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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科20巻6号

1992年06月発行

雑誌目次

自己点検評価

著者: 長尾省吾

ページ範囲:P.623 - P.624

 大学設置基準が大綱化され,大学独自のカリキュラムが組めるようになった.当大学においても,医学部に進学して早い時期に医学への情熱を失う落後者をどうするか,これからの医療事情,社会ニーズの多様性に順応できる幅広い教養と人間性をどのように育てるか,個人の能力や技能をより伸ばす教育,従来の知識伝授型から問題解決型へ判断力や創造力を養う魅力ある教育システムはどのようにしたら良いかなどいろいろ模索されている.
 このように医学教育について各大学の自主性が大幅に認められつつある現状では,その結果に対する自己点検評価が大切であることは当然である.しかしこの評価の基準が一般教育,基礎医学,臨床医学の問で誠に多種多様であり困惑してしまう.例えばごく身近な例として,学会発表,論文数,入院患者,手術件数など数字で表わされるものは客観的にそれぞれ評価の対象となりうるが,講義教育のような数字で表わされない膨大な努力の結果はどのようにして評価されるのであろうか.学生の人気投票によるという笑い話がでるほど戸惑ってしまう.

脳腫瘍の組織診断アトラス

(22)Arachnoid Cyst and Rathke's Cleft Cyst

著者: 岩崎康夫

ページ範囲:P.625 - P.634

I.クモ膜嚢胞Arachnoid Cyst
1.臨床的特徴
 クモ膜に覆われた,髄液を内に含む良性非腫瘍性嚢胞である.クモ膜下槽に好発し,中頭蓋窩(Sylvius裂),大槽部,大脳円蓋部,鞍上部,小脳橋角,四丘体槽などに多く見られるが,脳室内などクモ膜が存在しない部位にも報告がある14,20)
 臨床症候を呈する例では,頭痛,痙攣,頭蓋変形などが多く見られるが,無症状のものも多い.本症を最初に報告したのはBright(1831)2,15)といわれるが,最近の画像診断の進歩につれて,無症状のものが発見される頻度が増しており,人口の1%程度にCT上クモ膜嚢胞が見出されるという25).症候を呈するものは小児に多く,無症状のクモ膜嚢胞の発見率も年齢が低いほど高いことから,多くのクモ膜嚢胞は加齢に連れて自然消失すると考えられ,実際に経過観察中の自然消失例も報告されている1,7,26).しかし,急速に増大を認めた例10)や,増大・縮小の見られた報告21)もあり,本症のnatural historyは未だに不明な点が多い.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Lipomyelomeningoceleの手術法

著者: 坂本敬三

ページ範囲:P.635 - P.643

I.はじめに
 Lipomyelomeningoceleは奇形性病変なので,これに対する根治的治療には手術療法が要求される。しかも症状が一度出現してしまうと手術療法は期待薄であるので,早期の的確な治療が要求される1-4,7,9,11-18).ことに症状は数カ月から数年に渡って緩徐slowlyに潜行性in—sidiousに出現したりするので見逃されやすい13).短脚,小足,内反足,側彎などの骨変形と神経因性膀胱はその典型である.殊に微妙で複雑な排尿排便生幾能を,解剖学的異常構築で異常機能を学習してしまうと,これを正常に矯正することは,全てに発達過程にある幼小児にとってかなりの困難を伴う.それ故にたとえ無症状でも,生後の早い時期に解剖学的正常構造に修復し,正常な機能発達への可能性を促進し,かつ将来の骨変形を子防することが必要である.これがためには初回手術から的確な手術手技を駆使した早期手術が望まれる15,16)
 本稿では,かつて行った病型分類14),について解説し,手術方法については最近数年間行っているZig-Zag椎弓切開法(Zig-Zag laminotomy)の有用性も含め15),病型分類に対応した手術手技についてのコツと注意点にふれ,初回手術が不十分〜不適当なときは再手術が必要になる16,17)ので,これらの予防も含めた閉創時の注意点,術後管理などについて筆者なりの経験を中心に述べる.

研究

開頭術中に応用した超音波断層診断の経験—主として頭部外傷例と脳内出血例

著者: 尾崎高志 ,   田邊治之 ,   楠瀬幹雄 ,   梶本宜永 ,   松島滋

ページ範囲:P.645 - P.649

I.はじめに
 超音波断層診断(以下USと略す)は脳神経外科領域に以前から導入されていて,最近ではBモードを使用し病室や手術室で頭蓋内massの検索に応用されるようになった2).われわれはUSのBモードを主として頭部外傷急性期例と脳内出血例の開頭術中に応用したところ,脳内病巣を容易に検索でき手術操作上有用であった.

高齢者破裂脳動脈瘤の治療方針

著者: 安井敏裕 ,   矢倉久嗣 ,   小宮山雅樹 ,   夫由彦 ,   田村克彦 ,   永田安徳 ,   金安明 ,   西村周郎

ページ範囲:P.651 - P.656

I.はじめに
 本邦に於ける脳血管障害による死亡は1951年以来死因として1位を占めていたが,1970年の175.8(人口10万対)をピークに徐々に減少し,1981年には2位,1985年には悪性新生物,心疾患に続き3位となった.しかし,これは主に脳梗塞,脳出血による死亡の減少によるものであって,脳動脈瘤の破裂による死亡は決して減少しておらずむしろ増加する傾向にあり,今後人口の高齢化とともに高齢者の破裂脳動脈瘤患者を診る機会が増えると思われる13).しかし,実際に高齢者の症例を目の前にしても,治療方針,特に,手術時期に関して苦慮することが多いのが現実である.高齢者を何歳以上にするかは,時代によって異なるが,ここでは70歳以上を高齢者と定義し,自験例の検討から,高齢者破裂脳動脈瘤症例の治療方針を検討する.

前交通動脈瘤症例に対するInterhemispheric Approachと Pterional Approachの治療成績の比較検討

著者: 玉谷真一 ,   外山孚 ,   川口正 ,   山本潔 ,   原直之

ページ範囲:P.657 - P.661

I.はじめに
 前交通動脈瘤は,解剖学的に①正中線上で深部にある点,②親動脈として左右の前大脳動脈A1より血流を受ける点,③動脈瘤周囲に主要な血管(左右の前大脳動脈A1,A2,Heubner動脈,穿通枝動脈など)がある点,④前交通動脈自体に奇形を含めvariationが多い点,などからその直達手術は脳動脈瘤手術の中でも難易度の高いものの一つである7,8)
 前交通動脈瘤に対する到達法は,昔からいくつかの方法が先人達によって行われてきたが,現在一般的に行われている手術法は,pterional approach9)interhemi—spheric approach6)の二つの方法である.両者とも利点,欠点がありどちらの方法が優れているかは一概には決めがたい問題である,成書にはそれぞれの利点欠点が個々に書かれているが,同一施設で両手術法の手術成績を比較検討したrelxortはわれわれが渉猟しえた範囲では見あたらなかった.そこで,われわれは過去5年問に当施設で経験した前交通動脈瘤症例に対するこれら二つの方法の手術成績を比較検討してみたので報告する.

多発転移性脳腫瘍症例および他臓器転移合併症例の治療方針の検討

著者: 小松洋治 ,   吉井与志彦 ,   兵頭明夫 ,   能勢忠男 ,   長友康 ,   鯨岡裕司 ,   小野幸雄

ページ範囲:P.663 - P.668

I.はじめに
 転移性脳腫瘍は,遠隔転移をもった進行癌の病態であり,その治療には多くの問題点がある.一般的には,根治は期待しがたいことが多い.しかし,一方では,単一の転移性脳腫瘍で境界明瞭に発育している場合には,原発巣の病期が軽くしかも良好にコントロールされている例では,術後良好な臨床状態で長期間生存している症例もある.このような背策のために,その治療についてはさまざまな議論がなされており,一定の見解が得られていない.脳転移は,病態からは多臓器が罹患するsyste—mic diseaseの考え方をしなければならなく,治療においては集学的な考え方をする必要がある.
 手術治療についても,治療効果との関連で制約をもうけた報告が多く,単一の開頭で摘出可能で他臓器転移がなく,原発巣のコントロールも良好な症例に限定するのが一般的である1,4,8,11,19,20).しかし,多発脳転移症例や多臓器転移合併症例に対して,いかなる治療法をすべきか,その選択にとまどうことも日常経験することである.近年,癌患者のquaiity of life(QOL)が重要視されてきているが,このような症例が積極的な外科的治療によりQOLを少しでも改善し,それが患者および家族に好ましく受け入れられるならば,外科的治療は試みられるべき価値がある.
 われわれは,脳転移症例に対して,上記の観点に立って手術的摘出の役割を検討し,1980年以降より手術により神経症状,特にQOLの改善が期待できる症例にたいして,全身状態の評価,閲係治療科による各臓器予後の評価(具体的には,少なくとも6カ月以上の家庭内自立生活がll∫能と判断されること)それに,患者本人や家族の意向を踏まえて積極的治療を行ってきた.その治療成績を,前述の一般的な手術適応による手術例や,保存的治療の場合と比較検討した.また,転移性脳腫瘍の治療についての患者家族の意向についての調査を行い,われわれのQOLを目的とした手術治療に対する,患者家族の評価も検討したので報告する.

自動可変抵抗弁脳室腹腔シャントシステムの使用経験—特に脳萎縮と鑑別が困難な脳室拡大例における有用性

著者: 黒川泰任 ,   上出廷治 ,   本望修 ,   太田潔 ,   本田修

ページ範囲:P.669 - P.675

I.はじめに
 クモ膜下出血後の比較的急性期にみられる典型的な正常圧水頭症では,シャント手術の適応に苦慮することは少ない,しかし,脳血管障害発作後,比較的長期間経過した後徐々に痴呆症状が進行し,computed tomogra—phy(CT)上脳室拡大はあるものの脳溝の描出も良好な症例では,脳萎縮との鑑別が困難である.これらの例に種々の侵襲的検査を行っても,手術適応を決定することは困難で,またシャント手術を行っても,術後硬膜下水腫・血腫の発生を見ることが少なくなかった.
 最近われわれは,急性期の水頭症だけでなくこのような脳萎縮と鑑別の難しい症例に対し,より生理的な髄液排泄が期待できる内部自動可変抵抗弁を用いた脳室腹腔シャント術を行って良好な結果を得ているので報告する.

重症頭部外傷の長期予後について—Focal injuryとdiffuse injuryとの比較検討

著者: 本間温 ,   小川智也 ,   河井信行 ,   香川昌弘 ,   國吉毅 ,   伊藤輝一 ,   長尾省吾 ,   大本堯史

ページ範囲:P.677 - P.682

I.はじめに
 われわれは,重症頭部外傷を初回CT所見からfocalinjuryとdiffuse injuryとの2型に分け,予後不良因子について検討し報告してきた8)今回,さらに症例を重ね,退院時と受傷1年後の転帰とを2型で比較し,長期子後に影響する因子について検討を加え,若干の知見を得たので報告する.

後下小脳動脈末梢部動脈瘤—自験15例の検討

著者: 安藤隆 ,   伊藤毅 ,   吉村紳一 ,   白紙伸一 ,   中島利彦 ,   西村康明 ,   坂井昇 ,   山田弘 ,   大熊晟夫 ,   田辺祐介 ,   船越孝

ページ範囲:P.683 - P.690

I.はじめに
 後下小脳動脈瘤は比較的稀で全頭蓋内の脳動脈瘤の1%以下とされている.そのほとんどは椎骨動脈の後下小脳動脈分岐部に生じ末梢部の動脈瘤は極めて稀である.今回,われわれは過去8年間に後下小脳動脈末梢部動脈瘤を15例経験したので,その臨床症候,診断,治療などにつき検討を加えて報告する.

症例

CT Scan上脳内腫瘤を形成し特異な経過を示した急性単球性白血病の1例

著者: 諏訪英行 ,   花北順哉 ,   水野正喜 ,   柴田修行 ,   名村尚武 ,   大塚俊之 ,   松本美幸

ページ範囲:P.691 - P.695

I.はじめに
 白血病の中枢神経合併症は,特に小児急性リンパ性白血病例における髄膜浸潤の形でしばしばみられる.しかし急性骨髄性白血病で頭蓋内に腫瘤を形成した例は1970年にHurwitzら5),Wiernikら25)が各々1例報告をした後も散見されるにすぎない.今回われわれは急性単球性白血病の経過中に脳内腫瘤形成のみられた例を経験した.このような症例は白血病の治療が進歩し生存期問が長引くにつれ今後増加するものと考えられる.
 本症例では脳内腫瘤の治療後,経過とともにCT scan上特異な変化を示し,治療する上でその診断に苦慮した.CT scan上の変化とその病理組織像を中心に文献的考察を加えて報告する.

Delayed Traumatic Millard-Gubler Syndromeを呈した1例

著者: 松山武 ,   増田彰夫

ページ範囲:P.697 - P.699

I.はじめに
 頭部外傷のなかで一次脳幹部損傷の一部である外傷性交代性麻痺としては,Weber syndrome, MLF syn—dromeがよく報告されている.これに反して外傷性Millard-Gubler syndromeの報告は本邦では2例のみである8,11).これはpontomedullary junctionはvulnerabil—ityが非常に高くかつvital structureを含んでいるため,多くの例では死亡または植物状態を呈するからである.
 今回後頸部打撲により一過性に四肢麻痺を呈し2日後に右末梢性顔面神経麻痺,右外転神経麻痺と左片麻痺を呈した症例を経験したので文献的考察を加えてそのメカニズムについて検討する.

大脳縦裂部クモ膜嚢胞の3手術例

著者: 広畑優 ,   松尾浩昌 ,   宮城潤 ,   梶原収功 ,   重森稔 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.701 - P.705

I.はじめに
 クモ膜嚢胞はクモ膜が存在するあらゆる場所に発生可能であるが,その多くは脳槽に接して生じる.しかし大脳縦裂に発生し,組織学的にクモ膜嚢胞と診断された例の報告はわれわれの渉猟しえたかぎり,現在までに3例があるのみである.今回3例の大脳縦裂部クモ膜嚢胞を経験し,いずれも手術により良好な経過を得た,これら自験例をもとに治療上の問題点を中心に若干の文献的考察を加えて報告する.

Disproportionately Large,Communicating Fourth Ventricleの4例—特にIsolated Fourth Ventricleとの病態の違いについての考察

著者: 黒木貴夫 ,   松元幹郎 ,   大石仁志 ,   山下晃平 ,   周郷延雄 ,   寺尾榮夫 ,   串田良昌

ページ範囲:P.707 - P.711

I.はじめに
 1983年,われわれが本邦で初めてScottiにより提唱された“Disproportionately large, communicating fourthventricle17)(DLCFVと略す)の2症例を報告9)して以来,その報告例も散見されるようになった.しかし,それらの報告例の中には”Isolated fourth ventrlcle"(IFVと略す)との異同が問題となる症例などもあり,DLCFVの病態はまだ十分には分析されていない.今回,われわれの経験したDLCFVの4例と文献上報告されているIFVとを比較検討し,DLCFVとIFVの病態の違いと,DLCFVの発生機序について考察した.

硬膜に発生したSarcoidosisの1例

著者: 岡秀宏 ,   川野信之 ,   飯田秀夫 ,   斉藤元良 ,   松森邦昭 ,   佐々木憲一

ページ範囲:P.713 - P.716

I.はじめに
 Sarcoidosisは全身病であり,頭蓋内に病変を伴うことは比較的少なく,その発現率は4-5%とされている4).なかでも硬膜にsarcoidosisが発生することは稀であり,過去に8例が報告されているに過ぎない1,2,6,9,11,13,14,16)われわれは硬膜に発生したsarcoidosisの1症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

両側性Panophthalmoplegiaを呈し頭蓋底進展を伴った副鼻腔悪性リンパ腫の1例

著者: 柴田將良 ,   下田雅美 ,   佐藤修

ページ範囲:P.717 - P.721

I.はじめに
 従来,悪性リンパ腫はその多くがリンパ系組織より発生し,頭頸部領域においてもWaldeyer咽頭輪,頸部リンパ節部の発生が大部分を占め,この領域のうち副鼻腔に原発する頻度は4-12%8,10,18,)と少なく比較的稀とされている.今回,著者らは副鼻腔原発の悪性リンパ腫により極めて稀な眼球運動障害である両側のpanophthal—moplegiaを主訴として来院した1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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