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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科23巻1号

1995年01月発行

雑誌目次

素朴な疑問

著者: 種子田護

ページ範囲:P.5 - P.6

 ふと素朴な疑問を感じることがある.この「素朴」が曲者で,現実と理想のギャップを鮮明にあぶりだす場合が少なくない.最近はさほど見られなくなったが,以前,学会などで,誰もがその道の権威と認める老教授が手をあげてやおら立上り「素朴な質問ですが」と演者を立往生させる場面が時にあった.その質問がまさに本質・核心をついており,枝葉末節のみに関心があった演者は意表をつかれたからである.去年の夏,私はNHKのラジオ番組「夏休み子供科学電話相談」を大いに楽しんだ.子供たちは次々と素朴な質問で解答者の専門家達を困らせる.難問,奇問の類も少なくないが,中には宝石のようにキラリと光る質問もあった.専門家による解答の様子が実に面白く,私自身が質問を受けた立場を想定したりして,興味の尽きない番組であった.素朴な疑問の中にこそ真理探求のスタートがあると私は信じている.このことは研究活動で重要と思われるが,日常に周囲のある素朴な疑問を思いつくままに以下に述べてみよう.
 医学部の三本柱は教育,診療,研究とされている.私が平成2年,長年勤務した病院から国立大学医学部に移籍した折りのことである.まず頂いた辞令に“文部教官”とあった.三本柱の中で最重要の職務は教育ということである.それまでに苦労して得た脳神経外科のエッセンスを後輩に伝えるチャンスが与えられたことに私は奮い立った.最初の講義で驚いたことは出席者の少なさであった.その僅かな出席者の中には始めから私語や居眠りをするものもいた.さらに驚いたことには講義が終わったときむっくり起き上がった者がいた.手には「少年ジャンプ」(漫画雑誌である:ご存じない読者のために)を持っている.机に隠れて分からなかったが,後ろのベンチ椅子に寝そべって漫画を読んでいたのである.このような使命感も勉学意欲もない医学生を多数入学させた選抜方法に問題はないのか?一方では,このような事態を招いたのには教官側にも責任なしとしない.研究,診療に比して,教育に情熱を傾けて取り組む教官が少ないのである.その原因は明白である。教育での業績は他の業績,とりわけ研究業績に比較するとほとんど評価の対象とはならない現状があるからである.かくして,学会・論文発表にはきわめて熱心であるが教育を雑用とみなして俯仰天地に恥じないような教官のみが増えて行くのではなかろうか.このような疑問を抱くと,医学教育は危機に瀕しているかのようであるが,現実には立派な臨床家,医学者が輩出している.やっぱり現状のままでよいのかな?

連載 脳腫瘍の遺伝子療法:基礎研究の現状と展望・5

グリオーマ細胞におけるアポトーシスと免疫原性変化の誘導

著者: 浅井昭雄

ページ範囲:P.7 - P.15

I.はじめに
 遺伝子治療のヒトがんへの臨床応用は米国ですでに開始されている7).本邦でも,基礎動物実験レベルでいくつかの方法が模索されており,その臨床への応用が検討されつつある.がんに対する遺伝子治療はADA欠損症のような単一遺伝子欠損による遺伝性疾患に対する補充療法とは異なり,殺細胞療法であることが要求される.その際に最大の難所となるのが化学療法の際の薬剤到達性と同様,個々の細胞への遺伝子の到達性あるいは遺伝子導入の効率の問題である.現存の遺伝子導入法では最もよいとされるレトロウイルスを用いても高々数十%である.これまで,遺伝子導入の効率が低ければ,いかに殺細胞性の強い遺伝子を導入したところでごく一部の遺伝子を取り込んだ細胞にしか殺傷効果がないことになり,遺伝子治療により放射線—化学療法等従来の治療法を上回る好成績を得られるか否かについては疑問の残るところであった.しかし,ごく最近になって,遺伝子発現によるbystander効果*1や本稿で解説する腫瘍免疫原性変化等,遺伝子を取り込んでいない細胞への有効性を示す現象が次々明らかになってきて,遺伝子導入の低効率の問題は一気にクリアされる可能性が出てきた.
 われわれは,当初,グリオーマ細胞の増殖に対し,in vitroで増殖抑制を示す遺伝子を検索していた.その中で,s-mycをはじめとするいくつかの遺伝子がグリオーマの増殖を抑制することがわかった1).その抑制の機序を検討する過程で,これらの遺伝子発現が高くなるとグリオーマ細胞にアポトーシスを誘導することを見い出した2).アポトーシスとは,細胞が自分のもつ自爆装置を用いて酵素的に自分自身のゲノムDNAを分解して死ぬときの細胞形態をさしていう.このような細胞自身が潜在的にもつ自己破壊能を何らかの遺伝子導入により引き出すことができれば,腫瘍を縮小せしめることが可能になるのではないかと考えた.この際,先に述べた遺伝子導入の効率の低さが障害になり,あまりはかばかしい効果が得られないことが十分予想されたが,実際に担グリオーマラットモデルにs-myc遺伝子の導入を試みたところ,予想をはるかに越える抗腫瘍効果が得られた3).本稿では,s-myc遺伝子発現のグリオーマ細胞に対する効果を中心に,われわれのこれまでの研究の概要と,遺伝子治療の今後の展望について解説する.

総説

頸動脈内膜剥離術—特にその問題点について

著者: 山本勇夫

ページ範囲:P.17 - P.25

I.はじめに
 頸部頸動脈の動脈硬化性病変に対する頸動脈内膜剥離術(CEA)はDeBakeyにより最初に行われて以来,本邦でも日常稀ならず経験する手術法の1つである.特に1991年報告された3つのrandomized study,すなわちEuropean Carotid Study Trial(ECST)28),North American Symptomatic Carotid Endarterectomy Trial(NASCET)68),Symptomatic Carotid Stenosis Vete—rans Administration Trial61)により,症候性頸動脈狭窄70%以上の高度狭窄例におけるCEAの有効性が実証された.しかしCEAは予防的要素の強い手術法であることからいかにしてmorbidityやmortalityを少なくするかが重要な課題である.そのためCEAの麻酔,モニター,手術手技など今だ解決されない種々の問題点が残存している.そこで今回これらの点について概説する.

研究

8の字コイルを用いた経頭蓋磁気刺激による麻痺患者の運動領野の同定

著者: 中大輔 ,   船橋利理 ,   小倉光博 ,   桑田俊和 ,   中井三量 ,   中井國雄 ,   板倉徹 ,   駒井則彦 ,   上野照剛

ページ範囲:P.27 - P.34

I.はじめに
 最近,臨床で運動機能を評価するために経頭蓋大脳磁気刺激が盛んに使用されるようになってきた3,6,11,12,18-20,23).脳神経外科の領域では,中心溝付近の開頭手術を安全に施行するため,術前に頭皮上から運動領野あるいは中心溝を同定するために用いられている7,8,15).臨床的に問題となるのは,経頭蓋的磁気刺激の対象となる患者のほとんどが運動麻痺を伴っているため,正常人に比較して運動誘発電位(MEP)を得ることが困難であるという点である.特に上肢よりも下肢領域の運動誘発電位を得にくいため,下肢筋の運動領野を同定できないことが多く,麻痺患者では上肢から下肢までの運動領野全体をとらえにくい.
 今回,経頭蓋磁気刺激により,重症の麻痺患者においても頭皮上に正確な運動領野を同定することが可能か否かについて検討した.まず麻痺患者において評価の可能な振幅を有する運動電位を誘発するための工夫を行い,次いで誘発電位から機能図を作成し,それから推測した運動領野とMRIから同定した運動領野との位置関係について検討した.

SEPモニター下でのTemporary Occlusionを用いた脳動脈瘤手術

著者: 佐古和廣 ,   中井啓文 ,   滝澤克己 ,   徳光直樹 ,   佐藤正夫 ,   加藤光宏

ページ範囲:P.35 - P.41

I.はじめに
 脳動脈瘤の手術手技はほぼ確立されていると考えられるが,最近報告されたInternational Cooperative Studyの結果では,全手術例の32.1%が死亡ないし何らかの障害を残している8,9).クモ膜下出血そのものによる脳の障害と血管攣縮がmortality,morbidityの主たる原因であるが,手術に伴う合併症もmorbidityの14%を占めており改善の余地がある.
 手術時の合併症の重要なものの一つとして術中破裂が挙げられる.術中破裂時のmortality,morbidityの高さについてはすで報告されている2).術中破裂の予防として全身低血圧は一つの方法であるが,全脳虚血の問題がある.一方temporary occlusionは動脈瘤内圧を減少させ,動脈瘤の剥離を容易にし,また脳虚血も親動脈の支配領域に限局するという利点がある.temporary occlu—sion中の脳虚血の程度をSEPモニターにて管理することにより不可逆的脳虚血を避けることができることについてはすでにいくつかの報告がある3,6,7,10,13,14,16-18).われわれは通常の脳動脈瘤の手術においてもSEPモニター下にtemporary occlusionを用いることにより,安全かつ確実にclippingを遂行することを方針としているが,今回その経験をまとめたので報告する.

重症小脳梗塞に対する外科的減圧術

著者: 小笠原邦昭 ,   甲州啓二 ,   長嶺義秀 ,   藤原悟 ,   溝井和夫 ,   吉本高志

ページ範囲:P.43 - P.48

I.はじめに
 小脳梗塞急性期の治療としては,梗塞巣の進展防止および全身管理などの保存的治療が中心となる.また,梗塞に伴う脳浮腫に対してはマンニトール,ステロイド,バルビッレート等の抗浮腫剤の投与が行われている9).しかし,脳浮腫が広範になると,閉塞性水頭症をきたしさらには脳幹部を圧迫し,急激な意識レベルの低下をきたす場合がある.このような症例に対して,外科的減圧術が著効を示しかなりの率で救命できることが知られている2-4,6-8,11-13,15-19,22,23).しかし外科的減圧術の適応基準や治療成績,特に運動機能に関するlong-term out—comeのまとまった報告はほとんどない.今回われわれは,脳室ドレナージ術および後頭下減圧開頭術を施行した重症小脳梗塞10例の急性期の臨床経過および長期経過後の転帰について検討したので報告する.

出血傾向を伴う慢性硬膜下血腫—11手術例の検討

著者: 佐藤光夫 ,   遠藤雄司 ,   高萩周作 ,   佐々木達也 ,   児玉南海雄

ページ範囲:P.49 - P.54

I.はじめに
 通常の慢性硬膜下血腫(以下CSDH)は穿頭術により良好な予後が得られる疾患である,しかしながら,出血傾向を伴うCSDHは比較的稀であり,しかも最近の止血機序の研究発展や治療法の進歩にもかかわらず,その予後は必ずしも良好とはいえない.また,保存的に治療される場合もあり,まとまった手術例の報告は散見されるにすぎない8,9,22)
 今回,著者らは出血傾向を伴うCSDHの11手術例を経験し,その多彩な臨床像と治療上の問題点について検討したので報告する.

症例

脳室—腹腔短絡術と乳突天蓋部先天的骨欠損が誘因と考えられたTension Pneumocephalusの1例

著者: 和田司 ,   遠藤英雄 ,   鈴木利久 ,   湯川英機 ,   小川彰

ページ範囲:P.55 - P.59

I.はじめに
 Tension pneumocephalus(以下TP)とは,「頭蓋内の硬膜外,くも膜下,脳室内,あるいは脳実質内に空気ないしはガスが貯留し,頭蓋内圧の上昇をきたすもの.」と定義されており,急性の経過をとり生命の危機にまで至る症例の報告も散見されている2,7).しかも,TPの発生は脳神経外科領域において,ごく一般的に施行される手術治療と密接にかかわっている場合が多いが,airの流入経路については,その発生メカニズムの同定が困難な例が少なくない.
 今回,われわれは,後頭蓋窩髄膜腫全摘およびV-P shunt後にTPの再発と消退を繰り返したが,耳鼻科的に乳突天蓋部形成術にてTPを治癒せしめた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

大脳縦裂を含む多発性硬膜下膿瘍の神経放射線学的検討—特にMRIの有用性について

著者: 高村幸夫 ,   上出廷治 ,   五十嵐幸治 ,   帯刀光史

ページ範囲:P.61 - P.64

I.はじめに
 硬膜下膿瘍の神経放射線学的診断は従来よりCTを中心として多数の報告があり1,3,4,6,7,14),最近ではMRIが病変の鑑別診断や,病変の正確な局在など,より多くの情報が得られ,有用であることが指摘されている11-13).しかし大脳半球間裂を含む多発性膿瘍に関するMRIの報告は少ない.
 著者らは最近,大脳半球間裂膿瘍と大脳半球円蓋部に膿瘍を形成した多発性膿瘍2例を経験した.CT所見とMRI所見との対比,Gd造影T1強調像による検討について,若干の文献的考察を加え報告する.

VAB−6療法が有効であった頭蓋内卵黄嚢腫の6歳男児例

著者: 和田英男 ,   久保実 ,   和田泰三 ,   上野康尚 ,   堀田成紀 ,   大木徹郎 ,   宗本滋 ,   黒田英一 ,   田口博基 ,   村松直樹

ページ範囲:P.65 - P.68

I.はじめに
 本邦における小児の頭蓋内胚細胞腫瘍(Germ Cell Tumors,GCTs)は,小児脳腫瘍の約10%を占め,欧米に比較して数倍多いと言われている.その中でも胎児蛋白であるα—fetoprotein(AFP)を産生するYolk Sac Tumorは最も悪性の性格を示し,従来は放射線治療が第一選択として行われてきたが,予後不良で殆どが1年以内に再発している.
 しかし,近年小児の睾丸・卵巣領域のnonseminoma—tous GCTsに対してCisplatin(CDDP),Vinblastine(VBL),Bleomycin(BLM)を含むPVB療法8),さらにこれら三剤にActinomycin D(AMD),Cyclophospha—mide(CPM)を加えたVAB−6療法2,6)(Table 1)の有効性が報告され,頭蓋内GCTsに対しても試みられている1,4,7,12)

Transtentorial Hiatus ApproachによるCT誘導下定位的膿瘍吸引ドレナージ術が奏効した小脳膿瘍の1例

著者: 松岡隆 ,   山田謙慈 ,   松田保宏 ,   上手康嗣 ,   魚住徹

ページ範囲:P.69 - P.72

I.緒言
 脳膿瘍に対する手術法としては,開頭による被膜外全摘出術または穿刺排膿術が一般的である.いずれの術式を選択するかは患者の全身状態,病期によって異なるが,近年ではCT誘導下定位的手術法の利用により正確な穿刺が可能となり,一般的にはまず穿刺排膿術が選択される5,6,11).しかし,小脳膿瘍に対しての報告は未だに多くない2,17)
 今回われわれは気管支拡張症に合併した小脳虫部高位に位置する膿瘍に対しTranstentorial hiatus approachによるCT誘導下定位的膿瘍吸引ドレナージ術を施行し良好な経過を得たので,若干の文献的考察を加え報告する.

眼輪筋をInvolveしない半側顔面痙攣の1治験例—顔面神経におけるFunctional Topographyの可能性

著者: 二階堂洋史 ,   小林英一 ,   永田和哉 ,   栢原哲郎

ページ範囲:P.73 - P.77

I.はじめに
 顔面痙攣と同様の手術法で軽快することが知られている三叉神経ではその圧迫部位によって症状が異なると言われており三叉神経にfunctional topographyが見られると報告されている1,2,5-7,9)今回われわれは眼輪筋をinvolveしない半側顔面痙攣の一手術を経験し,それにより顔面神経にもfunctional topographyを示唆する所見が得られたので若干の考察を加えここに報告する.

脳内出血で発症し急激な転帰をとった髄膜腫の1例

著者: 吉岡宏幸 ,   鮄川哲二 ,   加藤幸雄 ,   徳田佳生 ,   大林直彦 ,   渋川正顕

ページ範囲:P.79 - P.84

I.はじめに
 脳腫瘍は,一般に徐々に進行する神経脱落症状で発症し,脳卒中発作で発症することは稀である.また,脳腫瘍からの出血は転移性脳腫瘍や神経膠芽腫などの悪性脳腫瘍や下垂体腺腫ではしばしば経験されるが50),良性腫瘍である髄膜腫からの出血は比較的少ない8,9,18)
 今回われわれは,脳内出血で発症し,急激な転帰をとって予後不良となった円蓋部髄膜腫の1症例を経験したので文験的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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