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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科22巻12号

1994年12月発行

雑誌目次

脳神経外科歴史の旅

著者: 永井政勝

ページ範囲:P.1097 - P.1098

 ここ数年,国際学会で海外に出かける機会を利用して各地の医学史博物館を訪ねるのを楽しみにしている.1989年ロンドンに寄って“The Wellcome Institute of the History of Medicine”を訪ねた.有名な薬品会社の創設者で富豪のHenry Wellcome氏のコレクションを死後まとめたもので,医学史の博物館としては量質ともに世界最大と言われる.筆者が訪れた時,丁度大英自然史博物館の一部に吸収,移転したところであった.博物館の2フロアを占める豊富な資料がよく整理,展示されていた.一つのフロアは専門家向け,もう一つは模型や人形を用いた一般・啓蒙的のものであり,chloroform麻酔や石炭酸による無菌処置などの19世紀の手術の様子を伺う展示にも興味をひかれた.この時Queen Squareの神経研究所のG.T.Thomas教授に会う予定もあり,関連病院の一つであるMaida Vale Hospitalでpontine gliomaのstereotactic biopsyをやっているから見に来ないかということで見学に行った.ロンドン市内西北部にある中規模の病院を訪ね,その古色蒼然たるたたずまいにまず驚嘆したが,188記年Godleeが最初にgliomaを手術したのはこの病院だと聞いて急に懐かしさに似た感概を覚えたものであった.19世紀後半のQueen SquareにはJacksonやFerrierという大物が活躍していたことを背景としてgliomaの診断,外科的治療が進展し,同じ研究所のHorsleyがこれを推進し次の世紀のCushingへとつないで行く歴史を振り返っての感概である.Maida Vale Hospitalの内部ではコンピューターが活躍しているが,外観も改築が始まっていた.21世紀への準備であろうか.
 1992年パリに寄った.パリ大学Sainte Anne病院神経病理のDaumat-Duport教授に予め医学史博物館はじめ医学史ゆかりの施設の見学を頼んでおいたところ,教室の若いドクターが車で案内してくれた.パリ大学周辺であまりにも多くの史跡を見せられて混乱してしまい,正直のところ未だにどこを案内されたかよく同定できないくらいで,まさしく医学史の宝庫である! Musee de l'Histoire de la Medecineがすばらしかったことは記憶に鮮明で,ここでは資料や絵葉書の入手も可能である.医学部の正門に多くの医学者の彫像が並ぶ中で中央にあるのは外科の父Ambrois Pareである.翌日Sainte Anne病院脳神経外科のChodkiewitz教授にご馳走になった時,脳神経外科の歴史をたどる時やはりPareに遡るのではないかとヘンリーⅡ世の事例(1559年フランス国王Henri Ⅱ世が決闘で右眼窩部から脳内に槍が穿通する外傷を負い感染で死亡した事件,Pareと解剖学の祖Vesaliusが呼ばれて治療した.JNS77:964-969,1992)を話題にした.ところが彼は,解剖学的検索のため罪人数人の首を刎ねたりするのは感心しないと言ってあまりPareを賞揚する気配ではなかったのは意外であった.日本人の感覚との違いであろうか.もっともJNSの記載では首を刎ねたのは女王カトリーヌの命令によるとされているが….Pareの生誕の地Ravalの町の記念博物館には彼が用いていたtrephineの手術器具が残っているそうであるが未だ訪ねる機会がない.

連載 脳腫瘍の遺伝子療法:基礎研究の現状と展望・4

薬剤感受性遺伝子導入による悪性脳腫瘍の遺伝子治療

著者: 田宮隆 ,   ,   ,   ,   大本堯史

ページ範囲:P.1099 - P.1110

I.はじめに
 近年,分子生物学の目覚ましい発展により細胞の遺伝子操作が可能となり,外来遺伝子を標的細胞に導入して疾病を治療する遺伝子治療が,基礎的研究にとどまらず臨床的にも積極的に応用されている.現在臨床では,癌に対する遺伝子治療の戦略として,1)抗腫瘍免疫を増強させる方法(例:サイトカイン遺伝子の腫瘍細胞あるいはTリンパ球への導入),2)薬剤感受性遺伝子(suicidegene,chemosensitivity gene)の腫瘍細胞への導入,3)癌抑制遺伝子あるいはアンチセンス癌遺伝子の導入,4)薬剤耐性遺伝子の骨髄細胞への導入,等が行われており1,68),既に26のプロトコールが米国では承認されている64)
 このうち薬剤感受性遺伝子の導入による治療とは,非毒性薬剤(prodrug)を毒性のある活性薬剤に変換できる酵素の遺伝子を腫瘍細胞に導入し,正常細胞にはほとんど影響を与えずに腫瘍細胞のみを選択的に殺傷しようというシステムであり,prodrug-sensitivity gene,chemo—sensitivity gene,drug-susceptibility gene59),suicidegene50,51),drug activating gene68),virus-directedenzyme/prodrug therapy(VDEPT)30),等と呼ばれている.この薬剤感受性遺伝子治療の中で,Ganciclovir/Herpes simplex virus type 1-thymidine kinase(GCV/HSV-TK)遺伝子治療は,1986年Mooltenらによって最初に癌に対する治療応用の可能性が報告されて以来47-49),実験脳腫瘍に対する有効性も多く示され5,6,20,23,59,70,71),1992年にOldfieldらのNational Institute ofHealth(NIH)グループによって,悪性脳腫瘍に対する最初の遺伝子治療として臨床治験が開始された55).この遺伝子治療には,遺伝子が導入された腫瘍細胞のみならず,周囲の非導入腫瘍細胞に対しても抗腫瘍効果がおよぶbystander effectの存在が認められており24,49,59),現在の遺伝子導入方法でも十分効果が期待できる遺伝子治療として注目されている.

解剖を中心とした脳神経手術手技

頸静脈孔近傍部腫瘍の手術

著者: 佐々木富男

ページ範囲:P.1111 - P.1118

I.はじめに
 頸静脈孔近傍部腫瘍として筆者が手術した症例は,jugular foramen neurinoma,,ypoglossal neurinoma,fa—cial neurinoma,glomus jugulare,chordoma,chondrosar—coma,plasmacytoma,cholesteatoma,hepatocellular car—cinomaのmetastasisであるが,ここではjugular fora—men neurinomaとglomus jugulareの手術について記す.

研究

来院後早期に再破裂を来たした破裂脳動脈瘤症例の検討

著者: 安井敏裕 ,   岸廣成 ,   小宮山雅樹 ,   矢倉久嗣 ,   夫由彦 ,   田村克彦

ページ範囲:P.1119 - P.1122

I.はじめに
 破裂脳動脈瘤患者の管理上,動脈瘤の再破裂は予後に大きく影響する最も重大な問題であり,この再破裂を防ぐために,早期手術が広く行われている.著者らも,早期手術を基本としており,来院後の可及的早期にクリッピングなどにより再破裂の予防を行ってきた.しかし,手術施行前の来院後早期に再破裂を来たすことがあり,破裂後数時間という急性期に来院したクモ膜下出血患者の管理の難しさを痛感している.今回来院後早期に再破裂した症例について,その特徴を明らかにし,早期再破裂の予防方法についても検討したい.

右被殻出血におけるDiaschisis—運動機能との相関

著者: 小笠原邦昭 ,   沼上佳寛 ,   北原正和

ページ範囲:P.1123 - P.1129

I.はじめに
 神経線維が破壊されると,その神経線維と結合している遠隔部の神経活動が低下し,さらに同部の循環代謝が低下する現象があり,これはdiaschisisとして知られている1,15,17)
 右被殻出血におけるdiaschisisを検討した第1報にてわれわれは,血腫が内包へ進展すればする程,血腫量が多くなれば多くなる程右運動野および左小脳半球の局所脳循環が低下することを示した18).これはすなわち,血腫による被殻・内包の破壊の程度に従って遠隔部にdi—aschisisが生じているものと考えられた18)

脊髄繋留症候群の神経症状における“Skip Lesion”の成因に関する考察

著者: 谷諭 ,   中原成浩 ,   田中英明 ,   阿部俊昭 ,   神吉利典 ,   野田靖人

ページ範囲:P.1131 - P.1134

I.はじめに
 脊髄繋留症候群(TCS)の神経症状を詳細に検討すると,神経症状の重症度は画像上の脊髄円錐の下降程度と必ずしも相関しないばかりか13),脊髄が尾側から順番に頭側へ侵されるとは限らず,非連続的に離れた脊髄分節の病巣(skip lesion)に相応する神経症状を生じることがある.この代表的な症状として運動知覚障害範囲の非連続性が挙げられるが,さらに核上性の障害として,下肢腱反射の亢進,Babinski反射の陽性,排尿筋無抑制収縮を伴う神経因性膀胱,腰下肢痛などの症状も,この範疇に含まれる可能性がある.このような症状の発現頻度を検討し,発現機序を考察し,さらにTCSにおける神経症状に対する手術効果について検討することができたため報告する.

被殻出血の転帰に関する検討—重回帰分析を用いて

著者: 平野宏文 ,   横山俊一 ,   朝倉哲彦

ページ範囲:P.1135 - P.1140

I.はじめに
 高血圧性脳出血は高血圧治療の普及により近年減少する傾向が見られるが,個々の患者については,一度発症すると後遺症を残し,日常生活を制限される場合が少なくない.この発症後の機能回復においては,麻痺の程度,年齢,治療等,様々な因子が関与していると考えられる2,3).以前より高血圧性脳出血とその予後についてはCT分類,血腫量,血腫の進展様式,神経学的重症度,手術等との関係が個々に検討されてきたが1,4-7,17),むしろ,これら各因子の相互作用を考慮する必要があると考えられる.
 今回,著者らは高血圧性脳出血の中でも最も頻度の多い被殻出血について発症時の所見,検査結果,治療とactivity of daily living(ADL)に関する転帰についての関係を明らかにすることを目的とし,重回帰分析解析の手法を用いて検討した.重回帰分析解析の臨床的な応用に関しては,なお,その適応に問題点のあることも確かであるが,一応の結果を得たので報告する.

症例

鞍上部に発生した異所性下垂体腺腫の1例

著者: 田中敏樹 ,   渡辺一良 ,   中洲敏 ,   半田譲二

ページ範囲:P.1141 - P.1145

I.はじめに
 異所性下垂体腺腫は非常に稀で,その中でも鞍上部に発生したものはさらに少なく,知り得た範囲内では現在までに9例が報告されているに過ぎない10,12,15,17,18,21,24,27,28).今回われわれは,手術により確認しえた異所性下垂体腺腫を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

Deep Sylvian Meningiomaの1小児例

著者: 森美雅 ,   渋谷正人 ,   杉田虔一郎 ,   長坂徹郎

ページ範囲:P.1147 - P.1151

I.はじめに
 小児の髄膜腫は成人に比べ比較的まれな腫瘍であり,小児脳腫瘍のうち1.0-2.9%4,5,14,15)を占めるのみである.しかも,硬膜,脳室脈絡叢に付着を持たないものはさらにまれである.しかし,このような髄膜腫は成人よりも発生頻度が高い4,14)と報告されている.われわれは,硬膜,脳室脈絡叢と付着部を持たずシルビウス裂内に発生したいわゆるdeep sylvian meningiomaの小児例を経験したので,その診断,手術等に関して,これまでの文献報告例を含めた検討を行い報告する.

遺残動脈を有する脳血管障害症例の検討

著者: 原田薫雄 ,   魚住徹 ,   栗栖薫 ,   隅田昌之 ,   中原章徳 ,   右田圭介

ページ範囲:P.1153 - P.1158

I.はじめに
 胎生期には内頸動脈の原基であるprimitive internal carotid arteryと椎骨動脈の原基であるlongitudinal neural arteryの間に多くの動脈吻合枝が存在し,血液の供給がなされている.脳血管系はこれらの吻合枝が次第に消失することによりその完成をみるわけであるが,一部稀に生後まで胎生期遺残動脈として残存することがあり,各種血管障害,脳腫瘍等の診断において偶発的に発見される.今回,われわれは1987年から1993年の6年間に広島大学脳神経外科にて経験された胎生期遺残動脈に脳動脈瘤,脳動静脈奇形を合併した5症例の臨床的特徴について検討したので文献的考察を加えて報告する.

小脳出血とともに出現し血腫除去後に消失した顔面痙攣の1例

著者: 平野亮 ,   越智さと子 ,   官尾邦康

ページ範囲:P.1159 - P.1161

I.はじめに
 現在,顔面痙攣の治療法としてはmicrolvascular de—compressionが最も有効な治療法であり広く行われている1,2).しかしまれではあるが,顔面痙攣が自然消失したという報告もなされている4).今回われわれは,顔面痙攣が小脳出血の発症とともに出現し,血腫除去後に消失した興味ある1例を経験したので報告する.

透析患者に発生した二胞性慢性硬膜下血腫の1例

著者: 宮田賢 ,   山崎駿 ,   岩井泰博 ,   平山昭彦 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.1163 - P.1167

I.はじめに
 CT上多胞性を示す慢性硬膜下血腫は臨床上時に経験されるが,その多くは各胞が互いに連絡しており穿頭術にて良好な結果が得られる.しかし,血腫腔が隔壁にて完全に分離されているような症例では開頭術による血腫および隔壁の除去が必要となるが2),その報告例は意外に少ない1,3,12,14,16,18).今回われわれは透析患者に発生した慢性硬膜下血腫症例で穿頭術後に二胞性血腫であることが判明し,開頭術にて血腫腔が隔壁にて完全に二分されているのを確認したのでその成因,治療につき考察を加えて報告する.

成人期に発症した腰部硬膜内脂肪腫の1例

著者: 今泉俊雄 ,   新谷俊幸 ,   末武敬司 ,   竹田正之 ,   大滝雅文

ページ範囲:P.1169 - P.1172

I.はじめに
 脊髄脂肪腫を構成する脂肪細胞は非常に分化した細胞であり,病理組織学的には,正常脂肪細胞と明かな差異がない2).しかし急速に増大したり2),成人期に発症したりする症例5,8,9,12,14,18,19)が報告されている.一般にcervicothoracic lipoma,lumbosacral lipomaの2群に分けられ,前者は先天奇形との関連は薄く,その意味で腫瘍的性格が強いといわれる.後者は二分脊椎などの先天奇形との関連があり,小児,若年成人に発症するため先天的な腫瘍として知られ12),本来皮下脂肪と連続していることが多く,硬膜内のみに存在するのは稀である4).われわれは成人期発症の腰部硬膜内脂肪腫の稀な1例を経験したので報告する.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第22巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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