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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科22巻9号

1994年09月発行

雑誌目次

脳神経外科の民間大使

著者: 岩田金治郎

ページ範囲:P.801 - P.802

 昨平成5年の秋,脳神経外科の民間大使としてロシヤなど東欧3カ国を訪れた.Citizen Ambassador計画はアイゼンハワー大統領の提唱で始まり,近年事務局が独立し大使も米国人に限らなくなりました.今回のリーダーはカナダMacMaster大のHausenbout教授,英国よりLondon大,米国はMinnesota大とHarvard大の教授が来るので日本から是非にと指名勧誘です.私も未知の脳外の教授連と旅を共にし語るのも意義ありと考え,又同時期メキシコ市でのWFNS総会から未来に通ずるholography技術の講演の依頼もあり,帰途に寄れると承諾しました.さて,昨年10月のロシヤはソビエト体制から脱皮して間がなく,更に偶々モスコウでは砲撃戦のCoup事件があり戒厳令下の旅となりました.唯,天候に恵まれ最初の訪問地サンクトペテルブルグは空があく迄も青く,Hermitage美術館への招待の豪華な文化交流で始まりました.翌日はPolenov脳外研究所,Verden外傷研究病院で私の研究,脳圧のmonitorとその自動制御法や外傷急性期のMRIを講演,病棟の回診もしました.若手第一線の脳外科医や神経学者の真摯な姿勢,鋭い眼光,本音本質的な討論の連続に襟を正しました.晩餐会で当市は歴史的に日本と深い交流が長いとてスピーチや乾杯の中心にさせられ彼らのエネルギーに感心しました.唯,政治局員らしい脳外のスタッフがモスコウより突然呼び出され,政変の急を感じました.
 Belarus(白ロシヤ国)のMinskは閑静で美しくロシヤ寓話を髣髴とさせる首都です.独乙軍などに徹底的に荒らされ施設や図書も焼失し現在は国力をあげてトラクター製造産業に賄け努力しています.日本からの医薬品を大切にし超音波診断器に頼っているとのこと,回診時偶然神経内科医が私のかつて知遇を得たKlever教授の弟子で懐しい古典的神経学の話に花が咲きました.元来,学問好きで人が良く,聡明な資質の民族であり外国諸文献を読む機会が必要とのみ思いました.

連載 脳腫瘍の遺伝子療法:基礎研究の現状と展望・1【新連載】

脳腫瘍の遺伝子治療:現況と展望

著者: 田渕和雄

ページ範囲:P.803 - P.809

I.はじめに
 近年,遺伝子治療(gene therapy)が多くの関心を集めるようになった背景には,分子生物学の進歩により,遺伝子の異常が根本的な原因となって発症する疾患が数多く明らかにされるようになってきたことがある.両親から受け継いだ単一あるいは複数の遺伝子異常を基盤として発症する遺伝病は言うまでもなく,後天的に生じた複数の遺伝子の機能異常によってもたらされる癌も,広く遺伝子治療の対象と考えられるようになっている.
 遺伝病に対する遺伝子治療は,ある細胞に特定の外来遺伝子を導入し,疾患の原因となっている遺伝子を置き換える(replacement therapy)か,あるいは不足している遺伝子の機能を補充(supplement therapy)する,病気の原因療法のひとつである1,8,11,13).ところが,癌の遺伝子治療では,癌細胞を殺傷する働きのある遺伝子(例えば自殺遺伝子)を直接導入するとか(suicide gene the—rapy),癌に対する免疫能を高めるような遺伝子を癌細胞あるいはリンパ球に導入する方法(immune enhance—ment therapy)などが主に試みられている2,15,18)

研究

虚血性脳血管障害に合併した未破裂脳動脈瘤の外科治療

著者: 小松洋治 ,   兵頭明夫 ,   能勢忠男 ,   小林栄喜 ,   目黒琴生 ,   小野幸雄 ,   杉本耕一 ,   石井完治

ページ範囲:P.811 - P.818

I.はじめに
 未破裂動脈瘤の外科治療については,その安全性を強調した積極的な報告が多い3,11,12,14,26).しかし,虚血性脳血管障害を伴なう症例では,術後合併症が多くみられることが指摘され,より慎重な手術適応の判断や手術操作が要求されている1,3,4,16,17,22,26).最近のmagnetic re—sonance angiographyの普及により19,21)頻度の低下が予測されるが,未破裂瘤のかなりの部分は,虚血性脳血管障害の精査を目的とした血管撮影で診断されることを考慮すると,このような症例での治療方針については詳細な検討が必要である.
 また,未破裂瘤の自然歴についての青木らや浅利らの検討3,5)では,虚血性脳血管障害の精査で診断された瘤は,他と比較して出血を来す危険が高く,このような症例での外科治療についての検討の必要性が示されている.
 われわれは,自験例の検討から,未破裂瘤の外科治療の危険因子のひとつに,虚血性脳血管障害の合併および,それを示唆する神経放射線所見の存在があることを,以前に報告した17).今回,虚血性脳血管障害合併症例について直達手術の成績を解析し,その治療方針および転帰改善のための対策などについて検討したので報告する.

Mitomycin C含有Fibrin Glueによる悪性脳腫瘍の治療—薬物動態,組織変化に関する基礎的研究

著者: 川崎浩遠 ,   清水隆 ,   高倉公朋 ,   梅澤芳美

ページ範囲:P.819 - P.825

I.はじめに
 悪性脳腫瘍の全摘出は難しく,術後に化学療法や放射線治療を併用しても腫瘍は原発巣の周囲に再発することが多い.全身の副作用のために抗癌剤の投与量には限界がある.徐放性抗癌剤を脳腫瘍摘出後にできた死腔に直接投与すると,全身の抗癌剤濃度を高めずに局所での濃度を高めることが期待される.fibrin glueは組織の接着や閉鎖の目的で手術の際に広く用いられている,fibrin glueが脳腫瘍に対する徐放性抗癌剤の基剤となりうるかどうか確かめるために,mitomycin C(MMC)含有fibrin glueからのMMCの徐放について基礎的実験を行い,徐放されたMMC活性の経時的変化を調べた.またMMC含有fibrin glueのマウス脳に対する影響を組織学的に検討した.

頭蓋内原発悪性リンパ腫(CNS-NHL)21症例の臨床病理学的検討

著者: 新田泰三 ,   春日千夏 ,   安本幸正 ,   屋田修 ,   工藤純夫 ,   佐藤潔

ページ範囲:P.827 - P.832

I.はじめに
 悪性リンパ腫は代表的な造血器悪性腫瘍であるが,免疫,遺伝学の急速な進歩と相俟って診断上形態学的分類法から免疫分子生物学的分類法へと移行しつつある.頭蓋内原発悪性リンパ腫(CNS-NHL;central ner—vous-system-non-Hodgkin's lymphoma)はかつては稀な疾患として十分な検索がなされていなかった.しかしNational Cancer Institute(NCI)の統計Surveillance,Epidemiology and End Results(SEER;1973-1984)に依ると1973-1975では人口1000万人当たり2.7人であるが1982-1984では7.5人と急激に増加している3).しかもこれらの統計ば“high-risk patients”つまりAIDS,“never-married man”を除外した数字であることから,免疫不全症の増加に伴った現象と簡単にかたづけることはできない.このCNS-NHLの予後は極めて不良であり外科治療のみでは2カ月以内に死亡する.また80%の症例が放射線感受性を示すも約半数が1年に死亡し,いかなる治療を行っても3年以上生存する症例は5%以下と報告されており,グリオブラストーマに匹敵するかそれ以上の悪性脳腫瘍である6).このCNS-NHLの病態解明ひいては有効な治療の進歩の妨げとなっているのは,1)発生頻度が低いこと,2)大脳深部に局在することが多いため組織診断が困難であること,さらに3)悪性リンパ腫は放射線感受性が高く且つステロイドにより一過性に腫瘍容積が減少することより画像診断のみで治療が行われてきたためである(blind radiation)21,22).しかし近年抗癌剤の進歩によって長期生存例も散見されるようになりCNS-NHLを正確に分類,診断し且つ治療法を確立することが必要であると考えられる.現在本邦においては,CNS-NHLの分類としてはLSG(lymphoma study group)分類が汎用されている19).LSG分類はリンパ腫を構成する細胞群の大きさに基づいたもので極めて簡便である反面,予後との関連性に欠ける.つまりCNS-NHLの殆どが大細胞型(large cell)に分類され,NCIのWF(working formulation)分類に於ける中間分化型に属する大細胞型(DL; diffuse large)と低分化型の免疫芽球タイプ(IBL; immunoblastic)とが混在し予後をみる上で極めて不適当と考えられるからである14).そこで今回私たちはCNS-NHLの自験21例を臨床的に解析するとともに病理学的にWF分類に基づいて分類し予後との相関を検討した.

傍矢状部白質剪断損傷—びまん性軸索損傷に伴う片麻痺の画像所見

著者: 益澤秀明

ページ範囲:P.833 - P.838

I.はじめに
 びまん性軸索損傷diffuse axonal injuryには痙性片麻痺/四肢麻痺が合併しやすい8).Jennetら4)は重症頭部外傷の半数に片麻痺が発生すると指摘し,その機序として深部白質病変を示唆している.しかし,片麻痺の責任病変部位はいまだ明確にされていないのが実情である.われわれはびまん性軸索損傷を含むびまん性脳損傷の臨床例を集め,痙性片麻痺/四肢麻痺症状の有無とともにCT・MRI所見を検討した.その結果,傍矢状部白質の剪断損傷(いわゆるgliding contusion)1)が関連する可能性を見出したので,報告する.

頸椎後縦靱帯骨化症に対する外科的治療

著者: 井須豊彦 ,   馬渕正二 ,   蓑島聡 ,   中山若樹

ページ範囲:P.839 - P.844

I.はじめに
 頸椎後縦靱帯骨化症に対する外科的治療法としては,前方除圧1-5,9-13,19,20)又は後方除圧4,5,8,9,13-15,17)が行われているが,手術法の選択に関しては,種々,議論のあるところである.今回,われわれは,頸椎後縦靱帯骨化症に対する手術経験を述べると共に,手術法選択につき言及する.又,頸椎前方固定術として,われわれが行っている手術法(頸椎椎体より採取した骨片を移植骨として用いた頸椎前方固定術6,7))が有用であることを強調したい.

症例

硬膜外動静脈奇形に起因した急性頸髄硬膜外血腫の1例

著者: 高野尚治 ,   斎藤元良 ,   本告匡 ,   宮坂佳男 ,   矢田賢三 ,   高木宏

ページ範囲:P.845 - P.849

I.はじめに
 脊髄硬膜外血腫(SEDH)は比較的稀な疾患であり,そのために他の脊椎・脊髄疾患との鑑別が困難であり,緊急手術の時期を逃してしまう場合がある.現在まで本邦では30例程の報告をみるに過ぎず6),発症の早期に診断をつけ,椎弓切除による脊髄への減圧術を施行すれば麻痺の良好な改善を期待できるものであり,背部痛,根性痛を訴え急性発症した脊髄麻痺症例では本疾患を念頭に置き臨床にあたりたい.われわれは,頸髄硬膜外転移性腫瘍を疑われ入院した患者で,MRIにて頸髄硬膜外血腫を診断し,発症後12時間で手術を行い良好な結果を得た症例を経験したので,考察を加え報告する.

結腸及び直腸重複癌に併発した横静脈洞血栓症の1例

著者: 畑山徹 ,   石井正三 ,   尾田宣仁 ,   石井敦子 ,   蘆野吉和 ,   菅野明弘 ,   岩渕隆

ページ範囲:P.851 - P.856

I.はじめに
 他臓器に悪性腫瘍を担う患者が,脳静脈洞血栓症の併発により皮質下出血を来たした場合には,その所見が転移性脳腫瘍による腫瘍内出血と酷似し,診断が困難となる場合がある.今回われわれは,結腸及び直腸重複癌に横静脈洞血栓症による側頭葉皮質下出血を合併した症例を経験したので,その特徴と鑑別診断について文献的考察を加えて報告する.

肺癌の硬膜転移による硬膜下血腫の1例—症例報告と文献的考察

著者: 黒木貴夫 ,   松元幹郎 ,   串田剛 ,   大塚隆嗣 ,   内野正文 ,   西川秀人

ページ範囲:P.857 - P.862

I.はじめに
 非外傷性硬膜下血腫は比較的稀な疾患であり,その原因として血液凝固障害,ビタミン欠乏,血管腫,悪性腫瘍の硬膜転移などが報告されている.今回われわれは,肺癌の硬膜転移により短期間に出血を繰り返した非外傷性硬膜下血腫の1例を経験したが,この疾患の病態について若干の文献的考察を加えて報告する.

脳血管炎と考えられた2例

著者: 高橋功 ,   金子貞男 ,   浅岡克行 ,   原田達男 ,   松本亮司 ,   中村仁志夫

ページ範囲:P.863 - P.866

I.はじめに
 脳血管炎は様々な全身性疾患や原因によって2次的に引き起こされることが知られている17).しかし,明らかな基礎疾患や原因がなく,病態や病因の不明な中枢神経系に限局する血管炎の報告も見られるが,極めて稀な疾患である.今回,われわれはこのような原因不明の中枢神経系に限局する脳血管炎と考えられる2例を経験したので症例を供覧するとともに若干の文献的考察を加えて報告する.

妊娠中に脳室内出血を来たした小児期発症もやもや病の1例

著者: 島本佳憲 ,   島崎賢仁 ,   落合真人 ,   山田史

ページ範囲:P.867 - P.870

I.はじめに
 もやもや病患者の妊娠に関する報告は散見されるが1,2,4,5,8,9,13,17,18),多くは成人発症例であり,小児期発症例での報告は非常に少なく13),患児が成長した後,妊娠が原病に及ぼす影響に関しては不明である.当施設では10例の小児期発症女児が手術療法を施行せずに外来にて経過を観察している.現在3例が結婚し,うち1例が妊娠したが,妊娠30週にて脳室内出血を来たした.文献的考察を加え報告する.

脳内出血で発症した特発性上矢状洞部硬膜動静脈瘻の1例

著者: 橋本宏之 ,   米澤泰司 ,   榊寿右

ページ範囲:P.871 - P.875

I.はじめに
 硬膜動静脈瘻(奇形)は全頭蓋内動静脈奇形の約10%に発生するといわれ3),一般的にはテント下に多くテント上では大部分が海綿静脈洞部に発生する15,16).上矢状洞部に発生することはきわめて少なく流入動脈は両側性であることがほとんどである12,14).今回,われわれは脳内出血で発症した片側性上矢状静脈洞部の動静脈瘻を経験したので発生病態や臨床像を文献的考察を加えて報告する.

多発性嚢胞腎を合併し,他部位に再発した脳動脈瘤の1例

著者: 鶴田健一 ,   笠井直人 ,   片山成二

ページ範囲:P.877 - P.880

I.はじめに
 多発性嚢胞腎(以下PCK)は,しばしば肝,膵,肺,脾など全身諸臓器に嚢胞を合併する遺伝傾向の強い疾患である.一方,脳動脈瘤とPCKの合併は,1901年のBoreliusの報告3)以来,欧米ではかなり多数の報告がみられ,その合併頻度の高いことが知られている2,4,22).今回われわれは,PCKの既往のある患者で破裂脳動脈瘤の手術後約3年を経過して再びくも膜下出血で発症し,初回手術時とは異なった部位に新たな脳動脈瘤の出現をみた症例を経験した.脳動脈瘤の発生,再発を考察する上で興味ある症例と思われるので若干の文献的考察を加えて報告する.

頭蓋冠傍骨性骨肉腫の1例

著者: 須賀俊博 ,   内田桂太 ,   後藤英雄 ,   柏木一成 ,   佐野光彦

ページ範囲:P.881 - P.885

I.はじめに
 骨膜由来の骨肉腫の一型と考えられている傍骨性骨肉腫(parosteal osteosarcoma)は,一見良性腫瘍を思わせる分化した組織像を呈し,全摘により良好な予後が期待できる,通常骨肉腫と生物学的特徴を異にする特異な骨肉腫である5,6).その発生部位は,大腿骨,脛骨,上腕骨,腓骨などの長管骨の骨幹端で,上顎骨,下顎骨などの顔面骨発生例の報告も散見されるが,頭蓋冠発生例の報告は,極めて稀である.本邦例としては,Iemotoらの側頭骨に発生した25歳女性例が報告されているにすぎない4)
 われわれが経験した頭蓋冠傍骨性骨肉腫に関し,若干の文献的考察を加え,報告する.

アテトーゼ型脳性麻痺に合併した環軸椎脱臼に対する1治療例

著者: 北条雅人 ,   中原一郎 ,   田中正人 ,   織田祥史 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.887 - P.891

I.はじめに
 アテトーゼ型脳性麻痺に合併した頸椎症に関しての報告は以前から見うけられるが6,8,9,11,15,18),近年,環軸椎脱臼(atlanto-axial dislocation(AAD))の合併に関する報告も見られるようになった10,14,16,19).頸部に不随意運動を伴う環軸椎脱臼の手術適応については意見の分れるところであるが,今回,われわれはハローベストによる外固定とHartshill Ransford Loop(Surgicraft社製)による内固定とを併用して良好な結果が得られたので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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