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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科23巻2号

1995年02月発行

雑誌目次

“手作り”のおもしろさ

著者: 増沢紀男

ページ範囲:P.95 - P.96

 脳神経外科の研修をはじめた昭和40年代前半の頃を振り返ってみると,日本語の専門書はほとんどなかった.愛用していたのは大槻外科学各論の上巻,頭部—脳・神経(昭和31年,文光堂)清水健太郎教授の執筆によるものであった.検査としては,神経学的検査,髄液検査,レントゲン検査,脳波検査,心電図,放射性同位元素による検査,超音波による診断法と数少ないものであった.それらの中でも脳神経外科として重要であったものは脳血管撮影,気脳撮影ならびに脳室撮影であった.後二者はCTスキャン出現以来はほとんど行われなくなった検査である.
 新入医局員の初めのトレーニングは経皮的内頸動脈撮影の手技を覚えることであった.慣れてくると“アンギオ部屋”で一日中何例もこなすようになった.ところが経皮的椎骨動脈撮影法は難しく,なかなかその秘技は伝授されなかった.間違って脊髄腔内に造影剤を注入してしまうこともあり危険な手技であった.椎骨動脈穿刺は頸動脈走行より内側でやや内側に向かって刺入し,針先を第6ないしそれより上位の横突起部あるいは椎体にあてる.針先にこの骨の感じがよくわかるので闇夜で杖をつくようにコツコツと横突起部に沿って針先を外方へずらし,前結節の隆起のあたりでその上縁あるいは下縁に沿って6-8mm針を刺すと椎骨動脈に当たった.その頃は脳血管撮影一つをとってみても,神経学的検査を充分に行った上で,適応を充分に考え,テクニックを駆使する“手作り”のおもしろさがあった.

総説

新WHO脳腫瘍分類の改良点と問題点

著者: 久保田紀彦

ページ範囲:P.97 - P.110

Ⅰ.はじめに
 脳腫瘍の組織学的診断の歴史は古いが,今なお診断困難な腫瘍が多数ある.脳腫瘍は,全身の腫瘍のなかでも最も多種類の発生母地を有する腫瘍のひとつであり,これが組織診断を困難にする大きな要因であろう.反対に,脳腫瘍は多種類の腫瘍が発生するからこそ,組織診断の研究において興味が尽きないという側面がある.
 1993年に新WHO分類が刊行され28),脳腫瘍の組織分類が一新された.当然のことながら,脳神経外科医が脳腫瘍の論文を作成する際に組織診断の知識を深く知ることは論文の質の高さにつながることである.また,組織診断の知識無しに画像診断はおろか,満足な治療など望むべくもない.脳神経外科医であるからこそ,ひとつの腫瘍の診断や手術を含めた治療,子後をすべて観察できる有利な立場にある.その意味で脳外科医は最も脳腫瘍の組織を良く理解できるはずである.私は教室員に,『自分が手術で採取した組織を見ない者は手術をする資格がない』と,常々言っている.今回,総説を執筆するにあたり,新WHO分類の主な改正点と問題点を拾い上げてみた.

解剖を中心とした脳神経手術手技

神経内視鏡(軟性)による脳神経外科手術

著者: 瀧本洋司 ,   早川徹

ページ範囲:P.111 - P.116

Ⅰ.はじめに
 最近の光学機器の著しい進歩と,消化器外科をはじめ耳鼻科,婦人科,泌尿器科等,脳神経外科以外の分野における内視鏡手術の進歩の影響を受けて,脳神経外科においても内視鏡手術が注目を浴びつつある.
 この分野は,実体顕微鏡が確立される遙か以前より,散発的ではあるが先人の工夫と試行錯誤が積み重ねられてきた.それら脳神経外科における内視鏡の歴史をふりかえってみると,硬性内視鏡を直接使用する方法,硬性鏡と定位脳手術を組み合わせる方法,軟性鏡を用いて主として脳室系の手術を行う方法等に分けられる.著者らは,このうち主として脳室系の手術に対してファイバースコープを用い,過去2年間に41例(Table 1)の内視鏡下手術を行ってきた.

研究

頸部頸動脈のPTA(Percutaneous Transluminal Angioplasty)

著者: 山村明範 ,   大山浩史 ,   松野太 ,   石黒雅敬 ,   中川俊男 ,   端和夫

ページ範囲:P.117 - P.123

Ⅰ.はじめに
 平成3年8月より平成5年12月までに頸部頸動脈狭窄16症例(17病変)に対してPTAを行い,良好な結果を得たのでPTAの有用性について報告する.

アドリアマイシンを用いた神経ブロック療法

著者: 斉木雅章 ,   近藤明悳 ,   絹田祐司 ,   岩崎孝一 ,   小畑仁司 ,   長谷川浩一 ,   沈正樹 ,   中野伊知郎 ,   山本悌司

ページ範囲:P.125 - P.130

Ι.はじめに
 帯状ヘルペス後神経痛や眼瞼けいれん等は古くより難治性として知られている疾患であり,神経減圧術が効を奏する三叉神経痛や顔面けいれんなどと異なり現在まで有効な治療法は確立されていない.
 一方,抗腫瘍薬として広く知られているadriamycin(以下ADM)はDNA依存性のRNA合成を阻害するため,これを神経線維に注人すると薬剤がretrograde ax—oplasmic transportにより神経核に取り込まれ,その神経細胞をdegenerationに陥らせることが実験的に証明されている2,9).そこでわれわれは,帯状ヘルペス後神経痛や眼瞼けいれんなどの疾患に対する治療を目的として,このADMによる神経細胞変性作用を臨床的に応用した神経ブロック療法(chemical rhizotomy)を施行したので,その結果と用性について報告する.

Neurofibromatosis 1,2の臨床検討—脳腫瘍で診断された自験21例

著者: 新田泰三 ,   佐藤潔

ページ範囲:P.131 - P.135

Ⅰ.はじめに
 神経線維腫症(Neurofibromatosis;NF)はその発病に関与する染色体異常を全く異にする2つの疾患群からなる.まずレックリングハウゼン神経線維腫症と呼ばれるNF 1は約3.000人に1人の発生頻度(0.03—O.04%)であり,カフェオーレ斑(multiple brown skin macules),雀卵斑(intertriginous freckling),皮膚の多発性神経線維腫等の皮膚症状を主症状とするため,診断は容易である1,6,20).このNF 1の10-15%に中枢神経系腫瘍を合併することが知られている.また一方,かつて中枢型線維腫症(central neurofibromatosis)と呼ばれていたNF 2は,両側の聴神経腫瘍を主徴とするが,NF 1に認められる皮膚症状に乏しい2,4).このことより発生頻度はNF1の10分の1以下にすぎないにもかかわらず,脳神経外科領域に於てはNF 1以上に遭遇する機会が多い.NF 2は,常染色体優性遺伝疾患であり,95%以上の浸透率を示すためNF 2患者の子供は50%の確率でNF 2を発症する12,16).事実1930年に1家系に38人のNF 2患者が存在していることが報告されたが,この家系は40年以上が経過した現在患者数が100人以上に増加していることが示されている22,23).4万人に1人という低い発生率で,大部分が家族歴のない新生突然変異でありながら,上記家系のように時代とともに増加してゆく危険性をはらんでいる.また両側の聴神経鞘腫であるため,聴力障害は必発で,聴力廃絶患者も散見される.顕微鏡手術が進歩してきた現在に於ても全摘出された一部の症例を除き,非NF 2で通常の聴神経鞘腫の患者と比較してその予後は,日本脳腫瘍統計よりも極めて不良である14).NF 1,2に関する分子遺伝学的解析は,近年の遺伝性疾患の研究の中でも最も精力的になされ,ほぼその遺伝子異常が解明されている17-19).そこで,これらNF 2症例を臨床画から検討してゆくことは治療を考えてゆく上で種々の問題点が提起されることと考えられる.本稿ではNF 2,14症例に加え脳腫瘍を主徴としNF1と診断された7症例の臨床検討を行った.

第3脳室病変に対するAnterior Transcallosal Approach—Monro孔の拡大法に関する考察

著者: 堤一生 ,   浅野孝雄 ,   茂野卓 ,   松居徹

ページ範囲:P.137 - P.144

Ι.はじめに
 Anterior transcallosal approach(ATA)により,第3脳室部病変を手術する場合,自然孔(Monro孔)を通した術野だけでは根治術が望めないことも多く,脳弓間もしくはMonro孔を広げる様々な工夫が必要とされる.それぞれの方法に一長一短があるように思われるが,詳細に記述されたものは意外に少ない6,12).われわれは,主にchoroidal fissureを利したsub/transchoroidal approachを用いて手術をを行ってきたが,その有用性と共に,いくつかの問題点を実感した.そこでこれらの適応と限界につき,われわれの経験を元に考察を加える.

症例

頭蓋内外に進展した軟骨肉腫の1例

著者: 田中俊英 ,   谷諭 ,   中原成浩 ,   橋本卓雄 ,   牛込新一郎

ページ範囲:P.145 - P.150

Ι.はじめに
 頭蓋内に発生する軟骨性腫瘍は,全頭蓋内腫瘍の0.1—0.2%と稀な脳腫瘍である.その画像診断におけるMRIの有用性は指摘されはじめている2,4,6,7,9-11,26,27).われわれは,MRIにて急速な成長が観察され,本疾患の発生母地を考えるうえでもMRIの有用性が確認された1症例を経験したため病理学的考察も含めて報告する.

放射線照射後20年を経て発生した脳幹部神経膠腫の1例

著者: 冨田博之 ,   野垣秀和 ,   柴田裕次 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.151 - P.155

Ι.はじめに
 頭部放射線照射により発生する放射線誘発脳腫瘍の多くは頭皮疾患に対する低線量照射後に発症することが多い.しかし,近年原発性脳腫瘍に対する高線量照射後に発生してくる脳腫瘍の報告がみられるようになってきた.
 組織型としては髄膜腫,肉腫が多く,神経膠腫は比較的少い.しかもテント上に発生する場合が殆んどで,脳幹部に限局した放射線誘発脳腫瘍の報告は極めて稀である.

全身大量メソトレキセート療法とカルボプラチン動注療法が奏効した小児頭蓋骨骨肉腫の1例

著者: 北井隆平 ,   佐藤一史 ,   小寺俊昭 ,   中川敬夫 ,   兜正則 ,   古林秀則 ,   久保田紀彦 ,   能崎純一

ページ範囲:P.157 - P.161

Ⅰ.はじめに
 骨肉腫の多くは若年者の長管骨の骨幹端に発生し,およそ7-10万人に1例の割合で発症するといわれている16)このうち頭蓋骨に原発する骨肉腫は,骨肉腫症例全体の0.1-2%と見積もられている12).長管骨の骨肉腫に対しては現在までに多くの治療プロトコールによる治療成績が報告されているが1-4,10,11,15),頭蓋骨原発の骨肉腫に対する治療についての報告は少ない9,12).今回われわれは手術に加え,補助化学療法としてロイコボリン救援併用大量メソトレキセート全身投与と,カルボプラチン,メソトレキセート動注療法にて寛解を得られた症例を経験したので報告する.

静脈洞閉塞をともない脳内出血で発症した横・S状静脈洞部硬膜動静脈瘻の1例

著者: 越前直樹 ,   岩永秀昭 ,   今西正巳 ,   奥地一夫 ,   徳永英守 ,   青木秀夫 ,   朴永銖 ,   辻本正彦

ページ範囲:P.163 - P.167

Ι.はじめに
 硬膜動静脈瘻はその病因や進行機序について未だ一定した見解が得られておらず,その治療に難渋することが多い.静脈洞閉塞をともなう硬膜動静脈旗の頻度は16.3-72.7%1,3,6,11,14)と報告されている.後頭蓋窩の硬膜動静脈瘻に限定すれば,その頻度はより高率であり,57.1-72.7%1,6,11,14)とされている.静脈洞閉塞の意義について硬膜動静脈旗の発生原因とする報告4,6)とその治癒過程とする報告9,12,13)がある.今回,われわれは静脈洞閉塞をともない脳内出血で発症した後頭蓋窩硬膜動静脈痩の1例を経験したので文献的に若千の考察を加えて報告する.

腎癌脳転移に対するinterferon—γ皮下投与の治療効果を薬物動態から検討した1例

著者: 山崎俊樹 ,   加川隆登 ,   高村陸代 ,   森竹浩三

ページ範囲:P.169 - P.173

Ι.はじめに
 腎癌の転移性脳腫瘍の予後は肺癌のそれと比べ比較的良好であるが,放射線療法や化学療法に抵抗性であるため,その治療法は確立されていない3,9).近年,腎癌に対する治療法のひとつとして,遺伝子組換え型インターフェロン(IFN)を用いた免疫療法が行われている.腎癌の脳転移に対してもIFN療法が試みられているが,その有効例は少ない4,5,10,15)
 最近,われわれは腎癌の脳転移に対しIFN—γの皮下投与が奏功した症例を経験した.現在までIFN—γ皮下投与が腎癌の脳転移に抗腫瘍効果を示した報告は見あたらない.IFN—γ療法の治療効果を解析するために,腫瘍摘出腔内に留置したOmmaya reservoirから採取した貯留液中のIFN—γ濃度を血中濃度と共に経時的に測定し,その薬物動態を検討したので報告する.

眼窩尖端症候群を来した眼窩内静脈瘤

著者: 姉川繁敬 ,   林隆士 ,   鳥越隆一郎 ,   原田克彦 ,   栄俊雅

ページ範囲:P.175 - P.179

Ι.はじめに
 眼窩内静脈瘤(orbital varix)は間歇性の眼球突出を特徴的臨床症状としてくる先天性の静脈のpouchであるとされている4).一方,眼窩尖端症候群は一側の動眼,滑車,外転ならびに三叉神経第1枝の症状に視神経障害を伴うものであり,進行性の黒内障と視神経萎縮を来す2).今回われわれは右眼窩尖端症候群を有した症例において,CT scanで眼窩先端部にmassを認め,手術によりorbital varixが発見され,術後より症状の著しい改善を認めた1例を経験したので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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