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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科2巻9号

1974年09月発行

雑誌目次

脳神経外科のささえ

著者: 松井将

ページ範囲:P.581 - P.582

 この分野に携わる者の一員として「脳神経外科」誌の創刊号発刊を心から喜んだのは,まだ昨日の事のように感じられるのに,もう既に1年近くを経過した.その間諸先生方の御尽力によって本誌が益々躍進の途上にある事は御同慶に堪えない次第である.
 脳神経外科を語る際,私に大きな影響力を与えているのは,やはりハンブルグ大学脳神経外科に勤務していた時代の事である.特に大学の神経科学教室で開かれる週例の研究会では90歳も半ばを過ぎたNonne教授が,既に70歳に近いPette主任教授をはじめ数多くの愛弟子に囲まれて,談論風発する矍鑠たる姿は,学問の伝統から醸し出される尊厳な雰囲気の中にあって温情に溢れる白髪の哲人にも似て,いつ迄も忘れ去ることのない印象のひとつである.この会にはKautzky教授をはじめ,われわれ脳神経外科からも必ず参加して両者が一体となって進められた.これは,はじめに神経科があって後にこれと並列的に脳神経外科が創設されたという関係もあるが,やはりNonne教授の脳神経外科のあり方に対する構想が深く根底で支配力を持っていた事によるものと思う.すなわち教授は,神経科学の基礎の上に立って,あるいは神経科学の一部門として治療面を担当している,神経系統に外科的侵襲を加える事に関しての学問が脳神経外科の本来の姿であると考えていた.

総説

頭蓋内圧亢進

著者: 岩田金治郎

ページ範囲:P.583 - P.590

Ⅰ.はじめに
 圧の亢進した頭蓋内では,2つの病態がおこる.即ち1)脳循環障害11,23,31,34,43,56,73)と,2)脳の偏位21,22,60,69)である.この頭蓋内圧亢進の基本的な考え方は,今世紀の初頭CushingのMutter Lecturei6)の頃とは,余り変わっていない.彼は,その後文献上では,3徴候(血圧上昇,徐脈,呼吸異常)の提唱者として知られているが,当時,Kocher—高度の頭蓋内圧亢進が血圧上昇を伴う事を指摘した—の下で頭蓋内圧の研究に従事し,Intracranial Tensionを論ずるのに,Local Compression,General Compressionを区別し,「Local Compression(腫瘍や膿瘍)では,頭蓋内圧の分布は一様ではない.従って,脳の血行障害も均一性のものではなく,Alexander Monroの脳非圧縮説を考えあわせると,脳腫瘍の近傍では,脳血管容積が代償性に減少するのだ」という.
 又,「General Compressionは,外傷性脳浮腫や脳膜炎の際おこり,脳脊髄液腔を介して圧の分布が均等である.頭蓋内圧が上昇し,動脈血圧に近づくと血圧も上昇する,血圧上昇は,延髄をCocainizationすると阻止できる.局所病変が延髄の近くにあればよく見られ,又,遠隔でも,それに圧影響を及ぼす様な場合には血圧の上昇が現われる.これは徐脈,血圧の波動,異常呼吸の有無に関係なく脳圧亢進が危険値に達した事の警告である」という.

手術手技

水頭症の手術—脳室腹腔吻合術について

著者: 松本悟

ページ範囲:P.591 - P.596

Ⅰ.はじめに
 いうまでもなく,水頭症とは,脳室系に髄液が過剰に貯溜している状態名,ないしは症候名であって,単一疾患名ではない.このことは,硬膜下水腫が,硬膜下腔に液貯溜をみとめた状態名であって,単一疾患名でないこととanalogousである.
 したがって,水頭症の病態も多様で,髄液の過剰分泌,吸収障碍,髄液循環系の限局性閉塞などが源因であったり,さらに,脳の形成不全が原因のこともある.

境界領域

小脳症状の鑑別診断

著者: 平山恵造

ページ範囲:P.597 - P.600

 小脳症状の臨床的分析と病変部位については,すでに詳述し発表した(神経研究の進歩,昭48年,17巻5号,986-996頁).それを簡潔にまとめるとおよそ次のようになる.

研究

後床突起から発生した骨軟骨腫の組織化学ならびに電子顕微鏡による研究

著者: 伊藤梅男 ,   橋本邦雄 ,   稲葉穰

ページ範囲:P.601 - P.611

Ⅰ.緒論
 頭蓋内に発生する軟骨腫又は骨軟骨腫は稀な疾患である.その多くは頭蓋穹隆部から生じ26),頭蓋底から生じた報告は極めて稀で,世界でも70症例を越えていない2,14,24,30),これらの報告のうち,剖検が行なわれた症例は著しく少ないため,腫瘍の組織発生に関する充分な解析は試みられておらず,単に組織学的特徴に従って軟骨腫,骨軟骨腫ならびに軟骨肉腫等と分類されているのみで,腫瘍の組織発生を論ずるには不充分な点が多い.Kleinsasser16)以来,頭蓋底軟骨腫ならびに骨軟骨腫はともに頭蓋底部の軟骨性骨結合部,特に破裂孔周辺部の遺残軟骨から発生する軟骨腫で,腫瘍内にしばしば認められる骨成分は軟骨腫内変性部に2次的に生じた化骨であると推論されている.
 我々はトルコ鞍後床突起中央部から明らかに骨軟骨性外骨腫として発生した骨軟骨腫の1剖検症例を経験した.この部分に位置した軟骨腫あるいは骨軟骨腫は現在までに3例報告されているにすぎず18,25,28),その3報告とも発生部位の骨と腫瘍との関係を病理解剖学的に明らかにしていない.我々は本腫瘍を解剖学的ならびに組織学的に検索して,その形態学的特徴から本腫瘍を骨格で一般にみられるosteochondromaに類似したものと考えた11)

脳膜炎および脳炎の脳血管撮影像について

著者: 白井鎮夫 ,   牧豊 ,   吉井与志彦 ,   有賀直文

ページ範囲:P.613 - P.621

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内疾患の診断上,脳血管撮影(以下AGと略記)は最も有力な手段の1つであるが,頭蓋内感染症の臨床診断の下にAGを行うことは脳膿瘍を疑った場合を除いてはむしろ極めて例外的であろう.
 一方頭蓋内のmass lesionや血管閉塞症を疑ってAGを行ったところ,その脳血管撮影像(以下AGmと略記)から逆に脳膜炎や脳炎であることが診断されることがある.すなわち,それら炎症機転に伴うAGmの変化は個別的には炎症特有ではないかもしれないが,かなり炎症性の明確な特徴を示している.そこで従来比較的AGの施行される機会の少なかった脳膜炎・脳炎について,自験例をもとにその特徴を検討したので報告する.

意識障害の新しい分類法試案—数量的表現(Ⅲ群3段階方式)の可能性について

著者: 太田富雄 ,   和賀志郎 ,   半田肇 ,   斎藤勇 ,   竹内一夫 ,   鈴木二郎 ,   高久晃

ページ範囲:P.623 - P.627

Ⅰ.はじめに
 脳神経外科領域で最も重要な症状の1つは"意識障害"である7).しかるに,従来の意識障害の分類は,言葉により数段階に分けられ,その言葉の定義も必ずしも一定していない.したがって,意識障害レベルを記載する場合,言葉による表現よりむしろ,患者の示す具体的な反応様式(たとえば,疼痛刺激に対する逃避運動)を各施設それぞれの基準に従って,そのまま記載しているのが現状である1)
 関連領城の広い意識障害の問題を,画一的に取扱うことは極めて困難であり,多くの例外的事項が発生してくるであろうことは充分予想される.しかし,現在国際的にも各大学,病院に兵通する客観性のある意識障害の分類法がなく,症例の比較検討,および毎日の診療上非常に不便を感じていることも事実である,あえてこの難問題を取り上げ,意識障害レベルの数量的表現方法について検討した.

Nitrosamine投与による実験的脳腫瘍のLysosome酵素の研究

著者: 阿部弘 ,   ,   ,  

ページ範囲:P.629 - P.636

I.緒言
 実験的脳腫瘍の作成は,1941年Zimmermann32)によるmethylcholanthreneの脳内注入にはじまり,組織培養した腫瘍細胞の脳内移植16),さらにvirusの脳内注入4)など種々の報告があるが,1965年Druckrey10)によってnitrosamineの静脈内投与による作成が報告されて以来,世界各国で好んでこの方法が用いられてきている14,26,27).これは脳に直接侵襲を加えずに作成することが可能なことから,自然発生する脳腫瘍に極めて類似した条件を有し,生化学的及び病理学的研究のいずれにも適し,脳腫瘍発生の解明の手がかりをつかめる可能性をも持ち,すぐれた方法といえる.
 近年,脳腫瘍の生化学的研究の進歩には目ざましいものがあり,種々の生化学的特徴が知られてきている.しかしながら,最近注目をあびているIysosome酵素の脳腫瘍に於ける動態に関しては,わずかにAllen1),Lehrer21)等の報告がみられるのみである.神経系以外の臓器の悪性腫瘍組織中のlysosome酵素の上昇は既に種々の報告があるが,神経系腫瘍なかでも実験的脳腫瘍に於けるlysosome酵素の生化学的測定の行なわれた研究は未だ報告されていない.

症例

下垂体窩膿瘍—1手術治験例と文献的考察

著者: 府川修 ,   森照明 ,   吉本高志 ,   佐藤壮 ,   高久晃

ページ範囲:P.637 - P.641

Ⅰ.はじめに
 下垂体,或いはトルコ鞍部の疾患の1つに,下垂体腫瘍と同様な症状を呈し,また頭蓋単純写,脳血管写等諸検査においても,これと鑑別の困難なものに下垂体窩膿瘍がある.しかし,本疾患は国内外の文献をみわたしても,その症例報告は非常に稀であり,Simonds,J.P.7)によれば,最初の記載は1848年Heslopによりなされているが,以来内外文献において,我々が現在まで渉猟し得た範囲では,50例を数えるのみである.
 最近我々は下垂体窩膿瘍の1症例を経験したので,その症状,原因等について若干の文献的考察を加えて報告する.

Subfrontal Schwannoma

著者: 原野秀之 ,   堀純直 ,   鎌田健一 ,   篠原利男 ,   外山香澄 ,   根本弘之 ,   中山耕作

ページ範囲:P.643 - P.647

Ⅰ.はじめに
 Solitary Schwannomaは全頭蓋内腫瘍の8-9%を占め,中年以降に多い3,4).好発部位としては聴神経に圧倒的に多く,ついで三叉神経にもみられる.その他の部位での発生は極めて稀であり,顔面神経2),舌咽神経3)の各1例や脳内の2例1,8)の報告がある.最近我々は26歳女性でSubfrontal(extracerebral)Schwannomaの1例を手術全摘し治癒せしめたが,このような症例は現在までの文献にはみられず,極めて稀と考え報告するとともに,その病理発生についても若干の文献的考察を加える.

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日本脳神経外科学会事務局ニュース

ページ範囲:P.611 - P.611

第8回日本脳神経外科学会認定医認定試験
 第8回日本脳神経外科学会認定医認定試験は,去る7月28・29日の両日に東京で行なわれた.昭和49年度の受験者は103名,合格者は59名で,合格率は57%である.これで我国の脳神経外科認定医の総数は578名(現存574名,死亡4名)となった.
 なお,認定医認定委員会では,さきに,インターン制度の廃止に伴う臨時措置として,本年度に限り,明年1−2月頃に認定医認定試験を行うむね公表していたが,この度,試験日を昭和50年2月8-11日とすることを内定した.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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