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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科21巻7号

1993年07月発行

雑誌目次

華佗と開頭術

著者: 古和田正悦

ページ範囲:P.573 - P.574

 後漢の名医である華佗(141?−208年)が麻沸散による全身麻酔で開腹術を行ったことはよく知られており,中国外科学の鼻祖とされている.その華佗が開頭術も行ったように伝聞されている.有史以前に穿頭された頭蓋骨がむしろ稀にしか発掘されない東洋において,古代に開頭術を行って史書に名を残す人物はいったい誰なのか,かねてから興味を持っていたので,昨年と一昨年の訪中の折に,華佗について二・三の耳学問をさせてもらった.
 華佗の医案は『三国志(本伝)』華佗伝・別伝と『鍼粂甲乙経序』にみられる22例で,『後漢書』方術伝やその他の医書の医案はすべて『三国志(本伝)』と重複しているという.そのうち開腹術は2例で,1例が完治し,他の例は10年後に死亡する.しかしながら,開頭術の記載はない.強いて頭部疾患の医例を求めれば,羅貫中による小説『三国志演義』第七十八回「治風疾風医身死」に「眉間生一瘤」を切開する医話がある.ある人が眉間に瘤ができて,かゆくてたまらないため,華佗に見せると,「その中に飛ぶものがいる」と言って,それを切開したところ,一羽の黄雀(ニュウナイスズメ)が飛び立ち,病人は治るのである.

連載 脳循環代謝・7

脳循環代謝研究のための動物モデル

著者: 田村晃

ページ範囲:P.577 - P.583

I.はじめに
 脳の循環測定法は,篠原らの総説に書かれているような変遷を経て,PETをはじめとする画像診断機器による優れた方法が使用されるようになってきた.動物実験に使用される脳循環測定法も,電極などの局所刺入法や摘出脳での観血的測定法から,CT,PETなど臨床機器を使用する非観血的測定法に至るまで様々である.使用する測定法により,モデル動物もサル〜ラットなど適したものを選択する必要がある.本稿では,脳血管障害を中心に各種の実験動物モデルについての概略を述べる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Falcotentorial Junction Meningiomaの手術

著者: 浅利正二 ,   大本尭史

ページ範囲:P.585 - P.603

I.はじめに
 松果体部に発生する髄膜腫は比較的稀であり,松果体部腫瘍の8%程度とされている29).この部に発生する髄膜腫は,その発生部位は硬膜(いわゆるfalcotentorialjunction)から発生するもの,硬膜に付着部を持たないvelum interpositumに発生するもの,およびpinealbodyのconnective tissueから発生するものに分けられている.われわれはこれまで6例のfalcotentorial junc—tionから発生した髄膜腫(falcotentorial junction menin—gioma,以下FTJM)を経験した.このFTJMの発生頻度は極めて低く(ちなみに小脳天幕に発生する髄膜腫も全髄膜腫の2.5-3.7%と少ない7,29),文献上はわずかに24報告者により32例が報告されているにすぎない1-3,5,11-13,15,23,25,26,28,30,31,36,39,41,44,45,53,58,59,68,70)
 脳深部に存在し深部静脈系および中脳・視床などの重要な組織と密接な関係をもつFTJMの手術は,その発生頻度が低く経験する機会も少ないことも相まって,脳神経外科医にとって極めて治療の困難な疾患といえる.FTJMを含め松果体部腫瘍に対する手術方法については,歴史的に幾つかの方法が報告されている.これらのうち主なものとしては,infratentorial supracerebellarapproachLM24.50), occipital transtentorial approach20,25),transventricular approach60), parietal transcallosalapproach8),あるいはanterior transcaliosal transveluminterpositum approach47,48)などがある.これらのうち,FTJMに対する手術方法としては,文献上報告された22開頭例によれば,occipital transtentorial approach(後頭葉部分切除の有無を問わず)が10例5,11,25,26,28,31,36,45,53,70),parietal or occipital interhemispheric approachカ5例3,23,30,39,59),supra-and infratentorial approachが2例30,36), infratentorial supracerebellar approachのみが1例26),その他1例13)および記載の不明瞭なもの3例2,12,68)であった.

研究

内頸動脈後交通動脈分岐部の血管膨隆病変—血管写所見及び術中所見からの検討

著者: 古市晋 ,   遠藤俊郎 ,   西嶌美知春 ,   高久晃

ページ範囲:P.605 - P.609

I.はじめに
 最近は未破裂動脈瘤に対して,積極的に手術が行われている機会が多い1-3).しかし,脳血管写上内頸動脈後交通動脈(IC-PC)分岐部に見られる血管膨隆に関しては,これが真の動脈瘤(AN)であるのか否か診断に苦慮する場合が少なくない.
 私達は,現在まで血管写上長径3mm以上のこの部の血管膨隆26症例28病変に対して外科的治療を行ったが,術中所見では真の動脈瘤は存在せず後交通動脈(Pcom)の起始部そのものが単に拡張しているに過ぎない症例を少なからず経験した.
 本論文では,これらの症例の術中所見と血管写所見を対比し,本病変の形態的特徴及び診断治療上の問題点につき検討した.

特発性小児脳梗塞例の検討

著者: 吉田真三 ,   山本豊城 ,   吉岡三恵子 ,   黒木茂一

ページ範囲:P.611 - P.616

I.はじめに
 諸外国に比べてモヤモヤ病の頻度が高いわが国においては,モヤモヤ病が進行性の疾患であり,また外科的治療の対象になり得ることから,多くの関心はモヤモヤ病に向けられ,非モヤモヤ病性の小児閉塞性脳血管障害に対する検討は十分とは言い難い。小児における非モヤモヤ病性脳血管障害の特徴として,原因の特定できない特発性のものが多いことは,これまでにも指摘されており,その成因に関しては多くの異論がある。今回われわれは過去10年間において経験した非モヤモヤ病性の特発性小児脳梗塞について検討したので報告する.

血管内超音波の頸動脈への応用

著者: 森貴久 ,   有澤雅彦 ,   福岡正晃 ,   本田信也 ,   栗坂昌宏 ,   森惟明

ページ範囲:P.617 - P.621

I.はじめに
 動脈硬化性疾患の診断と治療に対しては,身体の何処の部位であっても,血管造影は今なお最も重要な検査である.しかしながら,動脈硬化の病理学的形態や,その程度をより正確に評価しようとすると,従来の血管造影では限界がある.また,動脈狭窄に対して,なんらかの外科的治療を加えたとき,血管内径の治療前後の変化以外に,内膜・中膜・外膜に対する影響を調べることは,血管造影では不可能であった.
 近年,動物実験を経て,下肢の動脈や冠状動脈において血管造影を補う検査法として,血管内超音波装置が開発され2,3),血管狭窄の病理学的形態を考える上で,その有用性が報告されている.われわれは,冠状動脈用に開発され,現在わが国で認可されている血管内超音波装置を頸動脈に応用したので,その使用結果を報告する.

症例

視神経交叉部Actinomycosisの1例

著者: 豊田収 ,   野尻健 ,   中島英雄

ページ範囲:P.623 - P.627

I.はじめに
 Actinomycosisは化学療法の発達につれ減少の一途をたどっていると言われ,更に中枢神経系のactinomy—cosisは非常に稀な疾患である.今度感染症の徴候に乏しく,術前の諸検査で脳腫瘍と思われたが,術後病理学的に初めて視交叉部と視神経に限局したactinomycosisと判明し,抗生剤の長期投与にて治癒できた1例を経験した.その診断,治療の問題点について考察した.

頸部神経節に発生したGanglioneuromaの1例

著者: 末武敬司 ,   丹羽潤 ,   奥山徹 ,   平井宏樹 ,   下山則彦 ,   石館卓三

ページ範囲:P.629 - P.632

I.はじめに
 Ganglioneuromaは神経節細胞を有する稀な良性腫瘍で若年成人の後縦隔,副腎,腰仙部神経節に発生する.今回,頸部神経節に発生し砂時計型を呈したgan—glioneuromaの1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

膀胱直腸障害で急性発症した下位胸椎椎間板ヘルニアの1例

著者: 田中信 ,   佐藤秀次 ,   佐々木尚 ,   梅森勉 ,   飯田隆昭

ページ範囲:P.633 - P.636

I.はじめに
 胸椎椎間板ヘルニアは比較的稀な疾患である.その症状に特有なものはなく5,8,9,11,12),また他の部位のヘルニアと異なり,症状は外傷等の誘因なく発現し,緩徐に進行するものが多いため,その診断に苦慮することが少なくない5,8,11,12).この度われわれは,第11-12胸椎椎間板ヘルニアで,急速に膀胱直腸障害を呈し,緊急手術により良好な回復の得られた症例を経験したので,症状の発現機序と手術アプローチの検討を加えて報告する.

嚢胞を伴ったGliosarcomaの1例

著者: 桜井孝 ,   安部重蔵 ,   林龍男 ,   関野宏明 ,   田所衛

ページ範囲:P.637 - P.640

I.はじめに
 Gliosarcomaはanaplastic astrocytomaあるいは神経膠芽腫の2-8%の頻度に併在する4,7,8),頭痛,視力障害及びうっ血乳頭で発症し,大きな嚢胞を伴い壁在結節様を有するgliosarcomaの1例を経験したので臨床像,組織学的診断および画像診断について,文献的考察を加え報告する.

進行性頭蓋骨骨折の1例

著者: 都築伸介 ,   鈴木一成 ,   松野彰 ,   橋爪敬三

ページ範囲:P.641 - P.644

I.はじめに
 進行性頭蓋骨骨折は乳幼児の頭蓋骨骨折線が次第に拡大し,それと共に脳実質障害の進行する病態である7).今回われわれは頭部外傷後18年を経て発見され,手術を施行した1症例につき,特にMRI所見,病理所見を含め,若干の文献的考察を加えて報告する.

両側性後下小脳動脈末梢部動脈瘤の1例

著者: 佐野克弘 ,   早野信也 ,   井淵安雄

ページ範囲:P.645 - P.648

I.はじめに
 後頭蓋窩における動脈瘤の頻度は全頭蓋内動脈瘤の10-15%と少なく,その大半は脳底動脈のupperportion,及び椎骨動脈後下小脳動脈分岐部に発生し,後下小脳動脈末梢部の動脈瘤は稀である.更に両側性のものは極めて稀であり,渉猟し得た限りでは3例の報告があるのみである.われわれは両側後下小脳動脈の末梢部動脈瘤(distal PICA An)の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

孤立性頭蓋骨腫瘤を形成し硬膜下へ伸展した多発性骨髄腫の1例

著者: 田淵貞治 ,   竹信敦充 ,   小早徳正 ,   松本聡 ,   沼田秀治 ,   堀智勝 ,   大浜栄作

ページ範囲:P.649 - P.653

I.はじめに
 多発性骨髄腫が頭蓋骨病変で発症することは稀であり,さらにpunehed out lesionではなく頭蓋骨円蓋部に孤立性の腫瘤を形成することは非常に稀である.そしてそのような腫瘍が硬膜下まで伸展することは極めて稀であり,われわれが検索し得た限り,現在までに1例も報告されていない.今回われわれは孤立性の前頭部腫瘤として発症し,腫瘍が前頭骨を中心に頭皮下から硬膜下腔に伸展していた多発性骨髄腫の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

Cavernous Angiomaに合併した慢性被膜化血腫—症例報告と文献的考察

著者: 奥野修三 ,   久永學 ,   宮嵜章宏 ,   角田茂 ,   榊寿右

ページ範囲:P.655 - P.659

I.はじめに
 一般に脳内出血は急激な症状で発症することが多いが,出血部位や血腫の大きさによっては,長い期間無症状に経過した後,被膜化された占拠性病変として徐々に症状を呈するものがある.これらは慢性被膜化血腫と呼ばれ,現在までに25例の報告がある1,2,4,5,7-13,15,16,18).今回われわれは前頭葉皮質下に発生した慢性被膜化血腫の1例を経験し,これまで記載の少なかったMRIやMR angiographyに関して有用な所見を得ることができ,また被膜の形成機序について病理組織学的に検討したので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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