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文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科23巻1号

1995年01月発行

文献概要

連載 脳腫瘍の遺伝子療法:基礎研究の現状と展望・5

グリオーマ細胞におけるアポトーシスと免疫原性変化の誘導

著者: 浅井昭雄1

所属機関: 1東京大学脳神経外科

ページ範囲:P.7 - P.15

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I.はじめに
 遺伝子治療のヒトがんへの臨床応用は米国ですでに開始されている7).本邦でも,基礎動物実験レベルでいくつかの方法が模索されており,その臨床への応用が検討されつつある.がんに対する遺伝子治療はADA欠損症のような単一遺伝子欠損による遺伝性疾患に対する補充療法とは異なり,殺細胞療法であることが要求される.その際に最大の難所となるのが化学療法の際の薬剤到達性と同様,個々の細胞への遺伝子の到達性あるいは遺伝子導入の効率の問題である.現存の遺伝子導入法では最もよいとされるレトロウイルスを用いても高々数十%である.これまで,遺伝子導入の効率が低ければ,いかに殺細胞性の強い遺伝子を導入したところでごく一部の遺伝子を取り込んだ細胞にしか殺傷効果がないことになり,遺伝子治療により放射線—化学療法等従来の治療法を上回る好成績を得られるか否かについては疑問の残るところであった.しかし,ごく最近になって,遺伝子発現によるbystander効果*1や本稿で解説する腫瘍免疫原性変化等,遺伝子を取り込んでいない細胞への有効性を示す現象が次々明らかになってきて,遺伝子導入の低効率の問題は一気にクリアされる可能性が出てきた.
 われわれは,当初,グリオーマ細胞の増殖に対し,in vitroで増殖抑制を示す遺伝子を検索していた.その中で,s-mycをはじめとするいくつかの遺伝子がグリオーマの増殖を抑制することがわかった1).その抑制の機序を検討する過程で,これらの遺伝子発現が高くなるとグリオーマ細胞にアポトーシスを誘導することを見い出した2).アポトーシスとは,細胞が自分のもつ自爆装置を用いて酵素的に自分自身のゲノムDNAを分解して死ぬときの細胞形態をさしていう.このような細胞自身が潜在的にもつ自己破壊能を何らかの遺伝子導入により引き出すことができれば,腫瘍を縮小せしめることが可能になるのではないかと考えた.この際,先に述べた遺伝子導入の効率の低さが障害になり,あまりはかばかしい効果が得られないことが十分予想されたが,実際に担グリオーマラットモデルにs-myc遺伝子の導入を試みたところ,予想をはるかに越える抗腫瘍効果が得られた3).本稿では,s-myc遺伝子発現のグリオーマ細胞に対する効果を中心に,われわれのこれまでの研究の概要と,遺伝子治療の今後の展望について解説する.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

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