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文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科20巻7号

1992年07月発行

文献概要

研究

ヒトアストロサイトーマに発現されるリンフォカイン遺伝子の解析

著者: 新田泰三12 佐藤潔2

所属機関: 1スタンフォード大学医学部神経遺伝学 2順天堂大学脳神経外科

ページ範囲:P.763 - P.768

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I.はじめに
 神経管(neural tube)より分化した外胚葉成分であるグリア系細胞は,その名称の由来,“glue(にかわ)”の示すごとく,ニューロンを支持し,且つ種々の栄養,成長因子を供給すると考えられてきた23).そのためかねてより脳は免疫学的隔離部位(Immunologically privilegedsite)と信じられている.その理由として1)脳には1白L管内皮細胞とアストロサイトの緊密な構築である血液脳関門(BBH)が存在し,免疫機構の介在を阻止している.2)脳にはリンパ組織を欠き他臓器及び血液リンパ組織との交通が不十分である.3)脳は異種移植片を完全には拒絶できない.4)正常のグリア細胞は主要組織適合性抗原(Major Histocompatibility Compiex;MHC)を発現していないことが挙げられている13).しかし細胞および分子生物学の進歩に伴いアストロサイトや一部の神経細胞が,単球/マクロファージと近似した免疫機能を有し,しかもある種の脳疾患(感染症,変性疾患)に於て免疫担当細胞として機能していることが,示唆されてきた.これまで明らかになった事実の中でも,アストロサイトが,エンドトキシン,γ−interferon(IFN)の刺激で,MHC拘束性にクラスII抗原を発現し,抗原提示細胞(antigen presenting cell; APC)として作用しうることは興味深い8,9).また,種々のサイトカインが,アストロサイトの免疫機能をup−もしくはdown-regula-tionし,且つアストロサイト自身がサイトカインを分泌することが明らかになってきた12)
 リンフォカインは各々遺伝子構造が明らかになる以前から,リンパ球相互,並びにリンパ球と他の内皮細胞,線維芽細胞,樹状細胞間の免疫機能を制御する液性因子として重要な役割を担っていることが判明してきた.近年,Fontanaらは,新生児ラット脳より分離培養したアストロサイト内のIL-1,IL-3生物活性を検出し,これらアストロサイト由来のリンフォカインが外傷,感染症,変性疾患に於ける炎症のメディエターとなることを報告した6,7,10,11).また同様に,TNF-α,GM-CSF等のサイトカインについても,ある種の刺激によって誘導されることが明らかになった21).アストロサイトから分泌されるインターロイキンや他のサイトカインを研究することは,脳内に於けるアストロサイトの免疫学的機能を知るとともに,他の問葉系リンパ細胞との関連,また神経系細胞の分化を探る上で重要と考えられる.しかし,ラット,マウス脳からアストロサイトを純粋分離培養することは,補体処理,Panning等を行っても不可能であり,microglia,単球/マクロファージの混入は否定できない.現在までに,正常アストロサイト株細胞は樹立されておらず,アストロサイト由来の腫瘍細胞を用いることが,リンフォカイン発現の有無を検討する上で妥当と考えられる.しかも,これら細胞から合成分泌されたタンパクレベルで,bioassayを用いる従来の方法では,他のリンフォカインとの交叉反応性の問題が生じてくる.そこで,われわれは,genomic DNAよりスプライシングをうけたRNA transcriptのレベルでリンフォカインの発現を検討した.以上の点から,GFAP陽性ヒトアストロサイトーマ細胞株および神経芽腫細胞株を用いて,RNA-PCR法でリンフォカイン遺伝子の検出並びに新鮮グリオーマ組織片を用いても検索を行った.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

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