icon fsr

文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科23巻11号

1995年11月発行

文献概要

「木に学ぶ」

著者: 板倉徹1

所属機関: 1和歌山県立医科大学脳神経外科

ページ範囲:P.953 - P.954

文献購入ページに移動
 先日,法隆寺宮大工の西岡常一氏が亡くなった.氏は代々法隆寺に仕える宮大工の棟梁で第三代目で最後の棟梁といわれている.法隆寺は世界最古の木造建築である.1300年間いかなる震災,風雪にも朽ちることなく,建立当時から今日までその美しい姿を誇ってきた.なぜ法隆寺が震災も台風も多いこの国で,かくも長期間その美しさを保つことができたのであろうか?氏はその生涯をかけて法隆寺を修理保存し,木と接することによってその秘密を学んでいる.氏の考えはたんに一宮大工の考えというより,まさに哲学というにふさわしく,一つの教育論といって過言ではない.ここに教育論としての氏の「木に学ぶ」をご紹介したい.
 法隆寺の建物はすべて檜からなり,いっさい鉄製の釘は使用されていない.檜には異質な鉄は勿論のこと他の樫や松などの木を一緒に使用してはならないという.またこれらの檜は1000年から2000年もの間,山で育ったものが伐採されたと推察されている.伐採後も檜は環境さえ整えれば,伐採時の樹齢だけさらに生き続けるという.環境とは,伐採前の木に育った環境をそのまま保ってやることである.つまり,法隆寺の南側の柱には山の南斜面のものを,北側の柱には山の北斜面のものをもってくるというように,山で育ったままの環境をそれぞれの柱に与えてやれば,檜は伐採後も1000年も2000年も使用できるという.事実,法隆寺の柱は伐採後も息をしていると氏は表現している.また,木にはそれぞれの個性がある.東風を受けた木は西にねじれる傾向があるし,西風を受けたものは反対にねじれる傾向がある.伐採された檜は一見同じに見える.しかし宮大工は一見同じように見える檜の一本一本のねじれ(くせ)を見抜かねばならない.そして右にねじれる傾向のある柱の隣は,左にねじれる柱をもってきて建物を組み立てる必要がある.そうすれば,それぞれのくせ(個性)は良い意味で相殺され,いかなる方向の力にも耐え,建物としては大変バランスのよい,強いものになる.ここに木造建築でありながら震災や台風に長年耐えてきた秘密がある.さらに建物には必ず屋台骨ともいうべき建物を支える木がある.太くて強度の高い檜である.この木は山のどこに育ったものがいいか?山の南斜面で中腹以上の高さのものが最適という.南斜面の檜はいつも暖かい陽を浴びて太く育っている.さらに山の中腹以上では年中強い風が吹いて,何もこれをさえぎるものがない.いつも厳しい風雨に耐えて強く育ってきた.したがって,この場所の木は大変強い強度を保つため,建物の屋台骨になり得るといっている.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?