の3症例を示し,またこの動脈瘤についての臨床症状,診断,手術法,予後等について考察する.

症例

線維化や血管腫像を主体とした小脳腫瘍—小脳腫瘍の終末的病像

著者: 武田文和 ,   田村勝 ,   八木久男 ,   深町彰

ページ範囲:P.559 - P.564

Ⅰ.はじめに
 脳に発生した腫瘍が2次的な組織学的変化を高度に生じた結果,その本来の病変の姿が被い隠されてしまうことがまれにある(Bailey & Ford2),Van Zandt Hawn & Ingraham0)).われわれが手術した小脳腫瘍例のなかに,出血,滲出,壊死,線維化などの腫瘍組織の2次的変化が高度に生じたものが2例あり,1例はsclerosing hemangiomaの像を呈した充実性腫瘍であり,他は器質化した凝血をmural noduleとしたcystic tumorであった.これらの症例の臨床所見を述べるとともに,その病理組織学的検索からこれら病変の成り立ちについて考察したい.

外頸動脈海綿静脈洞瘻

著者: 石川進 ,   児玉安紀 ,   島建 ,   宮崎正毅 ,   井口考彦 ,   桑原敏

ページ範囲:P.565 - P.570

Ⅰ.はじめに
 外頸動脈系と海綿静脈洞との間に生じる動静脈瘻は硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula)の1つであり比較的稀なものであるが,一般によく知られている内頸動脈海綿静脈洞瘻と同じく眼球突出,頭蓋内雑音等の原因として重要なものであろう.我々の経験した非外傷性外頸動脈海綿静脈洞瘻の2症例を紹介すると共に,海綿静脈洞が関与する動静脈瘻について考察を加えたい.

発見より8年目に増大した,内頸動脈後交通動脈分岐部の小膨隆像

著者: 吉本高志 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.571 - P.573

 直径3mm以下の小さな脳動脈瘤は,増大しくも膜下出血を来たすことは非常に稀であるとされている8).我々は,眼瞼下垂で発症した内頸動脈後交通動脈分岐部の小膨隆陰影を呈している症例を経験し,長期間にわたり観察したところ,発見より8年目に小指頭大の脳動脈瘤に増大した事実を確認した.本文は,追跡脳血管写と共に症例を報告し,あわせて小脳動脈瘤症例に対するfollow up studyの必要性を述べた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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