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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科21巻2号

1993年02月発行

雑誌目次

医惟在活物窮理

著者: 駒井則彦

ページ範囲:P.109 - P.110

 華岡青洲(1760-183)は蔓陀羅華(主成分はヒヨスチアミン,アトロピン,スコポラミンなど)を主薬とした「通仙散」により全身麻酔下に乳癌の摘出に成功したことで有名である.最近では青洲の妻加恵と母於継の葛藤が中心に描かれている有吉佐和子の小説「華岡青洲の妻」で話題になった.しかし,青洲は外科医としてのみならず教育者としても卓越した医学者であった.
 若き日の京都遊学中,中国の名外科医「華佗」を憧憬崇拝し目標としていた.華佗は中国の三国時代(220-280)の名外科医で,「魏志」によれば蔓陀羅華を主薬とした麻酔剤「麻沸散」を用いて多くの切開手術を行っていたようである.蜀の国の名将であった関羽も彼の手術をうけたという.華佗は魏の曹操の診察を頼まれ,脳膿瘍(?)で開頭術が必要であると診断し,逆に疑惑をうけ投獄され結局獄死したのである.残念ながら華佗の医術や処方に関する貴重な記録は後難を恐れて焼却され,わずかに魏志に記載されているのみである.1700年前既に脳膿瘍の診断が出来たとすれば非凡な脳外科医である.現在でも画像診断の助け無しに脳膿瘍を診断出来る医師がどれほどいるであろうか.

連載 脳循環代謝・2

SPECTを用いた脳循環測定法

著者: 松田博史

ページ範囲:P.111 - P.118

I.はじめに
 Single Photon Emission Computed Tomography(SPECT)とは,体内に投与された99mTcのような単光子放出体から放出されるガンマ線の分布を体軸と垂直な種々の方向から測定し,これらのデータを合成することによって体軸に垂直な断層面のアイソトープ分布を求める方法をいう.脳血流SPECTを中心とした最近の中枢神経核医学の発展はめざましく,局所の脳機能をインビボで非侵襲的に評価することが容易となった.以下,脳血流SPECTに用いられる放射性医薬品の特徴およびその臨床的有用性を中心に述べる.

総説

胎生期水頭症—その診断と出生後の病態の評価

著者: 伊東洋

ページ範囲:P.119 - P.128

I.はじめに
 中枢神経系の奇形の胎生期診断には超肯波診断装置の開発進歩に負うところが少なくない.同時にコンピューター診断装置によ精度の高い診断が可能となった.しかし,一方では母体内での早期治療の是非を論ずる期を迎えるに至り社会倫理学的川題を含め論議の中心は新たな段階に人ってきた.既に本邦では羊水内alpha-fetoproteinなどのmarker検査により,神経管閉鎖不全症の胎生診断を試みてきたが画像診断の普及と診断精度の高さからtrimester第1-2期15)に奇形や形態変化をrealtimeに診断出来るようになった.しかしながら,この手技を用いても解決されない問題がある.それは奇形を合併した脳組織の解剖学的構造の評価,特に診断時期における脳室/脳実質幅比,脳奇形の程度9),脳室内外での髄液の進行性貯留と子宮内での脳室内髄液圧,脳室拡大の判断が今一つ不明確であるという点である.したがって画像診断のみでは胎児脳の病態分析は不十分なことが少なくない12-14).現在,このような水頭症病態では胎内で外科的治療を進めるには余りにも資料が少ない.したがって,分娩後早期に病態分析を確定することが必要である.
 本稿では形態上の胎生期診断例と出生後,これら症例が示した水頭症病態像を新生児頭蓋内圧,髄液内代謝物質など2-3の補助的検査を交え分析し,その予後成績について述べ胎生期水頭症の外科的治療とその限界に考察を加えた.

研究

頭部外傷における二次性神経損傷の原因と治療—劇症型talk and deteriorate症例の検討から

著者: 山上岩男 ,   山浦晶 ,   礒部勝見

ページ範囲:P.129 - P.133

I.はじめに
 Langfittらは,外傷性脳損傷のメカニズムとして,direct mechanical injury of axon(diffuse axonal injury),brain ischemia and brain swelling, hemorrhage, edema,neurotransmitter failure,“toxic”substancesの6つをあげている6).これらの6つのメカニズムのうち,directmechanical injury of axonは,外傷そのものにより外傷と同時に発生する一次性神経損傷であるが,他の5つのメカニズムは,外傷後,時間の経過とともに現れる二次性変化であり,これらによりもたらされる脳損傷は,二次性神経損傷と考えられる.つまり,頭部外傷に伴い発生する神経損傷は,一次性神経損傷と二次性神経損傷に大別される.
 頭部外傷急性期における治療の主眼は,二次性神経損傷の予防と治療に向けられなければならないが,各々の症例において,二次性神経損傷の原因と適切な治療法を,明確にすることは容易ではない.特に,重症頭部外傷においては,多くの場合,一次性および二次性神経損傷が混在し,両者を区別することは難しい.しかし,いわゆるtalk and deteriorate(T & D)においては,一次性神経損傷は軽度で,二次性神経損傷がその病態のほとんどを占めており,症例の転帰も二次性神経損傷により左右されている9,12-15).T & Dは,外傷性の二次性神経損傷を臨床的に検討する上で,格好の対象と考えられる.

癒着性くも膜炎による脊髄空洞症の臨床像と治療

著者: 鎌田恭輔 ,   岩崎喜信 ,   飛騨一利 ,   阿部弘 ,   井須豊彦

ページ範囲:P.135 - P.140

I.はじめに
 MRI等の画像診断の向上に伴い,キアリ奇形を伴う空洞症をはじめ,様々な原疾患による2次性の脊髄空洞症も認められる様になった.最近,このような脊髄空洞症に対し,その病態を考慮した種々の治療が試みられている1,3,5-16,18).中でも癒着性くも膜炎に続発する脊髄空洞症は,くも膜の癒着による髄液循環障害をはじめとした種々の病態が論じられ,これに対する治療法としては,髄液をくも膜下腔外に排除するsyringo-peritonealshunt(以下S-P shunt)が主流となっている1,8,13,15,17)今回.われわれは癒着性くも膜炎による脊髄空洞症の9症例で,MRI等により,くも膜の癒着や脊髄の変形の部位,及び空洞の範囲との関係を分析した.
 さらに,当科の癒着性くも膜炎による脊髄空洞症に対する治療法と,その結果について検討し,文献的考察を加えたので報告する.

頭頸部動脈に対する経皮的血管形成術後のFollow-Up血管造影—再狭窄について

著者: 森貴久 ,   有澤雅彦 ,   本田信也 ,   福岡正晃 ,   栗坂昌宏 ,   森惟明

ページ範囲:P.141 - P.146

I.はじめに
 1964年にDotterとJudkins5)は,入間の股動脈の経皮的血管形成術(Percutaneous Transluminal Angio—plasty:PTA)に初めて成功し,将来この手技が全身の様々な血管に応用されるだろうと予想した.1977年,Gruentzig6)が人間の冠状動脈に対するballoonを用いたPTA(Balloon Angioplasty)に成功して以来,PTAは主に心臓領域でPercutaneous Transluminal CoronaryAngioplasty(PTCA)として発達してきた.本邦でも,PTCA施行症例数が10,000例を越えた施設がある.しかし,頭頸部動脈に対するPTA9,13)は,おそらく(1)末梢塞栓の発生に対する危惧,(2)経験者の不在,(3)器具開発の遅れ,等の理由から心臓に比べて著しく遅れている.
 PTCAにおいて再狭窄は,未だ解決されない問題として残っており,follew-up血管造影は厳密に行われている.一方,本邦においても頭頸部領域のPTAが報告されるようになったが,follow-up血管造影を厳密に行って,再狭窄の問題を考えた上での報告はまだ無い.われわれの施設では,PTCAのプロトコールを応用して頭頸部のPTAを行い,3ヵ月後にfollow-up血管造影を行ったので,その結果を孝察を加えて報告する.

CT誘導下経蝶形骨洞腫瘍摘出術9症例の検討

著者: 北澤和夫 ,   奥寺敬 ,   竹前紀樹 ,   小林茂昭

ページ範囲:P.147 - P.152

I.はじめに
 われわれは,脳神経外科手術室に手術室用CTスキャナーシステム8)を導人し,様々な応用について検討報告してきた.今回は手術室用CTを新たに経蝶形骨洞腫瘍摘出術に応用し,9症例のトルコ鞍近傍病変に対しCT誘導下経蝶形骨洞腫瘍摘出術を行った.そこで本法の有用性ならびに従来のX線透視装置を用いたHardy法との比較につき検討を加え報告する.

症例

後頭骨Monostotic Fibrous Dysplasiaの1例

著者: 田島秀則 ,   池田幸穂 ,   安久津靖彦 ,   山下陽一 ,   水成隆之 ,   中澤省三

ページ範囲:P.153 - P.156

I.はじめに
 fibrous dysplasia(線維性骨異形成)は骨髄の線維性結合組織による置換を主病因とし長管骨をはじめ全身の骨を侵す慢性内因性骨疾患である7,10).脳神経外科領域では顔面骨や頭蓋底の発生例は散見されるが後頭部は稀である1,2).今回われわれは後頭部腫瘤で発生した,後頭部monostotic fibrous dysplasiaの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

第4脳室底部海綿状血管腫の摘出後,幻覚症とone and a half syndromeが見られた1例

著者: 藤井登志春 ,   朴在鎬 ,   小出謙一郎 ,   宇野英一 ,   土屋良武

ページ範囲:P.157 - P.161

I.はじめに
 今回われわれは,第四脳室底部の海綿状血管腫の術後,一過性に幻視を中心とした幻覚症とone and a half症候群を合併した1例を経験したので報告する.

Orbitofrontomalar Approachにより全摘出した大脳脚海綿状血管腫

著者: 中瀬裕之 ,   大西英之 ,   東保肇 ,   宮本享 ,   渡部安晴 ,   伊東民雄 ,   山田圭介 ,   芝元啓治 ,   唐澤淳

ページ範囲:P.163 - P.166

I.はじめに
 海綿状血管腫は,中枢神経系奇形の5%から13%を占め3,7),一般に頭蓋内出血・けいれん・脳局所症状等で発症する.MRIの導入により無症状で診断される症例がふえているが,自然経過の明らかでない現時点では手術適応に関しても議論の多いところである5)
 一方,脳幹部海綿状血管腫の報告は稀であるが,出血にて発症した症候性脳幹部海綿状血管腫は,高率に再出血し死亡率の高いことより,積極的な摘出術の必要性が強調され,直達手術の報告も増加している3,4,6,7,9-15).今回われわれは,Orbitofrontomalar approach(以後,OFM approach)にて全摘し得た大脳脚海綿状血管腫を経験したので,手術術式を中心に報告する.

凍結乾燥硬膜が原因と考えられたCreutzfeldt-Jakob Diseaseの1例

著者: 高山昌奎 ,   初田直樹 ,   松村憲一 ,   中洲敏 ,   半田譲二

ページ範囲:P.167 - P.170

I.はじめに
 Creutzfeldt-Jakob disease(以下CJD)は非定型ウイルスによる遅発性感染症で発症後1年以内に死亡ないし重篤な状態に陥る疾患である.乾燥凍結硬膜を介しての感染と考えられうるCJD列は1988年にThadaniが初めて報告して以来これまで4例が報告されている6,7,9,11).われわれも最近同様の1例を経験したので報告する.

鞍外進展を示す下垂体腺腫を伴った前床突起下動脈瘤の1例

著者: 松山武 ,   増田彰夫

ページ範囲:P.171 - P.175

I.はじめに
 下垂体腺腫と脳動脈瘤の合併例は,過去に多数の報告がされている2,3,6,9,10-12).しかし下垂体腺腫とトルコ鞍部動脈瘤の合併例に対し,腺腫を摘出し同時に動脈瘤のクリッピングを行い得たという報告は非常に稀である4).
 今回,われわれは鞍外進展を示した下垂体腺腫と前床突起下動脈瘤に対し腺腫摘出後,cntralateralに動脈瘤のクリッピングを行いえたので,若干の文献的考察を加え報告する.

滑車神経単独麻痺で発症した前頭蓋底Mixed Dural-pial Arteriovenous Malformationの1例

著者: 山本正昭 ,   福島武雄 ,   阪元政三郎 ,   橋本隆寿 ,   朝長正道 ,   後藤勝弥

ページ範囲:P.177 - P.181

I.はじめに
 硬膜動静脈奇形は横静脈洞・S状静脈洞部や海綿静脈洞部に多く,前頭蓋底にみられることはまれである7-8,10).また前頭蓋底の硬膜動静脈奇形の大部分の症例は,脳内出血やくも膜下出血などの頭蓋内出血で発症し,その他の部位に発生した硬膜動静脈奇形と発症様式が異なることが特徴とされている6-8,10)
 われわれは滑車神経単独麻痺で発症した症例を経験したので,症状の発生機序を中心に報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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