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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科21巻6号

1993年06月発行

雑誌目次

脳外科から手術がなくなる日

著者: 能勢忠男

ページ範囲:P.481 - P.482

 私が脳神経外科を志して早や四分の一世紀が過ぎようとしている.入局した頃は術後の脳浮腫との戦いで主治医は病棟で不眠不休の連続であった.この頃ステロイドが広まり始め,この薬のおかげ(本当はどうかは定かでないが信じる者は救われた)で,窮地を救われた様に思われた.
 その後,術野の照明用具であるクリニカライトに代わり手術用顕微鏡が導入され,術野も明るく,かつ拡大され手術が安全にかつ侵襲も極端に少ないものとなった.この手術顕微鏡の導入のおかげで術者も主治医も病棟での睡ずの番はめっきり減った.次に起こった新しい波,超音波手術機器やレーザーメスの導入は狭い術野での手術操作をより容易なものとし,かつ多くのモニタリングシステムの併用により,手術はますます安全性を増し,かつ熟練の士にのみ許された手術もより若い脳神経外科医に托されるようになって来た.今はこのInstrumental Surgeryという時代のまっただ中で脳神経外科医は手術の成果を競い合い,新しい術式の開発に余念がない.このような流れの中で近年,血管内手術や定位的放射線療法などの非観血的療法が臨床の途につきはじめた.これは脳神経外科から手術のなくなる日という新時代の黎明期の迎えを暗示させる.

連載 脳循環代謝・6

オートラジオグラフィー法による脳循環代謝研究法

著者: 佐古和廣

ページ範囲:P.484 - P.490

I.はじめに
 オートラジオグラフィーとは放射性同位元素(RI)を含む試料を感光乳膜に密着させ一定期間暴露後に現像し,RIのβ崩壊または電子捕獲によるβ線のエネルギーによって感光した乳剤膜の黒化より試料内のRIの局在を観察する手法である.生体への応用は1946年Be—langer and Leblond3)により紹介されている.1950年代になりKetyら14)のグループによりはじめて定量的オートラジオグラフィーが試みられ,局所脳血流測定方法が報告された.その後各種トレーサーの開発,とりわけSokoloffら30)によるdeoxyglucose(DG)法は脳局所のグルコース代謝の定量的測定を可能とし,脳循環代謝の研究に大きく寄与した.
 オートラジオグラフィーはその観察法の違いにより,マクロオートラジオグラフィー,ミクロ(光顕)オートラジオグラフィー,電顕オートラジオグラフィーに分けられる.また乳剤膜のかわりにγ線検出器を用いることによりSingle Photon Emission Computed Tomography (SPECT), Positron Emission Tomography(PET)として生体での観察が可能となり,in vivoオートラジオグラフィーとよばれている.このようにオートラジオグラフィー法は動物実験に限らず臨床においても現在の脳循環代謝研究の最も中心的役割を果たしていることがわかる.本稿では主に定量的マクロオートラジオグラフィーの解説,病的状態に於ける応用をわれわれの仕事を中心に述べる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

頭蓋外血管の再建—解剖を中心とした手術手技

著者: 上田伸

ページ範囲:P.493 - P.501

I.はじめに
 頭蓋外動脈の粥状硬化(atherosclerosis)の好発部位とされているのは腕頭動脈,鎖骨下動脈近位部,椎骨動脈近位部,総頸動脈近位部,総頸動脈分岐部,内頸動脈近位部と椎骨動脈終末部である.臨床的にもこれらの部位は粥状硬化に基づく狭窄ないし閉塞性変化の好発部位であるが,粥状硬化以外にも閉塞性変化をきたすものもあり,このような頭蓋外大血管病変に対しては種々の外科的治療が行われている.これを部位別に分類すると1)大動脈弓近辺の各脳動脈分岐部の病変に対する外科,2)総頸動脈分岐部から内頸動脈起始部の病変に対する外科,3)椎骨動脈終末部の病変に対する外科などになる.各病変に対する治療は外科的療法が採られるかどうかも含めて,症例によってその選択は異なる.しかしながら実際の頭蓋外脳血管の閉塞性病変に対する外科的治療法の内容は,内膜剝離術,血行再建術(transposition,interpositionなどによるバイパス・吻合手術),血管内手術などが主流である.特に血管内手術療法は最近急速に進歩を見せ,急性期の病態に対しても応用が可能になりつつある8).また一方では麻酔,手術機械器具,脳保護の安全対策などの進歩もあり,従来非常に高度で大がかりな手術とされてきた大動脈弓近辺の手術もたとえ開胸術を要しても,さしたる困難もなく手術できるようになっている.また脳外科領域のなかでも最も多く行われている手術のひとつである,頸部頸動脈の粥状硬化巣に対する頸動脈内膜剝離術は,最近は手術成績が向上し薬物療法より好成績を収めている.したがって一方では血管内手術の技法が益々応用範囲を拡大するとともに従来のオーソドックスな外科療法も今後その治療範囲を拡大していくものと思う.その場合言葉は古いが重要なのは基本で,手技的基本とともに局所解剖学の基本をよく理解して行うことである.今回は頭蓋外脳血管手術として,頸動脈内膜剥離術と鎖骨下動脈—総頸動脈吻合術を取り上げ,局所解剖を基本にした手術手技について述べる.

研究

脳虚血再開通後に見られる遅発性の脳血管機能障害

著者: 松本正人 ,   山形専 ,   南川順 ,   橋本研二 ,   菊池晴彦 ,   児玉南海雄

ページ範囲:P.503 - P.508

I.はじめに
 脳虚血再開通後の病態は,虚血の程度すなわち脳血流量の低下の程度と虚血の持続時間とによって決定され,経時的に変化してゆく6,8).この脳虚血再開通後の病態については様々な側面から研究がなされてきたが,そのほとんどは神経細胞についてであり4),神経細胞をとりまく周辺の環境,すなわち神経膠細胞,脳血管細胞,さらに間質系などの変化については十分な検討がなされていない.
 これまでわれわれは脳表の直接的電気刺激によって誘発されるDirect Cortical Response(以下DCR)2,3,9)消失15分間の脳虚血再開通後に脳機能が一度回復したように見えても8-24時間の間に再び悪化する現象,すなわち遅発性神経機能障害が存在することをとらえ,脳虚血からの神経機能の回復の可能性を検討する場合には再開通後長時間にわたる観察が必要であると報告してきた11).また,遅発性神経機能障害の発生と同時あるいはそれ以降の14-30時間の間に頭蓋内圧の上昇がみられ,周囲環境の病的変化によっても神経細胞の障害が引き起こされる可能性があることを示した11).そこで今回われわれは周囲環境の中でも脳血管に着目し,その機能が脳虚血再開通後にどのような変化をするのか,再開通後長時間にわたる観察を行った.また,前回報告した遅発性神経機能障害やそれと同時あるいは先行する頭蓋内圧上昇と関連性を有しているのかについても検討した.

巨大な高血圧性脳出血に対する定位的血腫溶解吸引術

著者: 堀本長治 ,   山鹿誠一 ,   鳥羽保 ,   辻村雅樹

ページ範囲:P.509 - P.512

I.はじめに
 高血圧性脳出血に対する外科的治療は,従来被殻出血や皮質下出血などを中心に開頭術による血腫除去術が行われてきたが,Backlundら1)によりCT誘導定位脳手術法による脳内血腫除去術が始められ,その有効性と安全性が報告されてくると,視床出血など脳深部の出血も含め多くの高血圧性脳出血に対し定位的な脳内血腫除去術が行われるようになってきた.これは開頭血腫除去術に比較して手術侵襲が少なく,高齢者や重篤な合併症を有する症例に対しても手術が可能であるが6),巨大な血腫や出血が続いている症例では,血腫の除去が不十分となったり,術中における止血が困難となるなどの欠点も見られる.
 われわれはこのような進行性の巨大な高血圧性脳出血で,重篤な合併症や高齢のため開頭術による血腫除去が困難な症例に対して,アルフォナード(trimetaphan camsilate)により積極的な降圧をはかり血腫増大の進行を抑えた後,駒井式CT定位脳手術装置を利用してtwo burr holes drainageをおき,血腫腔をウロキナーゼ溶液で灌流しながら血腫を吸引除去し良好な結果を得たので,本法を紹介すると共に手術成績についても報告する.

肺癌脳転移に対するACNU・CDDP動注化学療法—Mannitol動注併用の有無による比較

著者: 岩立康男 ,   難波宏樹 ,   三枝敬史 ,   末吉貫爾

ページ範囲:P.513 - P.518

I.はじめに
 転移性脳腫瘍に対する治療は,手術と放射線療法が中心であり7,12,13,22),通常の化学療法の効果に関しては否定的な報告が多い4,23,25).脳以外の臓器に原発した癌に対する化学療法はすでに一定の評価を確立しており,脳腫瘍においては血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)の存在を中心とした薬剤の組織移行の問題が大きな壁となっていると考えられる4-6,18,23,25).われわれは,転移性脳腫瘍に対しACNUとシスプラチン(CDDP)を用いた動注化学療法を施行してきたが,今回,肺癌脳転移症例に対しBBBを一時的に開く作用があるとされているマンニトール動注2,9,14-16,18,24,26)を併用し,その臨床的効果を検討した.

脊髄誘発電位測定(片側脊髄刺激法)による脊髄腫瘍の術中モニタリング

著者: 井須豊彦 ,   鎌田恭輔 ,   小林延光 ,   小柳泉

ページ範囲:P.519 - P.526

I.はじめに
 近年,顕微鏡手術の普及により,脊髄腫瘍の摘出は安全に行われるようになってきた.しかしながら,腫瘍摘出をより安全に行うためには,術中,脊髄機能をモニタリングすることは重要と考えられる1,2,4-7,10,13,14)
 今回,われわれは,脊髄刺激法による脊髄誘発電位モニタリング下に腫瘍摘出を行った脊髄腫瘍を経験したので報告する.本報告では,われわれが施行している片側脊髄刺激による脊髄誘発電位測定法の利点並びに問題点について言及する.

クモ膜下出血後の脳室拡大および水頭症

著者: 松本隆 ,   永井肇

ページ範囲:P.527 - P.532

I.はじめに
 クモ膜下出血に伴う髄液の循環吸収障害により脳室拡大を呈する症例があることはよく知られており5,10),急性期脳室拡大と慢性期脳室拡大とに分けて論じられることが多い4-6).クモ膜下出血後の急性水頭症に関する報告は増加しており,その成因や治療に関し論じられている3,5,8)が,慢性水頭症に関してはよく知られた合併症のためか最近の報告は少ない3,10),今回われわれは,クモ膜下出血後の慢性水頭症を中心にその病態,臨床像を明らかとすることを目的としてretrospectiveな検討を行った.また“急性期を中心とした頭部CT scanの所見から慢性期に短絡術の必要となる水頭症例をpredictできるか?”という点に関しても検討を加えたので合わせて報告する.

症例

転移性脳腫瘍出血で発症した睾丸卵黄嚢腫

著者: 高野尚治 ,   斎藤元良 ,   大部誠 ,   宮坂佳男 ,   矢田賢三 ,   高木宏

ページ範囲:P.533 - P.537

I,はじめに
 睾丸のgerm cell tumorが頭蓋内に転移することは珍しく,全転移性脳腫瘍中0.7%を占めるに過ぎない25).中でも非常に稀な睾丸卵黄嚢腫(yolk sac tumor)が頭蓋内転移による脳内出血で発症した症例を経験したので報告し,文献的考察を述べたい.

頭蓋骨内髄膜腫と肺癌の1重複例

著者: 古閑比佐志 ,   六川二郎 ,   宮城航一 ,   石川泰成 ,   佐村瑞恵 ,   石川清司 ,   久高学

ページ範囲:P.539 - P.543

I.はじめに
 高齢人口の増加と癌の診断及び治療技術の進歩によって重複腫瘍の症例を経験する機会が増加してきた.しかしながら,重複が確認されるのは剖検手術時や異時性の場合が多い.
 今回われわれは,肺癌患者で術前の転移巣検索時に発見した頭蓋骨病変が頭蓋骨内髄膜腫であった症例を経験したので報告する.

Diffuse Idiopathic Skeletal Hyperostosisによる頸椎前面の異常骨棘形成から嚥下障害をきたした1例

著者: 窪倉孝道 ,   山王直子 ,   堀田二郎 ,   小澤仁

ページ範囲:P.545 - P.549

I.はじめに
 嚥下困難を生じる原因には内科的に種々のものが知られているが,頸椎前方骨棘が食道を外側から圧迫することによって生ずるものは比較的に稀2,5,6,11-13)とされている.また,われわれ脳神経外科医の立場から経験する脊椎の退行性変化に由来する様々な症状の中で,嚥下障害は経験する機会の比較的少ないものである.
 最近,われわは頸椎前面に生じた異常骨棘によって嚥下障害をきたした1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

脳下垂体機能不全にて発症し,画像診断上Germ Cell Tumorを疑わせた頭蓋内原発T細胞型悪性リンパ腫の1例

著者: 松野彰 ,   橋爪敬三 ,   都築伸介 ,   鈴木一成 ,   柴山英一 ,   石川英彦 ,   松谷雅生

ページ範囲:P.551 - P.555

I.はじめに
 近年頭蓋内原発悪性リンパ腫の報告は,数多くなされているが,そのなかでも,T細胞型悪性リンパ腫の報告は現在われわれが知り得た限りでは,8例のみである4,712,13,15,21,25).また,本例のように,脳下垂体機能不全で発症した例は,過去に3例の報告があるのみである9,16,17).また,頭蓋内原発悪性リンパ腫は,一般に正中構造物に発生するとされているが,本例のように,松果体部,鞍上部,延髄背側部にあたかもgerm cell tumorの播種の如き像を呈した例は,われわれの知り得た限りでは,過去に報告はない.われわれは,そのような稀有と思われる1例を経験したのでここに報告する.

圧可変式シャントバルブのバルブ反転による合併症について—3例報告

著者: 住岡真也 ,   保田晃宏 ,   長沢史朗 ,   太田富雄 ,   清水鴻一郎

ページ範囲:P.557 - P.560

I.はじめに
 圧可変式シャントバルブ(以下SOPHYバルブと略す)は種々の長所を有しており,近年これを使用する機会が増加している.しかし,症例数が増えるとともに問題点も報告されるようになった1-6).今回われわれは本システム使用後に,SOPHYバルブが胸部皮下ポケットで反転したことに気付かず,圧設定を誤り,症状の増悪を来した3症例を経験した.かかる医原性合併症はこれまでのところ報告されておらず,本シャントシステム設置時の留意点や,必要と思われる改良点につき検討したので報告する.

孤立性脳有鉤嚢虫症の1手術例

著者: 三宅裕治 ,   高橋一浩 ,   辻雅夫 ,   長澤史朗 ,   太田富雄 ,   荒木恒治

ページ範囲:P.561 - P.565

I.はじめに
 脳有鉤嚢虫症は,有鉤条虫の幼虫である有鉤嚢虫がヒトの脳に寄生することにより惹起される疾患であるが,本邦では比較的稀なものであり,文献で渉猟し得る限りでは今までに15例が報告4-6,8,13,15-17,20,22,23)されているのみである(Table 1).今回われわれは,痙攣発作で発症した脳有鉤嚢虫症例を経験したので,そのCT, MRI所見と共に若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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