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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科20巻11号

1992年11月発行

雑誌目次

烏は白い

著者: 久保田紀彦

ページ範囲:P.1133 - P.1134

『烏は白いってほんとうか?』
 『そんなことあるわけないだろう.』
 『そんなことを言われても,おまえ,はいそうです,と言いながら医者をやっていける自信があるか?』
 私の学生時代には,医学部の,とくに臨床の教授は,強引な持論を医局員に押しつけるとの噂があった.その真意はさだかでないが,若い医局員は,教授の意見が間違いだと思っていても,恐ろしくて教授に言う勇気がないので,『はいそうです.』と言わなければならなかった「たとえ」であろう.私は内心大変な世界に足を踏み入れたものだと,ぞっとするときがあった.しかし,私が学生の時には「ほんとうに鳥は白いことがあるのか?」と問い直す思考の余裕は無かった.

総説

脳腫瘍と血液脳関門

著者: 柴田尚武

ページ範囲:P.1135 - P.1147

I.はじめに
 脳の正常毛細血管は特別の場所を除いて,内皮細胞間は堅い結合tight junctionで接着しており,内皮自体は無窓性non-fenestratedであり,のみこみ小胞pinocyto—tic vesicleが極めて少なく,高分子物質を血管外に通過させない機能を持ち,血液脳関門blood-brain barrier(BBB)といわれている.正常脳血管が脳腫瘍を潅漑する血管に変化していく過程で,これらの特性は失われていくのであろうか.
 また,脳腫瘍のBBBすなわち血管透過性を端的に表現するcomputed tomographyやmagnetic resonance imagingの所見では,基本的にはglial tumorsでは浮腫は高度であるが,造影効果は軽度であり,一方,non—glial tumorsでは浮腫は軽度であるが,造影効果は高度であるという違いを認める.また,metastatic brain tumorsでは,浮腫,造影効果ともに高度である.
 そこでこれら3群のヒト脳腫瘍血管の超微形態を超薄切片法に加え,凍結割断レプリカ法を用いて透過電顕より検索し,血管透過性の面から論じてみたい.

研究

急性期出血性頭蓋内病変に対してのニトログリセリンによる企図的降圧療法と頭蓋内圧の変化

著者: 松山武 ,   青山信房 ,   塚本政志

ページ範囲:P.1149 - P.1154

I.はじめに
 出血性頭蓋内病変(高血圧性脳内出血及びくも膜下出血)では,出血初期には反応性の高血圧を示すことが多く,再出血により急激な神経学的症状の悪化をみる症例を少なからず経験する.そのため急性期には積極的な降圧療法が必要と思われる.現在,低血圧麻酔や術中高血圧などのコントロールに使われている降圧剤は,トリメタファン,ニトロプルシッド,プロスタグランジン,ニフェジピン,ニトログリセリンである.このうちニトログリセリンは,不安定狭心症や急性心不全等の心疾患の治療に用いられているが,脳外科領域においては頭蓋内圧を上昇させるため,急性期の出血性病変には,むしろ禁忌といわれている3-5,7,8).しかし実際,術中に降圧薬として使用した際,頭蓋内手術操作が頭蓋内圧亢進のため困難と感じられたこともない.ニトログリセリン投与後の頭蓋内圧の変化についての報告は,麻酔下もしくは,正常頭蓋内圧の症例においての報告がほとんどであり3,4,7,8),実際に頭蓋内圧亢進の症例において使用した報告は数少ない.今回,われわれは,急性期にニトログリセリンを用いて企図的降圧療法を行い,良好な結果を得たので文献的考察を加え報告する.

高速磁気共鳴画像法(Turbo-FLASH)による脳循環の評価

著者: 宝金清博 ,   上山博康 ,   岩崎喜信 ,   阿部弘 ,   宮坂和男 ,   小岩光行 ,   柏葉武

ページ範囲:P.1155 - P.1160

I.はじめに
 脳循環の測定法としてこれまでに多くの方法が考案され臨床応用されてきた.コントラスト分解能と空間分解能の点ではpositron emission tomography(PET)scanが最も優れているが,普及度があまりに低い.又,今日,最も普及したsingle photon emission computed tomography(SPECT)は,簡便であり,コントラスト分解能も満足すべきものがあるが,空間分解能の点では,問題が多い.さらに,いわゆる,dynamic CTを用いた脳循環測定法は,空間分解能の高い画像を得ることができるが,コントラスト分解能の点ではものたりなく,又,大量の造影剤のbolus injectionが必要であり,臨床応用の点では問題がある.
 磁気共鳴画像法(MRI)は,優れたコントラスト分解能と空間分解能を有し,また,flowの情報を画像信号のparameterとしていることから,脳循環測定法として利用できる可能性が以前より指摘されていた.遅いflowを観測するperfusion imageやdiffusion imageは,造影剤を用いることなく,高い空間分解能が得られるが,現在のところ,一部の方法を除いて,研究段階であり,臨床応用に関しては必ずしも楽観的ではない7)

巨大脳底動脈瘤に対する治療的脳底動脈閉塞術—脳血管流体モデルによる血行動態の解析

著者: 長安慎二 ,   菊池晴彦 ,   長澤史朗 ,   大槻宏和

ページ範囲:P.1161 - P.1167

I.はじめに
 近年,microsurgeryの発達に伴い,後頭蓋窩の脳動脈瘤に対しても積極的にneck clippingが試みられるようになった21).しかし巨大脳動脈瘤の柄部クリッピングは今なお困難であり,瘤内血栓化を目的とした観血的2,4,5,9,15,19)あるいはバルーンによる1,3,6,7)親動脈の閉塞術が施行されている.これらの治療法により脳虚血が予想される場合には,頭蓋内外バイパス術の併用などが試みられている8).しかしながらこのような主幹動脈閉塞術が行われた場合でも,脳動脈瘤の血栓化が認められない症例も報告されている8,14)
 本研究では脳血管流体モデルを用いて,巨大脳動脈瘤に,脳底動脈閉塞術を施行した際の血行動態の変化,とりわけ動脈瘤の血栓化と密接に関係していると考えられる動脈瘤内の血流状態につき検討したので報告する.

ラットグリオーマ細胞の血管新生に及ぼす影響—新しいモデルを用いたin vitroでの研究

著者: 新井田広仁 ,   皆河崇志 ,   田中隆一

ページ範囲:P.1169 - P.1172

I.はじめに
 腫瘍の成育のためには栄養血管が不可欠であり,中枢神経系の腫瘍,特に悪性グリオーマでは著明な血管増生をみることが多い.近年,脳血管内皮細胞の分離,培養が可能となり,血管新生のメカニズムに関しても種々の知見が得られつつある7,9).血管新生のメカニズムを解明し,それを抑制する因子を発見できれば,脳腫瘍治療の有効な手段となりうる10).従来血管新生の実験モデルとしてはin vivoのものが主体を占めていたが,今回著者らはdouble chamber co-culture systemを用いた新しいモデルを開発し,グリオーマ細胞の脳血管内皮細胞に対する影響,特に血管新生能に与える影響をin vitroで検討した.

離脱型バルーンによる親動脈閉塞後,脳虚血症状を生じた内頸動脈瘤症例の検討—99mTc-HMPAO SPECT併用の有用性と術後管理の重要性

著者: 安井敏裕 ,   矢倉久嗣 ,   夫由彦 ,   永田安徳 ,   田村克彦 ,   白馬明

ページ範囲:P.1173 - P.1178

I.はじめに
 血管内手術の進歩の結果,ネッククリッピング困難な脳動脈瘤の治療が,少ない侵襲で可能な場合がある.特に離脱型バルーンによる親動脈閉塞は瘤内閉塞に比べて容易なため広く行われている1,5,10).しかし,本法には,脳虚血症状が発生する危険性もある.今回,著者らは離脱型バルーンによる親動脈閉塞後,脳虚血症状を生じた内頸動脈瘤の症例を経験したので報告し,その予防方法を検討する.

症例

悪性脳腫瘍の治療経過中に嚢腫形成をみた2症例の臨床病理学的検討

著者: 志村俊郎 ,   中沢省三 ,   池田幸穂 ,   野手洋治

ページ範囲:P.1179 - P.1183

I.はじめに
 悪性脳腫瘍の手術摘出部位に嚢腫が形成されることがある.この原因として腫瘍摘出腔の閉鎖性脳孔症や残存腫瘍の嚢腫変性が考えられているが,他の原因として,手術後の局所化学療法や放射線療法等の補助療法によることが考えられる.特にこれら非交通性嚢腫の治療は,深部への再発腫瘍と相俟って,占拠性効果を伴い甚だ治療の困難なことがある6,18).著者らは局所化学療法の治療後の合併症として,2症例に増大する嚢腫形成を経験したので,そのMRIおよび経時的CTスキャンと再手術時の組織の臨床病理学的検討を加え報告する.

縊頸によると考えられる頸部総頸動脈狭窄の1例

著者: 野口和幸 ,   松岡好美 ,   宝田勝憲 ,   勝山諄亮 ,   西村周郎

ページ範囲:P.1185 - P.1188

I.はじめに
 鈍的外傷による頸部頸動脈の閉塞で,重篤な脳梗塞をきたした症例の報告はしばしば見られる4,8)が,外傷に起因する頸部頸動脈の狭窄により,一過性の虚血症候をきたしたという報告は少ない.今回,われわれは,縊頸により頸部総頸動脈の中膜に解離を生じ,一過性脳虚血発作(TIA)を呈した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

Subfrontal Schwannomaの1例

著者: 坂東一彦 ,   大林正明 ,   深見常晴

ページ範囲:P.1189 - P.1194

I.はじめに
 頭蓋内の神経鞘腫の多くは聴神経に発生し,次いで三叉神経にみられるが,前頭蓋底に発生する神経鞘腫,すなわちsubfrontal schwannomaは極めて稀で,現在までに11例1,6,8,14,15,20,22,23,25-27)の報告があるに過ぎない.今回,われわれは鼻腔,篩骨洞から前頭蓋底に至るsubfrontal schwannomaの1例を経験したので報告する.

Von Recklinghausen病に伴うGliosarcomaの1例

著者: 合志清隆 ,   撫中正博 ,   山田治行 ,   花田貴信 ,   和田伸一 ,   横田晃

ページ範囲:P.1195 - P.1198

I.はじめに
 Von Recklinghausen病は皮膚を主病変とする遺伝性疾患であるが,種々の脳腫瘍を合併することもよく知られている.合併する脳腫瘍のなかではacoustic neurino—maが最も多く,次いでmeningiomaやgliomaなどが挙げられ,gliomaのなかでは高分化のoptic glimaが多く,malignant gliomaは少ないと言われている6,14)
 一方,ghosarcomaはglioblastomaとsarcomaからなり稀なものと考えられていたが,anaplastic astrocyto—maの8%を占めるとするものもあり13),近年本邦でも10数例報告されている10)

視交叉から両側の後方視神経路にかけて発生したCystを伴う視神経膠腫の1例

著者: 日山博文 ,   久保長生 ,   中島宏 ,   林基弘 ,   加川瑞夫

ページ範囲:P.1199 - P.1204

I.はじめに
 視神経膠腫は2-5歳の幼少時に好発する腫瘍で,原発性脳腫瘍のO.6-1.2%,小児頭蓋内腫瘍の約5%を占める.腫瘍は視神経路のいずれの部位からも発生しうるがその好発部位は眼窩内視神経と視交叉である.視交叉より後方の視神経路での発生は比較的少なく特に両側性となるとまれである.一方組織学的にはpilocytic astrocytomaが主体でmicrocystをみることはあるが,小脳に発生するものと異なり大きなcystを伴うことはまれである.今回われわれは視交叉から後方の両側の視神経路にかけて発生したcystを伴う視神経膠腫を経験し,確定診断に苦慮したので報告する.

圧可変式バルブ自体の故障によるシャント機能不全症例

著者: 大熊洋揮 ,   篠崎直子 ,   尾金一民 ,   鈴木直也 ,   蛯名国彦 ,   鈴木重晴

ページ範囲:P.1205 - P.1210

I.はじめに
 圧可変式バルブは,術後設定圧を非侵襲的に変更可能なことから,水頭症に対する短絡術に使用される機会が最近増加している.その有用性に関する報告もいくつかなされているが1-5),バルブ自体の故障によるシャント機能不全例の報告は見られない.最近,バルブの故障例を2例経験したので,この症例をもとに本シャントシステム使用時の留意点について考察を加えた.

原発性頭蓋内悪性黒色腫の1例

著者: 高野尚治 ,   斎藤元良 ,   村田晃一郎 ,   大部誠 ,   宮坂佳男 ,   矢田賢三 ,   菅信一 ,   高木宏

ページ範囲:P.1211 - P.1215

I.はじめに
 黒色腫はneural crest由来のmelanocyteを発生母地とする腫瘍である.melanocyteは皮膚や粘膜に多く存在するが,中枢神経系では脳軟膜や脳内血管鞘に存在しており,脳底部や脳表に発生することがあり得るが,その頻度は極めて稀である.最近著者らは,脳軟膜に原発したと考えられる悪性黒色腫の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

Tethered Cord Syndromeを合併したAnterior Sacral Syndromeの1症例

著者: 原康子 ,   白根礼造 ,   吉本高志

ページ範囲:P.1217 - P.1221

I.はじめに
 anterior sacral meningoceleは仙骨前壁の椎体欠損部より先天的にdural sacが前方に突出し骨盤腔内に腫瘤を形成して発見されることの多い疾患であるが,われわれはtethered cord syndromeを呈したanterior sacral meningoceleの稀な1例を経験したので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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