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扉
素朴な疑問
著者: 種子田護1
所属機関: 1近畿大学脳神経外科
ページ範囲:P.5 - P.6
文献購入ページに移動医学部の三本柱は教育,診療,研究とされている.私が平成2年,長年勤務した病院から国立大学医学部に移籍した折りのことである.まず頂いた辞令に“文部教官”とあった.三本柱の中で最重要の職務は教育ということである.それまでに苦労して得た脳神経外科のエッセンスを後輩に伝えるチャンスが与えられたことに私は奮い立った.最初の講義で驚いたことは出席者の少なさであった.その僅かな出席者の中には始めから私語や居眠りをするものもいた.さらに驚いたことには講義が終わったときむっくり起き上がった者がいた.手には「少年ジャンプ」(漫画雑誌である:ご存じない読者のために)を持っている.机に隠れて分からなかったが,後ろのベンチ椅子に寝そべって漫画を読んでいたのである.このような使命感も勉学意欲もない医学生を多数入学させた選抜方法に問題はないのか?一方では,このような事態を招いたのには教官側にも責任なしとしない.研究,診療に比して,教育に情熱を傾けて取り組む教官が少ないのである.その原因は明白である。教育での業績は他の業績,とりわけ研究業績に比較するとほとんど評価の対象とはならない現状があるからである.かくして,学会・論文発表にはきわめて熱心であるが教育を雑用とみなして俯仰天地に恥じないような教官のみが増えて行くのではなかろうか.このような疑問を抱くと,医学教育は危機に瀕しているかのようであるが,現実には立派な臨床家,医学者が輩出している.やっぱり現状のままでよいのかな?
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