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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科21巻11号

1993年11月発行

雑誌目次

脳神経外科医の悩みと喜び

著者: 生塩之敬

ページ範囲:P.971 - P.972

ある所に,患者さんが受診に訪れるといつも“もう手遅れだ,手遅れだ!どうしてもっと早く連れてこなかったか”と家族をなじるお医者さんがありました.ある日,雨漏りを修繕中に屋根から落ちて頭を打ち,意識不明になった人がかつぎ込まれてきました.先生はいつものように“もう手遅れだ,もう駄目だ!どうして早く連れてこなかったか”と回りの人を叱りました.皆はびっくりして“でも先生,いま落ちたところで,大急ぎで連れてきたのですが”と答えました.すると先生は言いました.“落ちる前に連れてこい.”
 これは古いジョークですが,脳神経外科の領域ではこれがジョークでなくなっています.診断技術の進歩により“落ちる前”の病変がどんどん発見され治療されています.破裂する前に脳動脈瘤が発見され,躊躇なく,しかも安全に手術がなされています.いったん破裂すると高率に命を奪う病気ですから,患者さんにとっては全くの命拾いです.脳腫瘍もしかりで,発症前に早期のグリオーマが発見され取り除かれています.時間が経過すると高率に悪性変化する腫瘍ですから,切り傷が出来ただけで手術の前後には何も変わらない患者さんの気持ちはともかくも,悲惨な患者さんをたくさんみてきた私たちは障害もなく治癒したことを“ああ良かった”と喜びます.

総説

びまん性脳損傷—その臨床病理学的概念と分類

著者: 重森稔

ページ範囲:P.973 - P.980

I.はじめに
 臨床的に,外傷性脳損傷をびまん性および局所性脳損傷(Diffuse and focal brain injuries, DBI and FBI)に2大別する考え方が普及して,既に10年余が経過している7,13).この間,びまん性軸索損傷(diffuse axonalinjury, DAI)という病理学的概念1-3,6,14)が臨床にも取り入れられ5,15,16),最近では“DAI”という用語が臨床診断名ないし疾患名としても使用される傾向にある31).一方,CTやMRIなどの画像診断法の進歩に伴い,DBI症例の画像所見の解析についても多くの報告がみられる9,10,22,23,29,44,48).その結果,いくつかのDBIの臨床的分類が提唱されている5,13,15,16,22,24),しかしこのようなDBIの諸分類は,それぞれの発想の原点や分類の目的が異なっている.しかも,実際のDBI症例が示す頭蓋内損傷や臨床所見,さらにそれらの経過や転帰は極めて多彩である9,13,21,22,39,40).従って,DAIとDBIとの関係を含めDBIの取り扱い方に臨床上混乱を生じていることも否めない31)
 DBIに関しては既に多くの優れた解説があるが21,29,30,46),本稿ではDBIの基本的損傷と考えられているDAIの臨床病理学的概念を整理し,DBIの臨床分類を中心に概説したい.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Paraclinoid Large Aneurysmの直接手術—Retrograde balloon suction decompression法の併用

著者: 溝井和夫 ,   吉本高志 ,   高橋明

ページ範囲:P.981 - P.989

I.はじめに
 内頸動脈瘤の中で,後交通動脈よりも近位部の硬膜内に発生する動脈瘤としてはophthalmic arteryaneurysm, superior hypophyseal artery aneurysmのごとく分岐血管が明らかな動脈瘤のほかに,分岐血管が不明の動脈瘤も発生しやすく,それらはその形状,発生部位の特徴などからdorsal ICA aneurysm13),carotidblister aneurysm21),carotid cave aneurysm6),C2—C3anellrysmなど様々な名称で呼ばれている.また,後2者の動脈瘤は柄部の一部が硬膜内に存在し,domeは海綿状静脈洞内に存在することも多い.後交通動脈よりも近位部の内頸動脈瘤については,このように様々なvariationがあるが,手術アプローチ.手術手技に関してはほぼ同一の方法にて対処可能である.本報ではこの部に発生する大型の動脈瘤を一括してparaclinoid largeaneurysmと呼ぶこととする.
 Paraclinoid large aneurysmの手術が困難な理由としては,動脈瘤の全貌を明らかにするためには前床突起の十分な削除が必要となること,頭蓋内でのproximalcontrolが困難,clippingの際に動脈瘤内圧を減少させる必要があること,broad neckのものが多く内頸動脈の十分な管径を保ちつつclippingすることが困難,などの点が挙げられる.このようなparaclinoid aneurysmに対し,最近,われわれは血管内手術手技を応用して手術する方法を試みている11,12).その方法の概要は以下の通りである.1)脳動脈瘤の親血管にballoon catheterを導入し,これを血流一時遮断に用いる,2)大型動脈瘤ではdouble lumen balloon catheterから血液を吸引して脳動脈瘤をcollapseさせたうえで脳動脈瘤の剥離,clip-pingを行う(retrograde suction decompression),3)術中DSAにてaneurysm clippingの成功度を確認する.われわれはこれまで手術困難な脳動脈瘤症例30例以上に対しこのような血管内手術手技を応用した手術を経験したが,本稿では特にparaclinoidal large/giantaneurysmに対するretrograde suction decompression法併用の実際にいて概説する.

研究

転移性脳腫瘍のガンマナイフ治療

著者: 木田義久 ,   小林達也 ,   田中孝幸 ,   雄山博文 ,   岩越孝恭

ページ範囲:P.991 - P.997

I.はじめに
 近年ガンマナイフ,あるいはlinear acceleratorを用いた,いわゆるstereotactic radiosurgery6,7)が注目されており,特に脳動静脈奇型,その他の脳血管奇型7,11),聴神経腫瘍4),髄膜腫3,5)などの治療の中で,非手術的治療法として良好な成績が報告されている.脳腫瘍では,主に良性腫瘍がその治療対象となっており,悪性グリオーマ9),あるいは転移性脳腫瘍1,8,10,12,13)などの悪性腫瘍群の治療については報告が少い.われわれは,1991年5月より,ガンマナイフによる治療を導入し,1992年12月までに約400例の治療を施行した。これらのうち,十分な経過観察が得られた転移性脳腫瘍の治療成績を検討し,本疾患がradiosurgeryの良い対象となりうるかどうか,初期効果を中心に治療効果および副作用,他の治療法の併用とその選択などについて報告する.

くも膜下出血後の脳血管攣縮に対するNicardipine大量持続投与の効果

著者: 河野寛幸 ,   河野輝昭 ,   田中長利 ,   本間輝章 ,   岡田隆之 ,   佐藤耕造

ページ範囲:P.999 - P.1003

I.はじめに
 近年,くも膜下出血後の脳血管攣縮に対し,highdose nicardipine(NIC)持続静注投与にて良好な成績が報告されている2,3,5-9,11).今回,33例のくも膜下出血(SAH)についてNICのhigh dose持続静注を行った.
 これにより,まず第一に症候性脳血管攣縮は1例(3%)にしか認められなかった.第二に,くも膜下出血発症後遅発性脳血管攣縮発生期に搬入された患者において,血管撮影上著明な血管攣縮が3例にみられたが,待期手術にせず,NICを術前もしくは後直後より投与しながら手術を行った結果,症候性脳血管攣縮への移行は認められず,かつ,術後の血管撮影上著明な改善がみられた.本論文では,33例の成績報告と,第2の点について3例の症例報告を行い,NICの遅発性脳血管攣縮の予防的治療としてのhigh dose投与の有効性について検討した.

下垂体卒中及び無症候性下垂体腺腫内出血における内分泌機能とMRI所見の検討

著者: 関貫聖二 ,   坂東一彦 ,   白川典仁 ,   松本圭蔵 ,   板東浩 ,   斎藤史郎 ,   日下和昌

ページ範囲:P.1005 - P.1012

I.はじめに
 MRI scanの導入以後下垂体内出血血の術前診断が比較的容易となり,最近の報告では下垂体内出血は無症候性例も含めると全下垂体腺腫の約10-20%を占めているとされている3,8,11,12).しなしながら大半はMRI所見を中心とした画像所見と術中所見ないし組織所見を中心に検討された報告であり,今回われわれが行ったように視床下部・下垂体機能不全の病態を各種負荷試験を行って詳細に検討した報告は少ない1),本論文では,われわれの施設で高磁場MRI導入以後に経験した下垂体腺腫中,下垂体卒中例及び無症候性下垂体腺腫内出血(以下無症候性出血と略)を認めた13例に関して前述の点を考慮し,画像所見,術中所見に加えて下垂体前葉に対する直接刺激であるTRH, LH-RH, GRH, CRF4者負荷試験に対する反応と視床下部を介する刺激であるin—sulin負荷試験,L-dopa負荷試験に対する反応を対比検討することにより,本病態でみられる下垂体機能低下の内分泌学的障害の病態を検討した.

頭蓋底手術における頸動脈管開放—Carotid canal triangleの骨削

著者: 川上勝弘 ,   河本圭司 ,   辻裕之

ページ範囲:P.1013 - P.1019

I.はじめに
 近年頭蓋底外科の発達につれ,海綿静脈洞や前頭蓋底については,手術術式が確立され次第に積極的に手術がなされるようになってきている.われわれは従来より前頭蓋底の病巣に対しては,extensive transbasal approachを10,11),中頭蓋底に対してはtranszygomatic approachを施行してきたが,病巣が中頭蓋底のみならず側頭下窩におよぶ場合には,内頸動脈が側頭骨内を走行するという解剖学的な理由により,手術が制約され術中に内頸動脈を安全に確保する必要があると考えられた.われわれは側頭下窩を占拠した5例の悪性腫瘍の症例に対して根治的手術を行ったが,早期に頸動脈管を開放し内頸動脈を確保することにより広い術野が得られ一塊とした摘出が可能となり良好な結果を得た.代表的な症例を供覧するとともに,頸動脈管を開放する手術操作に関してcarotid canal triangleと命名した微小解剖を中心に文献的考察を加え報告する.

急性期頭部外傷患者における血清Neuronspecific Enolase値測定の意義

著者: 黒岩敏彦 ,   田邊治之 ,   高塚広行 ,   新井基弘 ,   長澤史朗 ,   太田富雄

ページ範囲:P.1021 - P.1024

I.はじめに
 解糖系酵素であるenolaseの中で,γ—subunitを有するものはneuron-specific enolase(NSE)と呼ばれ,神経細胞と軸索に局在し,神経損傷時には髄液や血中に逸脱するとされている.これに関する実験的2,13),臨床的報告3,5,7,11)は散見されるが,頭部外傷臨床例におけるまとまった報告はいまだない.今回われわれは,頭部外傷患者において入院直後の血清NSE値を測定し,その臨床的意義について検討したので報告する.

症例

シスプラチンとエトポシド併用(PE)療法中に脳静脈洞血栓症を生じた鞍上部胚細胞腫瘍の1例

著者: 山田和慶 ,   山城重雄 ,   伊東山洋一 ,   後藤恵 ,   植村正三郎 ,   生塩之敬

ページ範囲:P.1025 - P.1029

I.はじめに
 脳静脈洞血血栓症は,頭頸部感染症に続発するもの以外に,各種疾患の合併症および薬剤の副作用として発生するが,原因不明のものも少なくない2,7,10,16)
 われわれは尿崩症を伴った鞍上部胚細胞腫瘍にたいする放射線治療およびCDDP+VP−16(PE)療法中に,DIC(disseminated intravascular coagulation)を伴った脳静脈洞血栓症をきたした症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

内頸動脈海綿静脈洞瘻を呈した頭蓋内原発絨毛癌の1例

著者: 陳茂楠 ,   中沢省三 ,   堀真佐男

ページ範囲:P.1031 - P.1034

I.はじめに
 頭蓋内原発のchoriocarcinomaは稀である.今回われわれは,視交叉部に原発し,carotid-cavernous fistulaを呈したchoriocarcinomaの1例を経験したので報告する.

椎骨動脈環椎部型窓形成に起因する脊髄圧迫ならびに後頭神経痛に対し,神経血管減圧術が有効であった1例

著者: 森川和要 ,   大川直澄 ,   山下勢一郎

ページ範囲:P.1035 - P.1038

I.はじめに
 JannettaやGardnerの報告以来,脳神経の微小血管圧迫による機能的疾患が注目され,顔面痙攣や三叉神経痛に対するmicrovascular decompressionは確立された手術方法となったと言える.最近では,痙性斜頸に対する副神経減圧術の有効性も報告されており,今回,私共は同様の機序にて,後頭神経痛をきたしたと思われる椎骨動脈環椎部型窓形成に対し,窓形成動脈の転位を施行し良好な結果を得た症例を経験したので報告する.

Peduncular Hallucinationを呈した脳幹部海綿状血管腫の1例

著者: 貞友隆 ,   魚住徹 ,   木矢克造 ,   栗栖薫 ,   有田和徳 ,   矢野隆 ,   杉山一彦 ,   原田薫雄 ,   竹下真一郎

ページ範囲:P.1039 - P.1042

I.はじめに
 Peduncular hallucinationは1922年Lhermitteにより初めて報告された夢幻状態であり11),その名称は比較的良く知られているが実際にこのような症例に遭遇することは稀である.また,その責任病巣は中脳被蓋部と言われている20)が実際には例外も多く1,9,18,21),現時点で明確な結論は出ていない.今回われわれは出血にて発症しpeduncularhallucinationと考えられる幻覚症状を認めた脳幹部海綿状血管腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

頸椎Aneurysmal Bone Cystの1例

著者: 岡田尚巳 ,   長谷川光広 ,   山嶋哲盛 ,   山下純宏 ,   木谷隆一

ページ範囲:P.1043 - P.1047

I.緒言
 Aneurysmal Bone Cyst(以下ABC)は良性腫瘍性骨疾患に分類され全骨腫瘍の約1%を占める13.長管骨に好発するが,脊椎にも発生し,腰椎,胸椎の順にみられる.頸椎に発生するABCは,これまで本邦では9例の報告がみられるに過ぎない、今回われわれは,第6頸椎に限局してみられたABCの1治験例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

インターフェロン—α投与にて縮小した転移性脊椎腫瘍(腎癌)の1例

著者: 鈴木俊久 ,   得能永夫 ,   林秀明 ,   江頭誠 ,   樹山三記 ,   窪田一男 ,   平山暁秀 ,   白馬明

ページ範囲:P.1049 - P.1053

I.はじめに
 腎癌の脊椎転移例は予後不良と言われている.またインターフェロン—α8,9)投与にて肺転移,上腕骨転移巣が縮小したとの報告はあるが,脊椎転移巣が縮小したため全摘出来た報告はない.今回われわれは脊椎転移巣が1カ所で,且つインターフェロン—α投与にて転移巣の縮小を認めたため全摘出でき,脊髄症状の改善が得られた症例を経験したので報告する.

Tectal Gliomaの1例

著者: 社本博 ,   白根礼造 ,   小川彰 ,   吉本高志

ページ範囲:P.1055 - P.1059

I.はじめに
 今回われわれは稀な中脳被蓋のgliomaの1例を経験し,MRI所見を中心に文献的考察を行ったので,報告する.

巨大な頭部腫瘤を形成した頭蓋骨原発悪性リンパ腫の1例

著者: 佐藤光夫 ,   斎藤利重 ,   山口克彦

ページ範囲:P.1061 - P.1064

I.はじめに
 悪性リンパ腫は近年増加傾向にあるが,骨原発の悪性リンパ腫はポジキン病では稀であり,非ポジキン病でも3-4%にすぎない3,4,13).骨原発の場合,椎体,骨盤骨,肋骨や長管骨が好発部位であり,頭蓋骨悪性リンパ腫例は極めて稀である1,2,5-8,11,17-19)
 今回われわれは,巨大な右頭頂部腫瘤を呈し,入院精査中に腫瘍の増大により左片麻痺の増悪と意識障害を来した頭蓋骨原発悪性リンパ腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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