icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科20巻4号

1992年04月発行

雑誌目次

歩いて17年

著者: 柴田尚武

ページ範囲:P.309 - P.310

 表題は「徒歩通勤17年」という意味である.現在住んでいる山手の団地に家を建てたのが昭和49年であるので,大学病院に歩いて通勤して17年になる.最初の1年間はバスに乗ったり,歩いたりの試行錯誤だったのが,満員バスが苦痛なこと,バスの待ち時間とバス停往復の時間を合わせると所要時間はそう変わらないこと,そして何よりも「車も無けりゃ,免許もない」こと等の理由により徒歩通勤を始めた.雨の日も風の日も,そして雪の日も毎朝歩いている.幸い病気で欠勤ということもないので,365日×17年歩いたことになる.帰途も,ごくまれに院外に出た以外は,ほとんど毎日歩いている.
 団地の急坂を下ると,すぐ登り坂になる.聖フランシスコ病院を左手に見て登りきると,なだらかな下り坂になり,浦上天主堂の前に出る.ここから再び坂を登り始め,医学部グランドの横を通り,医学部正門を過ぎて,少し下り再び登ると病院正門に出る.ここまで書いて来て気付いたが,新大学病院が完成したのが昭和五十年であるから,私の徒歩通勤の歴史も新病院の歴史と共にあることになる.全行程ちょうど30分かかる.水・金・土は朝8時前に出て8時半には着く.月曜日は手術なので30分早く出る上火・木は7時半から抄読会があるので6時過ぎに出る.少し早く出るのは遅刻しないためである.冬なんかは星がまだ見えることがある.ラッシュアワーの影響を一切受けないので,一度も遅刻したことがない.

総説

パーソナルコンピュータの応用

著者: 間中信也 ,   渡辺英寿

ページ範囲:P.311 - P.318

I.はじめに
 本邦におけるPersonal computer(以後,パソコン)の嚆矢は,1976年日本電気よりマイクロプロセッサー・チップを組み込んだTK−80なるキットが発売されたことに始まる.あたかもCTが臨床に登場した頃であった.しかしこのコンピュータは実用に耐える代物ではなかった.日本のパソコン第1号は1979年のPC−8001(R)といわれている.ついで1982年には日本のパソコンの標準機となったPC−9801(R)が発売された.以来パソコンは医学とも深く関わるようになった.1990年の第49回日本脳神経外科学会総会(会長:中村紀夫教授)のもとで初めてコンピュータセッションが開かれたのも時代の流れであろう.脳神経外科領域のパソコン利用は,診断,手術,情報伝達,研究,秘書的業務,教育の各方面に用いられている(Table 1).まずジャンル別に最近のパソコン利用の一端を概観し,ついで2-3のテーマについて掘り下げて解説する.

研究

急性期頸髄損傷患者の予後

著者: 山崎義矩 ,   橘滋国 ,   大和田隆 ,   矢田賢三

ページ範囲:P.319 - P.323

I.はじめに
 急性期頸髄損傷患者の観血的治療法の適応および有効性については意見の一致を見ていない2,5,8,12,18,19).受傷後超急性期に完全麻痺を示す症例の多くは神経学的改善は望めないが,なかには少数ながら急激な神経症状の改善を示すものも存在する.このように,超急性期の初診時所見から神経学的予後を予測することは困難であり,このことが観血的治療の適応と,その効果判定に関する混乱の一因と言えよう.
 今回われわれは急性期頸髄損傷患者の初診時所見と予後,とくにlong tract signの改善の関係を明らかにする目的で自験例につき検討したので報告する.

ネッククリッピング不可能な椎骨動脈瘤に対する治療的一側椎骨動脈閉塞術—特に術後の脳幹虚血について

著者: 安井敏裕 ,   矢倉久嗣 ,   小宮山雅樹 ,   夫由彦 ,   永田安徳 ,   田村克彦 ,   金安明

ページ範囲:P.325 - P.332

I.はじめに
 ネッククリッピング不可能の椎骨動脈瘤に対し,prox—imal occlusionやtrappingにより,一側の椎骨動脈(以下VA)が遮断されても,健側VAが患側と同等またはそれ以上の太さであれば問題はないとされている.しかし,この条件を満たし術後無症状であっても,一定期間を経て脳幹虚血の症状が出現することがある.自験例をもとに,一側VA閉塞後の脳幹虚血発生の予防方法について検討する.

Sphenoclival Regionに対する新しい手術術式—Trans Le Fort I Approach

著者: 川上勝弘 ,   山内康雄 ,   松本昊一 ,   坂井信幸 ,   河村悌夫 ,   松村浩 ,   田嶋定夫

ページ範囲:P.333 - P.338

I.はじめに
 従来,蝶形骨洞やトルコ鞍内の占拠性病変に対しては,transsphenoidal approach(Hardy's operahon)が確立された優れた手術術式として広く普及しているが10),一方では術中狭い術野によって直視下での顕微鏡操作が制限される傾向にあると思われる.また近年頭蓋底外科領域で顔面骨切りなどの手術手技が発達し,前頭蓋底や斜台の領域に対してtransbasal approachやtransoralapproachが施行されつつあるが,これらの手術術式においても蝶形骨洞や斜台上方部(いわゆるSphenoclival region)に対しての十分な術野の展開は容易ではないと考えられる.
 当施設ではこれらのSphenoclivalregionに対して,顔面骨折にみられる十顎骨のLe Fort Iの骨切りを行い上顎骨を離断させた後,硬口蓋を下方へ移動させることにより生じる広い間隙から到達する手術術式をtrans LeFort I approachと命名し,計5例の肺瘍性病変に施行してきたが,他の手術術式に比較して広い術野を得ることができ,直視下での手術操作が容易なものであったため,代表的な症例を供覧するとともに文献的考察を加えて報告する.

破裂脳動脈瘤によるクモ膜下出血における脳血流量の経時的変化—CT所見,重症度,転帰との関連

著者: 福田忠治 ,   蓮江正道 ,   高明秀 ,   長谷川浩一 ,   中村達也 ,   三輪哲郎

ページ範囲:P.339 - P.347

I.緒言
 破裂脳動脈瘤によるクモ膜下出出(以下SAH)においては,発症直後より脳循環障害が生じ,時間的経過とともに変化していく事は実験的にも3,20,23),臨床的にも4,11,16,25-27,39)確認されているが,最近の脳循環測定法の進歩により,その変動はSAH重症度や病期,及び転帰と密接に関連している事が報告されている4,6,7,11,16,24,26,27,29).著者は急性期の脳血流量(以下CBF)が後に発生するDelayed ischemic neurological deficits(以下DIND)の重症度や転帰に大きな影響を与える事をすでに報告したが6),今回非侵襲的,3次元的CBF測定法の導入により,発症後数日のacute stage, DINDが生じるsub—acute stage, DINDの症状が回復又は固定するchronicstageの3期についてCBFを測定し,各stageの重症度やCT所見及び,転帰との関連に興味ある知見を得たので報告する.

脳室穿刺—安全性の検討

著者: 中島重良 ,   三平剛志 ,   水野誠 ,   鈴木明文 ,   安井信之

ページ範囲:P.349 - P.356

I.はじめに
 脳室穿刺は脳室ドレナージ(CVD),脳室腹腔/心房短絡術(shunt),或いは減圧のための補助手段として様々な脳神経外科手術において広く行われている.しかし脳室穿刺を行うためにはごく小さな領域にせよ健常なcor—tex並びにその経路を人為的に破壊することは避け得ない.脳室穿刺およびcatheter操作が脳に与えるdamageを示唆する所見として,脳室穿刺後CT上に認められた変化,合併症を中心として,その安全性について検討を行った.

破裂脳動脈瘤術後のHypertension-Hypervolemia療法で発生する重大なPitfall

著者: 阿部聡 ,   和田崇文 ,   宮崎芳彰 ,   神吉利典 ,   橋本卓雄 ,   中村紀夫

ページ範囲:P.357 - P.365

I.はじめに
 くも膜下出血(SAH)後の脳血管攣縮(VS)に対するhypertension-hypervolemia(H-H)療法に於て,各薬剤の投与時間,量等に言及した報告はなく,個人の裁量に委ねられている.結果として心不全,肺水腫,および脳浮腫の増加等の合併症が出現し,病状が悪化してしまう例は稀ではない.25% albumin(ALB),10% glycerol(GLY)の投与時間,dobutamine(DOB),nitroglycerin(NTG)の投与量に関し検討し,体循環の一部としての脳循環という観点から新たなプロトコールを作製実施し良好な治療結果を得たので報告する.

PVA(Polyvinyl alcohol foam)による髄膜腫塞栓術について

著者: 倉田彰 ,   三枝宏伊 ,   大桃丈知 ,   高野誠 ,   山崎義租 ,   常盤嘉一 ,   入倉克巳 ,   宮坂佳男 ,   矢田賢三 ,   菅信一

ページ範囲:P.367 - P.373

I.はじめに
 大きな,血管に富んだ,髄膜腫に対する術前塞栓術は,術中の出血量を減らし手術を容易に行ううえで,欠くことの出来ない摘出前手術手技である21).特に,外頸動脈枝より豊富な栄養血管の認められる,大きな頭蓋底部例で有効であり,術前血流を断っておかないと摘出が困難である.また,対側の外頸動脈枝からも栄養される,大脳鎌,傍矢状洞部例で有効と報告されている22).一方,塞栓術による重篤な合併症についても,相次いで報告がされてきている14,23,28,29,33).今回,頭蓋底部の巨大髄膜腫4例に対して,PVA及びジェルフォーム細片併用による術前塞栓術を行い良好な結果が得られたので,塞栓術の際の注意点,塞栓物質とその大きさ,合併症についても,検討を加えたので報告する.

頬骨弓骨折の治療経験—脳神経外科の立場から

著者: 岩本芳浩 ,   山本和明 ,   中川善雄 ,   藤本正人 ,   山木垂水

ページ範囲:P.374 - P.376

I.はじめに
 頬骨弓は頬骨の側頭突起と側頭骨頬骨突起よりなり,側頭部で隆起しているため,細く,折れ易い.そのため,頬骨弓骨折は重篤な外傷ではもちろんのこと,日常よくあるような顔面外傷でも発生する.それ故,救急医療の場において,頭部外傷に伴ってわれわれ脳神経外科医が経験する頬骨弓骨折は決して稀なものではない.
 過去4年間に10例の頬骨弓骨折整復術を経験したので,特に整復法,整復時期に注目し,脳神経外科の立場から報告する.

脳室近傍病変に対する術中超音波Bスコープの使用経験—術前MRIとの対比による手術接近法の確認

著者: 長沢史朗 ,   大槻宏和

ページ範囲:P.377 - P.381

I.はじめに
 MRIの発達・普及によって頭蓋内病変の局在や伸展が詳細に把握できるようになった.さらに予定の手術アプローチに沿った断層画面上で,病変周囲や病変への接近時に遭遇する解剖構築を検討することにより,緻密な手術計画が可能になった.このように従来に比較して格段に詳細な術前情報がえられる状況のもとで,これをいかにして実際の手術に役立てるかが新たな課題となってきた.
 この課題に対して種々の手術ナビゲーションシステムが開発され臨床応用が始まっているが,いまだ普及しているとは言えない7,8,13,14,17)

Pineocytoma 4症例の臨床病理学的検討

著者: 杉山一彦 ,   魚住徹 ,   木矢克造 ,   向田一敏 ,   栗栖薫 ,   有田和徳 ,   広畑泰三 ,   隅田昌之 ,   迫田勝明 ,   島健 ,   一ノ瀬孝彦 ,   梶原四郎

ページ範囲:P.383 - P.390

I.はじめに
 松果体実質性腫瘍(pineocytomaとpineoblastoma)は原発性脳腫瘍の0.1-0.3%を占める稀な腫瘍であり5,12),多数例を検討した報告は少なく6,17,19),主に剖検例を中心に検討されてきた6).また,近年の画像診断,腫瘍マーカーの測定法の進歩が著しいにもかかわらず,松果体部に発生するgerm cell tumorとの術前の鑑別は必ずしも容易ではない8,10,13)
 われわれは,以前pineocytomaに関する小経験を報告したが18),そのうち長期間にわたり追跡が可能であった1例と新たに3例の治験例を加え,その臨床病理学的検討を行ったので,ここに報告する.

高齢者の急性硬膜下血腫—特に軽微な頭部外傷で発症した症例の検討

著者: 中島裕典 ,   重森稔 ,   菊池直美 ,   菊池泰輔 ,   落合智 ,   富田暢 ,   倉本進腎 ,   加来信雄

ページ範囲:P.391 - P.397

I.はじめに
 高齢者の外傷は頻度の上からは若年者に比べて少ない.しかし,平均寿命の延長に伴い次第に人口の高齢化が進行し,高齢者の頭部外傷も増加の傾向にある.高齢者の頭部外傷は,高齢者の特殊性のため,その臨床病態は成人のものとは異なるとされている10,20).従って,高齢者の頭部外傷の治療に際しては,高齢者に特有の生理学的ないし病理学的特殊性をよく認識しておく必要がある.高齢者では精神,身体機能の退化に基づく発症機転によるものが多く,わりあい軽度の外傷でも重症化する症例が多く見られる.今回われわれは,比較的軽微な頭部外傷により発症した高齢者の急性硬膜下血腫について臨床的に検討を加えたので報告する.

小児モヤモヤ病の脳循環動態—過呼吸負荷SPECTによる検討

著者: 磯部正則 ,   黒田敏 ,   上山博康 ,   阿部弘 ,   三森研自

ページ範囲:P.399 - P.407

I.はじめに
 モヤモヤ病(厚生省特定疾患としての名称はウイリス動脈輪閉塞症)は,脳主幹動脈の閉塞性疾患で,脳虚血症状あるいはモヤモヤ血管(側副血行路)が原因の頭蓋内出血を来す.外科的治療法として,血行再建術が行われていることは周知の通りである.
 この外科的血行得建術には様々な術式があるが1,911-15),今回はSTA-MCA anastomosisの有無により2つの群に分けて検討した.すなわちence—phalo-myo-synangiosis(EMS)11)あるいはence—phalo-duro-arteriosynangiosis(EDAS)13)などの間接的血行再建術を行った群と,STA-MCA anastomosisと他の間接的血行再建術を併せ行った9,15)群である.
 われわれはこれまで,脳血管撮影,脳波,脳血流量(acetazolamide(Diamox)反応性)及びIQによる評価から,小児モヤモヤ病に対する術式として,STA-MCAanastomosisと他の間接的血行再建術を併せ行った方が,後者のみを行った場合に比して,治療結果が良好であることを報告している2-5,19)
 今回は,過呼吸(hyperventilation,以下HV)負荷後のre-build up現象出現時期の脳循環動態を検討するため,血行再建術後の小児モヤモヤ病症例にHV負荷を行った.HV前後の局所脳血流量の変化を,Diamox反応性及びre-build up現象出現の有無などと比較するとともに,前述した術式別に検討したので,若干の考察を加えて報告する.

小脳橋角槽内耳孔近傍の微小外科解剖—特に顔面・聴神経束と周囲動脈について

著者: 松島俊夫 ,   井上亨 ,   名取良弘 ,   福井仁士 ,   ,  

ページ範囲:P.409 - P.415

I.はじめに
 小脳橋角槽の第7・8脳神経と周囲動脈は複雑な走行を示す.近年,顔面けいれんやめまい・耳鳴り患者への神経減圧術の普及や早期に発見されるintracanalicularacoustic neurinoma手術例の増加とともに,内耳孔近傍の微小外科解剖特に顔面・聴神経束と周囲動脈の外科解剖の重要性が更に増加してきている.この部の顔面・聴神経を栄養する動脈を損傷すると,術後難聴や顔面神経麻痺を生じることがあり,術中正確なオリエンテーションをつけることが大切である.
 今回,内耳孔近傍の動脈の微小外科解剖を,小脳・脳幹・脳神経が損傷されずに頭蓋内に保たれた標本を用い検索する機会を得たので報告する.

急性期くも膜下出血例における神経原性肺水腫の検討

著者: 渡辺徹 ,   関口賢太郎 ,   井上明 ,   谷口禎規 ,   佐藤進

ページ範囲:P.417 - P.422

I.はじめに
 中枢神経系疾患に続発する急性肺水腫は神経原性肺水腫(NPE)として知られている.中枢神経系疾患と肺疾患の関係は,1874年Nothnage1により指摘されて以来,多くの報告がある.Theodore, Robinら31)はNPEの発生機序を詳細に検討しているが,今日に至っても尚,不明な点が多い.われわれは208例のくも膜下出血症例を対象に,NPEの臨床的特徴および治療上の問題点について検討を行った.

症例

頭蓋内多発性髄膜腫を合併した胸髄髄内神経鞘腫の1例

著者: 森本正 ,   佐々木富男 ,   望月俊宏 ,   高倉公朋 ,   佐藤温

ページ範囲:P.423 - P.427

I.はじめに
 神経鞘腫は硬膜内髄外腫瘍として脊髄腫瘍の約30%を占めるが2),髄内神経鞘腫は稀で現在までに約30例の報告が見られるのみである2,3,9-13,15,21,23).今回われわれはneurofibromatosisを伴わず,胸髄髄内神経鞘腫に頭蓋内多発性髄膜腫を合併した1例を経験したのでここに報告する.

SLE患者に発生した頭蓋内原発悪性リンパ腫の1例

著者: 苫米地正之 ,   代田剛 ,   大神正一郎 ,   米増祐吉 ,   前川勲

ページ範囲:P.429 - P.432

I.はじめに
 従来より自己免疫疾患と悪性リンパ腫との関係は注目されており,全身性エリテマトーデス(SLE)でも合併率が高いという報告がある6,26).SLEに頭蓋内悪性リンパ腫が合併した報告例は渉猟し得た文献上5例あった4,12,13,21,25).われわれは,SLE発症後に頭蓋内原発悪性リンパ腫を併発し,放射線治療や化学療法で比較的長期間寛解が得られた症例を経験したので報告する.

経眼窩的穿通性損傷の臨床的検討

著者: 笠毛静也 ,   朝倉哲彦 ,   楠元和博 ,   中山正基 ,   門田紘輝 ,   厚地政幸 ,   山本征夫

ページ範囲:P.433 - P.438

I.はじめに
 異物による経眼窩的穿通性損傷は比較的に稀に発生する外傷であり,多くは眼科医もしくは救急医により初期治療が行われる4,34).その殆どは予後良好であるが.時に脳損傷が看過されたため重篤な頭蓋内合併症を来すことがある12,20,34),著者らは現在までに7例を経験しており,今回脳損傷の受傷機転,治療および合併症について検討し知見を得たので報告する.

脳動静脈奇形の臨床病理学的検討—とくにEVAL(ethylene vinyl alcohol copolymer)塞栓術後摘出例について

著者: 福島武雄 ,   大城真也 ,   土持広仁 ,   継仁 ,   朝長正道 ,   後藤勝弥 ,   前原史明 ,   松本直樹 ,   林隆士

ページ範囲:P.439 - P.444

I.はじめに
 脳動静脈奇形(AVM)の根治的な治療は,原則的にはnidusを全摘出することであるが,外科的治療には種々の限界がある.近年手術を容易にするため術前AVMの塞栓術が行われ注目されている1,8,12,16,20,21)。私共も,液性塞栓物質(EVAL)を用いて塞栓術を施行している.今回本法実施後全摘出したAVM 2例の手術所見,病理学的所見より,EVAL塞栓術の問題点について検討を加えた.

歩行により誘発される便失禁を呈した頸椎椎間板ヘルニアの1例—脊髄性間欠性直腸障害について

著者: 水野正喜 ,   花北順哉 ,   諏訪英行 ,   柴田修行 ,   名村尚武 ,   大塚俊之

ページ範囲:P.445 - P.449

I.はじめに
 通常,何らかの脊柱管内空間占拠性病変による神経症状は,患者の姿勢や動作にかかわらず認めることが多いが,一方,姿勢の変化により症状が増強することもよく知られており,例えば,頸椎病変では,頸の過伸展や過屈曲により増強することは,しばしば遭遇するところである.また歩行動作により神経症状が誘発されることもあり,脊髄馬尾病変による神経原性間欠性跛行は,その代表的なものである.最近では,胸髄性,頸髄性病変による間欠性跛行の症例もいくつか発表されている.
 われわれは,後縦靱帯骨化症(Ossification of Poste—rior Longitudinal Ligament,以下OPLL)に合併した頸椎椎間板ヘルニアの症例で,歩行により誘発される便失禁を呈し,前方除圧固定術により,間欠性直腸障害の消失を確認できた1例を経験した.頸髄病変により,間欠性直腸障害を呈した症例は,われわれの調べ得た限りでは今までに報告されていない.この特異な症例につき報告し,頸髄病変による間欠性直腸障害の機序につき検討した.

Venous ThrombosisにMedullary Venous Malformationを合併した1例

著者: 鐙谷武雄 ,   越前谷幸平 ,   井原達夫 ,   村井宏 ,   佐藤正治

ページ範囲:P.451 - P.455

I.はじめに
 頭蓋内静脈還流の障害,異常により生じるvenousthrombosisおよびmedullary venous malformation(MVM)は,それぞれ単独では希ならず遭遇する疾患であるが,合併して認めることはほとんどない.今回われわれは頭蓋内のvenous thrombosisで発症し,病状の極期にMVMを合併した1症例を経験した.症例を提示し,MVMの病態像を中心に考察を加え報告する.

頸部頸動脈を経由した脳動脈内留弾の1例

著者: 案田岳夫 ,   陶山一彦 ,   河野輝昭 ,   森和夫

ページ範囲:P.457 - P.461

I.はじめに
 頭蓋外より頸動脈を経由して脳動脈に達した留弾についての報告は少なく,著者らの知る限りでは1970年以降に20例,それ以前のものを含めても30例弱にすぎない.著者らは,頸部に留まっていた散弾が受傷8日後,摘出のため口腔内操作中に内頸動脈内に入り,上行して中大脳動脈分枝に嵌入した稀な1例を経験した.

Intracerebral Epidermoidに合併したAspergillosisの1症例—Case Report

著者: 川村強 ,   池田秀敏 ,   中里信和 ,   小川彰 ,   吉本高志

ページ範囲:P.463 - P.467

I.はじめに
 中枢神経系のaspergillosisは従来稀な疾患として扱われてきたが10),抗生物質や免疫抑制剤あるいは副腎皮質ステロイドが頻用されるに従い最近では上一般的な疾患になりつつある12).しかし,脳内に主病巣を形成したepidermoidにaspergillosisを合併した症例は,われわれの渉猟した限り認められなかったので,画像診断上の特徴・治療上の注意点を呈示し,若干の考察を加え報告する.

脈絡叢に限局性転移を示した腎細胞癌の1症例

著者: 水野誠 ,   朝倉健 ,   中島重良 ,   三平剛志 ,   佐山一郎 ,   川村伸悟 ,   安井信之 ,   深沢仁

ページ範囲:P.469 - P.474

I.はじめに
 脈絡叢部に発生する腫瘍としては,乳頭腫,髄膜腫,血管腫,海綿状血管腫,リンパ腫等が挙げられる11,24).転移性腫瘍も稀ながら剖検例では2.6%の頻度でみられるとされ19),鑑別診断上考慮に入れる必要がある.この場合多発性脳転移の一病巣として捉えられたものが殆どであり6,19),孤立性転移を示した報告は極めて少ない4,6,22).今回著者らは,側脳室体部の脈絡叢に限局性転移を示した腎細胞癌の稀な一症例を経験した.症例の詳細を示し,若干の文献的考察を加え報告する.

急性期脳血管撮影で異常を認めなかった解離性椎骨動脈瘤の1例

著者: 中尾哲 ,   中山尚登 ,   上羽哲也 ,   福田俊一

ページ範囲:P.475 - P.479

I.はじめに
 頭蓋内解離性動脈瘤は,従来比較的稀とされてきたが近年その報告は増加し,以前考えられていた以上に多い疾患と言える.特に,椎骨・脳底動脈領域では,クモ膜下出血で発症しやすいことが指摘されている.
 今回,われわれはクモ膜下出血で発症した解離性椎骨動脈瘤で,急性期の脳血管撮影では,解離性動脈瘤が見出しえず,再度の脳血管撮影で初めて診断が出来た稀な症例を経験した.本症例の詳細を報告し,あわせて文献的考察を行う.

前方到達法により摘出し得たDumb-bell Type Cervical Neurinomaの3例

著者: 吉本哲之 ,   阿部弘 ,   岩崎喜信 ,   秋野実 ,   小柳泉 ,   石川達哉 ,   井原博

ページ範囲:P.481 - P.485

I.はじめに
 Dumb-bell typeのcervical neurinomaは脊椎椎体内外及び硬膜内外にまたがって存在する腫瘍であり,外科的治療は腫瘍の摘出ばかりではなく椎骨動脈の確保や脊柱管の再建も必要となる.今回われわれは前方到達法により良好な結果を得られた3例を経験したので報告する.

放射線治療後に多発性脳動脈瘤の発生をみた下垂体腺腫の1例

著者: 森山匠 ,   重森稔 ,   広畑優 ,   小西淳 ,   弓削龍雄 ,   徳永孝行 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.487 - P.492

I.はじめに
 放射線治療後に動脈硬化が促進される可能性のあることは旧くから知られている3).最近,脳腫瘍の放射線療法後に脳血管障害を発症したとの報告も散見されるが613),そのほとんどが閉塞性病変で,出血値病変の報告は極めて稀である11).今回われわれは,下垂体腺腫に対する放射線療法後に,くも膜下出血で発症し,新たな脳動脈瘤の形成を認めた症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

下垂体腺腫の放射線治療14年後に発生したAnaplastic Astrocytomaの1例

著者: 田村勝 ,   三隅修三 ,   黒崎修平 ,   柴崎尚 ,   大江千広

ページ範囲:P.493 - P.497

I.はじめに
 頭部の放射線治療の後に,稀に二次的に脳腫瘍が発生する.髄膜腫,神経膠腫,肉腫の発生頻度がたかく5),近年増加傾向にある.Salvatiら11)によると神経膠腫はこれまでに76例報告されており,小児白血病に対し,予防的に全頭部照射を行った後の発生がもっとも多く,次いでトルコ鞍部腫瘍,髄芽腫,頭部白癬に対する照射療法後の順となっている.
 われわれは下垂体腺腫術後の照射療法14年後に側頭葉にanaplastic astrocytomaが発生した1例を報告する.また下垂体腺腫に対する放射線療法後,側頭葉などに遅発性放射線障害を認めることがあり2),腫瘍発生との関連についても言及したい.

折針による頸髄損傷の1例

著者: 松井誠司 ,   松岡健三 ,   中川晃 ,   河野啓二 ,   榊三郎

ページ範囲:P.499 - P.503

I.はじめに
 針治療は腰痛症,各種神経痛,頭痛をはじめ種々の病態に対し広く行われている.しかし,その合併症として稀に脊髄損傷をきたし,重篤な神経症状を呈する場合がある.今回われわれは.自分で行った針治療時の折針により脊髄症状を呈し,全身麻酔下に針を摘出し良好な結果を得た症例を経験したので報告する.

外傷性両側動眼神経麻痺の1例

著者: 中島進 ,   阿部雅光 ,   田淵和雄 ,   皆良田研介

ページ範囲:P.505 - P.508

I.はじめに
 頭部外傷に起因する動眼神経麻痺は,直達外力により受傷直後に発生する一次性障害と,脳ヘルニアによる二次性障害に分けられ,多くは二次性のものである10,13).外傷性動眼神経麻痺の多くは一側性であり,両側性障害は稀である.われわれは頭部外傷にて発症した一次性両側性動眼神経麻痺の一例を経験し,MRI所見などよりその発生機序と障害部位について考察したので報告する.

大きなVenous Aneurysmを伴った幼児脊髄動静脈奇形の1例

著者: 高橋宏 ,   森田明夫 ,   石島武一 ,   久保田雅也 ,   根本繁

ページ範囲:P.509 - P.514

I.はじめに
 小児期あるいは乳幼児期の脊髄動静脈奇形は非常に稀であるとされている11).Raimondi15)は彼の著書“Pediat—ric Neurosurgery”においてarteriovenous malforma—tions of the spinal cordの項を設けているが,その中でこの疾患は幼小児では大変少ないので手術法に関してはあえて言及しないと記している程である.われわれは最近急激に発症し大きなvenous aneurysmを伴う1歳8カ月男子の脊髄動静脈痩例を治療する機会得た.非常に珍しい症例であると考えられるのでここに報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?