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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科23巻6号

1995年06月発行

雑誌目次

Mのレクイエム

著者: 田村晃

ページ範囲:P.475 - P.476

 1994年度ノーベル文学賞を大江健三郎氏が受賞した.巷の本屋さんには難解な大江文学の数々が堆く積み上げられ,それとともに大江健三郎氏の長男,大江光さんのCD〜大江光の音楽,大江光ふたたび〜が並んでいる.大江光さんに関しては,頭部に畸形を持って生まれ,知的障害を持つことや,彼の音楽的な才能についてマスコミで大きく報道されてきたので,ご存知の方も多いことと思う.
 1992年秋に「大江 光の音楽」という,彼の初めての作品集であるCDが出された.キラキラと光る朝露のような美しいメロディーは発売当初から注目され,テレビなどでも取り上げられていた.その冬,テレビで聞いたピアノ曲の美しさに惹かれてこのCDを買った.この中に「Mのレクイエム」と「けいこ夫人のための子守歌」が13番,14番と並んで入っている.「Mのレクイエム」は,彼が生まれたときからお世話になった脳神経外科医であるM先生が亡くなられた時に,悲しみに沈んだ彼が心をこめて作った作品であるという.ベートーヴェンのピアノソナタ月光を想わせる出だしからつづく澄んだ音の調べには彼の深い悲しみが漂っている.それにつづく14番「けいこ夫人のための子守歌」は,M先生を亡くされた奥様,けいこ夫人のために作られた作品で,シューベルトの歌曲風の導入から日本的なメロディーがつづき,優しさがあふれるような作品である.このような作品を患者さんから,それも知的障害を克服し独り立ちできるようになった患者さんから贈られるのは,まさに医師冥利に尽きるといえるであろう.M先生とは日本大学脳神経外科教授であった故森安信雄先生である.こんなにも患者さんとその家族に慕われた先生は,幸せだなと思う.その反面,捻くれ者の私は,子供の先天奇形は感染やら何やらトラブルが続くものでもあるし,こんな患者さんを受け持った医師はさぞ大変だったろうなとも思ってしまう.仄聞によれば,ご苦労された受持医はN先生であるらしい.

総説

Neuro-Endoscopic Surgery:最近の進歩

著者: 大井静雄 ,   佐藤修 ,   松本悟

ページ範囲:P.477 - P.484

I.はじめに
 脳神経外科領域における内視鏡の応用が注目されている.他の臨床分野には,この内視鏡技術を主軸として,診断治療が飛躍的に進歩した領域もある.現在,その研究の焦点のひとつが向けられつつある水頭症に対する新たな治療法の開発や,頭蓋内内視鏡の新たな手術応用/診断技術としての発展への期待は大きい.しかしながら,頭蓋内疾患におけるこの臨床応用が,果たして.どこまでこれまでの脳神経外科的概念を変えていくことができるのか,等の未解決の問題も多い.近年のNeuro—Endoscopic Surgery発展の背景をふまえ,現在までに進歩してきたその内容をまとめると共に,その適応と手技につき解説した.

解剖を中心とした脳神経手術手技

優位半球側脳室三角部AVMへの側頭葉下面よりのアプローチ

著者: 宮本享 ,   菊池晴彦 ,   永田泉

ページ範囲:P.485 - P.490

I.はじめに
 側脳室三角部に存在する脳動静脈奇形(AVM)はtri—gonal,,medial temporal,parasplenial,juxtapeduncularその他種々の呼称により記載されてきた1,4,7-9).しかしながらYaşargilが述べているように,その病変の部位や広がり,周囲との関係などを術前に正確に認識するということは画像診断の発達した現在においても案外難しい.Mediobasal AVMはamygdala,及びanterior,middle,posterior hippocampalの4群に分けて記載されており9),本稿で記載すべき側頭葉下面からのアプローチの対象となるのはこのうちposterior hippocampal AVMということになろう.この部のAVMは前脈絡叢動脈,外側後脈絡叢動脈などをfeederとし側頭葉下面から側脳室側頭角や脈絡裂を利用して到達するものであるが,病変の主座がやや後方に位置するものは後大脳動脈のP3,P4 segmentからのfeederをうけるいわゆるparasplenial AVMとなりinterhemispheric approachの対象となってしまう.feeding/draining patternやMRIにより病変の主座を把握し最適のアプローチをとるためにはこれらの部位の解剖の理解が基礎となる.以下に局所解剖をもとにposterior hippocampal AVMに対するlaterobasal approachについて述べる.

研究

頭蓋底手術時の下位脳神経モニタリングのコツ

著者: 関谷徹治 ,   畑山徹 ,   赤坂健一 ,   鈴木重晴

ページ範囲:P.491 - P.496

I.はじめに
 手術操作によって下位脳神経が損傷されると,術後,嚥下障害や呼吸障害などの重篤な合併症を生じる可能性がある2).したがって,手術に際して下位脳神経機能を温存することが重要なことは論を待たない.しかし,従来から顔面神経機能温存の重要性については多くの検討がなされ,その術中モニタリング法に関しても充分な記載がなされてきたが1,5,8)下位脳神経の術中モニタリングに関しては記載が乏しいのが現状である.
 近年の頭蓋底手術の普及に伴って,下位脳神経が手術侵襲の危険に曝される機会は明らかに増加している.このようなことから,われわれは頭蓋底手術に際して必要に応じて下位脳神経の術中モニタリングをルーティン化して行っている.

一次性外傷性動眼神経麻痺:自験10例の検討

著者: 徳野達也 ,   中沢和智 ,   吉田真三 ,   松本茂男 ,   新宮正 ,   佐藤慎一 ,   伴貞彦 ,   山本豊城

ページ範囲:P.497 - P.501

I.はじめに
 頭部外傷に起因する動眼神経麻痺のうち,脳ヘルニアによる二次性障害を除いた一次性動眼神経麻痺は比較的まれで報告例も少なく,その臨床経過や予後についてあまり知られていない.今回,一次性動眼神経麻痺10症例について検討し,若干の知見を得たので報告する.

破裂脳動脈瘤:直達術未施行例におけるDINDの治療指針

著者: 小田真理 ,   下田雅美 ,   柴田將良 ,   佐藤修 ,   津金隆一

ページ範囲:P.503 - P.507

I.はじめに
 破裂脳動脈瘤に対する早期手術の目的は,再破裂を根治的に予防し,開頭術により術中,術後を通じた脳槽内血腫除去によるdelayed ischemic neurological deficit(DIND)の発現を予防するとともに,一旦DINDが生じた場合にはvolume expansion,induced hypertension(昇圧)療法1,4,5,7,9,10,13-17)などの治療を積極的に施行可能とすることにある.しかし,来院時の意識状態が不良である症例,DINDの発現が十分考えられる時期である亜急性期に搬入された症例12),後頭蓋窩脳動脈瘤例など,待機手術を余儀なくされる症例も少なからず存在する.このような直達術未施行の破裂脳動脈瘤患者においてDINDを生じた場合,再出血を誘発する可能性があるvolume expansionまたは昇圧療法の適応の是非を巡り臨床上極めて苦慮することが多い.今回著者らは,これらの症例の臨床成績をretrospectiveに解析しその対策を検討した.

症例

後頭蓋窩腫瘍摘出後に一過性無言症を呈した2例

著者: 遠藤聖 ,   吉井與志彦 ,   坪井康次 ,   斉藤厚志 ,   青木一泰 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.509 - P.513

I.はじめに
 無言症には,発声障害によるもの,言語の表出に異常があるもの,意欲・情動の障害によるものの3つの場合が報告されている.
 小脳腫瘍あるいは第4脳室を占拠する髄芽腫等の摘出術後,一過性の無言症等の情神症状を呈したという報告は以前より散見される3,5).その発症機序に関しては,小脳における言語中枢,両側小脳半球あるいは上虫部,右小脳半球上面,特に両側歯状核等への腫瘍または手術操作の侵襲,手術後の変化等による障害とされている3,5,9,12,14,15).またその際に合併する精神的抑うつ状態に対しては向精神剤,精神療法が効果的であるとの報告もある4).しかしながらこれまでの報告例では画像所見と症状との関連は明確ではない.今回われわれは第4脳室を占拠し,術前に水頭症を伴った髄芽腫例において腫瘍全摘出術を施行,数日後から一過性の無言症,強制笑い等の精神症状を呈した2例を経験した.発症の機序及び症状消失までの経過をMR画像所見との関連において検討し,若干の文献的考察を加えて報告する.

上顎癌術後に生じた外傷性海綿静脈洞部動脈瘤の1例

著者: 佐藤光夫 ,   山口克彦 ,   唯木享 ,   佐藤勇 ,   児玉南海雄

ページ範囲:P.515 - P.519

I.はじめに
 外傷性脳動脈瘤の頻度は全脳動脈瘤の0.5%以下とされ1),日常診療において遭遇することは比較的稀である.その大部分は種々の閉鎖性あるいは開放性頭部外傷後に二次的に発生するが,なかでも手術時の脳血管損傷によるものは少ない7)
 最近われわれは上顎癌の術後に生じたと考えられる外傷性海綿静脈洞部動脈瘤(traumatic carotid-cavernous aneurysm,以下TCCAと略す)の破裂により反復性大量鼻出血を来した症例に対し,脳外科的処置で出血を止めたものの,メチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)敗血症を併発し不幸な転帰をとった1例を経験したので,治療上の問題点を中心に文献的考察を加え報告する.

Rhinocerebral Phycomycosisの1例

著者: 前田泰孝 ,   赤木功人 ,   安部倉信 ,   朴啓彰 ,   大津谷耕一 ,   木本絹子 ,   奥憲一

ページ範囲:P.521 - P.525

I.はじめに
 Rhinocerebrl phycomycosisは,Phycomycetes(藻菌)が鼻腔から副鼻腔を経て脳に浸潤病変をおこす稀な日和見真菌感染症で13,18),しばしば内頸動脈閉塞をもおこし致命的であることが多いといわれる1,18).本感染症は通常,コントロール不良な糖尿病や種々の免疫抑制状態や代謝異常疾患など18)の素因がみられるが,ごく稀には素因の不明な本感染症例が報告されている12,15,16).われわれは,素因の可能性として興味ある知見がみられた本感染症の手術治験例を経験したので文献的考察を加え報告する.

頭蓋骨欠損とともにその直下にporencephalic cystの認められた1成人例

著者: 富永篤 ,   魚住徹 ,   栗栖薫 ,   広畑泰三 ,   木矢克造 ,   日比野誠一郎

ページ範囲:P.527 - P.530

I.はじめに
 Growing skull fractureは幼小児期におこる頭蓋骨骨折の一形態で小児頭部外傷の0.03-2.5%といわれているが,成人になって発見される例はほとんど報告がない.さらにその発生機序は硬膜の破綻による骨癒合機転の障害といわれている.われわれはこの度,頭蓋骨欠損とその直下にporencephalic cystを有した1成人例を経験し,その発生機転は幼少児期に発生したgrowing skull fractureによるものであると思われたので若干の文献的考察を加えてこれを報告する.

三種の原発性脳腫瘍を合併した1例

著者: 宮城敦 ,   前田浩治 ,   菅原武仁 ,   澤田達男 ,   坪川孝志

ページ範囲:P.531 - P.536

I.はじめに
 原発性脳腫瘍における異種多発性脳腫瘍の占める割合は0.1-0.4%とされ6,8,9),比較的希なものである.特にvon Recklinghausen病(vR病)などの母斑症に合併することはよく知られているが,今回われわれが経験した症例は,多発性のglioblastoma multiformeに多発性髄膜腫と嫌色素性脳下垂体腺種を合併した極めて興味ある症例であり,母斑症も認められなかった.現在までに母斑症を伴わず三種の原発性脳腫瘍が認められた症例が2例報告されている7,8).異種多発性脳腫瘍の発生要因及びその治療方針につき文献的考察を含めて報告する.

PET activation studyによる言語機能のfunctional mappingが有用であった脳動静脈奇形の1例

著者: 北条雅人 ,   宮本享 ,   中原一郎 ,   菊池晴彦 ,   石川正恒 ,   滝和郎 ,   永田泉 ,   山本一夫 ,   米倉義晴 ,   西澤貞彦 ,   大東祥孝

ページ範囲:P.537 - P.541

I.はじめに
 大脳動静脈奇形(arteriovenous malformation(AVM))の外科的治療では,高次脳機能をいかに温存するかが大きな問題となる.われわれの経験では,右半球AVMの症例の場合,非右利き傾向が強く,また大脳半球のunusual dominancyを示すことが少なからず認められる3).今回,われわれは,verbal activationによるpositron emission tomography(PET)とmagnetic resonance imaging(MRI)のsynchronized studyにて興味ある結果が得られたので,症例報告を中心に紹介する.

脳動静脈奇形と髄膜腫を同側性に合併した1手術例

著者: 志田直樹 ,   鈴木倫保 ,   溝井和夫 ,   吉本高志

ページ範囲:P.543 - P.547

I.はじめに
 脳動静脈奇形(以下AVMと略す)と髄膜腫が同側性に合併し,しかも両者が症候性であった稀な症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

化学療法(carboplatin,etoposide,adriamycin,bleomycin併用)と放射線照射の併用が有効であった再発頭蓋内悪性胚細胞腫の1例

著者: 吉沢秀彦 ,   松谷雅生 ,   三好明裕 ,   長島親男

ページ範囲:P.549 - P.553

I.緒言
 Germ cell tumorの治療の問題点の一つは,組織像の多様性と,各々の組織像と組織構成により治療成績が異なることである.germinomaは極めて放射線感受性が高く,純型であれば完全治癒も期待できるが,純型ger—minomaとmixed germinomaはほぼ同数と報告されている5).従って組織診断を行わずにgerminomaと診断した場合は,放射線療法により一旦腫瘍が縮小しても再発し,germinoma以外の組織要素が主体を占め,治療に抵抗を示すことも少なくない.
 今回われわれは,尿崩症にて発症しAFP(alpha feto—protein)およびHCG(human chorionic gonadotropin)とも陰性で,鞍上部germinomaの診断の下に放射線療法を施行し腫瘍はほぼ消失したにも拘らず,6年後に局所再発と頸髄播種を示しAFP,HCG共に高値を示した1例を経験した.幸いにもcarboplatin,etoposide,adria—mycin,bleomycinの4者併用化学療法と,放射線療法の追加により完全寛解が得られたので,その経過を報告し,germ cell tumor治療の問題点について考察する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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