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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科23巻5号

1995年05月発行

雑誌目次

赤ひげ専門医

著者: 坪川孝志

ページ範囲:P.385 - P.386

 教室を訪れる外国の脳神経外科医達には,教室員ならびに私と一緒に,一日を回診,手術で過ごし,最後に実験室を見た後に,夕方議義をしていただくことになっている.教室員は病棟・外来に15名,実験室には出向中の教室員が4-5名と,ほぼ20名の教室員が50床を超える病棟を中心に働いていることになる.教室における私の役割は脳神経外科診療の責任者であるとともに,教師であり,脳神経外科の診療・研究を通して教室で学ぶ若い医師の養成が中心課題である.教室の全員が私を超える脳神経外科医になるように教え,研究させ,励ますことが私の義務である.こうした教室の日常的な1日を,外国の脳神経外科専門医がみると,日本の脳神経外科専門医は今後とも急増するに違いないと感じるらしく,必ずといっていいくらいに,日本の脳神経外科専門医の数を質問する.外国の脳神経外科専門医は利益を守り,配分しあう職人組合的な存在であることを知っている私はここで判で押したように,胸をはって,まもなく4,000名に達し,それは人口3万人あたり1名の割合になると答えることにしている.
 外国の専門医は,自分達の国のことと考え合わせてそれは余りに多すぎるなどと直接的な表現はさけているものの,私に対して,何故多くの時間を専門医養成のために費やすのかと質問してくる.

総説

下垂体手術と性腺機能

著者: 有田和徳 ,   富永篤 ,   魚住徹 ,   栗栖薫

ページ範囲:P.387 - P.395

I.はじめに
 下垂体腺腫に対する手術療法の目的は,腫瘍摘出によって有意の症状を軽快し,可能ならば根治を達成し,再発を防ぐことにある.しかし,下垂体腺腫が良性の腫瘍であり,一般に患者の生命予後が良好であることを考慮すれば,その治療原則は患者の長期のquality of lifeに配慮したものでなければならない.この観点に立って,われわれは従来から下垂体腺腫の手術においては下垂体機能の温存・回復を企図して,出来る限り愛護的な手術を行って来た.今回は従来検討されることの少なかったプロラクチノーマ以外の女性下垂体腺腫症例と男性下垂体腺腫症例において,このような配慮のもとに施行された手術が性腺機能に与える影響について検討する.最初に自験例の成績を紹介し,さらに下垂体腺腫例における性腺機能障害の頻度と原因,手術による回復の可能性,回復を左右する因子等について文献を紹介しつつ概説する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

顕在性癒合不全における神経機能構造温存根治術:顕在性二分脊椎の手術手技

著者: 大井静雄

ページ範囲:P.397 - P.404

I.緒言
 頭側の神経管癒合不全,特に顕在性二分頭蓋(mani—fest form of cranium bifidum)の手術理論と術式に関しては,前回の論文1)に示したごとく,それぞれの形態所見とニューロン成熟段階および発達解剖学,さらには二次的に生じている病態変化を背景に,個々の手術ゴールを決定することの重要性を強調した.現時点において,今なお.癒合不全の分類や用語には混乱がみられ,それぞれの手術適応とその外科的治療のゴールには今後も検討していくべき課題が多く残されている.
 本稿では,前回に続き顕在性二分脊椎(manifest form of spina bifida)の手術手技につき,解剖・形態学的所見さらには,発達解剖学的見地からみた手術術式を解説した.また,必ずしも既存の分類法や発生学的概念では解釈の難しい症例の手術についても,著者らの手術術式を呈示し,自らの見解を述べた.

研究

中脳グリオーマの臨床病理学的検討

著者: 新田泰三 ,   佐藤潔

ページ範囲:P.405 - P.410

I.はじめに
 中脳グリオーマ(brain stem gliema)は小児に好発する天幕下脳腫瘍であり,発生頻度は小児脳腫瘍の8-25%を占める7,12,14).小脳半球のアストロサイトーマは予後良好である3,18).また髄芽腫も、かつては最も予後不良で悲惨な脳腫瘍とみなされていたが,手術および放射線,化学療法の進歩によって予後は著しく向上している.しかし,この二者に比して脳幹グリオーマの予後は未だ不良である2,11).その大きな理由としては,脳幹グリオーマの大半を脳橋グリオーマ(pontine glioma)が占め,その予後は6-8カ月にすぎないからである14)
 しかし一方,この脳幹グリオーマの中でも,主に中脳に位置し,後方のSupracerebellar cisternに突出したexophytic typeのグリオーマは外科的に摘出術が可能で,また組織学的にもlow-grade astrocytomaであることが明らかになってきている10,20),つまりEps teinらのIntrinsic foual type, exophytic into Ⅳth ventricletype,またHoffmanらのgroup Ⅰ(focal midbrain glioma)やIntrinsic tectal tumorであり,これら中脳グリオーマに対しては,積極的に外科治療が行われてきている4,5,9).日本脳腫瘍統計でみると,発生頻度は低く特に中脳グリオーマとは分類されていないが,脳橋グリオーマとは明らかに異なる疾患と考えられる14).そこで,これら脳幹グリオーマの中で,中脳に主座をおく中脳グリオーマの臨床および病理学的検討を加えることは患者の治療を考える上で重要と考えられる.そこで今回私達は中脳グリオーマ自験9症例を対象にして検討を行った.

小児悪性脳腫瘍に対する末梢血幹細胞移植併用大量化学療法

著者: 関貫聖二 ,   坂東一彦 ,   白川典仁 ,   松本圭蔵 ,   高上洋一 ,   黒田泰弘

ページ範囲:P.411 - P.415

I.はじめに
 通常大多数の抗癌剤使用時においては,骨髄抑制がdose limiting factorとなることが多い.そこで,化学療法後の骨髄抑制をあらかじめ採集していた血液幹細胞を移植することにより克服して大量の抗癌剤投与を可能にする治療法が以前から種々の領域の悪性腫瘍で試みられたきた10).中枢神経系の悪性脳腫瘍の化学療法においても悪性グリオーマに対するnitrosoureaを中心とする自家骨髄移植による大量化学療法が試みられた時期があったが5),nitrosourea単剤の大量投与を行う場合には肺線維症等の骨髄抑制以外の副作用が強く出現,それらの副作用がかえって患者の状態を悪化させることが多いために,最近では脳神経外科領域での同治療法ではあまり試みられなくなってきた.
 さて,自家末梢血幹細胞移植を併用した化学療法は1980年代にNebraska大学等で臨床応用が研究されてきた治療法であり4),本邦では当院小児科の高上らがはじめて白血病を中心に臨床に導入14),現在白血病の治療においては同種,自家骨髄移植とならぶ第3の方法として注目されている治療法である.本法は基本的には同種骨髄移植や白家骨髄移植と類似した治療手技であるが,後二者に比べ種々の長所があり,応用範囲が広い.しかしながら現在までのところ脳腫瘍への本法の応用は散見されるが確立されておらず3,9),今後その脳神経外科領域への応用,発展が期待されている.

Parkinson病に対する視床破壊術後の認知機能とADL

著者: 前島伸一郎 ,   中井國雄 ,   中井易二 ,   上松右二 ,   尾崎文教 ,   寺田友昭 ,   中北和夫 ,   板倉徹 ,   駒井則彦

ページ範囲:P.417 - P.421

I.はじめに
 Parkinson病に対する外科的治療23)は,1970年代までは頻繁に行われたが,L-dopa療法2)の確立に伴ない次第に減少した2).一方,L-dopaの長期投与による副作用の問題や薬物療法に難渋する症例も少なからず存在し,このような症例に対しては,定位脳手術は有益な治療法である.さらに,近年では優れたCT/MRI誘導定位脳手術装置の開発でより安全に手術が行われるようになった15).さて,重度の振戦を有するParkinson病患者では,寡動や固縮が軽度にもかかわらず日常生活が制約されることが多い.これらの振戦患者に対し,定位的視床破壊術が行われているが,破壊術による視床への影響としての認知機能の変化を検討したものは少なく,また日常生活活動(ADL)に及ぼす効果についての検討は十分とは言い難い.今回,われわれは視床破壊術前後の神経心理学的症状とADLについて検討を行った.

症例

大泉門部に発生した類皮腫の1例

著者: 五十棲孝裕 ,   辻篤司 ,   中洲敏 ,   松田昌之 ,   半田讓二

ページ範囲:P.423 - P.427

I.はじめに
 類皮腫(dermoid cyst)は正中線上に好発するが,大泉門部に発生した類皮腫の報告は,本邦ではまれである.今回,われわれは大泉門部に発生した類皮腫の1例を経験したので報告する.

Magendie孔膜様閉塞により生じた“disproportionately large,communicating fourth ventricle”の1例

著者: 小坂恭彦 ,   申博 ,   須川典亮 ,   吉野英二 ,   堀川義治 ,   山木垂水 ,   上田聖

ページ範囲:P.429 - P.433

I.はじめに
 第四脳室の著明な拡大を伴う全脳室系の拡大を認める症例は,1980年Scottiにより“disproportionately large,communicating fourth ventricle(DLCFV)”と提唱された.その原因は腫瘍,炎症,クモ膜嚢胞,Chiari mal—formation,クモ膜下出血など様々なものが考えられるが,今回われわれは,特に既往歴を認めず,Magendie孔の膜様閉塞にてDLCFVと考えられ,その膜様物を切除することにより治癒した1症例を経験したのでここに報告する.

骨性のみの大後頭孔部減圧術により治療されたChiari奇形type Ⅱ型の1乳児例

著者: 井須豊彦 ,   田中徳彦 ,   中村俊孝 ,   山内亨 ,   小林延光

ページ範囲:P.435 - P.437

I.はじめに
 Chiari奇形Ⅱ型に対する外科的治療に際しては,合併する水頭症のコントロールがなされているかどうかを確認することが重要であり,水頭症のコントロールが良好にもかかわらず,Chiari奇形Ⅱ型の症状を呈して来た場合には,大後頭孔部減圧術の適応があると考えられている9).しかしながら,従来より行われて来た大後頭孔部減圧術では,硬膜形成術が同時に施行されるため,術後,硬膜外腔に滲出液が貯留したり8).時に,髄膜炎を併発することがあり2,7).乳児にとっては,侵襲的な手術法である.今回,われわれは,Chiari奇形Ⅱ型の乳児例に対して骨性のみの大後頭孔部減圧術を行い良好な手術結果を得たので報告する.

右側頭後頭葉皮質下出血にて生じた健忘症候群

著者: 中大輔 ,   前島伸一郎 ,   竹原理恵 ,   仲寛 ,   辻直樹 ,   今井治通 ,   木戸拓平

ページ範囲:P.439 - P.443

I.はじめに
 健忘を中核症状とする病態は健忘症候群と呼ばれ,遠隔記憶や瞬時記憶は保たれるが,記銘力障害のため近時記憶が選択的に障害されるといわれている.また健忘は痴呆性疾患の主要症候の1つでもあり,脳血管障害に伴うものの頻度が高い.しかし,学習記憶障害だけでなく,自分自身の生活史すら忘れるなどの生活記憶障害も認められることが特徴である3)
 脳血管障害に起因する健忘症候群の報告は数多く見受けられるが,大部分が脳梗塞症例であり,脳出血症例の報告はきわめて少ない.

嚢胞壁内に血腫を合併したくも膜嚢胞の1例

著者: 高橋恵 ,   仙石祐一 ,   西岡宏 ,   三木保 ,   伊東洋

ページ範囲:P.445 - P.449

I.はじめに
 くも膜嚢胞には慢性硬膜下血腫が合併し易いがその発症機序については必ずしも明確ではない.今回,われわれは中頭蓋窩くも膜嚢胞外壁内に血腫を合併した症例を経験した.本病態の発症機序を含め若十の文献的考察を加えたので報告する.

骨形成不全症に合併した破裂脳動脈瘤及び椎骨動脈窓形成の1例

著者: 岡村達憲 ,   山本光夫 ,   太田桂二 ,   松岡隆 ,   高橋勝 ,   魚住徹

ページ範囲:P.451 - P.455

I.はじめに
 Marfan症候群,Ehlers-Danlos症候群,弾性線維性仮性黄色腫などは,血管系の異常を高率に合併することが知られている.しかし,同じ遺伝性結合織疾患である骨形成不全症(osteogenesis imperfecta)では,その頻度は極めて少ないとされている5).特に脳血管系病変としてはモヤモヤ病8)と頸動脈—海綿静脈洞(CCF)1)が報告されているのみである.
 今回われわれは,骨形成不全症に破裂脳動脈瘤及び椎骨動脈窓形成を合併した症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

Long vein graftを使用した急性期血行再建術が奏効した1例

著者: 川口健司 ,   徳力康彦 ,   武部吉博 ,   細谷和生 ,   増永聡 ,   辻篤司 ,   和賀志郎

ページ範囲:P.457 - P.461

I.はじめに
 急性期血行再建術は,術後に脳浮腫を助長したり,出血性梗塞を引き起こす可能性があり,一般には否定されていた.最近では症例を選択すれば有効な治療法になると考えられるようになっているが,その場合でもlow flowのSTA-MCA(M4)bypassが推奨されている.しかしSTAが使用できない場合や,low flow bypassでは脳梗塞への進展を阻止できない場合もある.今回われわれは急性期脳虚血例に対してhigh flowといわれるsaphenous vein graftを使用して顔面動脈—vein graft—MCA(M4)bypassを施行し,良好な結果を得たので報告する.

軽微な臨床症状で終始した椎骨脳底動脈解離による脳底動脈閉塞症の1例

著者: 奥村嘉也 ,   二階堂雄次 ,   横山和弘 ,   榊寿右

ページ範囲:P.463 - P.467

I.はじめに
 近年,椎骨脳底動脈解離性動脈瘤(VBA-DA)に対する認識が高まるにつれ,その報告は飛躍的に増加し,椎骨脳底動脈領域における脳血管障害において重要な位置を占めるようになってきた.しかし,解離が進行すれば当然至るはずの脳底動脈閉塞症(BAO)に注目した報告はほとんどなく,また,そのような症例の予後は極めて不良である1,2,16).われわれは,VBA-DAを原因としてBAOを来したにもかかわらず軽微な臨床症状で終始した1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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