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連載 脳腫瘍の遺伝子療法:基礎研究の現状と展望・2
アンチセンス,癌抑制遺伝子導入による抗腫瘍効果
著者: 新田泰三1
所属機関: 1順天堂大学神経外科
ページ範囲:P.903 - P.909
文献購入ページに移動I.はじめに
遺伝子治療は,将来のわが国の保健,医療の推進を図るうえで極めて大きな役割を果たす可能性のある治療法の1つであり,その実用化に向けた研究を推進することは医学的には勿論社会的にも重要な課題である.このような状況下,米国に於いては,既に1980年代から遺伝子治療の可能性についてNIH(米国保健衛生研究所)を中心として検討が行われてきた.1990年代には致死的遺伝性疾患であるアデノシンデアミナーゼ欠損症(ADA)の患者に,世界で初めて遺伝子治療が試みられた.その後,遺伝性疾患のみならず癌に対してもこの遺伝子治療が開始されてきている17).一方,わが国においては遺伝子関連の基礎研究が米国に較べて歴史も浅く且つ研究者も少ないのが現状である.
遺伝子治療とは「疾病の治療を行うために遺伝子を人の体内に導入すること」を意味するが,現在,癌に対する遺伝子治療は悪性黒色腫,神経芽細胞腫,白血病に対して9件が施行されている.癌に対する遺伝子治療は,大きく2つに分類される.1つは癌細胞に各種遺伝子を導入することにより,導入された遺伝子そのもの(アンチセンス遺伝子)あるいは遺伝子産物(癌抑制遺伝子産物や毒素を誘導する代謝酵素)によって癌細胞の増殖を抑制するものであり,他方は癌細胞あるいは宿主側の細胞にサイトカインや細胞接着分子の遺伝子を導入し宿主の腫瘍細胞の増殖を抑制せしめる方法である18,23).後者に関しては,キラーT細胞にTNF-α(腫瘍壊死因子)を遺伝子導入して生体に戻す治療法がNIHのRosenbergらによって行われており,他号で詳述されると考えられる22).本稿に於ては,前者のアンチセンス遺伝子療法並びに癌抑制遺伝子導入による治療法の現況についてまとめた.
遺伝子治療は,将来のわが国の保健,医療の推進を図るうえで極めて大きな役割を果たす可能性のある治療法の1つであり,その実用化に向けた研究を推進することは医学的には勿論社会的にも重要な課題である.このような状況下,米国に於いては,既に1980年代から遺伝子治療の可能性についてNIH(米国保健衛生研究所)を中心として検討が行われてきた.1990年代には致死的遺伝性疾患であるアデノシンデアミナーゼ欠損症(ADA)の患者に,世界で初めて遺伝子治療が試みられた.その後,遺伝性疾患のみならず癌に対してもこの遺伝子治療が開始されてきている17).一方,わが国においては遺伝子関連の基礎研究が米国に較べて歴史も浅く且つ研究者も少ないのが現状である.
遺伝子治療とは「疾病の治療を行うために遺伝子を人の体内に導入すること」を意味するが,現在,癌に対する遺伝子治療は悪性黒色腫,神経芽細胞腫,白血病に対して9件が施行されている.癌に対する遺伝子治療は,大きく2つに分類される.1つは癌細胞に各種遺伝子を導入することにより,導入された遺伝子そのもの(アンチセンス遺伝子)あるいは遺伝子産物(癌抑制遺伝子産物や毒素を誘導する代謝酵素)によって癌細胞の増殖を抑制するものであり,他方は癌細胞あるいは宿主側の細胞にサイトカインや細胞接着分子の遺伝子を導入し宿主の腫瘍細胞の増殖を抑制せしめる方法である18,23).後者に関しては,キラーT細胞にTNF-α(腫瘍壊死因子)を遺伝子導入して生体に戻す治療法がNIHのRosenbergらによって行われており,他号で詳述されると考えられる22).本稿に於ては,前者のアンチセンス遺伝子療法並びに癌抑制遺伝子導入による治療法の現況についてまとめた.
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