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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科20巻12号

1992年12月発行

雑誌目次

金液丹・灌水の法

著者: 寺尾榮夫

ページ範囲:P.1229 - P.1230

“心にもあらで憂き世にながらえば恋しかるべき夜半の月かな”
 百人一首に王朝風の典雅さのなかに何か怨念をにじませたような一首を遺された三条天皇は確かに不運な帝であった.自分の外孫を早く帝位につけようと画策する時の権力者・藤原道長との確執,在位四年の間に二度にわたる内裏の出火と貴重な財宝の焼失,これを天道の諌兆と屁理屈をつけてあからさまに譲位を迫る道長一派…….こうした権謀術数の渦中に身をおいて心の休まることもなかったであろう.しかし,帝の最大の不幸は重い頭蓋内疾患に罹られたことである.病の兆候は即位された翌年の長和二年(1012年)に左の視力の障害で現われた.症状は一進一退しながら徐々に悪化し,遂に両眼の視力を失われ,また物の匂を嗅ぐこともできなくなり,最後には麻痺症状も出現して行動も不自由になられたという.遂に退位を余儀なくされ,その翌年の寛仁元年五月(1017年)43歳で崩御されている.先輩・恩師として私が敬慕する元都立広尾病院院長で,同時に国学院大学教授でもあった河上利勝先生はその著書“百人百病”の中で本文でもこの本からいくつか引用させていただいているが—三条帝のご病気は脳腫瘍であったと推測されている.脳外科医としてさらに専門的に診断するならば,次の二つの理由で鞍結節部髄膜腫あるいは嗅窩髄膜腫が最も疑われる.第一に頭記の歌は譲位される寸前で,症状はかなり進み視力は殆んど失われていた頃のものである.その秀れた内容からして髄内腫瘍は考えにくく視交叉部付近の髄外腫瘍と診断するのが妥当である.第二に下垂体腫瘍や頭蓋咽頭腫も考慮しなければならないが,帝には未だ幼い皇子・内親王がおられたことからこの両腫瘍は否定的である.結局,前頭蓋窩の髄膜腫,特にクロノロジーから鞍結節部のそれとするのが最も合理的であろう.

解剖を中心とした脳神経手術手技

顕在性癒合不全における神経機能構造温存根治術—顕在性二分頭蓋の手術手技

著者: 大井静雄

ページ範囲:P.1232 - P.1240

I.緒言
 癒合不全の手術理論と手術術式は,顕在性と潜在性癒合不全の各型において異なる.それらの外科的治療のゴールは,奇形の各型において論じられるべきであるが,種々の基礎医学的問題点が未だに未解決のままにあり,古典的概念が現時点においても臨床に残されている.とくに前者においては発生病態に不明のことが多く,その分類法,発達解剖・形態学上の見解,さらには臨床上の用語に於いてさえ混乱がみられ,その外科的治療に関しても,今なお包括的に論じられていることが多い.
 本稿では,これらの観点より顕在性二分頭蓋の手術手技につき,ニューロン成熟段階を重視した分類法を示し,主として,発達解剖学に基づく病態生理からその手術理論を検討すると共に著者らの術式を呈示した.

研究

Barbiturate療法における全身合併症の問題点と対策

著者: 小田真理 ,   下田雅美 ,   山田晋也 ,   佐藤修 ,   津金隆一

ページ範囲:P.1241 - P.1246

I.はじめに
 現在,重症頭部外傷,脳血管障害などの治療にあたり頭蓋内圧亢進対策,脳代謝機能保護などを目的としてbarbiturate(BA)り寮法を施行する機会に少なからず遭遇する.しかし,導人時および長期間施行中に発生する種種の全身合併症が原疾患の予後を増悪させることも稀ならず経験するにも拘らず,BA療法の実施にあたって確立された具体的な方法は示されていないのが現状である.今回,著者らはBA療法に伴って生じた全身介併症に関しその要因を追究し,予防を含めた対策を検討した.

脳動脈瘤手術中におけるTemporary Clip使用例の検討—その退院時成績に影響を与える因子

著者: 窪田惺 ,   多田羅尚登 ,   三好明裕 ,   長島親男

ページ範囲:P.1247 - P.1254

I.はじめに
 脳動脈瘤根治手彿に際しての主幹動脈の一時的遮断は,術中破裂の際の出血のコントロール,neckやperforatorと周囲組織との剥離離に対して有用な手段である.その様な場合には,われわれもtemporary clip(TC)を使用しているが,時に術後に神経脱落症状を発現する症例に遭遇する.そこでわれわれは,過去10年間に経験した破裂性脳動脈瘤手術例をもとに,TC使用群と非使用群との退院時成績を比較し,その成績に影響を与える因子およびTC使用の問題点について検討したので報告する.

星細胞系腫瘍におけるPCNA標識率の測定

著者: 別府高明 ,   荒井哲史 ,   金谷春之 ,   佐々木功典

ページ範囲:P.1255 - P.1259

I.はじめに
 星細胞系腫瘍(astrocytic tumors)は一般的に予後不良な脳腫瘍であるが,その悪性度の評価や予後の推測は,いまだ病理組織像に大きく依存しているのが現状である.病理組織分類は,細かく分類され診断学的には極めて有川である19,32).しかしながら,同一組織群に分類されるにもかかわらず,患者の予後に大きな差が見られることもまれではなく,悪性度の評価を形態学的手法のみに頼ることについては問題がある.現在,腫瘍の生物学的性状をより直接的に反映するマーカーの検索が精力的に行われている理由はここにある.頭蓋という閉鎖された腔内では,腫瘍細胞の増殖能が患者の予後を左右する重要な因子の一つであり,astrocytic tumorsにおいても,組織像に加えて,増殖能を定量的に計測することの重要性が指摘されており,モノクローナル抗体やflowcytometryを用いた悪性腫瘍の成長解析が盛んに行われるようになっている8,15,18,23,25,26,28).DNA合成に必要な酵素の一つであるDNA polymeraseδの補助因子である4)PCNA(proliferating cell nuclear antigen)は,増殖期にある細胞の核内に特異的に発現するといわれており2,3,5,31),腫瘍細胞の増殖能を反映するマーカーとして最近注目されている6,7,10,13,20,21,29,30).脳における代表的腫瘍であるastrocytic tumorsにおいて抗PCNAモノクローナル抗体を用いてPCNAの標識率(labeling index:LI)を測定し,その臨床的有用性を十灸討するとともに病理組織像と対比した.

高血圧性脳内出血における短潜時体性感覚誘発電位の研究—N20成分の臨床的有用性について

著者: 福多真史 ,   亀山茂樹 ,   佐藤宏 ,   秋山克彦 ,   新保義勝

ページ範囲:P.1261 - P.1267

I.はじめに
 被殻出血や視床出血では,隣接した内包や体性感覚路の中継核である視床後外側腹側核に対して種々の圧迫が加えられることにより麻輝や感覚障害を生ずる.近年,短潜時体性感覚誘発電位(short-latency somatosensoryevoked potential,以下SSEPとする)が,体性感覚路の構造的病変に対して特異的な局在性伝導障害を示すことから,脳脊髄機能の客観的指標として種々の分野で臨床応用されている5,8,9,11)
 今回われわれは,比較的限局した被殻出血例および視床出血例に対象を限定し,それらに対してSSEPを施行した.SSEPのうち特殊視床一皮質路あるいは第1次感覚野がその起源と考えられている2,3,7,12,13)N20成分に注目し,その所見からretrospectiveにCT上の血腫局在,運動障害,感覚障害の程度との相関を検討し,SSEPを臨床応用する上での有用性について考察を加えた.

第3脳室脈絡叢乳頭腫の1例

著者: 松山武 ,   増田彰夫

ページ範囲:P.1269 - P.1272

I.はじめに
 脈絡叢乳頸腫は,原発性脳腫瘍のO.4—O.6%11)の頻度を占める比較的まれな腫瘍である.側脳室,第4脳室に好発10),第3脳室における発生頻度は,10-15%3)である.また1歳未満の小児に多く,2歳以内では60.2%9)を占めるという.本邦において報告された第3脳室脈絡叢乳頭腫7例1,6,7,8,14)中,1歳以下5例,2歳8カ月が1例,12歳が1例である.今回われわれは,19歳の男性で無症状で発見され,腫瘍摘出術を施行し良好な経過を得た第3脳室脈絡叢乳頭腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する,

乳児第三脳室脈絡叢乳頭腫の1例

著者: 富永篤 ,   藤岡敬己 ,   門田秀二 ,   川本行彦 ,   魚住徹 ,   小西央郎

ページ範囲:P.1273 - P.1276

I.はじめに
 脈絡叢乳頭腫は全脳腫瘍中0.4-0.5%の頻度を占める比較的稀な腫瘍である13).そのうち第三脳室に発生するものは約1割に過ぎず,ことに1歳未満の乳児期に発生したものはそのほとんどが側脳室発生であり第三脳室に発生するものは稀である.われわれは生後7カ月目に頭囲拡大にて発症した第三脳室脈絡叢乳頭腫の乳児例を経験したので若干の考察を加えてこれを報告する.

脊髄髄内と脳内に多発した海綿状血管腫の1例

著者: 野々垣洋一 ,   石井正三 ,   尾田宣仁 ,   長島親男

ページ範囲:P.1277 - P.1281

I.はじめに
 中枢神経系の海綿状血管腫は,MRIの普及とともにその報告も増え,従来考えられていたほど稀な病変ではないと思われている.しかし,脊髄髄内海綿状血管腫は極めて稀とされ1,6,10,11,14,17),脊髄髄内と脳内に多発した例はさらに稀でWoodら16)により初めて報告されて以来現在まで自験例を含めて5例の記載1,5,6,11)が見られるに過ぎない.
 今回われわれは,時期を異にして発症した本邦初と思われる脊髄髄内と脳内の多発例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Granulomatous Hypophysitisの1例

著者: 田中柳水 ,   亀谷徹 ,   笠井潔 ,   川野信之 ,   矢田賢三

ページ範囲:P.1283 - P.1288

I.はじめに
 下垂体前葉のホルモン非分泌性腺腫は,通常頭痛,全般的な下垂体機能低下,視力視野障害で会くつかれることが多い.しかし稀ではあるが下垂体前葉組織の炎症性病変によって同様な症状を呈することが知られている.今回われわれの経験した1症例も臨床的には,無月経と乳汁分泌が主訴で,放射線学的にはトルコ鞍内に主座をもつ鞍上部に進展した腫瘤として認められた。術前診断はホルモン非分泌性下垂体腺腫としたが,組織学的には下垂体前葉組織の虫くい状の破壊を示す他に,散在性のリンパ濾胞の形成を科三う多数のリンパ球浸潤と異物型多核巨細胞,石灰沈着を認めその周囲には類上皮細胞が集合している炎症性疾患でgranulomatous hypophysitisと診断した.本症例の発症機序として自己免疫反応の関与が示唆されていることから自己免疫疾患としての可能性を検討したが確証は得られなかった.

脳底動脈閉塞を合併し血管撮影上自然消失をきたした後下小脳動脈末梢部破裂脳動脈瘤の1例

著者: 吉田真三 ,   山本豊城

ページ範囲:P.1289 - P.1294

I.はじめに
 主幹動脈閉塞と脳動脈瘤の合併については多くの報告があり,脳動脈瘤の成因におけるhemodynamic stressの果たす役割という観点から論じられることが多いが,そのほとんどは内頸動脈または総頸動脈閉塞例であり,脳底動脈閉塞と動脈瘤の合併例の報告は,著者らが文献を渉猟し得た限りでは見当たらない.今回われわれは脳底動脈閉塞に後下小脳動脈末梢部(以下distal PICA)破裂動脈瘤を合併し,経過中動脈瘤の自然消失を認めた症例を経験したので,脳底動脈閉塞と動脈瘤との関連,動脈瘤消失の機序などに関する考察とともに報告する.

興味あるMRI所見を呈したNeuro-Behcet Diseaseの1例

著者: 山下陽一 ,   池田幸穂 ,   田島秀則 ,   岡田憲明 ,   中澤省三

ページ範囲:P.1295 - P.1299

I.はじめに
 1937年,Huiusi Behcetが,再発性口腔内アフタ,外陰部潰瘍,ブドウ膜炎をtriadとし,時に血管,神経,腸管に広範囲に反復,遷延した経過をとる難治性の炎症性疾患としてBehcet病を報告して以来,中枢神経系障害を合併したneuro-Behcet病の報告例も散見されるようになり,現在,その頻度は10-25%と、言われている2,4,6,8,10,13)
 今回,われわれは,口腔内アフタ,外陰部潰瘍を繰り返し,TIA様発作にて発症した不全型neuro-Behcet病の1例を経験し,また,ステロイド治療によるMRIの経時的変化を神経学的所見とあわせて追跡しえたので報告する。

部分的脳梁欠損を伴った大脳半球間裂内Choroidal Epithelial Cystの1例—症例および文献的考察

著者: 稲垣裕敬 ,   黒崎雅道 ,   堀智勝 ,   小枝達也 ,   大浜栄作

ページ範囲:P.1301 - P.1306

I.はじめに
 頭蓋内には種々の嚢胞性病変が発生するが単層の上皮細胞が嚢胞壁を形成する場合,従来,その大部分は光顕上ependymal cystあるいは(neuro)epithelial cystと包括的に診断されることが多く,また発生部位によりcolloid cyst, Rathkels cleft cystなどの名称も用いられ,若干の混乱を招いていたと思われる.これら単層の上皮性嚢胞の組織起源は様々であり,電顕による微細構造の検討によりこれらの細胞起源に関する報告がいくつか見られる3,5,7,10,11,13,15,18,20)
 今回われわれは大脳半球問裂に発生し,脳梁の部分欠損を伴った多房性の嚢胞であり,詳細な電顕的検索によりchoroidal epithelial cystと診断しえた1乳児例を経験した.症例を呈示するとともにこれら上皮細胞の起源に関して若干の文献的考察を加える.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第20巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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