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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科20巻9号

1992年09月発行

雑誌目次

Image Trainingと脳神経外科

著者: 谷栄一

ページ範囲:P.929 - P.930

 バルセロナのオリンピックが近づくにつれ,オリンピック選手が次々と選考されている.勿論オリンピック選手になるためには,平生の厳しい訓練の積み重ねが必要であるが,これに加えて,選考会でいかに平生の実力が発揮出来るかが問題となる.この対策の1つとしてimage trainingがあげられている.すなわち,startからfinishまで,どの様に競技内容を最善にもって行くか頭で繰返しimageを浮べる訓練であるという.このimage trainingの内容が選考会またはオリンピックの場で実現出来るか否かが成功の1つの鍵であるという.
 このimage trainingはスポーツだけに必要なものでなく,科学,芸術その他人間の活動するすべての分野で必要と考えられる.成功の秘訣はオリンピック選手のように,蓄積された知識と体験を基に種々のimage trainingを駆使して事に当ることである.通常はimag trainingを繰返しても,何も新しいことが浮ばないことが多いが,それでも物事を円滑に処する手助けとはなる.このimage trainingの果にすぐれたinspirationが得られれば大したものである.科学の粋といわれる数学の領域でも,世界の5指に入る数学者の業績はこのinspirationの結果生れた産物であり,世界屈指の芸術家の作品は脳に浮んだinspirationが投影された産物であると聴いたことがある.

研究

脳動静脈奇形残存例の自然経過—保存的治療例との比較から

著者: 島本佳憲 ,   浅田英穂 ,   小野塚聡 ,   並木淳 ,   古旗茂 ,   河瀬斌 ,   戸谷重雄

ページ範囲:P.931 - P.936

I.はじめに
 AVMの自然経過に関しては保存的治療例の解析から幾つか報告されているが2,3,7,8),初回治療後AVMの残存を認めた症例のその後の経過に関しての報告は数少ない8-11).CT導人以降の症例を中心とし1988年末までのわれわれの施設を含めた関連の14施設における脳動静脈奇形(AVM)は362例であった.これらのうら,退院時にAVMの残存を認めた症例と,保存的治療のみにて経過を観察した症例の退院後の経過,特に出血に関しての有無を比較することにより,nidussの大きさを縮小させることがその後の経過に及ぼす影響を検討した.

一過性全脳虚血後のモノアミン代謝と蛋白生合成に対するγ—hydroxybutyrateの作用について

著者: 植木泰行

ページ範囲:P.937 - P.946

I.はじめに
 モノアミンは神経伝達物質であるとともに血管活動性作用を有することが広く知られている.最近の実験的研究によると脳虚血.後に脳組織モノアミン濃度が変動することが報告されているが,脳虚血により放出されたモノアミンが脳の血管を収縮せしめ,脳虚血自体によって惹起された病態をさらに悪化せしめる可能性も指摘さてしてきた13,21,23,24)一方,脳虚血により蛋白生合成が停止するが,血流再開後energy suppliesが回復しても蛋白生合成の回復は遅延するとされる.またこの蛋白生合成回復の遅延は脳虚血の時間と相関することも指摘されている4)
 γ—hydroxybutyrate(GHB)は内因性中枢神経系抑制物質であり,GABAの代謝産物として知られる.近年GHBは一過性の脳虚血後に,あるいは低酸素条件下に発来する脳浮腫を軽減せしめたり,また,このような条件下に起こる神経細胞の障害に対し保護的な作用を有すことが報告されている2,12,19).GHBはbarbituratesと同様の作用機序で脳代謝を抑制しenergystateを安定化せしめるとも考えられているが,barbituratesと比較し,意識・呼吸.血管運動機能に対する影響が少ないことより,これを臨床的な治療薬として利用しようとする試みが報告されている22).さらに,GHBは神経伝達物質合成酵素を安定化せしめる作用もあるとされ,従って脳虚血後に代謝異常を見る5-hydrdoxytryptamine(5HT)のような脳内神経伝達物質が脳に1次的な機能障害をもたらすのであれば,GHBはこれを抑え,脳に保護作用を発揮することも推測される19).しかし,GHBの蛋白生合成に対する作用についてはいまだ十分に究明されるにいたっていない.
本実験ではmongoliangerbilの両側総頸動脈を15分間血流遮断した後に血流を再開する.過性脳虚血モデルを用いて,血流再開3時間後にGHB(500mg/kg)を静脈内投与し,norepinephrine(NE),dopamhie(DA),homovanillic acid(HVA),tryptophan,5-hydroxytryp-tamine(5HT),5-hydroxyindoletic acid(5HIAA)の脳組織濃度をいかに変化せしめるかを検討し,GHBの神経保護作用をモノアミン代謝との連関で検討した.さらにmongolian gerbilの両側総頸動脈5分血流遮断-血流再開モデルを用いて,GHB(500mg/kg)の虚血前投与を行い,血流再開90分後の14C-leucineの脳組織内取り込みに如何なる影響を持つかをオートラジオグラムにて観察し,脳虚血後の蛋白生合成の障害にGHBがどの様に関与するかをも明らかにした.

電気刺激による蝸牛神経,前庭神経の同定—動物実験と臨床応用の可能性について

著者: 関谷徹治 ,   岡部慎一 ,   岩淵隆 ,   乙供通則

ページ範囲:P.947 - P.953

I.はじめに
 聴神経鞘腫手術時の顔面神経の同定は,肉眼的観察に加えて顔面筋誘発筋電図記録を併用して行われることが多い.しかし蝸牛神経,前庭神経の同定はほとんど肉眼的観察のみに委ねられている.ところがこれらの神経は,病巣によって偏位せしめられていることが多く,肉眼的観察のみによって各神経の同定を行うことにはしばしはご困難が伴う.
 われわれは小脳橋角部で蝸牛神経,前庭神経を正確に同定しうる電気生理学的手法を開発することを目的として動物実験を行い,その臨床応用の可能性についても合わせて検討したので報告する.

小児急性硬膜外血腫非手術例の長期予後

著者: 白坂有利 ,   篠原義賢 ,   桑原孝之 ,   角谷和夫 ,   忍頂寺紀彰 ,   植村研一

ページ範囲:P.955 - P.958

I.はじめに
 CTの普及に伴い,急性硬膜外血腫のうちでも非手術的に加療し得る症例がしばしば経験されるようになってきた.しかし,脳の発達過程にある小児において,短期間ながらも吸収されるまで脳を圧迫する血腫が真に将来的にも中枢神経系に影響を与えないものか否かについて詳細に検討した報告は,われわれが渉猟し得た限りにおいては認められない.今回われわれは,小児急性硬膜外血腫非手術例に対して人院時所見を再検討するとともに追跡調査を施行し,その長期予後を明らかにすることを目的として検討したので,文献的考察を含めて報告する.

脳挫傷患者の社会復帰に関する検討

著者: 国塩勝三 ,   篠原千恵 ,   徳永浩司 ,   松久卓 ,   守山英二 ,   加見谷将人 ,   則兼博 ,   松本祐蔵 ,   田中良子

ページ範囲:P.959 - P.963

I.はじめに
 最近,MRI,SPECT,PETなどの画像診断の進歩とともに頭部外傷の病態が解明されつつあるものの,急性期におけるこれらの機種の応用には種々の制限,問題がある.この点,CTスキャンの果たす役割は,今日においても多大なものがあり,特に,脳実質損傷の病態把握には不呵欠な検査であることは言及するまでもない.頭部外傷の予後に影響を及ぼすものとして,脳実質の損傷程度,範囲および部位,すなわち,CT所見,臨床的重症度,年齢などが重要であると考えられている14,20).方,いわゆる軽度の頭部外傷の場合でも,種々の後遺症のために社会復帰ができない症例があることはよく知られている4,11).今回われわれは,脳挫傷患者において予後はGlasgow outcome scale(GOS)でgood recovery(GR)またはmoderate disability(MD)であったものの,長期的には社会復帰にまではいたっていない要因としてどのようなものが関連するかを,アンケートによる追跡調査およびWechsler Adult Intelligence Scale(WAIS)知能検査19)などの結果より検討したので報告する.

脳動脈瘤の血管内手術による治療の問題点

著者: 寺田友昭 ,   中村善也 ,   中井國雄 ,   津浦光晴 ,   西口孝 ,   板倉徹 ,   林靖二 ,   駒井則彦

ページ範囲:P.965 - P.971

I.はじめに
 近年の血管内手術の進歩とともに,従来直達手術が困難であった脳動脈瘤の治療も可能となってきた1-3,5,6,9,11,13,14).しかし,この方法も決して完成されたものではなく,多くの問題点を持っている3,8-10).今回,われわれはdetachable balloonおよび液体塞栓物質(ethylene vinyl alcohl copolymer, EVAL)を用いて17例の直達手術困難な脳動脈瘤の治療を行ったので,自験例を中心に本法の問題点について報告する.

症例

鞍結節部髄膜腫術後に生じた外傷性脳動脈瘤の2例

著者: 斎藤良一 ,   矢崎貴仁 ,   河瀬斌 ,   戸谷重雄

ページ範囲:P.973 - P.977

I.はじめに
 脳動脈が腫瘍に巻き込まれた場合,動脈壁の脆弱化と手術による剥離操作のために外傷性脳動脈瘤(Trauma—tic Aneurysm,以下TA)を生じ,術後の重大な合併症を来す恐れがある.しかし,その托防法及び治療法は確立されたものが少ない.われわれは鞍結節部髄膜腫術後にTAの破裂による脳内出血を生じ,内頸動脈バルーン閉塞が有効であった症例を2例経験したので,ここに紹介し治療法の問題点を含めて考察する.

胸腔内髄膜瘤の4例

著者: 渋谷誠 ,   御子柴雅彦 ,   池田譲治 ,   伊東良則 ,   三輪哲郎

ページ範囲:P.979 - P.983

I.はじめに
 胸腔内髄膜瘤は稀な疾患であり,1933年pohl14)により初めて報告され,1986年,Maiuriら7)の報告までに95例の記載があるのみで,本邦では,1957年丸岡ら8)の報告以来21例の記載があるにすぎない5,6,10,11,17).今回われわれは,1966年より20年間に4例の胸腔内髄膜瘤を経験したので,文献的考察を含めて報告する.

前脈絡動脈の“側副血行路動脈瘤”を合併したモヤモヤ病の1例

著者: 中井啓文 ,   山本和秀 ,   佐古和廣 ,   谷川緑野 ,   國本雅之 ,   橋本政明 ,   苫米地正之 ,   大神正一郎 ,   米増祐吉 ,   村岡俊二

ページ範囲:P.985 - P.990

I.はじめに
 モヤモヤ病に合併する動脈瘤の多くは,Willis動脈輪主幹動脈の中でも椎骨脳底動脈系や,いわゆるモヤモヤ血管に生じるものが大部分を占め,側副血行路となった末梢動脈に生じる動脈瘤は稀とされてきた9,10).今回,前脈絡動脈の末梢部の頭頂葉皮質枝との側副血行路で側脳室三角部の上衣下に嚢状動脈瘤を形成,皮質下山血を起こした症例を経験したので報告する.

開放性総頸動脈損傷の1例

著者: 荒井啓晶 ,   藤森清志 ,   小沼武英

ページ範囲:P.991 - P.995

I.はじめに
 開放性頸動脈損傷は戦争,凶悪犯罪で発生することが多いためか,米国を中心とした欧米からの報告が多く,その症例数の多さと比べてみると第二次世界大戦後,約半世紀に渡り平和が続いている本邦からの報告は渉漁したかぎり殆どなく25),日本は誠に平和であると痛感させられる.
 今回,われわれは高齢者外傷性総頸動脈切断に対して緊急的に血行再建術を施行し,救命し得たので報告し,若干の文献的考察を加える.

脳に著明な多発性腫瘍塞栓を認めた中咽頭癌脳転移の1例

著者: 北岡憲一 ,   竹田誠 ,   蝶野吉美 ,   長嶋和郎

ページ範囲:P.997 - P.1001

I.はじめに
 悪性腫瘍の腫瘍塞栓子(以後tumor emboli)の存在は,よく知られた事実であるが2.12.14),臨床上,tumoremboliを原因とする脳血管障害,胆の脳転移の報告例は少ない4).今回,われわれは,原発癌の照射後,突然の多彩な脳神経症状で発症した中咽頭癌の脳転移で,剖検にて原発癌に山来する多発性腫瘍塞栓を脳血管内に認めた症例を経験したので報告する.

外傷性中枢性塩喪失症候群の1例

著者: 川尻勝久 ,   松岡好美 ,   韓正訓

ページ範囲:P.1003 - P.1007

I.はじめに
 中枢神経疾患に伴う低Na血症の原因の多くは,ADH不適合分泌による希釈性低Na血症,すなわちSIADHと考えられてきたが,その後尿中へのNaの異常排泄が原因である塩喪失症候群の報告が増えてきた.しかし,頭部外傷後に中枢性塩喪失症候群がみられたという報告はまれであり,しかもそのほとんどが高齢者におけるものである.最近われわれは,頭部外傷後に著明な低Na血症をきたし,中枢牲塩喪失症候群と診断し,酢酸フルドロコルチゾンが著効を奏した幼児例を経験したので報告する.

成長ホルモン補償療法中に腫瘍再発を来した2症例

著者: 渡辺仁 ,   岩佐晋 ,   卯木次郎 ,   武田文和 ,   磯部逸夫

ページ範囲:P.1009 - P.1012

I.はじめに
 下垂体性小人症に対する唯一の治療法は,その原因の如何にかかわらず,ヒト成長ホルモン(hGH)による補償療法である.過去においてはヒト下垂体からの抽出製剤のみにたよっていたが,今日では遺伝子組換え操作の発展により人量のhGHが得られるようになり,同疾患に悩む子どもたちに大きな救いとなっている.
 われわれは,hGH補償療法中に再発を来した脳腫瘍患者2例を経験したので,hGH投与と脳腫瘍再発との関係について若干の文献的考察を加えて報告する.

穿頭閉鎖式ドレナージ術後に急性硬膜外血腫を発症した慢性硬膜下血腫の1例

著者: 米澤一喜 ,   金成有 ,   田中允

ページ範囲:P.1013 - P.1016

I.はじめに
 慢性硬膜下血腫の治療として穿頭による洗浄術が広く行われているが術後重篤な合併症が報告されており,最近では緩徐な血腫除去を目的とした穿頭閉鎖式ドレナージ術の有用性が強調されている.1986年以来,当施設においても穿頭閉鎖式ドレナージ術を28例の慢性硬膜下血腫に対し行っているが,今回初めて術後合併症として急性硬膜外血腫を経験した.穿頭洗浄術後に急性硬膜外血腫が発生した報告は散見されるが穿頭閉鎖式ドレナージ術後に発生した報告はなく,本法の注意点についての考察を加えて報告する.

海綿静脈洞症候群と頭蓋骨腫瘤を呈した転移性悪性黒色腫の1例

著者: 野上予人 ,   西嶌美知春 ,   遠藤俊郎 ,   高久晃

ページ範囲:P.1017 - P.1020

I.はじめに
 悪性黒色腫で中枢神経系への転移を認める頻度は比較的高いが,その場合にも脳実質への転移が多い4,5,11)われわれは脳実質内転移を伴わず,海綿静脈洞症候群と頭蓋骨腫瘤を呈して発見された転移性悪性黒色腫の1例を経験したので報告する.

モヤモヤ病を合併したTurner症候群の1例

著者: 安心院康彦 ,   内田耕一 ,   河瀬斌 ,   戸谷重雄

ページ範囲:P.1021 - P.1024

I.はじめに
 Turner症候群は,単独X染色体を右し,女性型外性器,低身長,性腺萎縮による原発性無月経を伴う疾患である.本症候群に合併しやすい血管異常である大動脈縮窄症についてはよく知られているが,頭蓋内血管の異常が合併することは稀である.われわれはTurner症候群にモヤモヤ病を合併した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

リウマチ性疾患に関連した頭蓋内多発性非特異性肉芽腫の1例—MRI所見を中心として

著者: 田淵貞治 ,   田辺路晴 ,   村岡浄明 ,   堀智勝 ,   中安弘幸 ,   高橋和郎 ,   大浜栄作

ページ範囲:P.1025 - P.1030

I.はじめに
 頭蓋内肉芽腫の原因として,リウマチ性疾患に関連して生じた肉芽腫の報告例は非常に少なく11,13,14),また,そのMRI像に関する報告は認められない.今回,われわれはリウマチ様症状で発症し,11年の経過にわたり寛解と増悪を繰返した頭蓋内多発性の非特異性肉芽腫の1例を経験した.そのMRI所見を中心として,文献的考察も加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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