今春広島大学の統合移転が終了し,私共のいる霞キャンパス(医学部,歯学部,原医研)を除いて他学部はほぼすべて東広島市の西条キャンパスに移転した.大学の学生人数,敷地面積ともに日本有数となった.今年の日本医学会総会の会頭を務められた飯島宗一元広島大学学長の構想以来20数年を要した.また,教養部を廃止して総合科学部として発足し20年が経過した.そして,我が医学部は今年創立50周年を迎え8月5日にその祝賀会が挙行された.戦後50周年と相俟って社会の変遷,国際化,経済の変化などに関連して今また大学の教育改革の真っ只中にある.
各大学白書が出版され,自己評価・点検の立場から現時点の問題点と将来への展開が示されている.学部教育改革の基本は,教養的教育と専門的教育をうまく融合させそれぞれを生かすことにある.即ち,幅広い視野と総合的な判断力を養い,全体感をもった専門性が生かされることである.医学部においても,昨年より従来の総合科学部2年専門課程4年という基本パターンはなくなり,6年一貫教育となった.2年次から学部の基礎講義実習が開始されるが,医学専門英語などは通年で4年次まで組み込まれている.また医療情報学,医療国際協力学,医用工学なども2年次に学習し,被爆地広島という歴史的教訓を生かして被爆者健康管理,被爆者対策史なども履修する.
雑誌目次
Neurological Surgery 脳神経外科23巻10号
1995年10月発行
雑誌目次
扉
教育改革と脳機能開発
著者: 栗栖薫
ページ範囲:P.855 - P.856
総説
松果体とメラトニン
著者: 増沢紀男 , 山田直司 , 田中秀信 , 黒川徳一
ページ範囲:P.857 - P.868
I.はじめに
ギリシャ人のGalen of Pergamus(131 to 201A.D)による牛脳での神経解剖の記載がありその中に初めて松果体を認めている.松果体はunpaired structureであり,精気の流れをコントロールしていると考えられていた.この考え方は17世紀のフランスの哲学者Rene Des—cartesに引き継がれることになる.20世紀の初めには松果体が性機能,皮膚の色素沈着に関与しており,光覚刺激に反応することが解って来た.
フランスの哲学者René Descartes(1596-1650)はDe homine(人間論,1662年)の中で精神.運動機能で松果体と脳室が極めて重要であるとしている.即ち松果体は魂の座で,人体を支配する中心であり,松果体は脳室内のanimaの精気の流れをコントロールするとした.De homineの中でFig.1のように物体ABCからの光は目の中に入り,網膜上に視覚像をつくりそこから視神経を示す内腔のある管によって,脳室の壁と結合しているとした.管からのメッセージは霊魂精気として脳室を通過し,西洋梨の形をした松果体(H)に至る.この松果体から運動刺激が生じ神経に送られ,腕の筋肉へ至る.求心性と遠心性の要素があり反射の基本的理論をみる.Des-cartesのこの考え方は単に松果体が脳の正中深部にある神秘的なものとしての位置づけから発展したものであろうが,反射回路としての説明は別として奇しくも光覚刺激と松果体とを結びつけた点は,何らかの因縁めいたものを感ずる14).
1898年のOtto Heubnerが若年男児でprecociouspubertyを呈し,剖検で松果体腫瘍を発見し報告した例が,松果体が生殖機能に関係するとした初めてのものであろう25).
1954年KitayとAltschuleは松果体腫瘍と生殖機能について松果体はantigonadal substanceを分泌しているが,腫瘍によって松果体実質が破壊されると性早熟となり,松果体の実質腫瘍では分泌過多となり,性機能不全になるとした謝.それらの松果体と生殖機能との関係が注目される約40年前に,動物学者McCordとAttenは松果体の分泌物がオタマジャクシの形態発生に影響を与え,松果体エキスを投与すると30分後に半透明になることを発見した39).1950年Lernerらはこの皮膚の色を淡くする松果体エキス中の成分がヒトの白斑(vitiligo)とも関係あると考え,その同定の研究を始めた.20万頭の牛松果体を集め,4年間かけ分離.精製しこの物質がカエルの皮膚のメラニン保有細胞のメラニンを凝集させて,皮膚の色を薄く(退色)させる作用があることから,メラトニン(melatonin,MLT)と命名した33)上メラトニンの同定には種々の方法が考えられて来たが,初期のbioassay法からspectro.photofluometry法gas chro-matography法’radioimmunoassay法への変遷がある(Table 1)37).
メラトニンの組織分布をさぐる手がかりとして,メラトニン形成酵素のHIOMT(hydroxyindole-O-methyltransferase)はメラトニン存在部位を示す極めて特異的なマーカーである.この酵素は松果体,松果体由来の腫瘍や松果体以外の網膜,瑠歯類のHarderiangland,脳室脈絡叢にも存在する.一方メラトニンは免疫組織科学的方法で網膜のouter nuclear layer,視神経及び交叉,視交差上核に認められる9).中枢神経以外ではメラトニンは食道,胃,十二指腸,盲腸,大腸,直腸などのgastrointestinal tractにも存在する10).
血中のメラトニンは松果体を摘出すると消失することから,唯一松果体で作られたメラトニンが血液や髄液により脳の各部や全身に運ばれるとされている.松果体には他にvasotocinというoxytoxin vasopressinに似たpeptideも存在することから,これらも分泌されると考えられている65).脳内ではメラトニン作用のtargetは視床下部,脳幹と考えられており2),また,メラトニンは胎盤を通過し母乳中に放出されて胎児と性機能に影響を与えるという52).ヒトにメラトニンを投与するとパーキンソン病のtremorやrigidityの軽減効果がみられ,sleep-inducing effect,REM睡眠の延長を生じることなどが解ってきた1).
解剖を中心とした脳神経手術手技
Petrosal approachによるSTA-SCA吻合術
著者: 伊藤守 , 木下章 , 早川徹
ページ範囲:P.869 - P.874
I.はじめに
椎骨脳底動脈系の虚血性病変に対する外科的治療法にはSTA-SCA吻合術3),STA-PCA吻合術18),OA—PICA吻合術11)が報告されている.その有効性についてはいまだ最終結論は出されていないものの,後頭蓋窩虚血性病変は血行動態的な要素が強いことなど外科的治療の有用性を示唆するデーターは多い8).しかしながら手術手技が困難なことが有効性の評価以前に障害となっていることは否めない.これら血行再建術には熟練した脳神経外科医が種々工夫を重ね,成績を向上させる努力が払われている.とりわけSTA-SCA吻合術には利点が多く多用されているが,側頭葉圧排による障害が完全に解決したとは言いがたい.本稿で述べるアプローチの利点を利用すれば側頭葉損傷のリスクを軽減でき,しかも更に手術手技を容易にでき,椎骨動脈系への血行再建術を普及できるものと考える.どのような手術でも手術を成功させるためには正しい適応とともにアプローチの工夫ならびにテクニックがそろうことが必要である.本稿の主旨よりSTA-SCA吻合術に関するアプローチとテクニックについて解剖学的考察を含めて詳述する.
研究
頸椎単一椎間板ヘルニア例における高位別上肢神経症状—脊髄症の神経学的責任椎間板高位診断
著者: 山崎義矩 , 橘滋国 , 矢田賢三
ページ範囲:P.875 - P.880
I.はじめに
近年の画像診断の進歩により頸椎椎間板ヘルニアの診断は容易となった.しかし,画像上多発病変を有する症例も少なくなく,画像所見のみから臨床神経症状に直接関与している責任椎間板高位を確定することは必ずしも容易ではない.さらに,頸椎椎間板ヘルニアに起因する上肢神経症状には神経根の障害症状である神経根症(radiculopathy)と脊髄の髄節性障害症状である脊髄症(myetopathy)という異なる病態が存在する.脊髄症状を伴わず神経根症のみを呈する症例の神経学的責任椎間板高位診断は比較的容易であるが8),脊髄症を呈する症例の場合には困難であるという意見が多い9,13,15).手術に際し,侵襲を最小限にするためには除圧部位を臨床神経症状の責任病巣のみに限定する必要があり,このためには神経所見からの責任椎間板高位診断は不可欠である.
脊髄症を呈する症例の神経学的責任椎間板高位診断を可能にするためには各椎間高位で脊髄が圧迫された場合に出現する上肢神経症状を明確にする必要があると考え,以下の検討を行った.
脳血管攣縮に対する塩酸パパベリン動注療法
著者: 木下泰伸 , 寺田友昭 , 中村善也 , 中井易二 , 中井國雄 , 板倉徹 , 仲寛 , 中大輔 , 竹原理恵 , 今井治通 , 辻直樹 , 木戸拓平 , 垣下浩二 , 兵谷源八 , 栗山剛
ページ範囲:P.881 - P.887
I.はじめに
くも膜下出血後の脳血管攣縮に対する治療は,早期手術による血腫除去,術中術後の脳槽洗浄5),Ca拮抗剤の投与25),hypervolemic hypertensive therapyc27)が一般的である.上記の治療で対処できない症候性脳血管攣縮に対して当施設では1989年以来percutaneous translu—minal angioplasty(以下PTAと略す)を行い良好な結果を得てきた22,29).しかし前大脳動脈領域や中大脳動脈末梢の血管攣縮ではバルーン挿入が困難であったり,血管破裂の危険性9,16)のためPTA困難な例も多い.この問題を解決する治療法として最近,塩酸パパベリンの選択的動注療法(以下パパベリン動注と略す)が報告され11,12),簡便な治療法でもあり,われわれも第一選択で施行してきた.本稿ではわれわれのパパベリン動注の結果を報告し,従来のPTAとの比較からその効果と問題点について考察した.
鼻副鼻腔および前頭蓋底病変に対するextended transbasal approach 14例の検討
著者: 久門良明 , 善家喜一郎 , 大田信介 , 畠山隆雄 , 榊三郎 , 柳原尚明
ページ範囲:P.889 - P.895
I.はじめに
前頭蓋底病変に対しては,通常,両側前頭開頭術が選択されるが,病変が大きくさらに深部に及ぶ場合には,前頭葉脳実質に対する強い圧排が長時間にわたることになる.そこで,眼窩上壁をできるだけ低くしたり3),除去し5-8,10),広い術野を得て脳実質の圧排を最小限度に留め,手術操作を容易かつ確実なものにする工夫がなされている.そのうちextended transbasal approach6-8)は,前頭蓋底のみならず斜台近くまでの広い術野を得ることができ,術後の顔面も美容上問題なく,有用な手術術式である.
今回われわれは,鼻・副鼻腔および前頭蓋底病変に対してextended transbasal approachを施行した14例の手術成績,合併症,予後および再発について検討したので報告する.
脳腫瘍に対するimage guided stereotactic biopsy71例の経験
著者: 松本健五 , 富田亨 , 東久登 , 中川実 , 芦立久 , 多田英二 , 前田八州彦 , 大本堯史
ページ範囲:P.897 - P.903
I.はじめに
近年,MRI等の画像診断技術の進歩により,脳深部の微小な腫瘍も容易に発見可能となり,またその診断も正確となっている.しかし画像及び臨床所見のみでは診断に苦慮する例も少なくない2,4).特に問題となるのは腫瘍の占拠部位,広がり,また患者の状態等により,開頭による組織診断を選択し難い場合である.その際の治療方針について議論のあるところとなる9).脳腫瘍を治療する際,また予後を推定する意味でも,組織診断が重要であることは周知の事実である,われわれはそのような病例に対して,積極的にCTまたはMRI誘導による定位脳手術による腫瘍生検を行い診断を確定することとしている.今回その具体的手技,成績等について若干の文献的考察を加え報告する.
巨大なcystの後頭蓋窩への進展を伴ったpineocytoma
著者: 中島正之 , 木戸岡実 , 金子雅春 , 中洲敏 , 半田讓二
ページ範囲:P.911 - P.915
I.はじめに
Pineocytomaは全国脳腫瘍統計4)で全原発性脳腫瘍の0.2%を占める稀な腫瘍で,CT,MRIなどの画像診断所見の報告も少ない.われわれは後頭蓋窩へ延びる巨大な嚢胞を伴ったpineocytomaの稀な1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
症例
悪性類上皮腫の1治験例
著者: 森美雅 , 鈴木善男 , 棚澤利彦 , 吉田純 , 若林俊彦 , 小林達也
ページ範囲:P.905 - P.909
I.はじめに
類上皮腫は頭蓋内腫瘍の約1%21)を占めるが,まれに悪性変化を伴うものがあり悪性類上皮腫もしくは類上皮腫癌と呼ばれ,予後は極めて不良である.われわれは摘出後,放射線治療による13カ月の症状軽快の後,再び急速に増大する小脳橋角部悪性類上皮腫に対してradiosurgeryを行った.その効果を含め悪性類上皮腫の治療に関して文献的考察を行う.
後頭部打撲による反衝損傷型前頭部急性硬膜外血腫の1例
著者: 宮崎芳彰 , 磯島晃 , 竹川充 , 阿部聡 , 坂井春男 , 阿部俊昭
ページ範囲:P.917 - P.920
I.はじめに
急性硬膜外血腫は,一般に骨折を伴ったcoup injuryとして見られることが多い14).一方で,骨折を伴わない症例が,急性硬膜外血腫全体の11-15%4,9)にも及び,若年層を中心に見られる4,9)ことも事実である.また,両側性急性硬膜外血腫も剖検例の報告で2.4-5.4%5,6,21)に見られたとされ,手術による救命例の報告7,8,20)も散見される.
今回われわれは,左後頭部を打撲,同部位に骨折を認め,右前頭部に急性硬膜外血腫を形成した,稀な1例を経験したので,発生機序を中心に文献的考察を加え報告する.
手術・cisplatin/etoposide併用化学療法・放射線療法の3者併用が奏功した松果体芽腫の1例
著者: 秋山義典 , 秋山恭彦 , 熊井潤一郎 , 西川方夫
ページ範囲:P.921 - P.925
I.はじめに
松果体部に発生する腫瘍のうち,松果体芽腫は高度悪性腫瘍で,髄芽腫などと共にprimitive neuroectodermaltumor(PNET)に属すると考えられているが,極めて少なく全脳腫瘍の0.1-0.3%とされている12).症例数が少ないため,本腫瘍の治療法に関するコンセンサスは未だ得られていない.今回われわれは,腫瘍内出血を生じ閉塞性水頭症による頭蓋内圧亢進症状ならびに痙攣重積発作にて発症した松果体芽腫の1例を経験し,手術・cis—ptatin/etoposide併用化学療法(PE療法)・放射線療法の3者併用にて良好な結果を得ることができた.本症例の経過につき記すると共に若干の考察を加え報告する.
Cortical venous drainageを有する頸動脈海綿静脈洞瘻に対する治療前後の1H-MRSによる評価
著者: 宇野昌明 , 佐藤浩一 , 上田伸 , 松本圭蔵 , 原田雅史
ページ範囲:P.927 - P.933
I.はじめに
頸動脈海綿静脈洞瘻(以下CCFと略す)は特発性と外傷性のものに分類できるが,いずれの原因にせよ,動静脈瘻の流出経路がsylvian veinなどを経由して脳表の静脈まで逆流する症例,すなわちcortical venous drain—ageを有する症例は少ない.このような症例は,くも膜下出血や,脳出血,静脈性梗塞による重篤な症状を起こしやすく,またそれに至らないまでも,脳循環不全による脳代謝障害を起こしやすい5,6).
脳代謝の状態を無侵襲に測定できる方法として,近年magnetic resonance spectroscopy(以下MRSと略す)が臨床に応用されている2-4).今回われわれは,CCFによりcortical venous drainageを認めた2症例に対し,塞栓術ならびに放射線療法を施行し,治療前後でprotonMRS(以下1H-MRS)で,脳代謝の状態を経時的に検討したので報告する.
ガス産生菌による脳膿瘍と硬膜下膿瘍の同時合併例—手術時期についての考察
著者: 西村敏彦 , 窪田惺
ページ範囲:P.935 - P.939
I.はじめに
ガス産生菌による脳膿瘍は極めて稀であり2,3,9-11,13,16),しかも非ガス産生菌による脳膿瘍に比して急速に増大し,予後も不良である4,9,11).
今回われわれは,神経脱落症状を残すことなく完治させることができたガス産生菌による脳膿瘍と硬膜下膿瘍との同時発生例を経験したので,文献的考察を行うと共に脳膿瘍の手術時期についても検討したので報告する.
6年間の経過で再発をきたしたpleomorphic xanthoastrocytomaの1例—のう胞壁の切除は必要か?
著者: 坂本辰夫 , 榊原陽太郎 , 林龍男 , 山下弘一 , 関野宏明 , 小澤智子 , 田所衛
ページ範囲:P.941 - P.945
I.はじめに
腫瘍摘出後6年の経過で再発したpleomorphic xan—thoastrocytoma(PXA)の1例を経験し,病理組織学的検索からPXAの手術法に関して若干の知見を得たので報告する.
基本情報

バックナンバー
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38巻8号(2010年8月発行)
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38巻1号(2010年1月発行)
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