icon fsr

文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科21巻9号

1993年09月発行

文献概要

内科医の目

著者: 小川彰1

所属機関: 1岩手医科大学脳神経外科

ページ範囲:P.767 - P.768

文献購入ページに移動
 学生時代には医学が科学である以上,教科書とは定理や公理の様に動かしがたい真実のみが記載されており,変るべきものではない書物であると考えていた.しかし,世の中が進むに従い治療法は進歩し,各種病態の解明によってより本質的な治療へと様変わりし,脳神経外科学の教科書の内容は大きく変ってしまった.現在,ある部分ではその内容は当時の面影すらなくなってしまった.小生が脳神経外科医を目指した頃は,CTスキャンもMRIもなく,まして機能的診断法としてのSPECT,PETなどは考えられるべくもなかった.また,治療手技としての顕微鏡手術も普及していない時代であった.脳血管写と脳室撮影しかなかった時代と,脳の形態学的診断はもとより機能的診断が可能になった現在とは雲泥の差があるのは当然である.
 さて,脳神経外科について広辞苑を繙いてみた.残念ながら「脳神経外科」あるいは「神経外科」という見出し語は見当たらなかった.「脳外科」に見出しを見つけたが,脳外科とは脳疾患を手術などによって治療する外科の一分野とある.手術というと,最も重要なのが手術適応と思われる.手術適応は教科書や専門書には公理の如く書かれている.では,手術適応は,どの施設においても,誰が手術しようが,公理のごとく普遍的なものであろうか.手術適応は,麻酔,手術,術前後管理を含めた手術に関する全てのリスクとその治療によって得る患者の恩恵と,非手術的治療を選択した場合のそれとを天秤にかけた上での軽重によってのみ計られるべきものであると考える.事実,治療技術の進歩発展に伴う手術の安全性の拡大に伴い,時代によって手術適応も大きく変遷してきたことは周知の事実である.同時に,手術の安全性に関する全てのリスクには施設の診断機器と診断技術,鍛練度,術者の技量,社会的コンセンサスなど多くのファクターが関与するのも当然である.この様に,外科の分野は,内科より一層,施設また脳神経外科医個人の診断治療技量に負うところが大きく,これらの技術技量によって手術適応は大きく変ることも当然のことと思う.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?