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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科21巻8号

1993年08月発行

雑誌目次

医師と患者のコミュニケーション

著者: 山本勇夫

ページ範囲:P.667 - P.668

 最近,インフォームド・コンセントの必要性がマスコミにも取り上げられ,様々な医療の場面における医師と患者のあり方が重大な社会問題となっています.
 私が医学部を卒業した昭和44年頃には時として医師と患者の間に不協和音が生ずることもありましたが,それが社会的論議に及ぶことは考えられない状況でした.当時は,今ほど医師と患者の関係が医療上の契約のみとして成立することは少なく,ごくあたりまえに事務的関係を越え,人間的繋りが生ずるような医療であったと思います.

連載 脳循環代謝・8

MRSと脳循環代謝

著者: 宝金清博 ,   鎌田恭輔 ,   阿部弘

ページ範囲:P.669 - P.675

I.はじめに
 核磁気共鳴法(ここではMRと略す)は,現在広く臨床応用が進んでいるが,一般に,画像法(MRIやMRA)と磁気共鳴spectroscopy(MRS)に大別されている.広い意味でMRIを用いた脳循環測定には,非常に多くの魅力的な可能性がある.ただ,われわれも報告してきたような造影剤を用いてT1ないしはT2によるコントラストを利用する方法以外は,いまのところ実用性に乏しい11).しかし,最近,話題のfunctional brain im—agingは,これまでPETにより得られた脳循環の情報が,非常に高い時間,空間分解能で得られるという画期的な可能性を秘めている.
 しかし,本稿では,脳循環を観察する方法としてのMRIに関しては省略し,脳の代謝をとらえる方法としてのMRSに限って述べたい.特に,本稿では,すでにMRSを専門としておられる研究者ではなく,基礎的知識のない臨床の医師を対象として,概説を加える.測定原理や測定方法は,MRS理解(特に,その限界や問題点の理解)にとって重要なことであるが,本稿の主たる目的ではないので,簡単に紹介するにとどめたい.また,臨床のMRSの測定対象となる核種としては,リン31と水素がある.しかし,リン31のMRSの脳への臨床応用は,水素のMRSに比べると,現在,ルーチンの検企という意味では実用化の段階には達していない7).従って,一般の脳神経外科医を対象とする本稿では水素のMRSに関して述べ,リン31のMRSについては他の総説を参考にされたい.

総説

脳腫瘍の分子生物学的特性

著者: 田渕和雄 ,   白石哲也

ページ範囲:P.677 - P.696

I.はじめに
 癌研究の究極の目標は,発癌のメカニズムを解明し,癌を予防あるいは根治させることにあるが,脳腫瘍の研究についても同じことが言えよう.発癌のメカニズムを究明することと癌遺伝子(oncogene)の働きを詳細に調べることは,今では同じことを意味するが,そもそも癌遺伝子の発見とその研究は,1970年代半ばに始まったRNA型腫瘍ウイルスの分子生物学的解析に遡ることができる.この間,特に最近の数年間の癌遺伝子に関する研究の急速な進展には目を見張るものがあり,ヒト脳腫瘍についてもそれらの発生,増殖,分化の機序を遺伝子レベルで理解できるようになりつつある.現在知られている癌遺伝子は,もともと正常な細胞の増殖あるいは分化にとって重要な役割を果たしている遺伝子(原型癌遺伝子,cellular proto-oncogene, c-onc)の変形である場合が多い.従って,このような既知癌遺伝子から産生される蛋白質(癌遺伝子産物,oncogene product, oncopro-tein)は正常細胞が産生する蛋白質と良く似ているが,本来の機能の変化とか異常な発現などが原因となって正常な細胞の増殖抑制あるいは分化の機構が障害され,その結果,細胞の癌化が惹起されるものと考えられてきた.ところが,このように癌遺伝子の活性化が発癌に直接関与していると思われる優性変異に加えて,近年,正常な細胞において癌化を押さえる働きをしていると考えられる癌抑制遺伝子(tumor suppressor gene, anti-onco-gene)の実態が見事に捕えられつつある.癌抑制遺伝子の不活性化,つまり遺伝子の劣性変異によって説明可能な腫瘍が相次いで判明しつつあることは,実に衝撃的な知見の進展と言える.ヒト脳腫瘍の発生機序についても,上述の二つの観点から研究が進められている.一方,プログラムされた細胞死(programmed celldeath; apoptosis)とか細胞の老化(senescence)など既に以前よりよく知られていた現象が,近年の分子生物学的手法を用いた研究により最近再び脚光を浴びている.一方,治療に関する研究では遺伝子をターゲットとしたいわゆる脳腫瘍の遺伝子治療が開発されつつあり,近い将来治療面でのブレークスルーが期待される.本稿では,まず種々の脳腫瘍における既知癌遺伝子の活性化に関するこれまでのおもな知見を紹介し,ついで癌抑制遺伝子,細胞死そして細胞の老化と脳腫瘍との関わりなどについて最近の研究成果を概説し,さらに脳腫瘍に対する遺伝子治療の開発の現況についても言及する.

研究

慢性硬膜下血腫外膜の組織学的検討—発症にいたる血腫腔増大の機序の考察

著者: 長堀毅 ,   西嶌美知春 ,   高久晃

ページ範囲:P.697 - P.701

I.はじめに
 成人の慢性硬膜下血腫は治療法のほぼ確立した疾患であるが,血腫外膜の発生機序及び発症にいたる血腫腔増大の機序などその病態生理については,未だ未解決な問題が残されている.
 本疾患をCTにより経時的に観察すると,初期には血腫腔は低吸収域を示しつつ増大し,時間の経過とともに高吸収域に変化することが知られている6,8,15,20).このことは,発症にいたる血腫腔の増大機序が慢性硬膜下血腫の発生早期とその後では異なる可能性があることを示唆していると考えられる.今回われわれは,手術時に採取した血腫外膜の組織像を詳細に検討し,発症にいたる血腫腔の増大機序について若干の考察を行った.

脳神経外科領域患者の栄養評価

著者: 山中千恵

ページ範囲:P.703 - P.709

I.はじめに
 脳神経外科領域においては,神経学的重症度によって栄養管理方法を考慮する必要がある.しかし従来より脳神経外科疾患患者における栄養評価に関する報告は少なく,栄養管理の指針は確立していない.著者は1)栄養投与量,2)神経学的重症度と栄養評価の関係,3)疾患と栄養評価の関係,に重点をおき,脳神経外科疾患の病態に応じた栄養評価とそれに基づいた適正な栄養管理方法を研究目的として検討し報告する.

脊髄動静脈奇形の治療—特に手術および人工塞栓術の適応について

著者: 飛騨一利 ,   阿部弘 ,   岩崎喜信 ,   蝶野吉美 ,   松沢等 ,   宮坂和男

ページ範囲:P.711 - P.716

I.はじめに
 脊髄動静脈奇形の診断に関しては,従来の脊髄腔造影,選択的血管撮影に加えて,最近ではMRI,MRangiography等の補助的診断技術の飛躍的進歩がみられる.しかしながら,その治療に関してはmicrosurgicaltechnique,人工塞栓術の発達があるとはいえ,脊髄疾患の中でも依然として,最も治療困難な疾患のままであると言わざるをえない.われわれはこの10年間に脊髄動静脈奇形の診断にて,17例に治療を行っているが,現段階における治療手段の適応について検討を加えた.

高齢者重症頭部外傷例の問題点—神経症状,CT所見による分析

著者: 小野純一 ,   礒部勝見 ,   渡辺義郎 ,   山浦晶

ページ範囲:P.717 - P.721

I.はじめに
 近年,平均寿命の延長に伴い,高齢者の頭部外傷は増加傾向を示している.また高齢者の頭部外傷は一般に不良な転帰をたどるとされているが,高齢者の定義に関して詳述した報告は認められない.
 これまで,著者らは形態学的立場から,頭部外傷,とくに脳実質損傷のCT所見分類を提唱し,多岐にわたる検討11,13-15)を加えてきた.年齢別の検討では40歳を境界として,病態・転帰に明らかな差を認めたため14),今回は40歳以上の重症頭部外傷例における神経症状,CT所見と転帰の関係を検討し,転帰の面からみた高齢者の定義と臨床的問題点について分析したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

ガレン静脈瘤様形態を示した脳動脈奇形の1治験例

著者: 姉川繁敬 ,   林隆士 ,   鳥越隆一郎 ,   木原俊壱 ,   宇都宮英綱 ,   小笠原哲三 ,   後藤勝弥

ページ範囲:P.723 - P.728

I.はじめに
 脳動静脈奇形(AVM)のうち深部正中部に発生するものの代表例としてガレン静脈瘤(VGA)が挙げられる.これらの症例における治療はきわめて困難であり,従って予後も不良である.原因の一つとしては,血管異常が解剖学的に深部に存在すること,high flowなことなどが挙げられる4,9).しかし,近年血管内外科の進歩に伴い,術前にembolizationを行うことにより比較的安全に手術へと治療を進めることが可能になってきた1,2,6-9,13,14).今回われわれは還流静脈こそガレン静脈(VoG)ではないが.形態的にきわめて類似した脳動脈奇形に対して,2回のembolization後に手術を施行し,根治せしめたので報告する.

Brachytherapyが有用と考えられた転移性脳腫瘍の2症例

著者: 東久登 ,   松本健五 ,   中川実 ,   津野和幸 ,   古田知久 ,   大本堯史

ページ範囲:P.729 - P.733

I.はじめに
 転移性脳腫瘍の治療としてステロイド剤の投与,放射線療法,手術療法,化学療法,これらの併用療法等が行われているが,その予後は未だ満足できるものではない10).これまでのところ手術と放射線療法の併用療法が有用であるとされているが,手術困難な症例も多く,また放射線照射後再び増大してくる腫瘍に対しては治療選択は限られている4)
 われわれは1987年より主に悪性グリオーマに対して192Irを使用した密封小線源療法(brachytherapy)を行いその有用性を報告6)してきた.今回,転移性脳腫瘍2症例に対してbrachytherapyを施行し良好な結果を得たので報告する.

後頭部皮下に巨大腫瘤を形成した類上皮腫の1例

著者: 米澤一喜 ,   金成有 ,   田中允 ,   足立典子 ,   瀬戸英伸 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.735 - P.738

I.はじめに
 頭部の腫瘤性病変は,日常診療においてしばしば遭遇され,外来にて治療されていることが多い.しかし,腫瘤の大きさや性状によっては鑑別診断が必要な症例も存在する.
 今回,われわれは長年の経過のうちに増大してきた,成人の後頭部皮下に巨大腫瘤を形成した類上皮腫の1例を経験したので,鑑別診断を含めて文献的考察を加えて報告する.

頭蓋内外に進展した気管原発転移性脳腫瘍の1例

著者: 磯部尚幸 ,   北岡保 ,   山中正美 ,   山中千恵 ,   広畑泰三 ,   福原敏行 ,   魚住徹

ページ範囲:P.739 - P.743

I.はじめに
 原発性気管癌は発生頻度が低く,遠隔転移ことに脳転移に関する報告は極めてまれである.一方,全身諸臓器の悪性腫瘍が脳転移を起こす場合,脳実質内,殊に皮髄境界部に転移発育することが多く,硬膜あるいは頭蓋骨への転移は比較的まれである17).今回われわれは,硬膜または頭蓋骨に転移し,頭蓋内外に大きく進展した気管癌による転移性脳腫瘍の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

髄膜腫摘出術後に遅発性血管攣縮を呈した1例

著者: 白坂有利 ,   忍頂寺紀彰 ,   植村研一 ,   篠原義賢 ,   桑原孝之 ,   山崎健司

ページ範囲:P.745 - P.749

I.はじめに
 髄膜腫摘出術後における合併症の中で,術中にクモ膜下出血をきたさなかった場合においては,遅発性血管攣縮によって脳梗塞を発症する症例は稀であり,われわれが渉猟し得た限りにおいては認められない.今回われわれは,蝶形骨縁髄膜腫の摘出術後に脳梗塞をきたし,脳血管撮影所見からその発症機序に遅発性血管攣縮が関与したと考えた1例を経験したので,症例を紹介するとともに,血管攣縮の発現機序について文献的考察を試みたので報告する.

Radiation-induced Cerebrovasculopathyの1例

著者: 池山幸英 ,   阿美古征生 ,   黒川泰 ,   岡村知實 ,   渡辺浩策 ,   井上信一 ,   藤井康弘

ページ範囲:P.751 - P.757

I.はじめに
 脳腫瘍に対する放射線治療は直達手術困難な腫瘍や残存腫瘍の後療法として,また化学療法との併用によりその有効性が確立されている.近年は周辺正常脳組織への影響が最小限に抑えられしかもその治療効果をあげるべくガンマナイフによる治療も盛んに行われ,深部脳腫瘍や脳動静脈奇形等に対してその有効な治療成績が報告されている.一方,放射線照射による合併症の報告も多く,その一つとして照射後脳血管の狭窄,あるいは閉塞性変化をきたし,脳虚血症状を呈するいわゆるradia—tion-induced cerebrovasculopathyの報告も散見される.今回われわれは星細胞腫に対する放射線照射後に脳主幹動脈の狭窄,閉塞性変化をきたした1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

海外だより

アメリカ留学体験記

著者: 岩井謙育

ページ範囲:P.758 - P.759

 1991年10月より1992年9月まで1年間ピッツバーグ大学脳神経外科にて,主に頭蓋底外科について勉強する機会を得ました.そこで,ピッツバーグ大学の脳神経外科を少し紹介したいと思います.有名なのは,Jan—netta先生(microvascular decompression),Lunsford先生(stereotactic radiosurgery),Sekhar先生(頭蓋底外科)この3人が臨床面では世界的に有名だと思います.
 まず,Jannetta先生は現在60歳ぐらいですが,週2—3日microvascular decompressionの手術を,多い時は1日10例ぐらい行っています.対象となる症例は顔面痙攣,三叉神経痛,その他眩暈に対する第8脳神経の減圧,耳鳴に対する第8脳神経の減圧,頸性斜頸に対する第11脳神経の減圧,さらには本態性高血圧に対する左側迷走神経,延髄外側部の減圧と多彩な症例に対して行っています.耳鳴の症例も200例近くあり70%位の治癒率とのことです.また,本態性高血圧に対する治療成績は80%に有効とのことです.しかし,これらの手術でも,術前の神経生理学的な検査が大切だと思われます.また,顔面神経痙攣や頸性斜頸の手術では,術中もMoller先生(neurophysiologyでは有名な先生)と筋竃図を検討しながら手術を進めています.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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