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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科20巻3号

1992年03月発行

雑誌目次

形成的自己評価のススメ

著者: 森竹浩三

ページ範囲:P.199 - P.200

 最近,我々の大学で自己評価委員会が組織されその一員に加えられた.1980年代半ばの臨教審の答申から大学評価ということが大学改革の問題として登場し,その勧告を受けて生まれた大学審議会が大学に自己点検,自己評価を求めてきた.上記委員会はこれに対応すべく設けられたものである.大学の自治を錦の御旗に,中央からの改革案をやみくもに拒否し続けた昭和40年代の大学紛争世代には,自治権侵害ともとれるこのような中央からの指示になんら異論や反論なく従っていることに隔世の感を覚えた.が,実際には自己評価の内容,実施方法などについては各大学の自主性と創意に委ねられたものであり,中央統制や自治権侵害にはあたらないことがわかった.そして,このような勧告の背景にはわが国の大学が抱える財政,人事,教育などの面での多くの根深い問題のあることを知った.これまでこの方面の知識に乏しく理解も浅かった私であるが,この機会に少しは勉強せねばと思いなしている次第である.
 約1年前,平成2年度医学教育者のためのワークショップに参加させてもらった.ここでは様々なことを学んだが,評価についての定義,分類などを復習してみた.評価の方法には大きく分けて二つあり,その一つは,行動の終了時に試験でもってその成果を総括するやり方で総括的評価(summative evaluation)と呼ぶ.もう一つの評価法は,行動の途中でそれが目標に正しく向かっているか否かを判定し,もしはずれていればそのつど形成課程を方向修正していく方式で形成的評価(formative evalua-tion)と呼ぶ.この形成的評価の結果をフィードバックすることによって学習者は学習方法を矯正でき,教師も教授方法を改善し学習指導の指針をより理想に近いものへと高めることができる.面倒なことのように思えるが,大きな過ちを避けることができ,結局は目標に早く到達しやすい.過日,この方法を授業に応用してみた.授業終了時に学生に記名式アンケート用紙を配りその授業についての感想を書かせた.黒板の字が光って見えにくい,早口でわかりにくい,講義内容のどの部分が理解しにくかった,などの指摘があり,以後の授業の参考にすることができた.そのほかアンケートには,今年入局の教室員が自発的にやってくれていた黒板消しに対し,封建的だとの非難めいた言葉があり,現代学生気質の一端を実感でき,また反論の場も得ることができた.

解剖を中心とした脳神経手術手技

海綿静脈洞部動脈瘤の手術

著者: 児玉南海雄 ,   佐々木達也 ,   沼沢真一 ,   鈴木恭一

ページ範囲:P.201 - P.208

I.はじめに
 海綿静脈洞部の直達手術は1965年Parkinson27)が頸動脈海綿静脈洞痩に対して低体温,心停止下に行ったのが最初の報告である.この報告は,開拓精神に富んだ素晴らしいものであったが,余りにも大々的な装備であったため,確かに容易な手術ではないが必要以上の恐怖心を他の脳神経外科医に与えたきらいもある.従って限られた報告しかみられなかったが,Dolencらの努力により通常の麻酔下で手術が可能であることが知れわたり最近ではかなり普及してきたと言える.
 本稿では,この部動脈瘤の手術について,解剖および手術接近法を中心に述べてゆくこととする.

研究

重症頭部外傷における外傷性脳室内出血

著者: 橋本卓雄 ,   中村紀夫 ,   ,  

ページ範囲:P.209 - P.215

I.はじめに
 加速度衝撃による脳損傷の中には,病理学的に頭蓋内血腫や脳挫傷を伴なわないで軸索損傷や小血管の才員傷による広範な小出血が認められることがあり,これらの病態はdiffuse neumnal injuryとして知られていた.Strichは1956年,diffuse severe degeneration of thewhite matterを報告し22),以来もっとも重症のdiffuseneuronal damageの一群がshearing injury, central Cere—bral trauma, diffuse white matter shearing injury, dif—fuse axonal injuryとして報告されている1).これらのdiffuse axonal injuryでは,CT scan上,脳梁,灰白質白質境界部,脳幹出血,脳室内出血などが認められることが知られている.
 CT scan導人前には,その臨床的診断が困難であったが,CT scanが普及し,頭蓋内外傷性変化が詳細に観察される現在,臨床的にも重症頭部外傷に稀ならず合併する病態であることが明らかになってきた.ことにdif-fuse axonal injuryの一環としての外傷性脳室内出血(traumatic intraventricular hemorrhage,以下TIVH)がしばしば経験されるようになった.しかしTIVHの頻度,外傷機転,出血源,予後,臨床的意義など明らかでない点がある.そこで筆者らは,来院時すでに高度の意識障害を呈した重症頭部外傷239例中,diffuse axonalinjuryにより発生したと考えられるTIVH32例について臨床的に検討したので文献的考察を加えて報告する.

Diffuse Axonal Injuryにおける頭蓋内圧,聴性脳幹反応測定の意義

著者: 横田裕行 ,   辺見弘 ,   益子邦洋 ,   安田和弘 ,   大塚敏文 ,   小林士郎 ,   矢嶋浩三 ,   中沢省三

ページ範囲:P.217 - P.221

I.はじめに
 最近diffuse axonal injury(DAI)なる病態が注目され多くの報告に接するが2,3,6,8,8,9,11,14,16,17),それらの殆どは臨床所見やco)mputerized tomography(CT)所見について言及したものである6,14,15,16,21,22).一方,本症の頭蓋内圧(ICP),聴性脳幹反応(ABR)およびこれらの所見と予後との相関に関する報告は少ない.われわれは臨床的にDAIと診断された症例に対し持続ICP測定およびABRを施行し,DAIの病態を知る上で興味ある知見を得たので報告する.

中心溝同定のための皮質SEP—記録・判読上の問題点

著者: 桑田俊和 ,   船橋利理 ,   中大輔 ,   小倉光博 ,   吉田夏彦 ,   辻直樹 ,   林靖二 ,   駒井則彦

ページ範囲:P.223 - P.228

I.はじめに
 中心溝近傍の開頭手術の際,術後の運動,感覚障害が問題となるが,これを最小限にするためには正確な脳機能局在を術中に同定することが必要である.脳表の形態から中心溝を判定するのは不正確であり,また占拠性病変によって中心溝が偏位したり,変形している際には,さらに困難になる.体性感覚誘発電位(somatosenso)ryevoked potential:SEP)を利用した中心溝同定法に関しては,1984年,Gregorie and Goldring3)の報告以来,脳外科手術における有用性が報告されている1,4,6,11).われわれの施設でも本法の経験を重ねてきたが,中には中心溝の同定に苦慮した症例を数例経験した.そこで本稿では,中心溝同定のための皮質SEPにおける記録および判読上の問題点について検討するとともに,術中モニターとしての右用性についても報告する.

グリセロールとマンニトールの脱水作用の違い—示差走査熱量計による脳組織内水の分布の検討

著者: 河野輝昭 ,   平田勝俊 ,   堤圭介 ,   三宅仁志 ,   栗原正紀 ,   森和夫

ページ範囲:P.229 - P.234

 I.はじめに 生体の微量組織水が示差走査熱量計の開発により自由水と結合水に分別され定量測定出来るようになり2,5,6,8),脳浮腫についての検討も成瀬ら9)によりなされ,MRIと対比した報告もされている.脳浮腫については細胞毒性浮腫と血管源性浮腫とに大別されているが,虚血性脳浮腫は両者の混在した形で発生し一元的でないことが知られている.従って,抗浮腫剤の使用に関しても,その選択はそれぞれの薬剤の特性を考慮して決められる必要性がある.一方,グリセロールとマンニトールは脳浮腫の治療薬として知られているが,両者の脱水作用の機序については未だ十分な説明がなされていない.
 著者らは,脱水剤としての両薬剤の作用機序の違いをラットの一側中大脳動脈虚血モデルを用い示差走査熱量計による脳組織中の水の動態から検討した.

小児の閉鎖性頭部外傷のMR所見—特に中心性shearing forceについて

著者: 本田英一郎 ,   徳永孝行 ,   大島勇紀 ,   倉富明彦 ,   重森稔 ,   小笠原哲三 ,   林隆士

ページ範囲:P.235 - P.242

I.はじめに
 頭部外傷における脳損傷の基盤となるshearing forceはHolboun10)によりacceleration, rotation movementにより生じることが証明された.shearing forceが強くなれば,その力は正中部に集中しやすくなり,diffuseaxonal injury(以下DAI)の病理所見からも正中,傍正中構造物の広範囲なaxonの断裂損傷として示されている.このshearing forceの程度や方向により様々な病態が生じる.その中にはcerebral concussion, diffusebrain swelling, DAIが招来すると考えられる.
 今回われわれは38例の小児の閉鎖性頭部外傷(Glasgow coma scale 4-15)のうちMR, T2Wで正中部および傍正中部に異常high intensityを呈した8例を経験した.これら小児の8例のMR,CT所見を比較検討し,各種の病態,特に小児の特殊性についても考按したので報告する.

近年開発された各種Spinal Instrumentationの使用経験

著者: 花北順哉 ,   諏訪英行 ,   飯原弘二 ,   水野正喜 ,   名村尚武 ,   柴田修行 ,   大塚俊之

ページ範囲:P.243 - P.248

I.はじめに
 1962年に開発されたHarrington's instrumentation7)に代表されるspinal instrumentationは脊柱の矯正や,脊柱の強固な固定を目的にしている.これにより,脊柱の変形による神経症状の悪化を防ぎ,術後早期の離床,リハビリテーションの開始を可能にするなどの様々な利点を有している.Harringtonの発表以降,様々なタイプの脊椎固定器具が開発され,それぞれの特性,利点,欠点が種々の角度から検討’されている2,4,6,9-11,14,15,17)
 われわれは,このたび近年開発された,三種類のspinal instrumentationを使用する機会があった.僅かな経験ではあるものの,幾つか学ぶべき点があったので,器具の紹介も兼ねてこれらのinstrumentationの使用終験を報告する.

症例

Transethmoidal Encephaloceleの1例

著者: 好本裕平 ,   野口信 ,   堤裕

ページ範囲:P.249 - P.254

I.はじめに
 前頭蓋底脳瘤は,出生35,000)−40,000に1例で,脳瘤の1-10)%と報告されきわめて稀な先天奇形である.今回われわれは,髄膜炎にて発症しCT,MRIにて診断し開頭手術にて根治し得たtransethmoidal encephaloceleの1例を経験したので,ここに報告し考察を加える.

左房粘液腫による脳塞栓の1剖検例

著者: 松岡士郎 ,   伊藤正治 ,   東雲俊昭 ,   吉利用和 ,   谷村晃

ページ範囲:P.255 - P.259

 I.はじめに 心臓粘液腫は脳塞栓症の稀な原因として挙げられて。いるが心臓粘液腫そのものがきわめて稀なため,そのような症例を経験することは非常に少ない.近年の診断法の進歩と開心術の向上により,心臓粘液腫の外科的治療は容易になされるようになった.脳血管障害で発症し,超音波心診断法(以下UCG)によって心臓粘液腫と診断され救命された例も報告されているので,比較的若年成人における脳血管障害の鑑別診断上重要である.今回,われわれは不幸なことに救命はできなかったが,突然の意識障害と右片麻痺で発症した14歳女子の左房粘液腫による脳を含めた全身性塞栓症の1剖検例を経験したので文献的考察を加え報告する.

脊髄髄膜瘤を合併した割髄症の1例

著者: 安斎高穂 ,   加藤一郎 ,   白根礼造 ,   小川彰 ,   吉本高志

ページ範囲:P.261 - P.265

I.はじめに
 割髄症とは,脊髄の一部が骨性・軟骨性もしくは線維性の中隔により,左右に離開しているものをいう.今回,われわれは,これまでに報告の少ない,脊髄髄膜瘤に合併した割髄症の1例を経験したので,若十の文献的考察を加え報告する.

後頭葉脳内出血で発症し,同一部位に脳動脈瘤とAngiographically Occult AVMを認めた1例

著者: 玉置正史 ,   大野喜久郎 ,   松島善治 ,   黒岩俊彦

ページ範囲:P.267 - P.271

I.はじめに
 脳動脈瘤と脳動静脈奇形の併存例は,脳動静脈奇形の6.4-16.7%に見られ6,7,14,15),それ程稀なものではない.その成因については,諸説あるなか,多くは血行動態によるものとされている6,15).今回われわれは,後頭葉脳内出血で発症し,血管撮影上中大脳動脈末梢部に動脈瘤を認め,さらに摘出標本の病理組織学的検索で動脈瘤に接して動静脈奇形の併存が認められた1小児例を経験した.本例の如く,動脈瘤と動静脈奇形が近接して存在し,しかも末梢に位置するものは稀であり,そのような症例では,その成因として,血行動態によるものよりも1血1管形成異常による可能性が高いと考えられたので,本例を呈示し文献的考察を加えて報告する。

中脳海綿状血管腫の1全摘出例

著者: 田中聡 ,   堀智勝 ,   谷浦晴二郎 ,   山本富裕美 ,   井上幸哉 ,   阿武雄一 ,   沼田秀治 ,   田中順一

ページ範囲:P.273 - P.276

I.はじめに
 脳幹部の血管腫に対する直達手術の報告は稀である1-6,8-10,14,19).特に中脳においてはこれまでに数例を数えるのみである1,2,4,6,10).しかし,MRIなどの画像診断および手術手技の進歩により12),これまで直達手術が不可能と考えられていた脳幹部病変に対しても手術適応となるものが今後増加してくるものと考えられる.今回,われわれは出血発作を繰り返し,次第に神経症状の増悪を認めた中脳の大きな海綿状血管腫に対して,3回の手術により全摘出を完遂し得た症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

後下小脳動脈に発生した解離性動脈瘤の1例

著者: 高橋功 ,   高村春雄 ,   後藤聡 ,   佐々木寛 ,   牧野憲一 ,   鈴木望 ,   西原功 ,   石川達哉 ,   安藤政克

ページ範囲:P.277 - P.281

I.はじめに
 頭蓋内の解離性動脈瘤は,近年,画像診断技術の進歩により,報告例が増しており,外科的治療の対象となるものが多く含まれていると考えられ,その重要性が強調されている1,2,12).今回,われわれは,巨細胞性動脈炎に起因する後下小脳動脈(以下PICA)末梢部に隈局して発生した解離性動脈瘤の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

眼窩尖端症候群を呈した蝶形骨洞原発の悪性リンパ腫の1例

著者: 上羽哲也 ,   宮武伸一 ,   橋本信夫 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.283 - P.287

I.はじめに
 節外リンパ腫の2.0-6.8%が鼻腔,副鼻腔に発生するが,その中でも蝶形骨洞に原発するものは非常に稀である3,5,7,12,13,15).われわれは,眼窩尖端症候群にて発症し,手術により視力の回復をみた蝶形骨洞原発の悪性リンパ腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

頭蓋内脂肪腫の5例—MRI導入以後の経験から

著者: 篠崎直子 ,   関谷徹治 ,   鈴木重晴 ,   岩淵隆 ,   鈴木幹男

ページ範囲:P.289 - P.293

I.はじめに
 MRIの導人によって,従来の画像診断法では発見困難であった病変が比較的容易に発見されるようになってきた.頭蓋内脂肪腫は,剖検で発見されることが多い稀な腫瘍とされてきたが2,6,7,12,15),われわれはMRI導人以降の比較的知期間の内に5例の頭蓋内脂肪腫を経験したので報告する.

報告記

第4回国際小児脳腫瘍シンポジウム印象記

著者: 生塩之敬

ページ範囲:P.294 - P.295

 この度,平成3年11月14日から16日までの3日間,東大脳神経外科高倉公朋教授を会長として第4回国際小児脳腫瘍シンポジウムが東京の笹川記念館で行われた.7年前(1985年),当時名古屋大学脳神経外科の教授であられた景山直樹先生(現市立岸和田病院院長)が,小児脳腫瘍を主題とした初めてでもあり,また極めて有意義であった国際会議を美しい伊勢湾を見おろす鳥羽のホテルで開催されたことが記憶に真新しいが,その後,1989年にシアトルで,また1990年には,フィラデルフィアで同様の会がもたれた.従って,今回,はじめてこの会がら“第4回”と名付けられたが,まさに名実ともにpediatric neuro-oncologyに関しては世界で最も重要な国際学会の地位を築いたといえる.米国やカナダはもとより,ヨーロッパやアジアの各国から現在第一線で活躍している著名な学者が数多く参加したが,トロントのHoffman教授,ニューヨークのEpstein教授,サンフランシスコのEdwards教授,マルセーユのChoux教授など.私たちにおなじみの小児脳神経外科学会のリーダーのみならず,サンフランシスコのDavis教授やIsreal教授などの基礎腫瘍学者,ニューヨークのFiniay教授,ワシントンのPacker教授など臨床腫瘍学者など,豪華な顔ぶれが揃った.会の主なテーマとしては,小児脳腫瘍の分子生物学と病態,小児に特徴的な腫瘍であるmedulloblastoma, PNET, craniopharyngioma, germCell tumorおよび脳幹や視神経のgliomaが取り上げられた.全体で102題の研究発表がなされたが,学会秘書兼進行係でもある東大松谷助教授の細かい心遣と采配により,整然としかも和やかに会が進められた.適度な大きさの一会場ですべての演題が発表されたため,討論にもすべての参加者が加わり極めて活発なものであった.積極的な外科的治療を主張する脳神経外科医と保存的治療を主張する腫瘍内科医の問での激しいやりとりなどもこの会の特徴であったが,おかげで問題点が浮き彫りにされ,参加者は小児脳腫瘍の治療に関してまさにUp-olateを学ぶことができた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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