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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科22巻10号

1994年10月発行

雑誌目次

卒後研修について

著者: 伊藤治英

ページ範囲:P.901 - P.902

 卒後教育システムの完備が叫ばれている.医術の習得は先輩から盗み取るものと言った徒弟制度は時代にそぐわない.卒後研修のカリキュラムとマニュアルを作製し,到達目標設定が必要である.フイジシャンズジャーナル5巻5号に掲載された卒後研修に関するアンケートによると大学病院では“十分学べる,かなり学べる”は18%,他方“余り学べない,全く学べない”は44%である.多くの学生と研修医はローテイトを希望する.大学における卒後研修の改善策の必要性を痛感する.卒後研修方法の改善としては当教室のローテイト方式,研修医を対象とした定期的セミナーと症例検討会の開催,海外留学,およびビデオ教材とcomputer aided instruction(CAI)の利用がある.ローテイト方式については2科以上の診療科で研修する.初期研修に3カ月の麻酔科研修を必須とし,自由意志により総合診療科,救急部,CCMC(critical care medical center),周産母子センター,神経内科,神経放射線学,および内分泌学から選択し,適宜研修する.慣れて興味が湧いた頃に,次のローテイトへの異動を避けるために研修期間は6カ月を基準とし,総計が2年以内で柔軟に対応する.解剖学,生理学,生化学,薬理学,あるいは病理学など神経系の関連基礎医学を選択し,研鑽できる.研究期間は2年を基準とし,それを越える研究希望者は専門医受験をその延長分だけ遅らせる.
 教室の脳神経外科専門医は独創的専門分野を担当し,診療レベルの向上に努める.担当医は二人制とし,専門医と研修医がペアを組み,man-to-manで研修医を教育する.研修医は3-6カ月毎にペアを組み換え,各専門分野の高度な医療技術を習得し,専門医試験に臨む.今年は幸いに専門医試験に10名が合格した.大学で増加した専門医は臨床研究に専念でき,それだけ専門分野は拡大し,診療レベルの向上が期待される.

連載 脳腫瘍の遺伝子療法:基礎研究の現状と展望・2

アンチセンス,癌抑制遺伝子導入による抗腫瘍効果

著者: 新田泰三

ページ範囲:P.903 - P.909

I.はじめに
 遺伝子治療は,将来のわが国の保健,医療の推進を図るうえで極めて大きな役割を果たす可能性のある治療法の1つであり,その実用化に向けた研究を推進することは医学的には勿論社会的にも重要な課題である.このような状況下,米国に於いては,既に1980年代から遺伝子治療の可能性についてNIH(米国保健衛生研究所)を中心として検討が行われてきた.1990年代には致死的遺伝性疾患であるアデノシンデアミナーゼ欠損症(ADA)の患者に,世界で初めて遺伝子治療が試みられた.その後,遺伝性疾患のみならず癌に対してもこの遺伝子治療が開始されてきている17).一方,わが国においては遺伝子関連の基礎研究が米国に較べて歴史も浅く且つ研究者も少ないのが現状である.
 遺伝子治療とは「疾病の治療を行うために遺伝子を人の体内に導入すること」を意味するが,現在,癌に対する遺伝子治療は悪性黒色腫,神経芽細胞腫,白血病に対して9件が施行されている.癌に対する遺伝子治療は,大きく2つに分類される.1つは癌細胞に各種遺伝子を導入することにより,導入された遺伝子そのもの(アンチセンス遺伝子)あるいは遺伝子産物(癌抑制遺伝子産物や毒素を誘導する代謝酵素)によって癌細胞の増殖を抑制するものであり,他方は癌細胞あるいは宿主側の細胞にサイトカインや細胞接着分子の遺伝子を導入し宿主の腫瘍細胞の増殖を抑制せしめる方法である18,23).後者に関しては,キラーT細胞にTNF-α(腫瘍壊死因子)を遺伝子導入して生体に戻す治療法がNIHのRosenbergらによって行われており,他号で詳述されると考えられる22).本稿に於ては,前者のアンチセンス遺伝子療法並びに癌抑制遺伝子導入による治療法の現況についてまとめた.

解剖を中心とした脳神経手術手技

橈骨動脈を用いたバイパス手術

著者: 上山博康

ページ範囲:P.911 - P.924

I.はじめに
 浅側頭動脈—中大脳動脈吻合術(STA-MCA anasto—mosis)に代表される頭蓋内外の血行再建は,EC/ICBypassの国際共同研究以後,やや減少傾向にあるものの,脳動脈瘤や脳腫瘍などに広く応用され,脳神経外科の手術をより幅広いものにした.これまで種々の血行再建の方法が報告されているが,内頸動脈の遮断が必要な場合など,より多くの血流を必要とする場合は,大伏在静脈を用いた血行再建の報告が多い1,6-8,11,19-24,30).一方,自己動脈片を用いた血行再建は,未だ確立された手術方法とはなっていない.本稿では,われわれがこれまで行ってきた橈骨動脈(radial artery graft)を用いた血行再建の手術手技を紹介すると共に,本法の適応及びその応用について述べる.

研究

クモ膜下出血が否定されたThunderclap Headacheに対する脳血管撮影の必要性—350例の検討

著者: 竹内東太郎 ,   笠原英司 ,   岩崎光芳 ,   樋口睦 ,   小島精一

ページ範囲:P.925 - P.931

I.はじめに
 頭蓋内疾患の検索中に偶然発見された未破裂脳動脈瘤は従来より多数報告されている2,4,8,23,24,29).さらに,近年はMRI angiographyやDSAなどの非侵襲的画像診断の進歩により13,16,18,27),より容易に脳血管疾患の検索が可能となり,脳ドックや未破裂脳動脈瘤に対する治療が積極的に行われている1,14,21,22).今回著者らは,突然発症する激しい頭痛発作をthunderclap headache(TH)と定義して,クモ膜下出血が否定されたTHの患者に対し脳動脈瘤の検索を行い,興味ある結果を得たので,文献的考察を加えて報告する.

ウイリス動脈輪閉塞症に対する各種外科的治療の検討

著者: 川村強 ,   今泉茂樹 ,   桜井芳明 ,   上之原広司 ,   西野晶子 ,   鈴木晋介

ページ範囲:P.933 - P.938

I.はじめに
 近年,ウイリス動脈輪閉塞症(モヤモヤ病)に対しては様々な外科的治療法が試みられているが1,5,6,10,11,18),現在その臨床的有用性についてもまた,様々な評価がなされているのが現状である2,3,4,7-9,12-15,19)
 今回われわれは,本疾患に対して1973年から1992年までに施行し得た各種血行再建術による側副血行路の発育状況,臨床所見及び脳波上の変化を比較検討したので報告する.

鎖骨下動脈,椎骨動脈起始部狭窄症に対するPercutaneous Translumimal Angioplasty(PTA)—治療適応と安全に行うための工夫

著者: 田中正人 ,   滝和郎 ,   宮本享 ,   中原一郎 ,   定藤章代 ,   松本晃二 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.939 - P.946

I.はじめに
 近年interventional radiologyの進歩により冠状動脈,腎動脈,四肢末梢動脈のみならず頭頸部主幹動脈の狭窄性病変に対してもpercutaneous translurninal angio—plasty(PTA)が広く応用されている2,4,6,7,12,13,17,19).われわれは24例の鎖骨下動脈狭窄症,椎骨動脈起始部狭窄症に対してPTAを試み,同疾患の治療適応,治療方針等に若干の知見を得たので報告する.また手技を安全に行うために一部の症例でPTA前に血管内視鏡にて狭窄部内腔を観察した.さらにPTA施行中に狭窄近位部または遠位部にprotective balloonを留置し,distal embolismの予防を行ったのでそれらの方法も合わせて報告する.

近赤外光による脳虚血の評価—頸動脈血栓内膜摘除術中モニタリングから

著者: 山根冠児 ,   島健 ,   岡田芳和 ,   西田正博 ,   沖田進司 ,   畠山尚志 ,   吉田哲

ページ範囲:P.947 - P.953

I.はじめに
 近年,頸部内頸動脈狭窄に対する血栓内膜摘除術(CEA)は外科的治療法として確立されてきている.その有効性に関してはco-operative studyで内頸動脈がsevere stenosisにおいては抗凝固剤を中心とした投薬による治療よりCEAの有効性が示され3,15),mild ste—nosisでは現在,有効性の検討が進行している.日本人の西欧型の食生活の普及により動脈硬化性病変の進行が早まり,今後,CEAを行う機会が増加すると見込まれる.しかし,CEAの有効性を示すためには,CEA後の合併症をできるだけ少なくする必要がある.そのためには技術的な改良,及び手技の熟達もさることながら,術中内頸動脈(ICA)の遮断による脳虚血障害を防ぐことが極めて重要であると思われる.つまり,Willis輪を介した側副血行が不良な症例では内頸動脈遮断により遮断側の脳虚血を引き起こす可能性がある22,23).最近,近赤外線分析装置(near infrared spectrophotometry,NIRS)が脳組織の酸素供給と脳血液量を非侵襲的にモニタリングする目的で使われている11).すでに小児科領域では,新生児期の低酸素による脳損傷を防ぐ目的で利用され,確立されつつある1,25,27).この特徴を利用し,内頸動脈遮断時の脳の側副血行を介した血流動態を評価できないかを検討した.

ラット重症脳損傷の急性期実験モデルにおける病理学的研究—電子顕微鏡および免疫組織学的所見を中心に

著者: 志村俊郎 ,   王運杰 ,   星野茂 ,   小林士郎 ,   中澤省三

ページ範囲:P.955 - P.962

I.はじめに
 近年magnetic resonance imaging(以下MRIと略す)等の画像診断の進歩により,瀰漫性脳損傷は概念として確立されたといっても過言ではないと思われる6).しかしながらその真の病態は,軸索損傷の機序が不明なことからも,未だ全て解明されたとは言いがたい.著者らは,瀰漫性脳損傷の究明には動物モデルにおける種々の衝撃圧の強度による脳損傷の経時的な観察が必要と思われた.そこでわれわれは共著者の王ら12)により作成されたラット重症脳損傷モデルを電子顕微鏡および免疫組織学的に検索したので,文献的考察を加え報告する.

症例

脳腫瘍との鑑別が困難であった外傷性肉芽腫様病変の1症例

著者: 鰐渕昌彦 ,   上出廷治 ,   石黒雅敬 ,   帯刀光史 ,   黒川泰任 ,   吉田豊

ページ範囲:P.963 - P.966

I.はじめに
 外傷による脳挫傷の際には脱落した神経細胞に代わり反応性のグリオーシスが起こることが多い.しかし,挫滅が高度の場合には,グリア細胞自体も傷害され,これに代って血管外膜由来の間葉系組織が増生し,ミクログリアあるいは血管由来のマクロファージ,炎症細胞浸潤を伴い肉芽組織を形成し,最終的には瘢痕組織となることが知られている3).しかし,治癒過程のこうした肉芽組織が,炎症性あるいは異物性肉芽腫様に,周辺脳浮腫を伴った腫瘤を形成したとの報告はない.
 今回,外傷による出血を混じた挫傷巣が,その治癒過程において周辺脳浮腫を伴い,肉芽組織からなる腫瘤を形成したと考えられる症例を経験し,脳腫瘍との鑑別に苦慮した.その放射線学的特徴とともに病理組織学的所見を報告する.

Fronto-orbital Fibrous Dysplasiaに対する頭蓋眼窩形成,視神経管開放術の経験

著者: 七海敏之 ,   日高徹雄 ,   木戸口順 ,   小川彰

ページ範囲:P.967 - P.971

I.はじめに
 前頭骨から蝶形骨にかけて発生するfibrous dysplasia(以下FD)は顔面の変形や眼球の偏位のみならず脳神経を巻き込み視力,視野障害を中心とした多彩な眼症状を引き起すため積極的な治療を必要とする疾患である.本疾患の治療時期に関しては良性疾患であり思春期以降に発育の自然停止をみる例が多いことや,すでに生じた視力障害に視神経管開放術が必ずしも有効でないことなどから症状が進行するまで手術期を遅らす傾向がみられた.しかし最近では顕微鏡手術の進歩に伴い慢性的な視神経の圧迫による視力障害であっても視神経管開放術による視力改善の効果が望めるようになり本疾患の手術時期の検討が必要であると思われる.今回われわれは視力障害のない視神経管狭窄を伴うfronto-orbital FDの1例に対し頭蓋・眼窩形成術と同時に視神経管開放術を行い良好な結果を得ることができたので報告する.

MRSAによる頸髄硬膜外膿瘍の1例

著者: 杉本雅史 ,   玉木紀彦 ,   長嶋達也 ,   穀内隆 ,   冨田洋司 ,   阪上義雄

ページ範囲:P.973 - P.976

I.はじめに
 頸髄硬膜外膿瘍は比較的稀な感染症であるが,その大部分が胸髄に発症し,頸髄に発生するものは非常に少ない.一方メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症は近年増加しており,また多剤耐性の性格を持つため治療困難であり,現在臨床上大きな問題となっている.今回われわれは急性腎不全で発症し,血液透析カテーテルより検出されたMRSAが血行性に頸椎および頸髄硬膜外腔へ波及し,頸髄硬膜外膿瘍を呈したと思われる稀な1症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

鼻性視神経炎の1症例

著者: 草鹿元 ,   山田武 ,   篠田宗次 ,   増沢紀男

ページ範囲:P.977 - P.981

I.はじめに
 眼科及び耳鼻咽喉科領域において副鼻腔疾患と視神経障害との因果関係は古くから論じられている.しかしながら脳神経外科領域においては,少なくともわれわれが検索する限り,いわゆる鼻性視神経炎に関する報告は極めて少ない.これは,鼻性視神経炎患者では一般に副鼻腔炎症状が先行したり,視覚異常のみが前面にでることが多いため,耳鼻咽喉科医や眼科医を訪れることが多いためと思われる.しかしながら先行する髄膜炎症状と視覚障害にて発症する例も少なからずあり5),このような場合,脳神経外科を初診する可能性は十分に考えられる.術前診断に苦慮したが,視神経管開放術により著明な視力回復を来たした鼻性視神経炎と思われる1症例を経験したので,発生機序,診断,治療についての文献的考察を加え報告する.

椎骨脳底動脈血行不全症に内頸動脈狭窄を合併した症例に対して急性期頸動脈内膜剥離術を施行した1例

著者: 平野亮 ,   松村茂樹 ,   前田義裕 ,   橋本祐治 ,   平井宏樹

ページ範囲:P.983 - P.987

I.はじめに
 頸部頸動脈閉塞性病変に対する頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy,以下CEA)は内頸動脈領域の血流改善を目的として行われている.今回われわれは後交通動脈を介して血流が保持されていた椎骨脳底動脈血行不全症の症状増悪例に対して,合併していた頸部頸動脈の高度狭窄に急性期のCEAを施行し興味ある経過を経験したので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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