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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科23巻8号

1995年08月発行

雑誌目次

脳神経外科医の数

著者: 堀智勝

ページ範囲:P.657 - P.658

 脳神経外科の扉を書かせていただくのもこれが2度目である.教授職を拝命してからすでに10年が過ぎてしまった.私のように母校に僅か1.5年しか在籍せずあとは外回りばかりして突然助教授3年教授10年の経験を積んだ人もそう多くはないだろう.現在教授になっている方の履歴を拝見すれば多くの方が母校の要職に長く居られて研究業績も臨床経験も豊富に積まれたうえで,教授になられているように拝察される.しかし世の中には私のような例外もいても悪いことではないと思っているが,口の悪い後輩の先生からは棚から牡丹餅式教授などと言われたこともある.確かに,大学医局での生活で研究費の捻出方法やいろいろな帝王学をなに一つ学んでいない人間が教授になったので周囲の人には大変迷惑をかけてしまった.これから少しでもその償いができれば幸いである.
 最近Neurosurgeonsに菊池晴彦教授が書かれているが,ある試算では平均すると一人の専門医の年間の手術件数は19.3件,腫瘍2.8件,血管3.3件とのことである.外科である脳神経外科で手術件数がこのように少なくては,自分の技量を向上させることはおろか,維持させることも不可能である.私が駒込病院にいたときはすでに約15年前になるが,その時術者が5人でmajor手術が年間約100件で一人20件程の手術を手掛けていた.振り返ってみるとその当時自分の手術技量がその手術件数で向上していたとは思えない.現在東京で1年間の破裂動脈瘤数を専門医の数で割ると1という数字がはじき出されるという話を聞いたことがある.手術件数の点でも私の現在の立場はluckyと言わざるを得ない.しかし自分さえ良ければ良いというわけにもいかない.専門医の試験をしてみるとすぐわかるが,専門医受験までにほとんど手術をしていないあるいはさせてもらっていない受験生がかなりいることがわかる.最近機会があってアメリカのレジデントの生活を知る機会があった.非常に大きい大学でも毎年せいぜい二人のレジデントを入れるのみである.人数制限をする代わりに,レジデントには手術を年限に応じて難易度に応じてかなりの部分まで任せている.それこそ家に帰る暇はほとんどないような生活ではあるが,レジデントになれば修業年限内にたくさんの臨床経験を積むことになる.動脈瘤に触ったこともないような専門医が出現することはありえない.しかもboardをとればprivateであれacademicであれ収入は跳ね上がる.もちろん手術が下手であればmalpracticeが多くなり脳外科医として看板をはるのも難しいことになるだろう.またレジデントになる前にPh.Dになっている人も多くレジデント期間にも一定の研究期間が与えられそれなりの研究ができ,忙しい臨床の合間をぬって夜研究室に来ることも多いと聞いている.学会で立派な研究発表をやっているyoungたちはそのような背景をもっている人が大半であるらしい.そのような人達は一旦staffになれば,忙しい臨床の合間にうまく人を使ってoriginalityのある研究を発表している.日本では脳外科医がneuroradiologyもin-tensive careもやらねばならないので現在でも人が足りないのは事実である.しかし,日本の脳外科(手術)医がoverflowしていることも確かである.

解剖を中心とした脳神経手術手技

前頭蓋底外科と再建

著者: 有田憲生 ,   森信太郎 ,   早川徹

ページ範囲:P.659 - P.664

Ⅰ.はじめに
 脳神経外科は,診断機器の開発,微少外科解剖の知識の集積,顕微鏡を含む手術機器の進歩などにより,脳深部病変に対する治療に多大の向上をもたらした.頭蓋底部病変の治療も,この進歩の一環としてとらえることができる.しかし前頭蓋底部病変の外科治療では,このような脳神経外科の近年の動向に反する側面,すなわちmicrosurgeryに対しマクロな外科処置,あるいは高度の専門分化に対し他科との共同作業の必要性,などが要求される点で特異であるといえる.

研究

頸動脈内膜剥離術の術前検査としての冠動脈造影の重要性

著者: 宇野昌明 ,   西谷和敏 ,   上田伸 ,   松本圭蔵 ,   生藤博行 ,   西角彰良

ページ範囲:P.665 - P.670

I.はじめに
 脳血管障害における脳梗塞の比率は近年本邦においても増加し,中でも頭蓋外頸動脈の病変によるものが増加しているといわれる22).われわれも頸動脈狭窄症に対して積極的に頸動脈内膜剥離術(以下CEA)を施行してきたが28-31),日本人の食生活が西洋化するに従って,頸動脈病変を有する症例が同時に冠動脈病変を有することも多く15-17,21,34),心筋虚血がCEA直後のpostoperative mortality上昇の原因となり,また長期follow-up中の死因で最も多いのは心筋梗塞であることをわれわれは指摘してきた30).欧米においては頸動脈病変と冠動脈病変の合併症例に対して,同時に手術をする症例もあり,またCEA症例の予後に冠動脈病変が関連するとする報告が早くからみられる2,4,6-8,11-14,18-20,23-26,32,33).しかし,本邦ではCEA症例に対して冠動脈造影を行って,冠動脈病変の評価を行う必要性について検討した報告は少ない21).われわれはCEAを行う症例に対して,術前に冠動脈造影を施行し,冠動脈の狭窄病変の科度と術前に見られた危険因子との関係,冠動脈病変に対する治療とCEA術後の予後などについて検討したので報告する

Radiosurgeryを併用した,頸静脈孔腫瘍の新しい治療戦略

著者: 木田義久 ,   小林達也 ,   田中孝幸 ,   雄山博文 ,   丹羽政宏

ページ範囲:P.671 - P.675

I.はじめに
 頸静脈孔には,その部を発生母地とするグロームス腫瘍,下位脳神経神経鞘腫の他に,この部に進展を示す髄膜腫,epidermoid cyst,転移性腫瘍などがある.転移性病疫を除けば大半は良性腫瘍であり,それらの治療の基本は手術的摘出にある.しかし,頭蓋底部より頸部に移行する下位脳神経群,頸静脈,頸動脈などが錯走する解剖学的特色の他に,同部の腫瘍がしばしば後頭蓋窩,頸部の両方向に進展する特性から,手術的摘出は必ずしも容易ではない.近年,頭蓋内良性腫瘍,特に聴神経腫瘍4)),髄膜腫8,10)に対するradiosurgeryの良好な治療成績が報告されている.本法は,頸静脈孔の腫瘍群にも応用できる可能性があると考え,ガンマナイフを利用した治療法を試みたので,その結果を報告する.

傍床突起内頸動脈動脈瘤手術におけるCT血管撮影水平断層像の有用性について

著者: 長澤史朗 ,   出口潤 ,   新井基弘 ,   田中英夫 ,   太田富雄

ページ範囲:P.677 - P.684

I.はじめに
 Computerized tomography(以下CTと略す)を用いて脳動脈瘤を低侵襲的に描出しようとするCT angiogra—phyは1980年頃から試みられてきたが3,17),空間分解能や検査時間の問題のため,広く普及するには至らなかった.しかしヘリカル(スパイラル)スキャンなどに代表される最近のCT機器やデータ処理技術の発達で,短時間で大量の情報を得たり処理できるようになり,3次元CT血管撮影(three-dimensional CT angiography,以下3—D-CT-Aと略す)として急速に普及しつつある2,6,9).この結果3—D-CT-Aの有用性,特にウィリス輪近傍の動脈分岐部に好発する動脈瘤の診断的意義については,よく知られるようになった。
 われわれは内頸動脈の走行や前床突起の形状が個体差に富み,一般に手術が困難とされる傍床突起内頸動脈動脈瘤に着目して3—D-CT-Aを施行したところ,その水平断層原画像は従来の検査法では得がたい情報を提供し,手術にも非常に有益であった.症例を提示してその詳細を報告する.

Helical scanning CT(HES-CT),特に三次元CT内視法(3—D CT endoscopy法)の動脈瘤治療決定への有用性

著者: 加藤庸子 ,   佐野公俊 ,   片田和廣 ,   小倉佑子 ,   周捷 ,   金岡成益 ,   神野哲夫

ページ範囲:P.685 - P.691

I.はじめに
 血管内治療も含め脳動脈瘤の治療は著しい進歩を遂げ,ほぼ確立されてきたかのようにも思われる.しかし茎部の詳細のつかみにくい巨大脳動脈瘤や血管奇形の上にできた瘤などは従来の血管撮影ではその判読は困難な場合がある.今回著者らはHES-CT,及び動脈瘤の内腔を描出する三次元CT内視法(3—DCT endoscopy法)による瘤の表面と内側からの両面の情報を分析し的確な動脈瘤根治手術のためのこれらの有用性につき報告する,

症例

脳底動脈閉塞に合併したgrowing up aneurysmの1例

著者: 平野亮 ,   今泉俊雄 ,   加藤孝顕 ,   官尾邦康 ,   端和夫

ページ範囲:P.693 - P.698

I.はじめに
 脳動脈瘤の成因と増大については,動脈壁の先天性または後天性変化と血流動態が重要な因子であるといわれている1,2,8-10).われわれは脳血管バイパス後に発見された未破裂脳底動脈瘤が,半年後に血栓縮小化を示さないためクリッピング術を施行した.さらにその2年後に新たに内頸動脈瘤が発生し,これの破裂によるクモ膜下出血をきたした症例を経験した.この興味ある経過を示した症例について考察を加え報告する.

高齢者(70歳以上)頭蓋咽頭腫の2手術例

著者: 関谷徹治 ,   伊藤勝博 ,   赤坂健一 ,   鈴木重晴

ページ範囲:P.699 - P.703

Ι.はじめに
 頭蓋咽頭腫症例のほぼ半数は10歳前後の小児に好発するが,成人例も稀ではない5,23).しかし,70歳以上の高齢者頭蓋咽頭腫となるとその報告は稀である15,17,21,22,26-28,30).われわれが過去22年間に経験してきた頭蓋咽頭腫22例の中の最高年齢はこれまで56歳であったが,最近になって,79歳と74歳の高齢者頭蓋咽頭腫を相次いで経験した.このような現象は,近年の高齢化社会を反映しているとも考えられ,高齢者頭蓋咽頭腫について検討を加えておくことは意義のあることと考えられる.
 これまでに小児頭蓋咽頭腫に関しては多くの知見の蓄積があるが,70歳以上の高齢者の頭蓋咽頭腫についての記載はまだ乏しい15,21,26-28,30).ここでは,特異な臨床経過を示した1例を含む高齢者頭蓋咽頭腫自験2例について文献的考察も交えて報告する.

中脳視蓋部グリオーマの2手術例の検討

著者: 吉田雄樹 ,   北上明 ,   菊地康文 ,   日高徹雄 ,   小川彰

ページ範囲:P.705 - P.709

I.はじめに
 今回われわれは,水頭症にて発症した中脳視蓋部グリオーマ(tectal glioma)に対し腫瘍摘出術を行い,病理学的確定診断と水頭症を改善しえた症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

後頭蓋窩巨大脳石症の1例

著者: 徳永英守 ,   岩永秀昭 ,   今西正巳 ,   越前直樹 ,   青木秀夫 ,   朴永朱 ,   辻本正彦

ページ範囲:P.711 - P.716

I.はじめに
 従来より頭蓋内異常石灰化巣に関する報告は数多くなされているが,石灰化の原因疾患が明らかにされることが通常である.一方,石灰化巣の病因が病理学的にも不明である場合にはidiopathic brain stoneと診断せざるを得ないが,かかる例の報告は極めてまれである.今回われわれは,病理組織学的にいわゆるidiopathic brain stoneと診断した後頭蓋窩巨大石灰化腫瘤の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

クモ膜嚢胞に対し,Cyst-cisternal Shuntが有効であった複合脳奇形の1例

著者: 須賀俊博 ,   後藤英雄 ,   佐野光彦 ,   吉岡邦浩 ,   菊地憲一

ページ範囲:P.717 - P.721

I.はじめに
 われわれは,裂脳症,多小脳回症,異所性灰白質,透明中隔欠損症および右中頭蓋窩クモ膜嚢胞を合併した一例を経験した,裂脳症,多小脳回症や異所性灰白質は,胎生3-5カ月頃の神経細胞の移動期の障害と考えられている1-4,11-13)脳奇形の診断においては,解剖学的な描出に優れ,多方向断面も容易に得られ,信号の差により灰白質と白質の分離も良好なMRIは,診断に極めて有用な情報を与えてくれる1-4,11-13)
 クモ膜嚢胞の手術には,嚢胞開放術および嚢胞腹腔シャントが行われているが,両手技の優劣には,結論が得られていない8-10).われわれは,当患者に対し,嚢胞開放術とともに,嚢胞内と悩底槽髄液腔をstraight sili—corle tubeで短絡したcyst-cisternal shuntを試み,良好な結果を得た.生体適合素材の開発により,優れたsili—cone tubeが供与されている現在7,8),cyst-cisternal shuntは,クモ膜嚢胞手術の第一選択となりうると考えられた.文献的考察を含め,報告する.

副神経神経鞘腫の1例

著者: 申正樹 ,   入江恵子 ,   藤原敬 ,   久山秀幸 ,   長尾省吾

ページ範囲:P.723 - P.726

I.はじめに
 神経鞘腫は感覚神経系に発生することが多く,運動神経系から発生することは稀である.明らかに副神経より発生した神経鞘腫はきわめて稀で,これまで13例が報告されているにすぎない.今回,大槽内に発育し,大後頭孔部腫瘍の臨床像を呈した副神経鞘腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

小脳出血にて発症した新生児dural arteriovenous shuntの1例

著者: 荒井祥一 ,   西野晶子 ,   高橋明 ,   上之原広司 ,   桜井芳明

ページ範囲:P.727 - P.732

I.はじめに
 Dural arteriovenous shunts(以下dAVS)は,成人例での報告が多く,新生児での報告は極めて稀である.今回われわれは,生後間もなく小脳出血,クモ膜下出血及び硬膜下出血で発症し,発症4カ月後,静脈洞交会,横静脈洞,上矢状洞に及ぶ巨大なdural sacを有するdAVSと診断された1例を経験したので若千の文献的考察も加えて報告する.

顔面動静脈奇形の治療

著者: 村瀬悟 ,   郭泰彦 ,   山田潤 ,   野倉宏晃 ,   三輪嘉明 ,   大熊晟夫 ,   山田弘

ページ範囲:P.733 - P.738

I.はじめに
 頭皮・顔面には豊富なvascular networkが存在するため,この部に発生した動静脈奇形(以下AVM)の中には最新の技術をもってしても治療に難渋する症例が少なくない.われわれは最近,頭皮・顔面のAVMを3例経験し,主に血管内手術による治療を行い,ほぼ満足すべき結果を得たので,症例を呈示するとともに,本疾患の治療法とその問題点に関し検討を加える.

Growing skull fractureの1例

著者: 石橋秀昭 ,   松野治雄 ,   山下康博 ,   井上亨 ,   溝口昌弘 ,   詠田眞治 ,   森田潤

ページ範囲:P.741 - P.744

I.はじめに
 Growing skull fractureは乳幼児の頭蓋骨骨折が進行性に拡大する比較的まれな疾患である.その機序は骨折部直下のくも膜嚢胞14)あるいは脱出脳7,13,15)が頭蓋内の圧の拍動を骨折線に伝達し骨折線が拡大していくとされている.その経過は様々で数時間で骨折線の拡大を示す例4)から10年以上かけて進行する拡大骨折の例16)も報告されている.今回われわれは18生日の乳児で頭部外傷後,急速に骨折線の拡大を来たした例を経験した.その特徴的CT,MRI像を示し,growing skull fractureの治療について考察した.

頭蓋内硬膜に腫瘤を形成した悪性リンパ腫の1例

著者: 森美雅 ,   小林達也 ,   柴田孝行 ,   佐竹立成

ページ範囲:P.745 - P.749

I.はじめに
 中枢神経系の悪性リンパ腫はまれではあるが,近年computed tomography(CT),magnetic resonance(MR)imagingなどによる診断技術の向上に加え,免疫抑制剤の使用などにより発生そのものも増加し報告が増えている9).しかし,頭蓋内原発悪性リンパ腫の報告例はほとんどが脳実質内腫瘍であり,他臓器からの転移例ではdiffuseに髄液腔内や血管周辺に発生する場合が多い9).われわれはけいれん発作で発症し,CT所見では前頭部convexity typeの髄膜腫様の所見を示し,手術所見で硬膜腫瘍を呈した悪性リンパ腫を経験した.頭蓋内悪性リンパ腫が硬膜腫瘍として発症することは極めてまれであり,文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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