文献詳細
文献概要
解剖を中心とした脳神経手術手技
内シャントを用いた頭蓋底部の手術
著者: 堀智勝1
所属機関: 1鳥取大学医学部脳幹研究施設外科部門
ページ範囲:P.875 - P.884
文献購入ページに移動I.はじめに
頭蓋底を定義すると,Glasscock5)によれば.“Theskull base is that part of the cranium that includes thegreater wing of the sphenoid, the temporal bone, andthe occipital bone to the midline.”ということになる.頭蓋底の手術でKeyとなる構造の一つに頭蓋内外の内頸動脈があげられ,その解剖,および病変との関連による種々の対応が手術の成否を決定すると言っても過言ではない.海綿静脈洞内の巨大動脈瘤等に対して,内頸動脈を結紮したときに,症例の25%ではCBFが20ml/100g/min以下に低下すると言われている.またCBFがバルーン閉塞試験で35-40ml/100g/min以上であれば頸動脈の永久的な閉塞は安全であると見なすのが一般的である.しかし,CBFがそれ以下では内頸動脈の永久閉塞は危険であり,特に20ml以下では大変危険であり,バイパスなどを置いて虚血を防止したほうが安全と言われている1).しかし端ら6)がEC-IC bypassを併用して内頸動脈を結紮した137症例の多施設での検討では約25%に虚血症状が出現し,その38%が結果的に回復したにすぎなかった.この合併症はかなり高率であり,単純な頸動脈結紮とほとんど変わりがないことから,バイパス術の有効性に疑問が投げかけられた.しかし,これらの数値と内頸動脈の単純な結紮による虚血発作出現率の比較可能な良い研究がないために,本当にバイパス術が無効であるのかという問題については結論を出すのは早計ではないかとも考えられる.ちなみにNishiokaら11)の統計では単純内頸動脈結紮による虚血合併症はじつに71例中35例(49%)であり,これを単純に端の25.4%と比較すると有意にバイパス群の成績がよいことになる.即ちバイパス術を併用した内頸動脈の結紮でも約1/4に虚血が生ずる恐れがあると考えたほうが,バイパス術を無効であると考えるよりも無理がないと筆者は考えている.この虚血症状発生率をいかに低下させるかが,今後解決すべき問題ではないかと思われる.
海綿静脈洞内の巨大動脈瘤にたいしてhigh flowbypassを行って良好な成績が得られたという報告があるが,その一方で報告されない失敗例も少なからず存在することが推定される.Spetzler; Fukushimaら15)のPetrous Carotid-Intradural Carotid Bypassはすぐれた方法であるが,その吻合に要する時間が90-120分と長く,とくにバルーンテストで虚血症状を起こすような患者ではこのバイパスは適応が無いと考えられる.さらにバルーンテストで陰性の患者でも,虚血症状の発現が気になるところである.吻合中にintraluminal shuntを挿入し虚血時間の短縮を計るideaや成功例が報告されている.しかし,SekharがAl-Mefty1)の論文にcom-mentしているように,この手技にも種々の問題点がないわけではない.われわれは,これらの事実を踏まえた上で,頭蓋底の手術を行う際に合併症のほとんど無いシャント管の開発に努力してきた.
本稿ではいまだ,完成品には程遠いが,現時点で一応使用にたえるシャント管が作製できたので症例を呈示しながら,シャント管を用いた頭蓋底の手術手技について説明したい.
本シャント管を用いるときに最も必要な解剖学は,petrous portionを中心とした,内頸動脈の解剖である.すでにその解剖については立派な研究1,3,4,8,10,12)が行われているが,C5部の内頸動脈の露出とその吻合に際して必要な解剖について碗点的に本稿では解説したい.
さらに現在まで,頭蓋底病変である海綿静脈洞内血管病変や,頭蓋底腫瘍摘出時の静脈洞の再建,CEAなどにも使用してきたので,その使用経験についてご紹介する.さらに本シャント管がどのような病変に対して使用可能あるいは必要であるかについて考察したい.
頭蓋底を定義すると,Glasscock5)によれば.“Theskull base is that part of the cranium that includes thegreater wing of the sphenoid, the temporal bone, andthe occipital bone to the midline.”ということになる.頭蓋底の手術でKeyとなる構造の一つに頭蓋内外の内頸動脈があげられ,その解剖,および病変との関連による種々の対応が手術の成否を決定すると言っても過言ではない.海綿静脈洞内の巨大動脈瘤等に対して,内頸動脈を結紮したときに,症例の25%ではCBFが20ml/100g/min以下に低下すると言われている.またCBFがバルーン閉塞試験で35-40ml/100g/min以上であれば頸動脈の永久的な閉塞は安全であると見なすのが一般的である.しかし,CBFがそれ以下では内頸動脈の永久閉塞は危険であり,特に20ml以下では大変危険であり,バイパスなどを置いて虚血を防止したほうが安全と言われている1).しかし端ら6)がEC-IC bypassを併用して内頸動脈を結紮した137症例の多施設での検討では約25%に虚血症状が出現し,その38%が結果的に回復したにすぎなかった.この合併症はかなり高率であり,単純な頸動脈結紮とほとんど変わりがないことから,バイパス術の有効性に疑問が投げかけられた.しかし,これらの数値と内頸動脈の単純な結紮による虚血発作出現率の比較可能な良い研究がないために,本当にバイパス術が無効であるのかという問題については結論を出すのは早計ではないかとも考えられる.ちなみにNishiokaら11)の統計では単純内頸動脈結紮による虚血合併症はじつに71例中35例(49%)であり,これを単純に端の25.4%と比較すると有意にバイパス群の成績がよいことになる.即ちバイパス術を併用した内頸動脈の結紮でも約1/4に虚血が生ずる恐れがあると考えたほうが,バイパス術を無効であると考えるよりも無理がないと筆者は考えている.この虚血症状発生率をいかに低下させるかが,今後解決すべき問題ではないかと思われる.
海綿静脈洞内の巨大動脈瘤にたいしてhigh flowbypassを行って良好な成績が得られたという報告があるが,その一方で報告されない失敗例も少なからず存在することが推定される.Spetzler; Fukushimaら15)のPetrous Carotid-Intradural Carotid Bypassはすぐれた方法であるが,その吻合に要する時間が90-120分と長く,とくにバルーンテストで虚血症状を起こすような患者ではこのバイパスは適応が無いと考えられる.さらにバルーンテストで陰性の患者でも,虚血症状の発現が気になるところである.吻合中にintraluminal shuntを挿入し虚血時間の短縮を計るideaや成功例が報告されている.しかし,SekharがAl-Mefty1)の論文にcom-mentしているように,この手技にも種々の問題点がないわけではない.われわれは,これらの事実を踏まえた上で,頭蓋底の手術を行う際に合併症のほとんど無いシャント管の開発に努力してきた.
本稿ではいまだ,完成品には程遠いが,現時点で一応使用にたえるシャント管が作製できたので症例を呈示しながら,シャント管を用いた頭蓋底の手術手技について説明したい.
本シャント管を用いるときに最も必要な解剖学は,petrous portionを中心とした,内頸動脈の解剖である.すでにその解剖については立派な研究1,3,4,8,10,12)が行われているが,C5部の内頸動脈の露出とその吻合に際して必要な解剖について碗点的に本稿では解説したい.
さらに現在まで,頭蓋底病変である海綿静脈洞内血管病変や,頭蓋底腫瘍摘出時の静脈洞の再建,CEAなどにも使用してきたので,その使用経験についてご紹介する.さらに本シャント管がどのような病変に対して使用可能あるいは必要であるかについて考察したい.
掲載誌情報