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文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科21巻5号

1993年05月発行

文献概要

初期臨床研修制度を考える

著者: 田渕和雄1

所属機関: 1佐賀医科大学脳神経外科

ページ範囲:P.385 - P.386

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 この拙文が読者諸賢の目に触れる頃,丁度各大学では新卒研修医の若々しい活気が医局に漲っている時期ではないだろうか.毎年,脳神経外科の新入局生歓迎会の席上,私が必ず話すことは,“数多くある医局のなかで,昼夜を問わず最も多忙で,私的時間がなくデートもままならぬ脳外科を選んだ,その大英断に心より敬意を払います.いかに医師過剰時代がこようとも,神経科学によせる情熱と根気さえ失わなければ,脳神経外科を専攻して良かったと思うであろう”と.しかし内心,新卒研修医にたいする臨床医として備えるべき基本の指導,専門医育成を目指したより質の高い教育は現状のままでいいのかなど,自問自答するときいずれも実に心許ない限りである.
 さて,いきなり少し硬い話になるが,昨年(平成4年)9月に厚生省の医療関係者審議会臨床研修部会より,今後の卒後臨床研修制度の具体的改善方策に関する提言がなされた.ご存じの方も多いと思うが,この提言では卒後1臨床研修制度を今後改善していくうえでの要点が2つ指摘されている.その一つは研修医をり1き受ける各医療施設に初期臨床研修到達[標を組み込んだ2年間の「研修プログラム」の作成と,同時にそれを公表することを要請していることである.もう一つは大学病院や臨床研修指定病院と組み合せることにより,その他の医療施設群も研修施設として認められるということである.現在,厚生省の委託をうけて医学教育振興財団が中心となり,いくつかの医療機関と診療科独自の「卒後研修モデルプログラム」の作成が進行中で,この新しい制度は平成6年度から施行される予定のようである.厚生省主導の一方的な新制度とはいえ,私などいわゆる新設医科大学で研修医の指導に携わっている立場からは,将来この制度が実質的かつ有効に運用されるようになることを願っている.しかし,当面する問題は既存のいろいろな制度とかこれまでの慣習などとの整合性をいかに無理なく調整してゆくのかということであろう.今後,この制度は脳神経外科を含む診療各科がそれぞれの臨床研修の在り方を検討していく際,直接大きな影響を及ぼすことになるものと考えられる.言うまでもなく既設の伝統校といわゆる新設医科大学とで,あるいは各診療科問でもこの新制度に対処する姿勢に自ずと相違が生じてくることは当然予測されるところである.我々が携わっている脳神経外科では日本脳神経外科学会が中心となり早くから専門医制度が確立され,今日に至っている.今回の初期臨床研修制度力渓施されることになると,現行の専門医受験資格とか脳神経外科の研修内容なども,もう一度見なおす必要が生じてくるのではないだろうか.これからの口本の医療を支え,国民の信頼を担う着い医ll市達が,将来の専攻とは直接関係なく卒後2年間,臨床医としての基本的な事柄について系統だった研修を積むことは極めて重要であり,多少の不都合は我慢することにして,その趣旨には大いに賛同したいと思う.これを機会に現行の各訓練施設での脳神経外科専門医育成のための研修に関しても,たとえば日本脳神経外科学会などが中心となって,初期臨床研修から脳神経外科専門医の育成までを見据えた,一貫性のあるより合理的な研修内容を早急に作成すべき時期がきていると考える.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

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