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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科23巻12号

1995年12月発行

雑誌目次

このごろ思うこと

著者: 米増祐吉

ページ範囲:P.1057 - P.1058

 今年は敗戦後50年という年で日本は言うまでもなく世界各地でいろいろな行事がおこなわれて,第二次世界大戦の意味の再検討,反省などがマスコミの話題になっている.秘められていた情報の公開も相次ぎ歴史として認識,評価の見直しを求められる問題もすくなくない.これに加えて共産主義の挫折,冷戦時代の終結,さらに世紀末思想の色付けが人類に新たな不幸と混乱と戦争状態をもたらしているようにみえる.かつてヒットラー,ポルポトのやったことがサラエボの周辺では繰り返されており,日本でもオウム真理教という不可解な集団が新たな社会不安を巻き起こしている.
 日本の国内では戦争体験のない世代が10人に7人を占める状態で現在の社会状態の戦争とのかかわりは認識されにくくなっている.記憶に残る年齢になってから戦争が始まり今日までの日本に生きてきたものとして現在の社会情勢に不安と危惧を抱いている者は少なくないと思われるが今や少数派であることも否定できない.

総説

フローサイトメトリーによる脳腫瘍のCell Kinetics

著者: 河本圭司

ページ範囲:P.1059 - P.1068

I.はじめに
 フローサイトメトリー(FCM)とは,フローサイトメーターを用い,1秒間に数十〜数百の細胞を水とともに流しながら,レーザー光線を当て,細胞の種々の情報を瞬時に測定する方法である.この方法はcell kineticsと免疫の2つの分野に広く用いられる.FCMを用いた脳腫瘍のcell kineticsに関しては,1978年にFredrik—sen13),Hoshino16),1979年Kawamoto27)らが始め,その後数多く報告されるようになった5,40).脳腫瘍の免疫については,別の機会に譲り,今回はFCMの歴史,原理から,私たちの教室で続けている脳腫瘍のcell kine—tics研究の経緯と文献をレビューし,最近の話題についても紹介する.

研究

ラット移植脳腫瘍に対する頸動注腫瘍壊死因子の効果—動物実験用MRIによる検索

著者: 原田薫雄 ,   吉田純 ,   若林俊彦 ,   杉田虔一郎 ,   栗栖薫 ,   魚住徹 ,   ,   高橋昌哉 ,   山中剛

ページ範囲:P.1069 - P.1074

I.はじめに
 Tumor necrosis factor(TNF)は,主にmacrophageより産生され多面的な生理活性を有するbiological re—sponse modifierであるが,Carswellの報告以来,抗腫瘍剤として注目されている4).われわれは現在,臨床において悪性グリオーマ症例に対しTNF—αの頸動注療法を行っており有効例を報告しているが24,26),投与時期,量の設定については未だ確定的な結論を得るに至っていない.今回,より有効なTNF—α投与法を検討するため,ラット移植脳腫瘍モデルを使った基礎的実験を行い,腫瘍を動物実験用MRIにより経時的に観察するとともに,組織学的検索を行ったので文献的考察を含めて報告する.

Acoustic neurinomas with large cystic components—3例の臨床的,病理学的検討

著者: 浅野研一郎 ,   蛯名国彦 ,   関谷徹治 ,   鈴木重晴

ページ範囲:P.1075 - P.1082

I.はじめに
 聴神経鞘腫が嚢胞を形成することは稀ではない.Kendall9)の報告では9.6%であり,Turgut25)によれば11.3%,Wallance26)は13%,Rabbins23)は20.5%と報告している.しかし,大部分が嚢胞で構成される聴神経鞘腫はYamada27)によると,わずか1.7%にすぎない.今回われわれの経験した大部分が嚢胞で構成された聴神経鞘腫3例に関して,その嚢胞形成機序,臨床症状および病理学的所見について検討を行ったところ若干の知見が得られたので,文献的考察を加え報告する.

Central neurocytomaの病理組織学的研究—そのhistogenesisに関する考察

著者: 秋元治朗 ,   伊東洋 ,   伊東良則 ,   三輪哲郎

ページ範囲:P.1083 - P.1091

I.はじめに
 1982年Hassoun3)が提唱したcentral neurocytoma(以下CNと略す)の概念は,その後の症例報告の積み重ねにより,改訂されたWHOの脳腫瘍分類6)に新しい腫瘍概念として登録されるに至った.CNはその中ではneuronal and neuronal-glial tumorsの項目に記され,neuronal differentiationを強調する説明文が記されているが,そこに“Co-expression of GFAP has been ob—served.”という印象的な一節を見ることができる.ではCNは純粋なneuronal tumorではないのか.われわれは最近4例のCNを経験したので,その光顕,電顕像,及び免疫組織化学像を検討,特にCN組織におけるglial componentの存在に注目,未だcontroversialなCNの発生母地について考察を加えた.

定位脳手術におけるtwist drillの有用性

著者: 松本健五 ,   富田亨 ,   中川実 ,   芦立久 ,   多田英二 ,   前田八州彦 ,   古田知久 ,   大本堯史

ページ範囲:P.1093 - P.1097

I.はじめに
 Twist drill craniostomyは1930年代にCone等により考案され15),腫瘍と膿瘍の鑑別のための試験穿刺法,外傷性血腫の診断・緊急処置技術などとして用いられていた2,4).論文上の報告は1966年のRand16)等のものが最初で,1977年Tabaddor17)等が本法の慢性硬膜下血腫の治療における有用性を報告して以来,本法に関する報告の殆どが慢性硬膜下血腫の治療に関連したものである2-4)本邦での報告は北見等9)らの慢性硬膜下血腫の治療に有用との報告のみで,この技術は広く普及するには至っていない.われわれは,脳腫瘍患者に対する定位脳手術に本法を用い,通常のburr hole craniostomyとの比較検討を行った.その結果,本法は簡便,迅速な穿頭法で安全性にも問題なく,種々の目的の定位脳手術に広範に広用可能と考えられたので,その方法を中心に報告する.

症例

自動釘打ち機による穿通性多発臓器損傷の1例—頭蓋内損傷を中心に

著者: 笹岡保典 ,   鎌田喜太郎 ,   松本宗明 ,   植田康夫 ,   岩阪友俗 ,   福島哲志 ,   西村章 ,   三島秀明 ,   井上正純

ページ範囲:P.1099 - P.1104

I.はじめに
 頭蓋内への穿通性異物損傷としては,経眼窩的1,2,7,9,16)あるいは経鼻的3)な損傷が大半を占め,また異物の種類としては銃弾14),ガラス1,16),木片3,9,18),刃物7)がほとんどである.今回われわれは,建設用工具として最近日本にも普及しつつあるnail-gunによる頭蓋内穿通性損傷,頸椎脊椎管穿通性損傷ならびに胸腔内損傷の稀な症例を経験し,その臨床的特徴ならびに治療につき文献的考察を加え報告する.

脳内海綿状血管腫の家族発生—兄弟例の報告

著者: 山村邦夫 ,   梶川博 ,   和田学 ,   梶川咸子 ,   住岡真也 ,   須山嘉雄 ,   嶋本文雄

ページ範囲:P.1105 - P.1109

I.はじめに
 脳内海綿状血管腫の家族発生例の症例報告は未だ少ない.当施設では,13年前,3歳時の弟を本疾患で手術し,最近,1歳違いの兄を同疾患で手術するという経験をしたので,文献的考察を加えて報告する.

乳児期に発症したgangliogliomaの1例

著者: 北原哲博 ,   藤井正美 ,   師井淳太 ,   梶原浩司 ,   伊藤治英

ページ範囲:P.1111 - P.1115

I.はじめに
 Gangliogliomaは小児期に好発する腫瘍であるが,乳児期に発症することは稀である.今回われわれは,乳児期に痙攣発作で発症した稀な1例を経験したので症例を呈示し,文献的考察を加え報告する.

低ナトリウム血症で発症したRathke's cleft cystの1例

著者: 師井淳太 ,   織田哲至 ,   鶴谷徹 ,   野村貞宏

ページ範囲:P.1117 - P.1120

I.はじめに
 近年,symptomatic Rathke's cleft cystの症例が多く報告されている.その症状のほとんどは下垂体機能低下に伴う症状,視野障害,頭痛である8,12,13).今回われわれは,低ナトリウム血症が中心となって発症した1例を経験したので報告する.

Gamma knife療法にて治癒した多発性脳動静脈奇形の1例

著者: 矢原快太 ,   鮄川哲二 ,   徳田佳生 ,   武智昭彦 ,   渋川正顕 ,   井口太 ,   平井達夫

ページ範囲:P.1121 - P.1125

I.はじめに
 多発性脳動静脈奇形(multipre cerebral arteriovenous malformations,以下,多発性AVM)は稀な疾患1-17,19,21-26)であり,単発性のAVMと同様に,直達手術1,3-7,9,11-17,19,25,26),塞栓術2,8),gamma knife治療3),あるいはこれらの組み合わせ3,8,10),などにより治療されているが,それらの適応にははっきりと確立されたものはない.われわれは,全身痙攣を主訴とした多発性AVMの女性に,gamma knife治療を行い,2年で治癒した症例を経験した.多発性AVMの治療法について,文献的に考察を加えて報告する.

血管内手術によって治療した多発性細菌性脳動脈瘤の1例

著者: 片倉康喜 ,   嘉山孝正 ,   近藤礼 ,   久連山英明 ,   丸屋淳 ,   中井昴 ,   細矢貴亮 ,   山口昻一

ページ範囲:P.1127 - P.1132

I.はじめに
 細菌性脳動脈瘤は,破裂細菌性脳動脈瘤ではもちろんのこと未破裂細菌性脳動脈瘤においてもその出血率が高いため2,3),化学療法に反応しないものに対しては何らかの外科的処置の対象となりうる.一方,細菌性動脈瘤は,感染性心内膜炎という,重症の基礎疾患を背景に持つ例が大多数であるため1,5,16,19),全身麻酔は危険性が高くなり,治療法に制限を受ける.従って,細菌性脳動脈瘤の治療法としては,全身状態に左右されないものが理想的である.
 今回,基礎疾患の感染性心内膜炎が活動期で,全身麻酔下の開頭術が困難であった小児破裂細菌性脳動脈瘤を血管内手術により治療し良好な結果を得たので,若干の文献的考察を加え報告する.

Proximal clipping直後に出血した未破裂解離性椎骨動脈瘤

著者: 平野亮 ,   端和夫

ページ範囲:P.1135 - P.1139

I.はじめに
 近年,解離性椎骨動脈瘤の報告が多数行われその病態についての認識が深まりつつある.特にクモ膜下出血(以下,SAH)を起こした症例の場合,治療法として椎骨動脈のproximal clippingが広く行われてきたがこの方法で再出血をきたす報告が相次ぐようになり1,5,7,12),trappingの有用性が注目されてきている3,4,12).今回われわれは未破裂の解離性椎骨動脈瘤にproximal clip—pingを施行したところ,その4時間後に同部が破裂しSAHをきたした症例を経験した.この出血の成因と治療法について考察を加え報告する.

中大脳動脈閉塞にともないleptomeningeal arteryに発生した脳動脈瘤の1例

著者: 川崎剛 ,   南田善弘 ,   藤重正人 ,   稲葉憲一

ページ範囲:P.1141 - P.1144

I.はじめに
 脳動脈瘤の発生に関して,動脈閉塞により血行動態が変化し動脈瘤が生じたという報告はこれまでも散見され,また動物実験において内頸動脈を閉塞し動脈瘤を生じさせた報告も見られる.一方,leptomeningeal arteryに脳動脈瘤が発生することは極めて稀である.われわれは,中大脳動脈前枝の閉塞により側副血行路として前大脳動脈末梢のleptomeningeal arteryが発達し,hemo—dynamic stressから同部位に動脈瘤が発生したと考えられる症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

追悼 

杉田虔一郎先生

著者: 小林茂昭

ページ範囲:P.1146 - P.1147

杉田慶一郎教授の御逝去を悼む
 第44回日本脳神経外科学会総会が,故杉田虔一郎教授会長のもとに,名古屋市において1995年10月18日より20日まで挙行された.杉田教授が学会長に任命されて以来,1994年9月5日に61歳で胃ガンのため逝去されるまで熱心に企画・意図されていたことが,高久晃会長代行ならびに渋谷正人準備委員長の統率の元に立派に実現されたことは,日本脳神経外科学会への多大な貢献であると共に,故人への供養であったと言える.
 故杉田教授を偲んで,教授の開発された一連の手術機械器具,芸術的とも言える手術記録・スケッチが展示され,また名古屋フィルハーモニーなどによる音楽会が催され,会員一同改めて,杉田教授の学問以外の領域における造詣の深さの一端にも触れた思いがした.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第23巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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