icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科23巻7号

1995年07月発行

雑誌目次

専門医とインフォームド・コンセント

著者: 六川二郎

ページ範囲:P.561 - P.562

 最近,ある専門医研修指定科の調査用紙が送られてきた.その中に「患者数は?」「検査数と手術数は?」「専門医と研修医の数は?」に加えて,「患者側へ説明する際の手術効果は何を基準にするか?」とあった.
 客観的な数値を基準として評価しようとしている.最近は患者側からもこういった質問を受けることが多くなった.前の三者に関しては,その科に属する医師が日々努力している目標でありその結果であって,改めて説明することはあるまい.医師の心が通じず技術が十分でなければ,患者はいずれは去っていくから,これは社会的に極めて重要な評価法であろう.

総説

アポトーシスの分子機構と神経疾患

著者: 白石哲也 ,   田渕和雄

ページ範囲:P.563 - P.574

I.はじめに
 自然科学においては新しい概念の導入によってある領域の研究が一気に進展することがある.細胞生物学ではこれまで生命現象を主に細胞の生存および増殖の観点から探ってきた.つまりこれまで細胞死は無秩序な現象と思われ,重要な研究対象とはなり得なかった.ところがアポトーシス(apoptosis)という新しい概念による細胞死が遺伝子によって巧妙に制御されていることが明らかになるにつれて,この分野の研究が爆発的に進展し,発生,分化および老化のみならずウイルス感染,自己免疫疾患,変性疾患あるいは癌など多くの疾患にアポトーシスが関与していることが明らかにされてきた.
 本稿では現時点におけるアポトーシスの概念とその分子機構の概略を紹介した後,神経疾患におけるアポトーシスの関与を著者らの研究結果を交えて概説する.

研究

クモ膜下出血による心肺停止患者の検討—そのメカニズムについて

著者: 金本幸秀 ,   鎌田喜太郎 ,   笹岡保典 ,   西村章 ,   崎谷博征

ページ範囲:P.575 - P.579

I.はじめに
 内因性疾患を原因とする心肺停止患者いわゆるDOA(Dead on arrival)は,三次救急患者を取り扱う施設では,しばしば遭遇する病態の一つである.われわれの施設においても,救命救急センターという施設の特徴がら年間500例余の患者の中約500例(10%)のDOA患者が搬送される.その原因として脳血管障害は,諸家の報告9,23)と同様心疾患に次いで多い.脳血管障害の原因としては,ほとんどがクモ膜下出血(SAH)と報告されている8,9,11)
 今回われわれは,SAHを原因として心肺停止に至った症例を検討し,SAHにより心肺停止に至るメカニズムについて考察を加えた.

神経膠腫におけるN-ras癌遺伝子の点突然変異の頻度について

著者: 鶴嶋英夫 ,   大野忠夫 ,   坪井康次 ,   吉井與志彦 ,   目黒琴生 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.581 - P.586

I.はじめに
 ras遺伝子群は,H-ras,K-ras,N-rasの3種類の遺伝子からなり3),アミノ酸配列の類似した21kdの膜蛋白質(P21)をコードしている10).近年これらの膜蛋白質(P21)は細胞内情報伝達機構の一部として機能しており6,12,14),その突然変異が細胞のtransformingに関与していることが11)判明してきた.今回われわれは神経膠腫細胞のgenomic DNAを抽出し,N-ras遺伝子の点突然変異の有無をcodon 12の第1,第2塩基およびcodon61の第1,第2塩基に関して調べたので報告する.

術前脳波の多変量自己回帰解析による難治性てんかん手術効果の予測

著者: 秋山義典 ,   森和夫 ,   馬場啓至 ,   小野憲爾

ページ範囲:P.587 - P.593

I.はじめに
 近年,わが国においても,難治性てんかんに対して外科治療ががなされるようになってきた.てんかんの外科治療は,大きく分けて,焦点切除術に代表される,てんかん焦点を除去する切除手術と,脳梁離断術に代表される,発作波の拡延を抑制する遮断手術とに分けられる.脳内電極や硬膜下電極などの留置電極を用いた長時間脳波記録装置の開発や,MRI,PET,SPECT,MEGなどの画像診断の進歩により,焦点の局在,発作の形式をかなり正確に診断し,手術適応あるいは手術方法を決定できるようになってきた.しかし,現在においても手術成功率は100%ではなく,術後も痙攣発作が十分にコントロールできない症例も認められる.このため,小野は,術前脳波の多変量自己回帰解析により,術後脳波のシミュレーションを行うシステムを開発した5,7,11,13)
 今回われわれはこのシステムを用い,術前脳波より術後脳波の予測を行った.実際に手術施行した症例に対しては,術後記録された脳波と対比し,この手法が術後脳波を予測する手段となりうるかどうか検討したので,代表例を提示し報告する.

頭蓋顔面外科領域におけるTM HAKEN Plateの応用

著者: 大西清 ,   丸山優 ,   澤泉雅之 ,   矢高森人 ,   清木義勝 ,   柴田家門

ページ範囲:P.595 - P.598

I.はじめに
 頭蓋顔面外科領域におけるミニ・マイクロプレートの利用は,強固な固定と確実な骨形態の再構築を主目的とし,優れた固定材料として,現在広く臨床に用いられている.しかしこれら使用にあたっては,単に大きさや固定力ばかりでなく,操作性,生体親和性,偽害作用などを考慮したプレートの選択が必須となる.
 われわれはこれら観点から,チタンおよびチタン合金からなるミニ・マイクロプレートを開発し臨床に用いてきた.そしてさらに,固定手技の簡略化,手術時間の短縮をはかる目的で,プレート端に鋭鉤のついたTM HAKEN plateを考案し臨床に応用,満足すべき成績を得ている.本プレートの概要に,頭蓋顔面外科領域への応用例を供覧し報告する.

症例

Painful tic convulsifを呈したepidermoidの1例—MRIにて原因疾患の同定が困難であった症例

著者: 篠田宗次 ,   草間律 ,   長弘之 ,   森茂夫 ,   増沢紀男

ページ範囲:P.599 - P.602

I.はじめに
 三叉神経痛と同側の顔面けいれんがほぼ同時に発生する症状をCushing2)はpainfun tic convunsif(tic convul—sif)と名づけているが比較的稀な症状であり,脳腫瘍がその原因であることは更に稀とされている.さて突発性三叉神経痛や顔面けいれんの病因として,微小動脈がこれらの神経の脳幹側を慢性に圧迫していることが原因であるとし,その手術療法としてGardner3)やJannettaら8)の報告以来,微小血管減圧術が確立されている.しかしこれらの症例の中には椎骨動脈系の血管異常や腫瘍が原因である例も知られている.当教室でも手術を決定する前にこれらの原因を検索するため,CT・MRIなど器質疾患を否定してから微小血管減圧術を行っている.今回術前の5mm間隔のMRIによって腫瘍などが否定的と思われたにも関わらず,手術にてepidermoidであったtic convulsifを経験した.稀なtic convulsifを報告すると共に,この病態では脳腫瘍特にepidermoidの可能性を念頭に置くべきと痛感したので報告する.

前頭蓋窩硬膜動静脈奇形に,モヤモヤ様血管網を伴う一側中大脳動脈閉塞を合併した1症例

著者: 山崎文之 ,   堀田卓宏 ,   谷口栄治 ,   江口国輝 ,   橋詰顕 ,   児玉安紀 ,   勇木清

ページ範囲:P.603 - P.607

I.はじめに
 硬膜動静脈奇形(以下dAVM)は全頭蓋内AVMの10—15%を占めるが8,11,20),横・S状静脈洞部や海綿静脈洞部に多く,前頭蓋窩dAVMは非常に稀であるとされていた8).しかし近年,報告例が散見され1-3,8-12,16-21),以前よりその頻度は増してきている.
 一方,モヤモヤ血管はウイリス動脈輪閉塞症をはじめ,脳動脈硬化症,脳腫瘍など種々の疾患においてもみられることが知られている.中大脳動脈閉塞症においてもモヤモヤ血管を伴う症例が報告されている4-7,13-15)が,これはモヤモヤ病とは本質的には異なった疾患であると考えられている.

橋出血にて発症した,transpontine veinを導出路にもつ脳幹部mixed cerebrovascular malformationの1例

著者: 須賀俊博 ,   後藤英雄 ,   吉岡邦浩 ,   佐野光彦

ページ範囲:P.609 - P.613

I.はじめに
 近年,出血で発症したvenous angiomaの手術標本やMRI所見の検討の結果,cavernous angiomaなどの他の種類の脳血管奇形の隣接併存が明らかとなった例が,報告されている1,8,9,12,14).この場合,出血の責任を,venous angioma自身よりも,併存する他の易出血性脳血管奇形に,求める報告が増えている1,8,12).われわれは,このような多種類の脳血管奇形の隣接併存を,Awardの提唱に基づいて1),mixed cerebrovascular malformation(MCVMと略す)と呼ぶことが適切と考えている.なお,Huangは,腫瘍性病変との混同しやすい“angioma”との用語を避けるため,cavernous an—gioma,venous angiomaを,それぞれcavernous venous malformation(CVMと略す),medullary venous mal—formation(MVMと略す)と呼称することを主張しており,以下これに従う3,13)
 MRIの普及に伴い,脳血管奇形の発見に著しい発達をみているが,脳幹部MVMの報告は,非常に少ない2,4,10).最近,transpontine veinと呼ばれる,脳幹部を貫いて走る髄内静脈を導出路とした特徴的な画像を呈する脳幹部MVMの報告があり,注目されている2)

頭蓋内Plasma Cell Granulomaの1例

著者: 関谷徹治 ,   赤坂健一 ,   木村正英 ,   鈴木重晴 ,   成田竹雄 ,   並木恒夫

ページ範囲:P.615 - P.620

I.はじめに
 Plasma cell granulomaは,肺や上気道などに発生することの多い炎症性腫瘤で2),中枢神経系に発生することは稀であり,これまでに10例足らずが報告されているに過ぎない1,4,5,7,10-12,18,26)
 われわれは,画像所見像も術中所見からも髄膜腫と診断したが,術後の詳細な組織学的検討からplasma cell granunomaと判明した1症例を経験した.本症例では,腫瘤の成長過程をCTで観察することができ,術前MRIも施行した.それら画像所見を提示すると共に,plasma cell granulomaの診断上の問題点についても検討を加えた.

蝶形骨転移により眼球突出をきたした皮下平滑筋肉腫の1例

著者: 松本茂男 ,   山本豊城 ,   伴貞彦 ,   佐藤慎一 ,   吉田真三 ,   徳野達也 ,   中沢和智 ,   内田博也

ページ範囲:P.621 - P.625

I.はじめに
 平滑筋肉腫は平滑筋組織から生ずる稀な悪性腫瘍であり,消化器,子宮,後腹膜,皮下などに好発する.転移は肺と肝臓に多く,頭蓋内への転移は稀である.また骨への転移も稀で,とくに頭蓋骨への転移については組織学的に確認されている報告はKomataら8)の頭蓋冠へ転移した1例のみであり,蝶形骨への転移例は見当たらない.われわれは眼球突出と側頭部腫瘤を主訴として来院した眼窩内伸展を伴う側背部皮下平滑筋肉腫の蝶形骨転移例を経験し,極めて稀と考えられたので若干の文献的考察を加えて報告する.

下肢原発Alveolar Soft Part Sarcomaの脳転移の2例

著者: 影治照喜 ,   関貫聖二 ,   本藤秀樹 ,   松本圭蔵 ,   中村宗夫 ,   山下茂

ページ範囲:P.627 - P.632

I.はじめに
 Alveonar soft part sarcomaは非常に稀な腫瘍で若い女性に多く下肢に好発し,増殖は緩慢であるが再発しやすく肺や脳転移が多いといわれている.今回,われわれは肺と脳に転移した下肢原発のalveolar soft part sarco—maの2症例を経験した.本腫瘍の脳転移の場合,絶対的予後は不良といわれているが,1例は脳転移後より18年が経過している現在でも再発を認めていないことから非常に稀な症例と考えられた.本腫瘍の特徴,治療法,組織起源について文献的考察を加えて報告する.

神経管外転移をきたした頭蓋内悪性髄膜腫の1例

著者: 佐藤雅春 ,   松島豊 ,   田口潤智 ,   金井信博 ,   花田正人 ,   早川徹

ページ範囲:P.633 - P.637

I.はじめに
 われわれは悪性髄膜腫で骨への多発性転移をきたした稀な症例を経験したので報告するとともに文献的考察を加えた.

鼻をかんだ後に発症した急性硬膜外血腫の1例

著者: 大間々真一 ,   菅原孝行 ,   奥達也 ,   荒井啓晶 ,   新村核 ,   樋口紘 ,   二井一成

ページ範囲:P.639 - P.642

I.はじめに
 外傷に起因しない硬膜外血腫は腫瘍,シャント術後,減圧術後など諸家により報告されている7,9,10)が,今回,われわれは鼻をかんだ後に発症した急性硬膜外血腫の1例を経験した.鼻をかむという日常的な行為が急性硬膜外血腫の原因となりうるか文献的考察を加え報告する.

慢性硬膜下血腫に生じた硬膜下膿瘍の1例

著者: 平野亮 ,   高村毅典 ,   村山直昭 ,   大山浩史 ,   松村茂樹 ,   丹羽潤

ページ範囲:P.643 - P.646

I.はじめに
 硬膜下膿瘍は中枢神経系の感染性疾患の中で脳膿瘍の1/4-1/5の頻度で比較的希なものであるが9),その多くは頭蓋穿通創や開頭術後による直接的な細菌感染や隣接臓器の炎症性疾患の波及によって生じる2)
 今回,われわれは慢性硬膜下血腫に遠隔部感染創からの血行性転移による細菌感染によって,硬膜下膿瘍をきたした興味ある症例を経験したので報告する.

読者からの手紙

「神経内視鏡(軟性)による脳神経外科手術」について 瀧本論文を読んで/「青木信彦氏のletter」に対して

著者: 青木信彦 ,   瀧本洋司 ,   早川徹

ページ範囲:P.647 - P.647

 最近の内視鏡の進歩には目をみはるものがあり,貴誌における報告「瀧本洋治,早川徹:神経内視鏡(軟性)による脳神経外科手術.脳外23:111-116,1995」を興味深く勉強させていただきました.たしかに,このように比較的容易に脳外科手術が可能となりますと,逆に安易に手術適応としてしまう危険もあるのではないかと危惧いたしますのは小生だけでありましょうか.
 著者らは過去2年間に41例の内視鏡下手術を行ったとのことですが,その対象となった主要な疾患(?)として9例の透明中隔嚢胞について述べています.そして症候性透明中隔嚢胞開放術は初心者に手頃な対象であるとしています.小生もこれまでこの透明中隔嚢胞に注目してまいりましたが,この病態(というより,むしろ一般的にはnormal variation)はかなり多くみられるものであり,満期新生児では82%,成人でも10%にみられるとの報告もあります2).しかしこれが症候性となることはきわめてまれであり,残念ながら小生は最近の症候性透明中隔嚢胞の論文を入手できませんでしたが,1986年に渉猟したときには26例であり,CT出現以後でも3例のみでありました1).しかもそれらをよくみますと本当にその症状(きわめて多彩)が透明中隔嚢胞によるものであるかどうか,はなはだ疑問なものも少なくありませんでした.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?