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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科22巻3号

1994年03月発行

雑誌目次

いま改めて思う洋の東西

著者: 佐藤修

ページ範囲:P.197 - P.198

 ここであえて脳死体からの臓器移植の是非を問うつもりはない.述べたいのは西欧諸国をはじめ多くの国々で行われている臓器移植手術が何故ここまでわが国では政治問題まで巻きこんだ論議の対象に今日なっているかという点についての一考察である.
 まずそれには私にとって当初不可解とも思われたある体験について触れるのがよかろう.

総説

頸部交感神経節の脳内移植

著者: 板倉徹 ,   中尾直之 ,   駒井則彦

ページ範囲:P.199 - P.205

I.はじめに
 パーキンソン病は50-60歳台で発症し,無動,筋固縮,振戦,歩行障害を主症状とする.その主病変は中脳黒質にあり,中脳黒質内ドーパミン細胞が選択的に死滅し,その結果として黒質線条体ドーパミン路が破壊されることにある.治療としては,ドーパミンの前駆物質である1—dopaが用いられ劇的な効果を示すことはよく知られている.しかしながら近年,1—dopaの長期投与症例が増加するにつれ,1—dopaは症状の改善をもたらすものの,病気を本質的に治療するものではないことが明らかにされてきた.さらに1—dopa長期投与に伴う副作用(効果の減退,on-off現象,ジスキネジア)も大きな問題となってきた.そこで1—dopaに代わる治療として神経組織の脳内移植が行われるようになった.神経組織の脳内移植のドナー組織としては胎児中脳黒質5,6,10,17,34),自家副腎髄質2,4,9,33,35,38)および自家頸部交感神経節19-24,37)が用いられ,実験的および臨床的にその効果が検討されてきた.なるほど,パーキンソン病で失われた中脳黒質ドーミン細胞を胎児中脳ドーパミン細胞で補うことは最も理にかなっている.しかしながら,胎児脳を使用する倫理的問題や,拒絶反応の問題から,いつでもどこでも胎児中脳が脳内移植に用いることが出来るとはいえない.この倫理的問題を解決するため,自家副腎髄質の脳内移植が行われてきたが,その効果には大いに疑問がある13,14,32,40).しかも移植された副腎髄質細胞が,脳内では長期間生存しないことが明らかとなり16,18,41),パーキンソン病に対する副腎髄質脳内移植は,ほぼ否定されるに至った.われわれは胎児中脳黒質に代わるものとして自家頸部交感神経節の脳内移植を考案した.われわれがこの頸部交感神経節をパーキンソン病脳内移植に用いるのは,この神経節内にはノルエピネフリン細胞の他にドーパミン細胞が存在するからである7,8,12,36).本総説においては,われわれが行ってきた頸部交感神経節脳内移植の基礎的研究およびその臨床応用の結果について述べる.

研究

積極的外科治療を行った成人大脳半球悪性神経膠腫死亡例の臨床的検討

著者: 高村幸夫 ,   伊林至洋 ,   森本繁文 ,   田辺純嘉 ,   端和夫

ページ範囲:P.207 - P.213

I.はじめに
 悪性神経膠腫の治療成績は,手術,放射線療法,抗癌剤による化学療法の併用や,免疫療法の開発などにより向上し,患者の延命が得られているとはいえ,いまだ満足の行くものではない.当施設では,初回手術時の広範囲で徹底的な腫瘍摘出と,再発腫瘍に対しては,たとえ複数回であれ可能な限りの摘出術を行う方針を中心とし,同調化学放射線療法や免疫療法など補助療法を付加した集学的治療を行ってきた.
 本報告ではこのような積極的,集学的治療を行った悪性神経膠腫症例の死因を分析することにより,現状での治療上の問題点と,今後の治療の方向性に対し考察を加えた.

脳幹部動静脈奇形の外科的治療—4例の直達手術の経験

著者: 安井敏裕 ,   矢倉久嗣 ,   小宮山雅樹 ,   夫由彦 ,   永田安徳 ,   田村克彦

ページ範囲:P.215 - P.221

I.はじめに
 脳幹部動静脈奇形(以下脳幹部AVM)は発生頻度が低く,その直達手術も困難なものとされてきた14,18).しかし,診断技術の進歩やmicrosurgeryの発達により,徐徐に摘出成功例の報告も増えている.特に1975年にDrakeにより,nidusが実質外(epipial)にある例では神経脱落症状を発生させることなしに摘出可能であることが示されたことは,脳幹部AVMの手術的治療法にとっては大きな進歩であった6)
 著者らはこれまでに4例の脳幹部AVMに対して直達手術を行ったので報告し,その手術的治療を中心に考察する.

高血圧性被殻出血の脳循環

著者: 吉永真也

ページ範囲:P.223 - P.229

I.はじめに
 高血圧性脳出血患者の社会復帰あるいは自立生活を阻害する大きな要因として,高次大脳機能障害が挙げられる.この高次大脳機能障害は出血による局所脳傷害から波及する広範な代謝障害すなわちremote effect1,10)が原因と考えられている.一方局所脳循環動態は高次大脳機能の客観的評価や予後判定の指標として評価されており,多くの報告があるが,経時的な変化を観察した研究は見あたらない.本研究では,高血圧性被殻出血の病態解明,治療成績の向上を目的として,局所脳血流量を経時的に測定し,血腫量,血腫伸展方向,治療法,転帰との相関を検討した.

慢性硬膜下血腫症例にみられる小脳周囲髄液腔(Pericerebellar Fluid Space)の拡張について

著者: 築城裕正 ,   吉田真三 ,   松本茂男 ,   新宮正 ,   佐藤慎一 ,   本崎孝彦 ,   伴貞彦 ,   山本豊城

ページ範囲:P.231 - P.233

I.はじめに
 従来あまり注目されていないが,慢性硬膜下血腫(CSDH)の症例で,CT上小脳周囲に髄液腔(pericere—bellar fluid space=PCFS)の拡張が認められることは稀ではない3)
 そこでわれわれは手術で確認されたCSDH症例を対象にPCFS拡張の頻度や他因子との関係について検討したので考察を加えて報告する.

経上腕動脈選択的脳血管撮影法の有用性

著者: 川尻勝久 ,   松岡好美 ,   早崎浩司 ,   井上丈久

ページ範囲:P.235 - P.239

I.はじめに
 Seldinger12)の経大腿動脈選択的脳血管造影法の報告以来,脳血管撮影はこの方法が広く施行されているが,検査前の剃毛や検査後の安静臥床,さらにそのために排尿困難を訴えることもあり,患者にとってかなりの苦痛を伴う.また高齢者では大腿動脈から大動脈弓にかけて(特に腸骨動脈において)の屈曲,蛇行,狭窄や閉塞のためカテーテルが上行しにくく,さらに大動脈弓にカテーテルが上行してもbraciocephalic arteriesの起始部が大動脈弓から急峻な角度をなしているため11)カテーテルを選択的に挿入することが困難なこともしばしば経験される.われわれは平成2年度より経上腕動脈Seldinger法による,DSAではなく通常の脳血管撮影を行っている.最近では脳血管撮影のほぼ全例にこの方法を用いており,現在までに100例を越えたので,その方法の実際と臨床的有用性について報告する.

症例

プロラクチン産生下垂体腺腫の変性に続発した第三脳室のトルコ鞍内陥入によるEmpty Sella

著者: 浅井潤一郎 ,   藤本司 ,   福島義治

ページ範囲:P.241 - P.246

I.はじめに
 Secondary empty sellaは手術後または放射線療法後のものが多いが,下垂体卒中によるとの報告も見られる3,24).また,トルコ鞍内に陥入するのは,大多数でくも膜下腔であるが,時に第三脳室も陥入する1,18,19,21).われわれは,prolactinomaの鞍内変性壊死部に第三脳室が陥入してempty sellaを形成した症例を経験したので,その形態・発生機序・治療について検討した.

悪性胸膜中皮腫の硬膜転移による急性硬膜下血腫の1例

著者: 佐藤光夫 ,   斎藤利重 ,   山口克彦 ,   佐久間秀夫

ページ範囲:P.247 - P.251

I.はじめに
 急性硬膜下血腫は,多くの場合,重傷頭部外傷に伴って生じるが,時に脳動脈瘤,脳動静脈奇形などの血管障害3)や腫瘍性病変23),血液凝固異常21),特発性の出血11)による報告も散見される.しかしながら,悪性腫瘍の硬膜転移に起因する急性硬膜下血腫の報告は文献上1例のみである23)
 今回われわれは,悪性胸膜中皮腫の硬膜転移により急性硬膜下血腫を来した1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

外傷性中大脳動脈閉塞

著者: 宮田賢 ,   山崎駿 ,   平山昭彦 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.253 - P.257

I.はじめに
 頭部外傷に起因する脳動脈閉塞の報告の多くは内頸動脈に関するもので,その発生機序に関する考察も多い1,5,21,25).しかし中大脳動脈閉塞の報告は比較的稀でその病因に関しても診断困難なことが多い.今回われわれは頭部外傷後に左中大脳動脈の閉塞と再開通を来たしたと考えられた1例を経験したのでその病因,予後につき文献的考察を加えて報告する.

外傷性脳内気脳症の2例

著者: 堀田卓宏 ,   児玉安紀 ,   勇木清 ,   谷口栄治 ,   黒木一彦 ,   橋詰顕 ,   魚住徹

ページ範囲:P.259 - P.263

I.はじめに
 外傷性気脳症は臨床上しばしばみうけられる病態であるが,空気が脳実質内に限局する脳内気脳症はかなりまれでありその報告も少ない1,6,10,13,14).従来より本症の発生には特異な機序が関わっていることが指摘されている8,9).今回,当施設において2例の脳内気脳症を経験したので報告し,本症に対する治療方針を中心に検討する.

脳底動脈狭窄による切迫卒中にPercutaneous Transluminal Angioplasty(PTA)が著効した1例

著者: 山村明範 ,   高村幸夫 ,   八巻稔明 ,   中川俊男 ,   端和夫

ページ範囲:P.265 - P.268

I.はじめに
 椎骨脳底動脈狭窄に対するPTAは,1980年にSundt6)が動脈硬化性脳底動脈狭窄に対して成功させて以来,多くは椎骨動脈狭窄例で保存的治療に反応しなかった慢性期例に試みられている.今回,脳底動脈狭窄による切迫卒中の急性期にPTAを行い,著明な神経症状の改善を得た症例を経験したので報告する.

鞍上部硬膜内脊索腫の1例

著者: 鰐渕昌彦 ,   上出廷治 ,   石黒雅敬 ,   帯刀光史 ,   黒川泰任 ,   吉田豊

ページ範囲:P.269 - P.272

I.はじめに
 脊索腫は胎生期の脊索遺残組織から発生する腫瘍で,仙尾部および斜台部に好発する.腫瘍は骨破壊を伴って,硬膜外に主座をおき,硬膜内へ浸潤することはあるが,硬膜内に原発することは極めて稀である.鞍上部に発生し,頭蓋咽頭腫と鑑別が困難であった硬膜内脊索腫を経験したので報告する.

嚢胞内出血と慢性硬膜下血腫を伴った大脳穹隆部クモ膜嚢胞の1手術例

著者: 大倉章生 ,   野口眞志 ,   弓削龍雄 ,   丸岩光 ,   松永雅道 ,   重森稔

ページ範囲:P.273 - P.277

I.はじめに
 クモ膜嚢胞は全頭蓋内腫瘤の約1%を占めるといわれており1),その大半は中頭蓋窩や後頭蓋窩に発生する.しかし,大脳穹隆部に発生するものは比較的稀である.クモ膜嚢胞に慢性硬膜下血腫を伴う症例は散見されるが,その発生機序については未だ不明な点も多い.今回著者らは大脳穹隆部クモ膜嚢胞と,その直上に限局した慢性硬膜下血腫を伴う症例を経験したが,血腫の形成機序を考える上で極めて示唆に富む症例と考えられた.そこで本例の画像及び手術所見を提示し,その発生機序について若干の文献的考察を加え報告する.

上小脳動脈末梢部破裂動脈瘤の1例—手術アプローチについての考察

著者: 窪田惺 ,   大森重宏 ,   多田羅尚登 ,   長島親男

ページ範囲:P.279 - P.283

I.はじめに
 上小脳動脈末梢部破裂動脈瘤の発生頻度は0.2%19)と極めてまれで,現在まで20数例の報告をみるにすぎない1-3,5,7-9,11-18,20).最近,われわれは上小脳動脈末梢部の破裂性動脈瘤を経験したので報告すると共に,その手術アプローチについて考察する.

悪性転化を示した髄膜腫—meningothelial typeからpapillary typeへ変化した1症例

著者: 山崎義矩 ,   川野信之 ,   諏訪知也 ,   伊藤比呂志 ,   矢田賢三 ,   桑尾定仁

ページ範囲:P.285 - P.289

I.はじめに
 髄膜腫は良性腫瘍であるが,肉眼的に完全摘出された後でも10%前後の再発があることが知られている.一般に再発腫瘍の組織型は初回手術時のものと同じであることが多いが,稀には肉腫や他の悪性型髄膜腫に変化することがある11)
 今回われわれは,初回手術標本の組織型がmenin—gothelial meningiomaであったものが,再発時にmixed papillary & epithelial meningiomaに変化した症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

報告記

第11回国際定位的・機能的脳神経外科学会(メキシコ,Ixtapa)

著者: 大江千廣

ページ範囲:P.290 - P.291

 第11回国際定位的,機能的脳外科学会の学術集会は,10月11日から15日まで,実質4日間メキシコ,Ixtapaのウエスチン・ホテルにおいて行われた.これは,4年前にわれわれが前橋においてお世話をした第10回国際学会に続くものである.今回は国際脳神経外科学会が同じくメキシコのアカプルコにおいて,この会にひき続いて行われたのに期を一にして開かれた.オーガナイザーは,アメリカのGildenbergでメキシコのステレオ仲間と協力して立派な会を運営してくれたのは会長の私としては大変うれしいことであった.
 Ixtapaはメキシコシティから飛行機で西へ約一時間,太平洋岸にある静かなリゾート地のひとつである.多少暑いかというくらいで,日本の気候とあまり違いのないメキシコシティ(ここで前日に微小電極のワークショップが開かれ,小人数で活発な勉強会がおこなわれた)からIxtapaの飛行場に降り立つと,先ず,む一っとした暑さにおどろいた.それに飛行場の周辺の緑の灌木に白や黄色の蝶々がたくさん飛び交っているのにも驚かされた.あまり暑いのは学問をするのに適していないのでは,と一寸心配したが,これは杞憂におわった.学会会場のホテルは冷房のきいた立派なところでとてもよかったからだ.このホテルはまわりには何もないところだが,海岸に向かってゆるやかに傾斜する斜面に建っており,すべての部屋が海に面していて,テラスにはメキシコの特産であるハンモックがつってあり,波の音を聞きながら昼寝を楽しむことができた.すべての参加者が同じホテルに泊まって,勉強や海水浴やゴルフ,散歩などを思い思いにたのしむという方式をとったため家族づれ,奥さん同伴という参加者が多ったようだ.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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