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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科20巻10号

1992年10月発行

雑誌目次

これでよいのか? 国立大学病院の現状

著者: 山下純宏

ページ範囲:P.1039 - P.1040

 この数年間,国立大学病院の定員削減と予算削減の波には尋常ではないものを感ずる.これでわが国の将来の医学・医療は本当に大丈夫なのだろうか.国立大学病院が一般病院と異なる点は,診療と同時に教育と研究をその使命としていることにある.ところが,最近耳にする言葉は,「定員を削減する」,「週休2日制にする」,「医療費を節約せよ」,「病床稼働率を上げよ」,「診療収益を上げよ」,「研究したければ委任経理金を稼げ」,「予算がないから空調や清掃にまで手が回らない」などと,およそ最高学府とは考えられない,次元の低い話ばかりである.残念ながら現在国立大学病院は学問を行ったり,最先端の医療を行うのにふさわしい環境にはない.こういう状態が続けば,医学・医療に対する魅力が失われ,若い優秀なスタッフの士気も次第に失われて行くであろう.ある統計によれば,わが国の医師の中で将来自分の子弟が医師になることを希望しているものは僅か20%に過ぎないという,何とも悲しい状況になっている.将来,わが国の医学・医療が質的に貧困化することは明らかである.
 どうしてこうなってしまったのであろうか.諸悪の根源は,行政改革路線,大判振るまいの海外援助にあると思われる.事務処理をOA化して「小さな政府」を目指すことは結構である.しかし,医療や教育の現場まで他の部署と同一の基準で合理化されては困る.わが国の病院の中で,診療設備が最もお粗末なのは国立大学病院であろう.建物が老朽化している上に汚く,冷暖房にさえ時間制限がある.いくら熱帯夜であろうと夜間は冷房が効かない.健康人が住む一般住宅にすら空調がある時代に,どうして重病の患者が療養している国立大学病院で空調を制限しなければならないのだろうか.ODAやPKOも確かに国の重要な施策であろうが,政府は国内の実情にももっと気を配って欲しいものである.

総説

新国際頭痛分類とその意義

著者: 松本清

ページ範囲:P.1041 - P.1048

I.はじめに
 頭痛は日常診療において,最も多い主訴の1つであり,脳神経外科的疾患においては大変重要な症候ではあるものの,頭痛外来で診療している患者のうち手術の対象になるものは案外少ない.実際にはその原因の多くは頭頸部の筋緊張,収縮が持続的に起こるための緊張性頭痛や頭蓋外血管の拡張によるとされる片頭痛型血管性頭痛が大部分を占めている.
 頭痛の診断では問診がことのほか重要である.このためわれわれは問診に先だって患者に書き込んでもらった頭痛アンケートを参考に診断,治療に臨んでいる.

研究

Phase Contrast Angiographyの臨床応用について

著者: 松沢等 ,   宝金清博 ,   野村三起夫 ,   上山博康 ,   岩崎喜信 ,   阿部弘 ,   秋野実 ,   斉藤久寿

ページ範囲:P.1049 - P.1054

I.はじめに
 中枢神経系の画像診断に欠くべからざる手段としてMagnetic Resonance Imaging(以下MRI)はすでにその地位を確立している.そのうち特に,血管だけの描出を目的とした画像に磁気共鳴血管造影,MR-angiography(以下MRA)がある.MRAの手法には大きく分けて2つの種類,time of flight angiographyとphase contrastangiographyがあり,その簡便さゆえに,一般には前者のtime of flight angiographyが多用されているが,われわれは後者のphase contrast angiographyについて,特に3—dimensional phase contrast angiographyをもちいて頭蓋内血管病変および脊髄血管病変について臨床応用を試み,良好な結果を得たので報告する.

頸椎前方固定術の新しい試み—頸椎椎体より採取した自家骨を移植骨として用いた頸椎前方固定術

著者: 井須豊彦 ,   鎌田恭輔 ,   山内亨 ,   小林延光

ページ範囲:P.1055 - P.1061

I.はじめに
 頸部椎間板障害に対して頸椎前方固定術は広く行われている手術法であるが,Cloward法4),Smith-Robinson法11,12),Bailey法2)に代表される頸椎前方固定術では,一般的には,腸骨より採取した骨片が移植骨として使用されているため,腸骨採取に伴う合併症14)は避けられない.今回,われわれは,腸骨採取に伴う合併症を避けるため,新しい試みとして,頸椎椎体より採取した自家骨を移植骨として用いた頸椎前方固定術を行い,良好な手術結果を得たので報告する.本報告では,本法による短期手術成績を述べると共に,手術手技を紹介する.

髄膜腫付着部に連続する硬膜のエンハンスメント—MRI画像とその組織学的所見について

著者: 関谷徹治 ,   真鍋宏 ,   岩淵隆 ,   成田竹雄

ページ範囲:P.1063 - P.1068

I.はじめに
 髄膜腫はGd-DTPAの静脈内投与によってMRI画像上強くエンハンスされるが,それに伴って髄膜腫付着部に連続する硬膜もエンハンスされる現象が知られている1,5,10,11).しかし,このような硬膜エンハンスメントが生じる機序に関しては不明な点が多く,光顕に加え電顕的検討をも加えて検討した報告はわれわれの検索した範囲では見あたらない.
 またエンハンスされた硬膜に腫瘍細胞が進展しているのかどうかという問題は,髄膜腫の完全切除を目指す脳神経外科医にとっては切実な問題であり,明確にしておく必要がある.
 本研究では,髄膜腫のMRI画像上の所見と手術切除標本の光顕的,電顕的所見を対応させて上記諸点に関し考察を加えた.

生検脳腫瘍・培養ラットグリオーマ細胞およびその薬剤耐性細胞におけるグルタチオン,グルタチオンS—トランスフェラーゼの定量

著者: 松本義人 ,   笹岡昇 ,   土田高宏 ,   藤原敬 ,   長尾省吾

ページ範囲:P.1069 - P.1074

I.はじめに
 グルタチオン(GSH)および,グルタチオンS—トランスフェラーゼ(GST)は薬物のグルタチオン抱合やステロイド,ビリルビンや発癌物質を結合する機能のほか有機過酸化物の還元,prostaglandin代謝への関与などさまざまな機能が知られている.また,GSH,GSTは数多くの抗癌剤耐性才幾構のひとつと考えられており,グルタチオン抱合,denitrosation,フリーラジカルのスカベンジングなどのいくつかの経路により細胞障害に対する防御の役割を担っている4).本論文では,手術時採取した脳腫瘍組織とラットglioma C6細胞およびそれの1—(4—amino−2—methyl−5—pyrimidinyl)methyl−3—(2—chloro—ethyl)−3—nitrosourea(ACNU),vincristine(VCR),cis—diammine-dichloroplatinum(II)(CDDP)に対する耐性細胞のGST総活性とそのサブクラスであるGST-p活性,およびGSH量を測定し,GST,GSHと脳腫瘍の悪性度,薬剤耐性との関係について検討した.

症例

尿失禁で発症した脊髄脂肪腫の1成人例

著者: 畠山尚志 ,   迫田勝明 ,   徳田佳生 ,   魚住徹

ページ範囲:P.1075 - P.1078

I.はじめに
 脊髄脂肪腫は全脊髄腫瘍の約1%を占める.大多数はspinal dysraphismの一型として,小児期に発症する.われわれは,成人期に尿失禁で発症した脊髄脂肪腫の1例を経験したので報告する.

再発性紡錘状内頸動脈瘤の1例

著者: 大野正弘 ,   原田重徳 ,   若林繁夫 ,   永井肇

ページ範囲:P.1079 - P.1083

I.はじめに
 紡錘状脳動脈瘤は脳底動脈,内頸動脈,中大脳動脈に見られるが,動脈硬化がその主因と考えられている.又,その形状,主要な分岐血管との関係から直達手術の適応となることは稀で,なされてもwrapping等のある意味では非根治的な手術に留まることが多いとされる.
 内頸動脈—後交通動脈分岐部動脈瘤の手術の後,その近傍の内頸動脈に紡錘状動脈瘤(fusiform aneurysm)が発生した症例を経験し直達手術を行った.完全なclip—pingは行えなかったが,術後血管撮影,術後経過,ともにほぼ満足できる結果が得られた.興味ある症例と考え,neck clipping後に動脈瘤が再発する成因について若干の文献的考察を行い報告する.

脊髄硬膜外Angiolipomaの1例

著者: 三股力 ,   和田秀隆 ,   佐野吉徳 ,   斉藤義樹 ,   北村伊佐雄 ,   生塩之敬

ページ範囲:P.1085 - P.1089

I.はじめに
 Angiolipomaは中枢神経系においてはまれな腫瘍である.ほとんどが脊髄に存在し,spinal lipomaのvariantといわれたこともあったが2,3),多くの点で臨床像が異なり,独立したclinical entityであることが認められている1,5,8,12).今回われわれは,まれなangiolipomaの中でも典型的と考えられる脊髄,硬膜外,背側に存在した症例を経験した.本症に特徴的と考えられる紡錘形のMRI矢状断像とともに,症例報告する.

プロモクリプチン療法中髄液鼻漏と髄液耳漏を合併したプロラクチノーマの1治験例

著者: 中島拓 ,   田村哲郎 ,   黒木瑞雄 ,   田中隆一 ,   林浩子

ページ範囲:P.1091 - P.1095

I.はじめに
 下垂体腺腫の中でprolactinomaはbromocriptine(BC)投与により血中prolactin(PRL)濃度の低下と腫瘍の縮小が期待できることが知られている6,13,19,20).BC療法の合併症については種々の報告があるが,その一つとして髄液漏がある.これはprolactinomaがしばしば骨を含めた周辺組織の破壊を伴って発育するため,BC投与により腫瘍が縮小し,蝶形骨洞,乳突洞などに髄液の流出路が開き,髄液鼻漏や髄液耳漏が出現すると考えられている1,2)。しかしこれまでに髄液鼻漏1-3)と髄液耳漏4)についての報告は少数みられるだけであり,特に後者は極めて稀である.
 最近われわれはBC療法中,髄液鼻漏と髄液耳漏が出現し,経蝶形骨洞手術と腰椎ドレナージにより治癒した巨大なprolactinomaの1症例を経験したので,その機序について若干の文献的考察を加えて報告する.

小脳形成不全を伴ったHoloprosencephalyの検討

著者: 山下伸子 ,   神谷健 ,   永井肇

ページ範囲:P.1097 - P.1101

I.はじめに
 Holoprosencephalyは胎生期初期の三脳胞期から五脳胞期への分化が不十分であったために生じる奇形と考えられており,Demyerら1)による重症度に従ったalobar, semilobar, lobarの分類が広く用いられている.holoprosencephalyでは従来から後頭蓋窩の構造は正常であるといわれてきたが,holoprosencephalyにDandy-Walker syndromeを合併した症例の報告が散見されている2,3,5-7,9-11).われわれはこれまでに9例のholoprosencephalyを経験してきたが,この内の4例に小脳形成不全を認めたので報告する.

小脳出血を呈した無症候性Dandy-Walker症候群の1例

著者: 松丸祐司 ,   野口昭三 ,   江頭泰平 ,   高野晋吾 ,   山田雄三 ,   牧豊 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.1103 - P.1106

I.はじめに
 Dandy-Walker症候群(DWS)は小脳虫部の形成異常,嚢腫様に拡大した第4脳室を特徴とする脳の発生異常である3,10).通常水頭症を伴い乳児期に発症する事が多い4).成人にて発症するもの,あるいは成人まで症状を認めず偶然見つかるものは稀である6,11).今回われわれは成人に至るまで無症候で経過し,小脳出血を併発したDWSを経験したので報告する.

思春期早発症をきたしたくも膜嚢胞の1手術例

著者: 菅原厚 ,   蝦名一夫 ,   大井洋 ,   沢田石順 ,   赤羽道子 ,   伊藤忠彦 ,   菊地顕次 ,   坂本哲也

ページ範囲:P.1107 - P.1112

I.はじめに
 真性(中枢性)思春期早発症の原因の多くは特発性であるが,視床下部過誤腫などのような器質的疾患の存在も明らかとなっている14).今回,われわれは鞍上部から後頭蓋窩に拡がるくも膜下嚢胞が原因と考えられる思春期早発症のまれな1女児例を経験した.嚢胞腹腔短絡術を行ったところ臨床症状は改善した.くも膜嚢胞による思春期早発症の発生機序と治療法について若干の文献的考察を加えて報告する.

脳実質内に転移したMultiple Myelomaの1例

著者: 原田薫雄 ,   吉田純 ,   若林俊彦 ,   杉田虔一郎 ,   市原正智 ,   堀田知光 ,   永松正明

ページ範囲:P.1113 - P.1117

I.はじめに
 多発性骨髄腫(MM)は悪性リンパ腫,白血病等と共に造血器腫瘍に分類される予後不良の疾患である.この内,後2者が中枢神経系に転移,浸潤する症例はしばしば経験されるのに対しMMにおいて中枢神経系,特に脳実質への転移巣を認めることは極めて稀である.今回,われわれはIg-G k-typeのMMにおいて頭蓋骨には異常を認めず,左前頭葉及び右基底核部に転移巣を認めた1例を経験したので若干の文献的考察を含めて報告する.

馬尾症状を呈した外傷性脊髄くも膜下血腫の1例

著者: 加藤裕 ,   真辺和文 ,   清水昭 ,   島克司 ,   千ケ崎裕夫 ,   土屋一洋

ページ範囲:P.1119 - P.1123

I.はじめに
 脊髄くも膜下出血は,全くも膜下出血の1%以下を占める比較的稀な疾患であるが,その症状は突然激しい背部痛,項部硬直及び頭痛などの髄膜刺激症状が主体である.しかし稀にくも膜下血腫を形成して脊髄圧迫症状を呈する場合がある.われわれは軽微な外傷を契機とし,比較的長い経路で馬尾症状を呈した脊髄くも膜下血腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

報告記

First International Skull Base Congressに参加して

著者: 片倉隆一

ページ範囲:P.1124 - P.1125

 First International Skull Base Congressが6月14日から20日まで,Prof.M.Samii会長のもと,ドイッ,ハノーバー市にて開催された.頭蓋底の外科に関する学会は,以前からヨーロッパ,アメリカ,アジアなどでそれぞれ行われており,日本でも4年前から日本頭蓋底外科研究会として毎年開催されている.今回は,Samii先生が国際学会として第1回目をまとめた格好になっている.
 さて,学会は,ハノーバー市内の美しい市民公園内にあるCongress Centrum Stadtparkで1週間にわたり行われた.主催者側の話では,参加者は脳外科をはじめ耳鼻科,形成外科,神経放射線科,神経病理など55カ国から約1000名で,日本からもgeneral secretaryのアジア代表である高倉公朋教授,柳原尚明教授(耳鼻科)をはじめとして脳外科医・耳鼻科医が数十名参加した.また演題総数は865題であった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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