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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科20巻7号

1992年07月発行

雑誌目次

桜の季節に思うこと

著者: 関野宏明

ページ範囲:P.729 - P.730

 今年も3月下旬に上陸した桜前線は今も東北地方を北上中であり,毎晩のように全国の桜の銘木,名所がテレビで放映されている.また,この季節は桜前線に先だってすでに日本中でサクラの花が咲いたり,散ったりする入学試験合格発表の季節でもある.私も「サクラチル」と「サクラサク」の両方の電報を受け取った経験があるが,どうゆうわけか「散った」ほうの記憶しかない.また,受験準備に追われた日々のことも定かでなくなった.
 さて,選抜される側から選抜する側になってみると大学,とくに医学部の入学試験の合格基準とは何かを考えさせられる.そもそもある大学の医学教育がどの様な目標をもっているか,すなわち優秀な医学者を育成するのか,良き臨床医を育てるのかによっても異なるであろう.もっとも両極端は別として医学者と臨床医を明確に分けることはむずかしいし,また分けるのは意味が無いという意見もあろうが,現実にはいずれかに市点が置かれているのが現状ではないであろうか.多くの私立医科大学ではその建学の理念にそった臨床医を育てることを目的としていると理解しているが,そうなるとまた良い臨床医とはなにかという問題に突き当たる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

顔面神経麻痺に対する形成手術

著者: 上田和毅 ,   波利井清紀

ページ範囲:P.731 - P.739

はじめに
 脳神経外科領域で生じる顔面神経麻痺の多くは,脳腫瘍,脳血管障害,頭蓋骨骨折などに伴う中枢性の麻癖であり,通常の場合,顔面神経の縫合による損傷部の単純な修復が不可能である.すなわち,非回復性の麻痺が多く,そのため治療としては形成外科的手技が重要な位置を占めるものと考えられる.一般に,顔面神経麻痺の治療における形成外科的手術とは,障害を受けた顔面神経自体の連続性を回復させて治療を行うのではなく,それ以外の手段によって麻癖により生じた形態的,機能的異常を矯正する手術をさすことが多い.また,一口に形成外科的手技といっても多種多様な術式を含んでいるが,これは顔面神経麻痺の症状が多岐にわたっており,単一の術式では麻痺によって生じた変形を十分矯正できないことによる.すなわち,眼瞼部においては兎眼,限瞼外反,眉毛部・上眼瞼の下垂などの変形が見られ,これらの変形に伴って眼痛,流涙,視野障害などの症状が生じる.頬部・口唇部においては,表情筋の収縮が見られないだけではなく,安静時にも口角の下垂,鼻唇溝の消失,頬部の陥凹,流涎など,麻癖による組織の弛緩に起因する症状が見られる.また,年齢によっても症状の程度に差があり,術式の選択は複雑である.

研究

頭蓋内内頸動脈非分岐部動脈瘤

著者: 寺井義徳 ,   杉生憲志 ,   萬代眞哉 ,   鎌田一郎 ,   衣笠和孜 ,   浅利正二 ,   西本詮

ページ範囲:P.741 - P.748

I.はじめに
 嚢状動脈瘤(sacdllar aneurysm,以下動脈瘤と略す)は,ほとんどの場合動脈分岐部に存在し,動脈分岐と関連なく存在する動脈瘤は,非常に稀である.われわれは,このような動脈瘤を非分岐部動脈瘤(unbranched—site aneurysm)と呼び,頭蓋内内頸動脈に存在した非分岐部動脈瘤8例を報告し,その成因,」三術等について,若干の文献的考察を加えて報告する.

脳神経外科領域におけるDICの診断と治療—新しいDICスコアの提唱

著者: 亀山茂樹 ,   藤井幸彦 ,   小池哲雄 ,   田中隆一 ,   高橋芳右

ページ範囲:P.749 - P.755

I.はじめに
 種々の脳神経外科疾患に合併して,播種性血管内凝固症候群(diSSeminated intravascular coagulation,以下DIC)を生じ,重篤な転帰をとることのあることが知られている.頭部外傷5,7,9,13,20,21)やクモ膜下出血1,6,19)に合併するDICの報告が多い.重症例に併発しやすく,感染症等の合併がその引き金になることがある.したがって,脳神経外科疾患患者の治療に際し,DICの合併に注意して,その早期診断と早期治療を心がけることが大切である.近年,DICの治療薬として,蛋白分解酵素阻害剤メシル酸ガベキサート(以下FOY)の有用性を検討した報告が脳神経外科領域でも散見される10,16,23)
 われわれは,DICの早期診断・早期治療の観点から,DICおよびDIC準備状態に対して,新潟大学脳神経外科関連15施設でFOYを投与し,その有効性を検討するとともに,脳神経外科疾患の重症度を最もよく反映すると思われる意識レベルを加味した,新しいDICスコアを作成し,その妥当性につき検討したので報告する.

術中顔面筋誘発筋電図モニター下に手術を行った顔面痙攣の経験

著者: 井須豊彦 ,   鎌田恭輔 ,   中村俊孝 ,   北岡憲一 ,   伊藤輝史 ,   小岩光行 ,   阿部弘

ページ範囲:P.757 - P.761

I.はじめに
 顔面痙攣に対する神経血管減圧術は広く普及しているが1,2,4,7-9,15),必ずしも満足すべき手術結果が得られるとは限らない.その原因としては,術中,顔面神経に対する減圧効果判定が必ずしも容易ではなく,術者の経験によるところが大きいことによると考えられる.今回,われわれは,顔面筋誘発筋電図を測定することにより,術中,顔面神経に対する減圧効果判定が可能かどうか,さらに,術後の顔面痙樂の予後判定が可能かどうか検討を加えたので報告する.

ヒトアストロサイトーマに発現されるリンフォカイン遺伝子の解析

著者: 新田泰三 ,   ,   佐藤潔

ページ範囲:P.763 - P.768

I.はじめに
 神経管(neural tube)より分化した外胚葉成分であるグリア系細胞は,その名称の由来,“glue(にかわ)”の示すごとく,ニューロンを支持し,且つ種々の栄養,成長因子を供給すると考えられてきた23).そのためかねてより脳は免疫学的隔離部位(Immunologically privilegedsite)と信じられている.その理由として1)脳には1白L管内皮細胞とアストロサイトの緊密な構築である血液脳関門(BBH)が存在し,免疫機構の介在を阻止している.2)脳にはリンパ組織を欠き他臓器及び血液リンパ組織との交通が不十分である.3)脳は異種移植片を完全には拒絶できない.4)正常のグリア細胞は主要組織適合性抗原(Major Histocompatibility Compiex;MHC)を発現していないことが挙げられている13).しかし細胞および分子生物学の進歩に伴いアストロサイトや一部の神経細胞が,単球/マクロファージと近似した免疫機能を有し,しかもある種の脳疾患(感染症,変性疾患)に於て免疫担当細胞として機能していることが,示唆されてきた.これまで明らかになった事実の中でも,アストロサイトが,エンドトキシン,γ−interferon(IFN)の刺激で,MHC拘束性にクラスII抗原を発現し,抗原提示細胞(antigen presenting cell; APC)として作用しうることは興味深い8,9).また,種々のサイトカインが,アストロサイトの免疫機能をup−もしくはdown-regula-tionし,且つアストロサイト自身がサイトカインを分泌することが明らかになってきた12)
 リンフォカインは各々遺伝子構造が明らかになる以前から,リンパ球相互,並びにリンパ球と他の内皮細胞,線維芽細胞,樹状細胞間の免疫機能を制御する液性因子として重要な役割を担っていることが判明してきた.近年,Fontanaらは,新生児ラット脳より分離培養したアストロサイト内のIL-1,IL-3生物活性を検出し,これらアストロサイト由来のリンフォカインが外傷,感染症,変性疾患に於ける炎症のメディエターとなることを報告した6,7,10,11).また同様に,TNF-α,GM-CSF等のサイトカインについても,ある種の刺激によって誘導されることが明らかになった21).アストロサイトから分泌されるインターロイキンや他のサイトカインを研究することは,脳内に於けるアストロサイトの免疫学的機能を知るとともに,他の問葉系リンパ細胞との関連,また神経系細胞の分化を探る上で重要と考えられる.しかし,ラット,マウス脳からアストロサイトを純粋分離培養することは,補体処理,Panning等を行っても不可能であり,microglia,単球/マクロファージの混入は否定できない.現在までに,正常アストロサイト株細胞は樹立されておらず,アストロサイト由来の腫瘍細胞を用いることが,リンフォカイン発現の有無を検討する上で妥当と考えられる.しかも,これら細胞から合成分泌されたタンパクレベルで,bioassayを用いる従来の方法では,他のリンフォカインとの交叉反応性の問題が生じてくる.そこで,われわれは,genomic DNAよりスプライシングをうけたRNA transcriptのレベルでリンフォカインの発現を検討した.以上の点から,GFAP陽性ヒトアストロサイトーマ細胞株および神経芽腫細胞株を用いて,RNA-PCR法でリンフォカイン遺伝子の検出並びに新鮮グリオーマ組織片を用いても検索を行った.

Linacを用いたRadiosurgeryの技術の開発

著者: 林久貴 ,   浅賀昭彦 ,   作道元威 ,   星野進 ,   勝田昭一 ,   秋根康之

ページ範囲:P.769 - P.773

I.はじめに
 Gamma unit(Gamma knife)は極めて良い線量分布が得られるので,近年多くの人の関心を集めている8).この装置は頭の周りに201個のコバルト60の粒を配置して,頭の中の1点を集中的に照射するもので,これまでは,主として,動静脈奇形などの良性疾患の治療に用いられた.治療の際は,定位脳手術の際に用いられる固定枠を手術で頭に取り付け,一回で大量の照射をする.この方法の難点は,機械の価格が高いこと,Co−60を使う為,数年毎に線源を交換すること,放射線管理が面倒であること等である.われわれは,この難点を解決するために,linear accelerator(linac)を用いてgamma unitと同程度の線量分布が得られることを確認し,これを用いて多数に分割した照射で脳腫瘍を対象に,放射線治療を行う技術を開発した.以下にこの方法の概要を述べると共に,この方法をThomsonら10)にならい,Stereo—tactic Multiple Arc Radiotherapy(SMART)とよぶことを提唱する.

症例

放線冠に肉芽腫様変化を伴って発生したGerminoma—症例報告と文献的考察

著者: 奥野修三 ,   久永學 ,   知禿史郎 ,   榊寿右 ,   角田茂

ページ範囲:P.775 - P.780

I.はじめに
 頭蓋内germinomaは松果体以外に鞍上部,視床・基底核部,第3脳室などに発生することが知られている.今回,われわれは左放線冠に発生したgerminomaの20歳男性例を経験した.しかも初回の組織標本では肉芽腫様変化を示し,2年後の再手術時標本ではじめてgermi—nomaと診断されたものである.今後の診断および治療の上で有用と思われるので,若干の文献的考察を加え報告する.

両側総頸動脈閉塞症に対する大伏在静脈片による頸部内頸動脈—鎖骨下動脈吻合術の1例

著者: 三壁敏雄 ,   冨田伸 ,   渡辺三郎 ,   大屋滋 ,   譲原雅人 ,   持田英俊

ページ範囲:P.781 - P.785

I.はじめに
 症候性の総頸動脈閉塞症は稀な疾患であり6),両側の場合はさらに頻度が少ない.われわれは,虚血症状で発症した両側総頸動脈閉塞症に対して,大伏在静脈による鎖骨下動脈一内頸動脈吻合術を施行し良好な結果を得たので報告する.

Detachable Balloonで治療した後大脳動脈巨大動脈瘤の1症例

著者: 山下耕助 ,   米川泰弘 ,   滝和郎 ,   吉田真三 ,   岩田博夫

ページ範囲:P.787 - P.791

I.はじめに
 後大脳動脈に発生する動脈瘤は,比較的稀である6,11)が,外科的治療に苫慮することが多いと考えられる1,3,4,6,7,10,13,16,17)われわれは,後大脳動脈巨大動脈瘤に対し,detachable balloonを用いて,親動脈の近位閉塞を行い,良好な結果を得た1症例を経験したので報告する.

隔壁を有し特異な経過を示した脊髄空洞症を伴ったMELASの1例

著者: 中井啓文 ,   國本雅之 ,   代田剛 ,   藤田力 ,   吉田克成 ,   佐古和廣 ,   大神正一郎 ,   米増祐吉

ページ範囲:P.793 - P.798

I.はじめに
 MRI導人後,脊髄疾患に対し,非侵襲的に,詳細な解剖学的診断が可能になった.脊髄空洞症においても,syrinx及びその合併する病態の描出に,非常に有用である9,28).われわれは,歩行障害で発症し,その後急激な増悪,寛解を繰り返した特異な臨床経過をとり,MRI上,頸髄と腰髄の離れた部位にtransaxial septumを伴う多房性のsyrinxと,tight filum terminaleが認められた女児の症例を経験した.

外転神経麻痺,及び視野障害を呈した蝶形骨洞原発アスペルギルス症の1例—特に抗真菌薬療法の重要性について

著者: 松野彰 ,   吉田伸一 ,   馬杉則彦 ,   江口正信

ページ範囲:P.799 - P.804

I.はじめに
 近年抗生物質,抗癌剤,副腎皮質ステロイド等の頻用に伴い,副鼻腔真菌症の報告例は耳鼻科領域で増えてきている.しかし,蝶形骨洞原発例はわれわれが検索しえた限りでは,今日までに33例の報告があるのみで,極めて稀と思われる2-32).また,神経症状を呈した症例は,そのうちの16例にすぎない346,10,13,16,21,2,32).われわれは,外転神経麻痺と視野欠損を呈した蝶形骨洞原発真菌症の1例を治療する機会を得たので,若干の文献的考察を加え報告する.

髄液細胞診で診断された髄腔内播種性多発性髄膜腫の1例

著者: 佐藤透 ,   景山敏明 ,   吉本祐介 ,   鎌田一郎 ,   伊達勲 ,   元井信

ページ範囲:P.805 - P.808

I.はじめに
 髄膜腫は,一般に硬膜に付着部を有する単発性の髄外腫瘍で,生物学的には良性な腫瘍である.しかしながら,きわめて稀に脳脊髄液を介して髄液腔内に播種したりあるいは血行性に神経管外に遠隔転移を来たす症例が報告される1,3,5,8).最近われわれは,下垂体腺腫に合併して後頭蓋窩と脊椎管内に多発性腫瘍が認められ,髄液細胞診にて髄膜腫の髄腔内手番種と診断された1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

斜台部脊索腫の1幼児例—症例および文献的考察

著者: 稲垣裕敬 ,   阿武雄一 ,   堀智勝 ,   大浜栄作

ページ範囲:P.809 - P.813

I.はじめに
 胎生初期に原始的骨格軸をなす脊索は胎生5週頃よりその周囲を中胚葉組織に囲まれ,この中胚葉組織が軟骨を経て骨化され椎体,仙尾骨,頭蓋底を形成する.脊索の遺残は椎問板髄核として普通に見られるが時に頭蓋底,仙尾骨部などに遺残し8),このうち斜台部の脊索の遺残はecchondrosis physaliphora sphenoocciloitalisと呼ばれ,剖検では約2.0%の頻度で認められ4),斜台部脊索腫はこれより発生するとされている.
 このように脊索腫は胎生期遺残紺織由来の腫瘍でありながら15歳以下の小児期発生例は極めて稀であり,5歳以下の幼児例の報告は文献上われわれが渉猟し得た限りでは11例の報告を見るに過ぎない2,12,13).今回われわれは幼児頭蓋内脊索腫の1例を経験し,MRIを中心とした画像診断および電顕的検索など十分になし得たので症例を報告するとともに小児脊索腫例について文献的考察を加える.

脳底動脈狭窄を伴った成人発症型類もやもや病の1例

著者: 宮崎芳彰 ,   沢内聡 ,   池内聡 ,   結城研司 ,   中村紀夫

ページ範囲:P.815 - P.818

I.はじめに
 もやもや病および類もやもや病において,椎骨脳底動脈系にも病変が進展することは知られており,特に若年発症型もやもや病では椎骨動脈.脳底動脈にも狭窄・閉塞が進展する3)ことがある,と言われている.一方,成人発症型もやもや病および類もやもや病では後大脳動脈狭窄・閉塞の報告2,4,12)は散見されるものの,椎骨動脈・脳底動脈病変を伴った症例の報告はない.今回われわれは,脳室内出血で発症した脳底動脈狭窄を伴う成人発症型類もやもや病の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

遊離筋皮弁による前頭蓋底および顔面の2再建例

著者: 野口昌彦 ,   岩沢幹直 ,   広瀬毅 ,   京島和彦 ,   横尾昭

ページ範囲:P.819 - P.823

I.はじめに
 顔面の皮膚および骨を含む前頭蓋底欠損に対する再建においては,硬膜の再建による髄液漏の防止,露出骨の被覆,死腔の充填,および整容上の再建が問題となる.近年マイクロサージェリーの技術的進歩にともない,このような広範囲欠損を示す症例に対して,遊離皮弁による再建の有用性が唱えられている.
 今回われわれは,顔面皮下におよぶ前頭蓋底腫瘍の2切除例に対し,遊離広背筋皮弁および腹直筋皮弁を利用して再建を行い良好な結果を得たので若十の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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