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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科22巻5号

1994年05月発行

雑誌目次

コメと医療と規制緩和

著者: 矢田賢三

ページ範囲:P.401 - P.402

 天明の大飢饉以来のコメの大凶作によって,コメ屋の店頭からコメ,特に国産米の姿が消えたということで,日本中がパニックに陥っている.1940年頃に作られた食糧管理法という法律のもと,コメの生産と消費は完全な統制経済のもとに置かれて50年の歴史を歩んできた.当初は不足する主食が国民全てに平等にかつ適正な価格で配分されるようにとの思想に基づいたものであり,それなりの必要性と効用があったことは確かである.食糧が絶対的に不足していた時代には,味は悪くとも,多収穫で冷害に強い米が奨励され,味の良い悪いに関係無く一定の価格で売買されていた.当然の帰結として,生産者は品質よりも収穫量に重点を置いて,多量のコメを生産した.まずいコメを食べさせられた国民の間には,食生活の変化とコメ離れを招いてしまい,コメの生産量の増加と相俟って,余剰米を生むようになった.いわゆる逆鞘と管理経費の増大に悩んだ政府は,統制価格をランクづけすることなどによる良質米の生産奨励と,減反政策でこれに対応してきた.その結果が今回のコメ騒動である.コメ騒動が起こってからも,やれインディカ米その他の輸入米をブレンドして販売せよの,国産米の価格の上限がどうのと,いわばすでに“死に体”となった食糧管理法を振りかざすという醜態を演じている.私にしてみれば,食糧が絶対的に不足しているわけでもない今日,個人個人の価値観に従って,自分の可処分所得のどのくらいの割合をどのランクの米に使うかを決めれば良いことで,食べる種類や値段を“お上”に指示されなければならない時代ではないと思うのだが.

総説

脳動静脈奇形のRadiosurgery

著者: 河本俊介

ページ範囲:P.403 - P.420

I.はじめに
 脳動静脈奇形(AVM)に対するradiosurgeryは,KjellbergやSteinerの報告に始まり65,119,120),その後1980年代半ばより徐々に注目されてきた.とくに,1987年にアメリカ合衆国に導入されて以降81),脳神経外科領域での関心はますます高くなっている.わが国においてもradiosurgeryに対する関心は高く,garnma unitを例にとってみても,全世界の40数台のうち10台以上がわが国に導入され,アメリカ合衆国と並んで世界最大のgamma unit保有国となったことが,その関心の高さを示している.
 Steinerの最初の治療経験120)からすでに20年以上が経過し,現在ではgamma knife, linear accelerator,粒子線を含めると,既に6000例以上のAVMが治療されており80),それぞれについて治療成績が報告されている(gamma knife4,12,14,37,61,67,75,81-84,116-118,121,124,125,127),li—near accelerator1,5-7,16-20,40-43,47,49,62,85,87,90,95,104,107,108,129,130),粒子線26-31,58,63-65,73,74,113-115),中性子126)).現時点で基本的な治療成績はひととおり揃ったように思われるので,主な点について総覧してみたい.

研究

再発髄膜腫の病態—再発関与因子と治療予後

著者: 宮上光祐 ,   宮城敦 ,   木戸悟郎 ,   坪川孝志

ページ範囲:P.421 - P.428

I.はじめに
 一般に髄膜腫は境界明確で,slow growingを示す良性腫瘍であり,手術的に全摘出されれば予後良好とされている.従来,髄膜腫の術後再発に関与する因子として全摘出されたかどうかが重要であるが1,6,10,22,30),一方,convexity meningiomaでSimpson Ⅰの完全摘出がされても腫瘍再発の報告5,22,23)がある.このように髄膜腫のbiological behaviorは必ずしも組織学的所見とは一致せず,髄膜腫の悪性度の定義については種々の議論1,9,10,12,13,18,20,23)がある.
 著者らは髄膜腫の手術症例を対象とし,手術後長期追跡調査を行い,手術後の腫瘍再発と関連して年齢,性,腫瘍局在,腫瘍組織型,腫瘍摘出率,腫瘍増殖率としてAgNOR染色,BrdU標識率について検討した.さらに,再発症例の治療内容とその結果,ならびに治療予後についても報告する.

脳血管撮影における未破裂脳動脈瘤の検出率

著者: 菅井幸雄 ,   濱本泰 ,   大久保忠男 ,   山口慶展

ページ範囲:P.429 - P.432

I.はじめに
 破裂脳動脈瘤によるクモ膜下出血には予後不良例も多く,未破裂脳動脈瘤の発見,治療は予防医学として重要である.CT,MRIなど侵襲の少ない検査法の進歩により,未破裂脳動脈瘤の検出が注目され,MR血管撮影によるスクリーニングが行われ始めている.しかしながらスクリーニングの対象を選ぶ上で重要と考えられる未破裂脳動脈瘤の危険因子については未だに明らかではない.脳血管撮影は破裂脳動脈瘤の確定診断に必須の検査ではあるが,侵襲が大きく,適応となる疾患は減少傾向にある.当院でも同様に脳血管撮影の施行件数は減少しているが,一昨年までは年間百数十例に及んでいた.この蓄積を基に未破裂脳動脈瘤の検出率,危険因子について検討したので報告する.

伏在静脈を用いた頭蓋内外バイパス術の経験—手術手技の工夫について

著者: 長澤史朗 ,   川西昌浩 ,   近藤進 ,   梶本佐知子 ,   永野雄三 ,   三宅裕治 ,   太田富雄

ページ範囲:P.433 - P.438

I.はじめに
 vein graftを用いた頭蓋内外バイパス術は,術直後から大量のバイパス血流が得られるため閉塞性脳血管障害症例のみならず,治療的脳動脈閉塞術にともなう脳虚血防止の目的で施行されており,また頭蓋底手術にも応用されている3,5-8,13,14,17-19)
 しかし大きな血行動態変化や術後合併症を伴う場合があるため,手術適応となる症例は必ずしも多くはなく,したがってまとまった手術報告は少ない4,5,17,18

破裂脳動脈瘤によるクモ膜下出血後遅発性脳血管攣縮のIA-DSAを用いた脳血管写と脳循環時間による評価

著者: 岡田芳和 ,   島健 ,   西田正博 ,   山根冠児 ,   沖田進司 ,   畠山尚志 ,   吉田哲 ,   直江康孝 ,   志賀尚子

ページ範囲:P.439 - P.445

I.はじめに
 クモ膜下出血後の遅発性脳血管攣縮(以下vasospasmと略す)の病態に関しては多くの基礎的並びに臨床的研究がある.このvasospasmの評価方法としては脳血管写による形態学的変化の把握が基礎となってきた4,14,17).そして,その判定に種々の分類が考案されてきたが主観的要素が大きく問題を残している.この点を解決するためCTスキャンによるクモ膜下出血の量と広がりの定量化,脳血流量や頭蓋内圧測定等の補助手段が導入され,vasospasmが症候群となり,さらに脳梗塞が生じるような状況に進展するか否かに関して多くの報告がなされている3,5-7,15,17,19,20).これらのことからもvasospasmの病態検討には脳血管写による病的攣縮血管の把握と脳循環動態を明らかにする生理学的parameterを同時に得る方法が重要と考えられる.
 今回,著者らはIA-DSA(動注によるDigital Subtrac—tion Angiography)を用いた頸動脈写によりvasospasmの形態学的検査と同時に脳循環時間という生理学的pa—rameterを算出し,比較検討したので報告する.

Interhemispheric Trans-lamina Terminalis Approachにおける前交通動脈とその穿通枝の微小外科解剖—正常剖検脳による検討

著者: 芹澤徹 ,   佐伯直勝 ,   福田和正 ,   山浦晶

ページ範囲:P.447 - P.454

I.はじめに
 近年,頭蓋咽頭腫などの第3脳室前方部腫瘍に対し,大脳半球間裂・経終板到達法の有用性が強調されている1-2,6,9).前交通動脈とその穿通枝の微小外科解剖については,前交通動脈瘤の観点からはいくつかの報告3,5,8,14-15,17)があるものの,大脳半球間裂・経終板到達法における検討11,16)は充分とはいい難い.そこで今回,大脳半球間裂・経終板到達法における前交通動脈とその穿通枝の微小外科解剖を剖検脳を用いて検討した.

症例

巨大頭皮下腫瘤を形成した多発性骨髄腫の1例

著者: 案田岳夫 ,   馬場啓至 ,   米倉正大 ,   森山忠良 ,   寺本成美 ,   藤井秀治

ページ範囲:P.455 - P.460

I.はじめに
 多発性骨髄腫は,骨髄で形質細胞が腫瘍性に増殖し,頭蓋骨,椎骨,肋骨,骨盤などに溶骨性変化をきたす疾患であるが,頭蓋,及び頭蓋内に巨大腫瘤を形成することは比較的少ない.多発性骨髄腫と診断され化学療法を受けた後6年経て,前頭骨,斜台部に腫瘤を形成した1症例を経験したので報告する.

眼窩内に発生したMesenchymal Chondrosarcomaの1例

著者: 高田寛人 ,   安部裕之 ,   管野洋 ,   金一宇 ,   鈴木慶二

ページ範囲:P.461 - P.464

I.はじめに
 眼窩内腫瘍においてmesenchymal chondrosarcomaは稀なものとされており,現在までの諸家の報告は十数例にすぎない.われわれは,本症の1例を経験し手術により全摘しえたので,CT,MRI所見を提示し,若干の文献的考察を加えて報告する.

混合型脳血管奇形の2例

著者: 伊東山洋一 ,   北野郁夫 ,   藤岡正導 ,   高木修一 ,   森岡基浩 ,   矢野辰志 ,   甲斐豊 ,   生塩之敬

ページ範囲:P.465 - P.469

I.はじめに
 脳血管奇形の分類は従来のarteriovenous malforma—tion(AVM),cavernous angioma,capillary telangiec—tasia,venous angioma(VA)の4つの分類に代わり,最近ではその互いの移行型もしくは混合型を認める分類が提唱されている.最近われわれは動脈性成分を有するVAの1例と,同一のdraining veinに灌流するAVMとVAとの混合奇形と考えられる1例を経験した.興味ある症例と考えられ,文献的考察を加え報告する.

小脳天幕に腫瘤を形成したDural Type Histiocytosis Xの1例

著者: 馬場雄大 ,   伊林至洋 ,   森本繁文 ,   丹羽潤 ,   田辺純嘉 ,   端和夫

ページ範囲:P.471 - P.476

I.はじめに
 Histiocytosis Xは細網組織性肉芽腫の増殖を病変とする比較的稀な疾患であり,病因,本態は未だ明らかではない21).histiocytosis Xの全身病態の一部として中枢神経系へ浸潤することは知られているが11),その大半は間脳下垂体系に集中している.
 今回,われわれは左頬骨部から頭蓋内に浸潤し,硬膜を介して海綿静脈洞から天幕切痕部へと進展し小脳天幕硬膜に腫瘤を形成したhistiocytosis Xの1症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

スキー滑走中受傷した頭蓋内穿通外傷の2例

著者: 高桑徹也 ,   箱崎誠司 ,   古川公一郎 ,   中永士師明 ,   遠藤重厚

ページ範囲:P.477 - P.479

I.はじめに
 頭蓋内穿通外傷は比較的稀であるが,今回われわれは,スキー中の事故で発症した頭蓋内穿通外傷の2例を経験したので報告する.

大後頭孔部脊髄腫瘍術後に発生し,治療に難渋した頸椎後彎変形の1例

著者: 関賢二 ,   清水克時 ,   松下睦 ,   李忠連 ,   新林弘至 ,   山室隆夫

ページ範囲:P.481 - P.484

I.はじめに
 椎弓切除術後の頸椎後彎変形は,成人では比較的稀とされている1-11).今回われわれは,大後頭孔部脊髄腫瘍の治療のための2回の椎弓切除術で悪化し,治療に難渋していた頸椎後彎変形の1症例を経験し,サルベージ手術として,後頭・頸・胸椎後方固定術を施行し良好な結果を得た.この論文ではその臨床経過を報告し,治療上の問題点を論じる.

良性頭蓋内圧亢進で発症した未破裂脳動静脈奇形の1例

著者: 上手康嗣 ,   秋光知英 ,   太田桂二 ,   柴田憲司 ,   山本光生 ,   高橋勝 ,   西徹 ,   渡辺憲治 ,   魚住徹

ページ範囲:P.485 - P.489

I.はじめに
 脳の動静脈奇形(arteriovenous malformation,以下AVMと略す)は胎生早期に発生する先天異常である.その初発症状としては出血発作が50%と最も頻度が高く,次いで痙攣発作の30%である1).この他に片頭痛や,出血や水頭症を伴わない良性頭蓋内圧亢進(benign intracranial hypertension)による頭痛で発症するものもあるが,極めて稀である1-4)
 今回,著者らは良性頭蓋内圧亢進を初発症状としたAVMの1例を経験したので報告する.

著明なGranulomatous Pachymeningitisを呈したアスペルギルス症の1例

著者: 飯田淳一 ,   竹村潔 ,   牧田泰正

ページ範囲:P.491 - P.494

I.はじめに
 中枢神経系のアスペルギルス症は従来稀な疾患と考えられてきたが,近年抗生物質,抗癌剤,副腎皮質ステロイド等の使用頻度が増加するにともない,その報告が増加し臨床的意義が大きくなりつつある.しかしながら本症の臨床像は多彩であるためその診断は容易ではない.今回われわれは,著明なgranulomatous pachymenin—gitisの臨床像を呈したアスペルギルス症の1例を経験する機会を得たので若干の文献的考察を加え報告する.

Inter-optic Course of ACAに合併した破裂前交通動脈瘤—症例報告と文献的考察

著者: 三島秀明 ,   金良根 ,   塩見和昭 ,   山田與徳 ,   切石礼次郎 ,   原育史 ,   横山和弘

ページ範囲:P.495 - P.498

I.はじめに
 頭蓋内内頸動脈近位部から直接前大脳動脈が分岐する血管奇形の報告は,1959年にRobinsonが剖検例の報告をして以来,24例の報告を見るのみである.また名称も,1)inter-optic course of anterior cerebral artery(ACA)13),2)infra-optic course of ACA2,12),3)ano—malous origin of internal carotid artery(ICA)3,5,14),4)carotid-ACA anastomosis1,7-9,15)などと呼ばれており,その起源についても定説はない.今回われわれは同血管奇形に前交通動脈瘤を合併し,くも膜下出血で発症した1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

読者からの手紙

Nifedipine Capsule(Adalat)をMarkerとしたMRによる円蓋部開頭中心の決定の試み

著者: 須賀俊博 ,   吉岡邦浩 ,   菊池憲一

ページ範囲:P.499 - P.499

 頭蓋内病変に対する開頭部位の決定には,CTにて,OM lineより計測する方法,病変部直上に金属を接着させ撮影する方法,脳血管造影上の腫瘤陰影を頭皮上に投射する方法などが用いられてきた.しかし,水平断しかできないCTや頭頂部が拡大されてしまう血管造影では,頭頂部の病変ほど,病変中心と開頭中心のずれが大きくなってしまい,困難を生じる.コンピューター利用脳手術支援システムは,高価で,利用できる施設は限られる.
 われわれは,脳外科で降圧剤として頻用され,入手が容易なNifedipine capsule(Adalat)をmarkerとしたMRによる開頭中心の決定を試み,満足すべき結果を得ている.油性製剤であるNifedipine capsuleは,溶媒としてのグリセリンがその内容の主成分で,これがT1強調像で高信号に描出される原因である.大きさも10mg剤が17mm×7mm,5mg剤が9mm×6.5mmと,mar—kerとしても適切と思われる.通常,剃毛後,CTや血管造影での病変部位の計測を参考に,開頭中心と推定される部位にNifedipine capsuleをテープにて接着し,MRによる水平断・矢状断・冠状断を撮影して,そのずれを計算しながら,Nifedipine capsuleの位置を修正し,再撮影を繰り返すことにより,3次元的に開頭中心を決定し,その部位をマジックでmarkingして終了する.開頭の大きさは,病変の種類や術者の考え方で異なってくる.最近の脳腫瘍3例(傍矢状静脈洞部髄膜腫1例,頭頂葉転移性脳腫瘍1例,頭頂葉神経膠腫1例)いずれも,markerとしてのNifedipine capsuleの描出は満足すべき結果であった.Fig.1に頭頂葉転移性脳腫瘍の1例を示す.必要最小限の範囲の開頭が可能となり,脳表面に変化のない場合でも,開頭中心と腫瘍中心の一致を利用し,正確な脳表の切開も可能となった.特に頭頂部の病変に有効と思われた.手術時間の短縮とともに術者の心理的面への好影響も大きい.現在胸髄部など,脊髄病変への応用を検討中である.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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