icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科22巻6号

1994年06月発行

雑誌目次

脳外科医と脳ドック

著者: 西本詮

ページ範囲:P.507 - P.508

 日本の脳外科医を世代別に分けることを試みた場合,多少の無理はあるが,昔一般外科と脳外科とを一緒にされていた方々を第1世代と考えると,第2世代は,一般外科の経験はあっても,脳外科のみを専門にして来られた方々であると言える.現在ではもうかなりの方々が,既に第一線を退かれて居り,最近亡くなられた,都留美都雄先生や森和夫先生もそのような方である.第2世代の間に,すべての大学や大病院に脳外科が開設され,専門医制度も確立した.そして今は最初から脳神経外科を専攻してきた第3世代に入ったと言えるのではなかろうか.
 その間専門医は著しく増え続け,本年には4,000人を突破すると思われる.日本ではもはや脳外科施設は過剰となり,患者のとり合いといった現象さえ見られるようになった.脳血管吻合やmicrovascular decompression,頭蓋底外科の進歩,intravas—cular surgery,脊髄・脊椎外科への進出など,新しい手術領域の開発も行われたが,更にMRIの進歩で脳ドックが行われるようになり,予防医学への意欲も高まりつつある.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Transpetrosal Approach

著者: 大西英之

ページ範囲:P.509 - P.515

I.はじめに
 近年,頭蓋底外科はめざましく進歩してきているが,transpetrosal approach(経錐体法,以下TPAと略)は,前側法からのDolenc's technicやfrontotemporal orbi—tozygomatic approachとならんで,脳神経外科医として修得せねばならない極めて重要な頭蓋底外科手術手技の1つである.TPAは初期には耳鼻科医により開発2,7,8,11,14)され,脳神経外科領域に応用された方法4,6,9,19)であるた,種々の錐体骨を経由する方法があり,その呼称も多く,混乱しているが,ここでは,Ⅰ.中頭蓋窩経由で主に錐体骨前方を削除して到達する方法をanteriortranspetrosal approach,Ⅱ.側頭後頭開頭に乳様突起と錐体骨後方を除去して到達する方法をposterior trans—petrosal approach,Ⅲ.両者を合併し錐体骨をすべて切除する方法をtotal petrosectomy approachとして用いることとする.

研究

転移性脳腫瘍の化学療法におけるコラーゲン・ゲル包埋培養法にコンピュータによる画像解析を用いた抗癌剤感受性試験の有用性

著者: 中川秀光 ,   小林昶運 ,   肥塚正博 ,   山田正信 ,   宮脇陽二 ,   時吉浩司 ,   金山拓司 ,   萩原靖 ,   鶴薗浩一郎

ページ範囲:P.517 - P.523

I.はじめに
 ヒト癌に対する抗癌剤による補助化学療法の効果の是非は,宿主,癌,抗癌剤の三者から構成される三角関係に依存しており,宿主が充分な抗癌剤治療に耐えうる体力を持っていること,抗癌剤そのものが高い抗腫瘍効果を持つこと,癌そのものが使用される抗癌剤に高い感受性をもっていることが良好な臨床上の抗腫瘍効果の発揮に結び付き,どれか一つでも満たされない場合は,満足できる結果が得られない.よって癌に高い感受性のある抗癌剤を,宿主の抵抗力,免疫力を下げないようにできるだけ少ない量で効果を発揮するのが基本となる.それには抗癌剤感受性試験が重要であり,種々の方法が報告されている.Human tumor clonogenic assay2-4,8),nude mouse法14),subrenal capsular assay法20),SDItest26)3H-thymidineを用いたisotope法1,16,22)などで,その他にもflow cytometryによる抗DNAヒストグラム法19),マイクロプレートによるMTT dye還元法9)やクリスタルバイオレット取り込みtest7),collagen gel・matrixによる組織培養15)などがそれであり,それぞれ臨床効果との相関性を示す報告がみられる.またそれらの方法には一長一短がありまだ満足できる方法は確立されていないと言える.今回,私たちは,転移性脳腫瘍に対してCDDPを基本とした化学療法を施行し,その治療効果とコラーゲン・ゲル包埋培養法5,27)にcomputer画像解析を併用した抗癌剤感受性試験13)の結果との相関関係の有無よりこの感受性testの有用性を検討し,あわせて多発性転移性脳腫瘍の治療として一部腫瘍を摘出してその感受性結果に基づいた化学療法の有効性についても検討した.

脳主幹動脈閉塞性病変例の123I-IMP SPECT画像—回転型ガンマカメラによる画像の特徴とその定性的評価法について

著者: 木村隆文 ,   篠田淳 ,   船越孝 ,   矢野大仁 ,   澤田元史

ページ範囲:P.525 - P.530

I.はじめに
 画像の評価法には,あらかじめ,ある関心領域(ROI)を設定し,そのROI内の数値を評価する方法と画像全体をながめて視覚的にパターン認識して評価する方法がある.Single photon emission computed tomography(以下SPECT)画像の脳血流評価法は前者としてはROI内の脳血流量を絶対値で評価する「定量的」方法やROI内のアイソープの集積を他のROIとの比率にて相対値で評価する「半定量的」方法があり,後者の方法としては,画像の血流分布を視覚的にパターン分析し評価する「定性的」方法がある.
 SPECTを用いた脳主幹動脈高度狭窄および閉塞による脳循環不全の病態の把握に関する報告は多いが,その多くが脳血流を定量的に評価したものである1,7,13).しかし,脳血流の定量を行うには特殊な装置や繁雑な採血法を要し3,6,8,9)日常臨床の場では必ずしも簡便とは言い難い.一般病院でSPECT装置として最も普及しているのは回転型ガンマカメラであり,これを用いたSPECTの場合,通常の撮像のみでは脳血流量の絶対値は測定できない.従って,日常,定量的評価まで行う余裕のある施設はむしろ少なく,ほとんどの施設は画像の血流分布像を視覚的に定性的評価しているのみというのが現状と思われる.この定性的評価は画像診断上重要であるのにもかかわらず,簡便かつ客観的な統一的方法は確立されていない.このため,われわれは回転型ガンマカメラを用いた123I-IHMP SPECTを施行し脳主幹動脈閉塞性病変の病態を簡便に把握できるような定性的画像評価法を試み,脳循環動態の検討を行ったので報告する.

クモ膜下出血,脳内出血症例における血清Neuron-specific Enolase値についての検討

著者: 黒岩敏彦 ,   田邊治之 ,   新井基弘 ,   太田富雄

ページ範囲:P.531 - P.535

I.はじめに
 解糖系酵素の1つであるenolaseは,α,β,γ,という三種類のsubunitからなる二量体で,γ—subunitを有する(αγとγγ)isozymeがneuron-specific enolase(NSE)と呼ばれている.NSEは神経細胞と軸索に局在し11),神経損傷時に髄液中や血液中に逸脱するとされている3,5-7,10,12).しかし,現在では神経芽細胞腫や肺癌などの腫瘍マーカーとして臨床応用されているのみで,中枢神経系の外傷6)や疾患3,5,7)に際しての報告は,散見されるもののいまだ不十分である.今回われわれは,クモ膜下出血症例と脳内出血症例において,血清NSE濃度を測定したので報告する.

視床出血の局在と神経症状—簡便なCT分類による予後の予測

著者: 栗田浩樹 ,   古屋一英 ,   瀬川弘 ,   谷口民樹 ,   佐野圭司 ,   塩川芳昭

ページ範囲:P.537 - P.543

I.はじめに
 視床は広範な大脳皮質と投射結合を持ち,第三脳室と内包の間に位置する1).周囲の複雑な神経路を反映して視床出血の症状は多彩で,進展形式と神経症状の解析から血腫部位による臨床分類が種々報告されてきたが3,12,15,18,19-21),日常診療において頻用されているものは少ない.今回われわれは中,小型の視床出血について,比較的予後と相関する簡便で実用的なCT分類を考案したので報告する.

Malignant Astrocytoma初期治療後Complete Response症例の検討

著者: 隈部俊宏 ,   嘉山孝正 ,   吉本高志 ,   溝井和夫

ページ範囲:P.545 - P.551

I.はじめに
 Anaplastic astrocytoma, glioblastoma multiforme(malignant astrocytoma)の治療成績は依然として満足すべきものではないが,中には長期生存を示す症例が存在する.従来,このような予後良好例の検討により,手術摘出率,年齢,performance status,罹病期間,組織型,腫瘍部位等が予後に対して有意な影響を及ぼすことが報告されてきた4,6,11,13,16).本研究では,初期治療終了時の画像に注目し,治療後画像上腫瘍の消失を得られたComplete Response(CR)症例の臨床像を検討し,予後判定因子としての有効性を考察した.

症例

対側開頭にてクリップし得た“真の”後交通動脈動脈瘤の1例

著者: 古賀壽男 ,   辻武寿 ,   田渕和雄

ページ範囲:P.553 - P.556

I.はじめに
 後交通動脈自体より生じた動脈瘤の頻度は全脳動脈瘤の0-3.7%であり7,10,11,16,23,25,26),比較的稀である.この動脈瘤に対しては通常患側の前頭側頭開頭にてクリッピング術が行われている.今回われわれは多発脳動脈瘤の症例において,前頭側頭開頭により,対側の“真の”後交通動脈動脈瘤をクリッピングし得たので報告する.

頭蓋底骨折後の再発気脳症の治療に大網移植術を行った1症例

著者: 時吉浩司 ,   岩田吉一 ,   水田忠久 ,   清水洋良 ,   西岡浩司

ページ範囲:P.557 - P.560

I.はじめに
 気脳症とは頭蓋内腔に空気が進入する病態であり,その多くはクモ膜下腔,硬膜外に生じるが,時として脳実質または脳室内に空気が入ることもある15),その原因としては頭部および顔面の外傷,頭蓋底手術,感染,頭蓋底腫瘍等が報告されているが,頭部外傷が最も多い14).頭部外傷の7.8-13.2%に気脳症がみられ12,17,23),気脳症の74-90%を占めている14,20).緊張性気脳症は,頭蓋内に進入した空気が頭蓋内圧の亢進を来たし,様々の神経症状を示すものであり,その多くは外科的治療を必要とする13)
 われわれは頭蓋底骨折の後遺症として1年後に発症し,繰り返し発症した髄膜炎を伴う難治性緊張性気脳症に対して,有茎大網移植術を行って治癒せしめた症例を経験したので報告する.

モヤモヤ病の経硬膜供給血管の破綻による非外傷性急性硬膜下血腫の1例

著者: 中北和夫 ,   田中茂 ,   福田充宏 ,   藤井千穂 ,   小濱啓次 ,   宮里浩司

ページ範囲:P.561 - P.565

I.はじめに
 急性硬膜下血腫のほとんどは外傷に起因するものであるが,非外傷性に発症した症例も少なからず報告されている5,8-10).その原因として,脳動脈瘤,脳血管奇形や皮質動脈からの出血,硬膜の転移癌からの出血,出血性素因などがあげられ,外科的治療の対象となるものが多い.しかし,非外傷性硬膜下血腫の場合,いうまでもなく基礎疾患の病態を充分把握したうえでの治療が必要となる.
 われわれは,モヤモヤ病の経硬膜供給血管から出血した重篤な急性硬膜下血腫の1例を経験し,硬膜下血腫の発生機序と治療上におけるいくつかの問題点について考察したので報告する.

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)を合併し広汎な脳梗塞を来たしたモヤモヤ病の1例

著者: 日山博文 ,   草野良 ,   村垣善浩 ,   三浦直久

ページ範囲:P.567 - P.572

I.はじめに
 今回われわれは血栓性血小板減少性紫斑病(TTP:thrombotic thrombocytopenic purpura)を合併し,大脳半球に広汎な脳梗塞を来たしたモヤモヤ病の1例を経験した.その特異な臨床経過を報告するとともに,本症例におけるTTPとモヤモヤ病の成因を探り両疾患で類似する病態について文献的考察を加えた.

Short Ciliary Nerveより発生した眼窩内Neurinomaの1例

著者: 金本幸秀 ,   岡本新一郎

ページ範囲:P.573 - P.576

I.はじめに
 眼窩内神経鞘腫は眼窩腫瘍の約1.5%程度でまれである.その発生母地となった神経を同定出来た症例は限られている.われわれは,short ciliary nerveより発生したと思える眼窩神経鞘腫を経験したので報告する.

急性硬膜下血腫で発症した末梢性前大脳動脈瘤破裂の2例

著者: 畠山尚志 ,   島健 ,   岡田芳和 ,   西田正博 ,   山根冠児 ,   沖田進司 ,   吉田哲 ,   直江康孝 ,   志賀尚子

ページ範囲:P.577 - P.582

I.はじめに
 脳動脈瘤破裂により急性硬膜下血腫を生ずる例は,内頸動脈瘤や中大脳動脈瘤破裂に多く,クモ膜下出血や脳内出血に伴って認められることが多いといわれている.この病態には重篤な症例が多く,mass effectに対する急性期減圧血腫除去術などの治療が先行するため,破裂脳動脈瘤の診断治療が大きな問題となる.今回われわれは,急性硬膜下血腫単独で発症した末梢性前大脳動脈瘤破裂の稀な2例を経験し,手術により良好な結果を得たので,文献的考察を加え報告する.

脊髄髄内原発悪性リンパ腫の1例

著者: 仲尾貢二 ,   和賀志郎 ,   阪井田博司 ,   坂倉允 ,   栃尾廣 ,   大野秀和 ,   宮崎真佐男

ページ範囲:P.583 - P.587

I.はじめに
 悪性リンパ腫が脊髄髄内に原発することはきわめて稀で,中枢神経原発悪性リンパ腫(CNS-ML)中の1%以下の発生率とされる9).われわれは上位胸髄髄内に原発し,治療後1カ月で頭蓋内再発の後,最終的には髄腔内播種を来たした悪性リンパ腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

脊髄に空洞形成を認めた多発性硬化症の1例

著者: 富田守 ,   山本俊樹 ,   松沢裕次 ,   中島正二 ,   植村研一

ページ範囲:P.589 - P.592

I.はじめに
 脊髄空洞症の原因としてキアリ奇形,癒着性クモ膜炎,外傷,脊髄腫瘍などが知られている3).MRI普及後,多発性硬化症にも空洞病変を伴うことが散見され注目されるようになってきた.今回われわれは脊髄空洞病変をともなった多発性硬化症の症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

致死的な腫瘍内出血を来たした小脳血管芽腫の1剖検例

著者: 菊地顕次 ,   古和田正悦 ,   佐々木順孝 ,   柳田範隆

ページ範囲:P.593 - P.597

I.はじめに
 脳腫瘍に起因する頭蓋内出血の頻度は文献的に0.9—11%13,16)と報告され,膠芽腫や転移性腫瘍などの血管に富む悪性脳腫瘍で頻度が高い5,9,10,13,15,16).一方,小脳血管芽腫は後頭蓋窩腫瘍の7-12%11,12)を占めるが,致死的な腫瘍内出血の報告は未だ極めて少数である1,13,16,17).最近,私たちは家族内発症の小脳血管芽腫で腫瘍内出血をみた1剖検例を経験したので,出血機序に関連して若干の文献的考察を行い報告する.

読者からの手紙

脳内移植と遣伝子治療

著者: 石田昭彦

ページ範囲:P.598 - P.598

 3月号の総説,和歌山県立医大.板倉先生の“頸部交感神経節の脳内移植”を興味深く読ませていただいた.脳内移植の研究は1979年Bjorklundらの報告により火が付き世界中に広まった.1985年にはBacklundらにより自己副腎髄質細胞を用いて世界初の臨床応用が行われた.その後,副腎以外に胎児中脳黒質細胞の有効性も報告され,多くの脳内移植手術が行われている.国内での状況をみると,1987年,自己副腎移植が福井赤十字病院で最初の例として実施され,1992年には岡山大学で副腎と肋間神経をcograftした手術を行っている.和歌山医大では移植組織として頸部交感神経節に着目し,1991年臨床応用を行い,その後も症例数を増やしている.結果は満足できるものばかりでなく,それぞれの移植組織にたいして問題点が挙げられている.副腎に対しては生着率向上,胎児では倫理的問題などがあり,臨床応用が確立するためにはまだ多くの課題が残されている.
 われわれは新たな移植組織として遣伝子導入細胞の研究に取り組んでいる,皮膚線維芽細胞を採取し,遣伝子操作を加え,catecholamine産生細胞を作り出し,副腎や胎児組織と同様に脳内に移植しようというものである.自己の皮膚を用いるため免疫拒絶反応や倫理的問題は解決される.また線維芽細胞は容易に大量培養・保存できるため,必要時に必要量供給することができる.遣伝子操作により産生量の調節も可能である.理論的には理想的な移植細胞ができる.本年1月,新潟大学医学部の倫理委員会において国内初の遣伝子治療の臨床応用にゴーサインが出された.脳神経外科の領域でも遣伝子治療が行われる日が近いであろう.われわれの研究室でも“世界で最初の遣伝子導入細胞を用いたParkinson病の治療”を目指し,脳内移植と遣伝子治療の研究に励んでいる.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?