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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科21巻12号

1993年12月発行

雑誌目次

若き脳神経外科医諸君へ—Hard work is the best way!

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.1073 - P.1074

 昭和35年のころ意識を失った一人の青年が入院し,脳血管撮影によって慢性硬膜下血腫と診断された.ある事情により手術は暫時延期されたが,この間ベッド上に安静を保っていた患者の意識は思いもよらず徐々に回復してきた.一週間後に予定どおり血腫は全摘されたが,術前の意識はほぼ清明であった.これはどういうことか?この頃までに慢性硬膜下血腫と診断されながら,手術を拒否して退院した患者が6,7人いた.彼らはどうなっているだろう.みんな死んでしまったのか?私の好奇心がむくむくと頭をもたげた。全員に手紙を送ると共に,近県の人の場合はその自宅まで尋ねていった.別の疾患で亡くなった一人を除き,なんと血腫除去手術を受けなかった全員が元どうり元気に働いていたのである.私の好奇心は爆発的に燃え上がった.これが慢性硬膜下血腫を私のライフワークとしたきっかけであり,以後30余年にわたって私に研究の楽しさと充足感を与えてくれたテーマのひとつである.
 “セント・アンドリュースにこの間行ってきたよ”とゴルフ愛好家に言うと,“ホー”と感嘆とも羨望ともとれる声が返ってくる.セント・アンドリュースはゴルフの発祥の地として知れわたっている.しかしこの古い地名はなんだろう? 物の本によればスコットランドの守護聖人だそうである。エジンバラから車を飛ばして約3時間,近づくにつれて先ずびっくりさせられるのは,墓石に取り囲まれた三階建ての巨大な石造り壁と煙突だけが聾え立つ,大教会の廃塘一セント・アンドリュース大聖堂である。帰国してから世界史を開いてみたところ,1547年の頃旧教徒と新教徒との戦いがこの地ではげしく,その際に破壊し尽くされたのである.またここにあるセント・アンドリュース大学は1411年創立されたスコットランド最古の大学である.好奇心の赴くまま資料をひもとくと,ゴルフ以外のセント・アンドリュースが次々と見えてきて楽しみと知識が膨れあがる.

連載 脳循環代謝・11

超音波ドプラ法と脳循環(代謝)

著者: 古幡博

ページ範囲:P.1075 - P.1080

I.はじめに
 経頭蓋骨超音波ドプラ法(Transcranial Doppler:TCD)の登場によって,頭蓋内主要血管の実時間血流情報が全く無侵襲的にかつ繰り返し容易に測定可能となった1).更に経頭蓋骨超音波カラー・ドプラ法(Transcra—nial Color Flow Imaging:TGCFI)も活用され,標的血管の同定を容易にし,定量性の高い血流速度計測が可能となった2,3,4).現在測定可能な血管は両側の前,中,後大脳動脈主幹部及び前・後交通動脈,両側椎骨動脈,脳底動脈,左右上垂体静脈,横静脈洞等である.TC—CFIでは更に中,後大動脈の分岐,椎骨・脳底動脈の分岐血流の計測も可能である.
 得られる血流情報は血流ドプラ・ソナグラムで,その最高,最低,平均流速及び波形の各種Pulsatility Index(PI)である.これら脳循環情報が細胞レベルの脳代謝をどの程度反映するものかどうかは明確でない.言うまでもなく,N2O法,RI,rCBF等の手法によって得られる血流情報についても同様の疑問が多少ともあり,循環と代謝の関係を関連づける数多くの研究がなされ,相関性は高いとされている.恐らく,TCDあるいはTC.CFIによる実時間血流情報も代謝と関連深いと考えられるが,未だPET等との直接比較を行っている報告は筆者の知る限りない.しかし,超音波法によっても代謝に関連する極めて興味深い循環情報が得られているので,そのいくつかをここに紹介する.なお,経頭蓋骨超音波ドプラ法それ自体についてもあるいはなじみがないかもしれないので,まず最初その手法について紹介する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Omental Graft

著者: 宮本享 ,   菊池晴彦 ,   永田泉 ,   森敬一郎

ページ範囲:P.1083 - P.1088

I.はじめに
 大網のもつ様々な作用・可能性に注目してomentalgraftはいろいろな領域で用いられてきた.皮下に設けたトンネルを通して有茎の大網を局所へ導入する方法や,free flapとして血管と共に採取した大網を移殖する2法がある3,5,8,9,10,14,16).われわれは後者の方法を用いて主にもやもや病に対してomental graftを行ってきたので,その手技について述べる.

研究

リニアック脳定位照射法のProspective Dose-Escalation Study

著者: 白土博樹 ,   井須豊彦 ,   清水幸彦 ,   西岡健 ,   野中雅 ,   阿部悟 ,   松村茂樹 ,   清水匡 ,   市村亘 ,   鈴木恵士郎 ,   南部敏和 ,   東北海道ラジオサージェリー研究会

ページ範囲:P.1089 - P.1095

I.はじめに
 近年,gamma unitを用いたradiosurgeryは,脳内小病変の治療に対する新しい治療として実績を挙げ注目されている.しかしながら,gamma unitは1)高額であること,2)60COを多数使用しているため,その線源の5-6年毎の定期的交換が必要であること,3)Radiosurgery専用機であること,4)Collimatorのサイズに制限があることなどで,医療経済的に過剰投資が懸念されている19)
 一方,一般病院に普及しているLinac X線による脳定位照射が,最近急速に注目を集めつつある.gammaunitと同程度の治療効果が報告されているが2,3),まだ確立された方法とは言いがたく,問題点も多い.われわれは放射線治療医と脳外科医が共同で慎重にこの新しい治療技術を作り上げるべきと考え,3年前から東北海道ラジオサージェリー研究会を発足させ,2年前からLinac X線による脳定位照射を行ってきた,本報告は,われわれの治療指針,治療技術精度を明らかにし,これまでの初期効果と合併症を検討することを目的として発表したい.

ニカルジピンの内頸動脈血流速度,局所脳血流量,二酸化炭素反応性に及ぼす効果

著者: 安部和夫 ,   出水明 ,   今西正巳 ,   岩永秀明

ページ範囲:P.1097 - P.1101

I.はじめに
 構造的にニフェジピンと類似しているカルシウムチャンネルブロッカーは麻酔中の高血圧,心筋虚血,冠動脈攣縮の治療に適していると報告されている12).ニカルジピンは水溶性のdihydropuridine calicium channelblockerで強い血管拡張作用を有している3).脳動脈瘤手術の麻酔管理では動脈瘤の術中破裂を予防するためにtransmural pressureを注意深く管理する必要がある.術中の高血圧は脳動脈瘤の術中破裂を引き起こす誘引となる可能性があるため速やかに治療する必要がある.この目的でニカルジピンは投与されるが,この薬剤のクリッピング術中の脳血流量,血流速度に及ぼす影響についての報告は少ない.今回ニカルジピンの局所脳血流量,二酸化炭素反応性,内頸動脈血流速度(ICBFV)に及ぼす影響について検討した.

ラット凍結脳損傷におけるArginine Vasopressin受容体拮抗剤の抗脳浮腫効果

著者: 香川昌弘 ,   長尾省吾

ページ範囲:P.1103 - P.1107

I.はじめに
 アルギニンバゾプレッシン(arginine vasopressin以下AVP)は視床下部—下垂体後葉系から血液中へ分泌され,平滑筋収縮作用,抗利尿作用によって循環調節に関与している.さらに,視床下部の室傍核,視索上核などから直接脳内へも分泌され,神経伝達物質として,中枢性循環調節,記憶,摂食行動などに関与していると言われている,一方,近年脳内に分泌されたAVP(中枢性AVP)は正常脳および病的脳において脳血管の水分透過性を亢進させ,脳浮腫が進展する一因であることが報告されている3,14).本実験では脳挫傷の実験モデルとされる凍結脳損傷において,脳室内に投与されたAVP受容体拮抗剤が脳水分量,脳組織Na,K含量にどのような影響を与えるか討した.

症例

頭蓋内播種をきたしたSpinal Glioblastomaの1例

著者: 川西昌浩 ,   黒岩敏彦 ,   長澤史朗 ,   太田富雄 ,   桶田正成 ,   小野村敏信

ページ範囲:P.1109 - P.1112

I.はじめに
 頭蓋内原発のglioblastomaが脊髄に播種することはよく知られているが,脊髄に発生したglioblastomaが脳へ播種することはまれである1,2,6-14).今回われわれは脊髄に原発したglioblastomaが,他の脊髄レベルや頭蓋内に播種性転移を起こした症例を経験したので,若干の文献考察を加えて報告する.

板間層類上皮腫の2症例

著者: 阿部秀一 ,   香城孝麿

ページ範囲:P.1113 - P.1117

I.はじめに
 硬膜外および頭蓋骨に発生する類上皮腫はわが国では比較的報告例が少ない.今回われわれは板間層類上皮腫の2例を経験したので報告する.

自然軽快傾向を示したSpontaneous Spinal Epidural Hematomaの1手術例

著者: 鈴木秀謙 ,   山本義介 ,   星野有 ,   米田千賀子

ページ範囲:P.1119 - P.1123

I.はじめに
 Spontaneous Spinal Epidural Hematoma(以下,SSEDH)は,従来,緊急手術が必須とされてきた比較的稀な疾患である11).しかし,SSEDHのうち,発症後早期に自然軽快傾向を示す症例の治療方針は,最近,議論があるところである5).われわれは発症後早期より,臨床的にも画像的にも改善し続け,自然治癒も考えられた症例に対して敢えて手術を施行し,神経症状を早期に完全消失せしめた.ここに症例を報告し,このような症例に対する治療方針につき,文献的に若干の考察を加え報告する.

腫瘍内出血にて発症した成人横紋筋肉腫の脳転移の1例

著者: 上野眞二 ,   荒井啓晶 ,   小沼武英 ,   菊池章 ,   一迫玲

ページ範囲:P.1125 - P.1130

I.はじめに
 転移性脳腫瘍は全脳腫瘍の5-15%を占めている.その大部分は癌腫であり肉腫の脳転移は稀とされてきたが,最近その増加傾向が指摘されている.われわれは成人胸腔壁原発の横紋筋肉腫の脳転移の1症例を経験したが,成人の横紋筋肉腫自体極めて稀である.また,横紋筋肉腫の脳転移例は渉猟し得たかぎりでは,自験例を含めて17例の報告をみるに過ぎない.そこで若干の文献的考察を加えて報告する.

脳室内嚢胞性髄膜腫の1例

著者: 安間芳秀 ,   森健太郎 ,   前田稔

ページ範囲:P.1131 - P.1135

I.はじめに
 側脳室に生じる髄膜腫は全髄膜腫中1-2%の頻度と報告されており,更にこの中で嚢胞形成を呈するものは,極めて稀である.われわれは左側脳室体部に主座を置く嚢胞形成を伴った髄膜腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

吸引分娩による頭血腫に頭蓋骨骨折を伴わない硬膜外血腫を合併した1例

著者: 奥野孝 ,   宮本昌彦 ,   板倉徹 ,   上野雅己 ,   清水美奈 ,   南出晃人 ,   駒井則彦

ページ範囲:P.1137 - P.1141

I.はじめに
 分娩,娩出時の骨盤胎児不均衡,遷延分娩の際に用いられる吸引分娩は,1957年にMalmstrom14,15)により導入されて以来その有用性ならびに安全性が報告されてきた11,19,20).しかしながら頭血腫等の分娩時頭部外傷の合併症が少なからず報告されている1,2,8,12,20,23,24).今回われわれは,頭血腫に頭蓋骨骨折を伴わない硬膜外血腫を合併した症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

Gd-DTPA MRIが診断に有用であった大嚢胞性頸髄神経鞘腫の1例

著者: 佐藤光夫 ,   近藤明悳 ,   大塚信一 ,   田辺英紀 ,   松浦伸樹 ,   長谷川浩一 ,   沈正樹 ,   斉木雅章

ページ範囲:P.1143 - P.1147

I.はじめに
 脊髄神経鞘腫は全脊髄腫瘍の約40-60%を占め,最も頻度が高い3,14).本腫瘍はその大部分が充実性で,時に小嚢胞形成を伴うことはあるが,充実性の部分が非常に乏しく,大嚢胞を形成した症例の報告は極めて稀である1,2,4,11,14,15,17)
 今回,著者らはC5前根から発生し,単房性大嚢胞を形成した極めて稀な頸髄神経鞘腫の1例を経験し,これをGd-DTPA造影MRIにて術前診断し得たので,若干の文献的考察を加え報告する.

左右血腫腔が交通性を有していた成人両側慢性硬膜下血腫の1例

著者: 都築伸介 ,   山田日出雄 ,   菅谷睦 ,   橋爪敬三

ページ範囲:P.1149 - P.1151

I.はじめに
 成人慢性硬膜下血腫が両側に存在する場合,左右同時の穿頭血腫除去術が治療の原則である4).今回われわれは左右血腫腔が交通性を有し,一側のみの穿頭術で治癒した両側慢性硬膜下血腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第21巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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