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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科20巻1号

1992年01月発行

雑誌目次

ことごとく書を信ずれば,書なきにしかず

著者: 佐藤文明

ページ範囲:P.5 - P.6

 「ことごとく書を信ずれば,書なきにしかず」とは孟子に見える言葉である.
 その書物にあることをすっかり信じ,批判することなく,その通りだと思い込んでしまうならば,書物などむしろない方がよい,という意味である.コンラート・ロレンッは講義のはじめに,学生達にむかって,「諸君は,私の言うことを,一言もそのまま信じてはならない」と言ったそうである.
 自分が実際に経験して,本当にそうだと納得しないうちは,人の言う説をそのまま信じてはならないということである.

脳腫瘍の組織診断アトラス

(19)Medulloblastoma

著者: 長嶋和郎

ページ範囲:P.9 - P.13

I.はじめに
 Medulloblastoma(髄芽腫)は1925年Baney & Cush—ing1)により“a common type of midcerebellar glioma ofchildhood”と言うsubtitle付きではじめて紹介された脳腫瘍である.恐らく神経系の発達早期に形成されるmedullary epitheliumを構成する未分化細胞と言う意味で付けた名称であろうと思われるが,神経系の発生時期にmedulloblastと呼ばれる細胞は未だ同定されていない.従って脳腫瘍の分類の中で発生母細胞が未だ不明の腫瘍であり,このため類似腫瘍をピーネット(PNET:primitive neuroectodermal tumor)として.一括して呼び,PNETが小脳に生じたものをmedulloblastomaと呼ぶ事が提唱されてきている19).これに対して1989年急逝された脳腫瘍病理学の大御所Lucian J.Rubin—stein21)は徹底してPNETと言う名称を嫌い,medullo—blastomaは小脳と言う特別の場所にできた組織形態が特異な腫瘍でありPNETの中に包括することは許されないと主張してきた.従ってPNETに包括するかmedulloblastomaを独立疾患としてとらえるかはひとえに組織所見の詳細な読みと解釈とにかかっているのである.このアトラスではなるべくmedulloblastomaの特徴を中心に記載し,基本的にはPNETと呼ばなくても区別が可能な特異的構築を紹介することにつとめる16).従って実際に個々の症例に当たって見てそしてPNETの必要性とmedulloblastomaの独自性については読者がそれぞれ自分の意見を持つことができる一つの基盤となるたたき台を提供できれば幸いである.

研究

Magnetic Resonance Imaging(MRI)によるび漫性脳損傷の考察

著者: 横田裕行 ,   安田和弘 ,   益子邦洋 ,   辺見弘 ,   大塚敏文 ,   小林士郎 ,   中沢省三

ページ範囲:P.15 - P.20

I.はじめに
 最近,頭部外傷のなかでDiffuse brain injury(DBI)なる病態が注目されている1-3).かかる病態をGennarel—liらは臨床所見より脳振盪型とび漫性軸索損傷型に分類している2,3).び漫性軸索損傷型の重症例に関してはその特徴的なcomputerized tomography(CT)所見によりCTの有用性が強調されている6,20,21).今回われわれは臨床的にDBIと診断された症例の急性期にMRIを施行し,その所見からび漫性脳損傷の病態について考察し,若干の知見を得たので報告する.

強度なクモ膜下出血による重症破裂脳動脈瘤の臨床経過

著者: 水野誠 ,   安井信之 ,   鈴木明文 ,   波出石弘 ,   中島重良 ,   三平剛志 ,   大槻浩之

ページ範囲:P.21 - P.29

I.はじめに
 重症破裂脳動脈瘤症例に対する治療は,急性期手術が一般化した今日であっても,手術適応および時期に関して一致した見解が得られていない.明らかな脳内出血や脳室内出血,硬膜下出血などmass signを示さず,純粋にクモ膜下出血のみで重症になっている症例(クモ膜下出血型)は,特に不明な点が多い.この点に関し著者らは前回,クモ膜下出血型における病態,手術適応,および手術法を検討し報告した10).しかし重症例を急性期に積極的に治療する場合は特に患者の正確な重症度把握が要求されるが,高率に起こるクモ膜下出血の再発作等により真の意識状態がマスクされやすい.即ち,破裂脳動脈瘤超急性期には再破裂等に伴って意識状態がしばしば変貌するために,重度の意識障害を呈していても出血発作から短時間の症例ではその後待機すれば意識が回復してくる症例もある.この様な症例と,待機しても意識の改善が得られない真の重症例を混同しているのでは,という問題点が残されている.今回著者らはこの点を明確にするために,特に急性期CT所見から真の重症度の把握が可能か,重症例の自然経過が予測可能か,を検討した.

癌性髄膜炎の検討—診断と治療

著者: 中川秀光 ,   村澤明 ,   中島伸 ,   中島義和 ,   泉本修一 ,   久保重喜 ,   早川徹

ページ範囲:P.31 - P.37

I.はじめに
 近年,悪性腫瘍に対する積極的な集学的治療にて,多くの腫瘍でその生存期間の延長が認められるようになるにつれ,中枢神経系への転移特に癌性髓膜炎の報告11,1620,21)が増加して来ている.癌性髄膜炎は,腫瘍細胞のleptomeningesへのびまん性あるいは播種性転移であり,固形腫瘍の1-5%におこると報告されており5,21),髄膜刺激症状に多彩な神経症状と多発脳神経障害を示し,髄液中に悪性細胞が検出されることを特徴とし予後はきわめて悪い11,17).今回の調査で,その診断と治療の面より検討したので報告する.

脳腫瘍(glioma)に伴う脳浮腫に関する検討—腫瘍成長解析および組織内浸潤単核球との関連性について

著者: 国塩勝三 ,   前城朝英 ,   松久卓 ,   三島宣哉 ,   津野和幸 ,   重松秀明 ,   松本健五 ,   古田知久 ,   西本詮

ページ範囲:P.39 - P.44

I.はじめに
 脳腫瘍に伴う脳浮腫の発生は,主にblood-brain bar—rier(BBB)の破綻による血管透過性の変化が関与している1)と考えられているが,その機序に関してはいまだ十分解明されていない.
 今回われわれは,抗DNAポリメラーゼα(Pol.α)および抗ヒトリンパ球モノクローナル抗体を用いた免疫組織化学的方法により,脳腫瘍特にgliomaの増殖動態および組織内浸潤単核球を検索し,CT上の腫瘍性脳浮腫との関連性について検討したので報告する.

頭蓋内疾患における血漿心房性Na利尿ペプチド・抗利尿ホルモン・アルドステロンと低Na血症

著者: 森永一生 ,   林征志 ,   松本行弘 ,   大宮信行 ,   三上淳一 ,   上田幹也 ,   佐藤宏之 ,   井上慶俊 ,   大川原修二

ページ範囲:P.45 - P.49

I.はじめに
 頭蓋内疾患に合併する低Na血症は,従来その発生機序としてADH分泌異常症候群(SIADH)が想定されてきたが,近年は循環血漿量9)や血漿抗利尿ホルモン(以下ADH)4)の検討から,Na利尿因子の関与が重要視されている.一方,心房性Na利尿ペプチド(以下ANP)は,近年測定可能となったNa利尿因子の1つで,心不全7),高血圧症11)などとの関連が知られている.今回著者らは,頭蓋内疾患において経時的に血漿ANP,ADH,aldosteroneを測定し,中枢性低Na血症の発生におよぼす影響について検討した.

症例

von Recklinghausen氏病にみられた多発性脳・脊髄腫瘍の2症例

著者: 阪井田博司 ,   花北順哉 ,   諏訪英行 ,   長安慎二 ,   西正吾 ,   太田文人

ページ範囲:P.51 - P.56

I.はじめに
 von Recklinghausen氏病は,皮膚・末梢神経の多発性腫瘍とCafe-au-lait spotを伴う家族性・遺伝性疾患として理解されてきた.また中枢神経系に各種の腫瘍が多発することもよく知られており,いわゆるcentralneurofibromatosisとして,脳神経外科領域でしばしば取り上げられてきた.しかしこれらの報告のなかで,異種多発性脳腫瘍と多発性脊髄腫瘍を合併したものは,われわれが渉猟したかぎりで22例のみであった2,4,7-8,10,12,14-21,25-27).今回われわれは,異種多発性脳腫瘍と多発性脊髄腫瘍を合併したvon Recklinghausen氏病の2症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

Garcin症候群を呈し,放射線療法が著効を示した悪性髄膜腫の1例

著者: 田村清隆 ,   河瀬斌 ,   宮崎宏道 ,   小滝浩平 ,   戸谷重雄

ページ範囲:P.57 - P.60

I.はじめに
 Garcin症候群とは,脳病巣症状や頭蓋内圧亢進症状を伴わずに,一側の全部あるいは大多数の脳神経麻痺を示す症候群で,通常X線写真上頭蓋底部に骨破壊像を認めるものである.その原因疾患として,原発性脳腫瘍では脊索腫,頭蓋咽頭腫によるものが報告されている.
 今回われわれは悪性髄膜腫によりGarcin症候群を呈し,放射線療法が著効を示した症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

思春期早発症を呈した視床下部神経膠腫の1症例

著者: 田代隆 ,   会田敏光 ,   杉本信志 ,   阿部弘 ,   長島和郎

ページ範囲:P.61 - P.65

I.はじめに
 思春期早発症をきたす視床下部腫瘍としてhamar—tomaに起因するとの報告は多いが,同部に発生したgliomaが原因となった報告は稀である.われわれは視床下部灰白隆起近傍より発生し,術前の画像診断上,hamartomaとの鑑別が困難であったastrocytomaによる思春期早発症の1症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

胸腰椎移行部椎体病変に対する側方進入の2例—Kaneda's deviceの使用経験

著者: 西田憲記 ,   上田伸 ,   松本圭蔵 ,   岡田雅博

ページ範囲:P.67 - P.72

I.はじめに
 横隔膜の切開を要した胸腰椎移行部病変に対して内固定としてKaneda's device(ミズホ社製)を使用した.胸腰椎移行部病変に対する側方進入につき,若干の文献的考察を加え報告する.

術後急性期に生じたVitamin K欠乏性頭蓋内出血の2例

著者: 江口隆彦 ,   中瀬裕之 ,   森本哲也 ,   多田隆興 ,   榊寿右 ,   久永學

ページ範囲:P.73 - P.77

I.はじめに
 脳神経外科領域において,重症疾患に伴う出血性合併症としては,DICがよく知られている.一方,ビタミンK(以下VK)欠乏症に関しては,乳児期の頭蓋内出血の原因として知られているが,術後の出血性合併症としての報告はなくその認識は少ないと思われる.これに関し,自験2例を報告するとともに文献的考察を加える.

眼窩内Benign Mixed Tumorから19年後にSquamous Cell Carcinomaに悪性転化した1例

著者: 亀井一郎 ,   吉田夏彦 ,   湯川修也 ,   藪本充雄 ,   岩本宗久 ,   栗山剛 ,   横山道明 ,   静木厚三

ページ範囲:P.79 - P.83

I.はじめに
 涙腺に発生したbenign mixed tumor(以下,BMTと略す)が時を経て悪性化する場合があることは知られている.しかし,その場合大部分はadenocarcinomaに転化し,squamous cell carcinomaに転化することは極めて稀である.今回,初回摘出より19年後にsquamouscell carcinomaに悪性転化して頭蓋内に大きく進展し,さらに両肺に多発性に転移した眼窩内BMTの1例を経験したので報告する.

脊髄Glioblastoma Multiformeの1症例

著者: 山崎雅勇 ,   伊古田俊夫 ,   大方直樹 ,   田代隆 ,   沢村豊 ,   岩崎喜信 ,   阿部弘

ページ範囲:P.85 - P.89

I.はじめに
 Gliobiastoma multiforme(以下GM)は予後不良な腫瘍であるが7),脊髄GMは特に予後不良と思われ,3年生存例をほとんど認めない2-6,8,10,12,13,15).われわれは脊髄円錐部に原発した本症に対し亜全摘術(初回手術),放射線療法(65Gy),化学療法,lymphokine-activated kil—ler(以下LAK)細胞髄腔内注入療法,脊髄切断術(再発時手術)を施行し,3年6ヵ月をこえて生存している症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

脳肺吸虫症新鮮例のCT所見

著者: 李厚澤 ,   謝芳文 ,   孫守城

ページ範囲:P.91 - P.97

I.はじめに
 食生活の変化と衛生状態の改善により,日本における脳肺吸虫症(Cerebral paragonimiasis)の発生はまれとなり,過去の疾患として忘れ去られつつある3,9,14,23).しかし国際交流が盛んになるにつれ,風土病あるいは地域特有の疾病が非汚染地域でも発生する可能性があり,また感染後20-30年経過した患者を診療することもあり,本疾患を鑑別診断の一つに入れておく必要がある14)
 中華人民共和国・東北地方においても,脳肺吸虫症は激減してきたが,われわれは1984年6月から1986年5月までの2年間に,脳肺吸虫症の新鮮例4例をCTスキャンで検索する機会を得,うち3例に対して手術を行った.
 新鮮例脳肺吸虫症のCT所見の報告は少ない9).われわれは宇高23),木下13)らが報告した陳旧性脳肺吸虫症のCT所見とわれわれが経験した新鮮例のそれとを比較し,その特徴につき検討した.
 また,脳肺吸虫症の臨床分類—病理所見—CT所見の関係,他の脳寄生虫症のCT所見と比較検討したので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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