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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科23巻9号

1995年09月発行

雑誌目次

脳の機能画像

著者: 上田聖

ページ範囲:P.757 - P.758

 1990年,アメリカで宣言されたDecade of the Brainも既に半分が経過した.この宣言は脳科学財団等の設立による脳研究に対する財源援助にとどまらず,社会一般の理解を深めるための一大キャンペーンを展開したことなどから,大きな潮流となって全世界に広まり,世界各国に脳研究推進の活動を高めることになった.わが国においても例外ではない.
 従来脳研究あるいは神経研究は脳神経外科,神経内科,精神科等の臨床部門と病理学,解剖学,生理学,生化学,薬理学等の基礎部門とを総合するような形で押し進められてきたものの医学部の中だけのことであった.わが国で設立されてきた脳研究施設も病理学(神経病理学)が中心となって臨床と基礎研究が推進させられてきた感が強い.しかしDecade of the Brain宣言は脳研究を「神経科学」としてとらえ,医学部の枠内にとどまらず,理学部,農学部,工学部等も含む学際的研究領域にまで発展せしめることに拍車をかけた.このような動きは画像診断の上でも顕著に現れ,近年急速に進歩発展した多種多様な画像機器の開発はこのような学際的研究の進展によるものといえる.そしてこれらの進歩にもとづいて,脳の画像も形態画像だけにとどまらず機能代謝画像へも大きな関心が向けられるようになった.これまで人文科学や哲学の研究対象と考えられていた精神活動を含む高次脳機能まで画像化の対象になろうとしている.

総説

脊髄空洞症の発生機序と外科的治療

著者: 阿部俊昭

ページ範囲:P.759 - P.766

I.はじめに
 脊髄の空洞化は1546年Estienneにより始めて記載されたとされている15).Syringomyeliaという言葉が始めて用いられたのは1827年Ollivierの著書“Traité de la Moelle Epiniene et de ses Maladies”の中のDr La Moelle Epinieneの第5章Syringomyelie,ou cavité cen—trale dans la moelleとされている9).またChiariは1888年Syringomyeliaとhydromyeliaは同一のもので大部分のSyringomyeliaは中心管と連続していると発表した11).その後1896年14例のⅠ型奇形とhydromyeliaの合併例を報告している12)
 しかし近年になるまで本症は原因不明の慢性進行性の変性病変と考えられており,一般的には有効な治療法はないとされていた24)

解剖を中心とした脳神経手術手技

Meniere病に伴う難治性重症めまいに対する前庭神経切截術

著者: 甲村英二 ,   久保武 ,   早川徹

ページ範囲:P.767 - P.772

I.はじめに
 歴史的には,第Ⅷ神経の切截術は20世紀初頭に脳外科医により後頭蓋窩経由で開始された.Meniere病の症状改善のためにFrazier2)が実施し,McKenzie9),Dandy1)がこれに続いた.McKenzie9)は選択的な前庭神経切断術(第Ⅷ神経上半部の切除)を公表している.当時の成績としては,めまい発作のコントロールは良好であったが顔面神経麻痺,聴力障害の合併などのため4),その後は本手術は余り実施されなかった.選択的第Ⅷ神経切截術の特長は聴覚を保存してめまい発作のコントロールが可能な点にある.手術用顕微鏡の導入後にこの特長を生かすことが可能となり,1960年代より主に耳鼻科医によって中頭蓋窩経由の前庭神経切断術が行われ,良好な成績が示された5).また1978年よりSilversteinは,合併症をより減じるためにretrolabyrin—thine approachによる前庭神経切断を実施している13).最近はアプローチはさらに後方へと移動し,retrosig—moid approachにより行われるようになっている15,17)
 Meniere病を中心とした内耳疾患にもとづくめまいのうちで,内科的療法によりコントロール不能な症例に対してわれわれの行っている手術を解剖を中心として解説する.

研究

ガンマナイフ手術により治療された成人と小児の脳動静脈奇形の比較

著者: 田中孝幸 ,   小林達也 ,   木田義久 ,   雄山博文 ,   丹羽政宏

ページ範囲:P.773 - P.777

I.はじめに
 Steinerら15)が,1972年に初めてガンマナイフ手術により脳動静脈奇形(AVM)を治療して以来,20年以上が経過し,これまでに多くの治療成績が報告されてきた1,9,11,13,16,17)
 われわれは,1991年5月より1994年9月までに290例のAVMをガンマナイフ手術により治療し,この中1年間以上の経過で脳血管撮影にて追跡調査されたのは99例であった.これらの症例を成人(16歳以上)と小児に分けて,脳動静脈奇形の特徴,ガンマナイフ手術後のAVMの閉塞率,副作用等について検討したので報告する.

頭蓋底病変に対する三次元画像解析の有用性

著者: 小林正人 ,   大平貴之 ,   石原雅行 ,   中村明義 ,   後藤和宏 ,   河瀬斌 ,   塩原隆造 ,   戸谷重雄 ,   志賀逸夫

ページ範囲:P.779 - P.786

I.はじめに
 近年,Computed tomography(CT),Magnetic reso—nance image(MRI)の画像を二次処理した三次元立体画像の作成に関する報告が散見される1-4,7,8,10,13).高性能コンピューターの開発やCT,MRI装置の性能の向上に伴い,更に高性能で正確な三次元画像処理装置の開発と,その普及も期待される.三次元立体画像によって,頭蓋内病変の立体的な把握がより容易かつ正確となれば,病変の診断や術前,術中の検討の強力な援助となろう1,14).しかし,実際の臨床の場での役割や有用性については現在までのところ,報告が少なく未知の部分も多い1,4,7)
 われわれは,脳腫瘍,血管奇形など頭蓋底病変に対し,通常のCT,MRI画像から三次元立体画像を作成し,術前の診断や手術法の検討,実際の手術所見との比較を行い,三次元立体画像の有用性を検討したので,症例を提示すると共に報告する.

Three-dimensional CT angiography(3D-CTA)による破裂・未破裂脳動脈瘤の診断

著者: 田邊純嘉 ,   大滝雅文 ,   上出廷治 ,   端和夫 ,   鈴木進 ,   高橋八三郎

ページ範囲:P.787 - P.795

I.はじめに
 近年computer imagingの発達により3次元画像が作製され,病変の局在診断や治療計画の検討に応用されているが,1989年に登場した高速螺旋型CTは従来のCTでは困難であった3次元画像の作製を容易にした.
 1992年より連続回転型高速CT装置が札幌医科大学に導入され,短時間に広範囲の部位が撮影されるようになり,良好な3次元画像や多断画再構成画像(MPR image)が作製可能となった.その後ソフトウエアーの開発で3次元CT angiography(3D-CTA)が検査可能となり,脳血管障害の診断に3D-CTAを使用してきたが,本論文では破裂および未破裂脳動脈瘤の診断に使用した結果について報告する.

症例

特発性浅側頭動脈解離性動脈瘤の1治験例

著者: 藤井省吾 ,   梶川博 ,   山村邦夫 ,   和田学 ,   嶋本文雄

ページ範囲:P.797 - P.800

I.緒言
 浅側頭動脈に発生する動脈瘤は比較的稀であり,多くは外傷によるものである.本稿では,外傷の既往なく側頭部拍動性頭痛にて発症し,血管写にて解離性であることを確認し得た特発性浅側頭動脈解離性動脈瘤の1例を報告する.

Intrasellar arachnoid cystの1例

著者: 田中禎之 ,   林靖二 ,   中井三量 ,   龍神幸明 ,   上松右二 ,   中井國雄 ,   板倉徹

ページ範囲:P.801 - P.806

I.はじめに
 arachnoid cystは,全頭蓋内space occupying lesionの1%に見られるに過ぎない.特にintrasellar regionに発生するarachnoid cystは非常に稀で,トルコ鞍部に発生するpituitary adenomaをはじめ,craniopharyn—gioma,empty sella,Rathke's cleft cyst,epidermoidなどとの鑑別が重要である.今回われわれは,頭痛ならびに視野障害にて発症した症例を経験したので報告する.また,intrasellar arachnoid cystの臨床像,検査法,治療法,ならびにその発生機序について若干の文献的考察を加える.

もやもや病に合併した脳底上小脳動脈瘤,後大脳動脈瘤の1手術例

著者: 川口務 ,   横山博明 ,   堤圭介 ,   市倉明男 ,   鬼塚正成 ,   中村俊介

ページ範囲:P.807 - P.811

I.はじめに
 モヤモヤ病は椎骨脳底動脈系の動脈瘤をしばしば合併するが,その手術例の報告は比較的稀である.われわれは脳底動脈系に2個の嚢状動脈瘤を合併したモヤモヤ病に対し手術を施行した症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

内頸動脈狭窄に側副血行路末梢部の破裂脳動脈瘤を合併したneurofibromatosisの1例

著者: 佐々木順孝 ,   三浦俊一 ,   大石光 ,   菊地顕次

ページ範囲:P.813 - P.817

I.はじめに
 Neurofibromatosis(以下NF)は遺伝性の中胚葉および外胚葉系の形成異常をきたす神経皮膚症候群のひとつで21),多発性神経線維腫,骨病変が主症状であるが,時に血管病変を合併することが知られている5).NFに合併する頭蓋内血管病変は,内頸動脈系の閉塞2,8-10,12,17,19,22)およびモヤモヤ血管の形成や動脈瘤発生2,13,19)が報告され,その機序として血管壁内のSchwann細胞の増殖やそれに伴う2次的な変性が推定されている16).最近われわれは,右内頸動脈の狭窄と,側副血行路として発達したHeubner's arteryの末梢部に破裂脳動脈瘤を合併したNFのまれな1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

くも膜下出血で発症した多発硬膜動静脈シャントの1例

著者: 新村核 ,   菅原孝行 ,   奥達也 ,   荒井祥一 ,   大間々真一 ,   樋口紘

ページ範囲:P.819 - P.824

I.はじめに
 硬膜動静脈シャント(以下dAVS)は,硬膜又は硬膜よりなる頭蓋内組織に発生した動静脈シャントと定義され,横・S状静脈洞部と海綿静脈洞部の2カ所に好発し,その他の部位に発生するのは稀である.又,多発性のdAVSの報告は数例のみである.われわれは,くも膜下出血で発症し,前頭蓋窩及び後頭蓋窩に同時に複数のdAVSを認めた極めて稀な症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

水頭症を合併した脊髄硬膜動静脈瘻の1例

著者: 増尾修 ,   奥野孝 ,   尾崎文教 ,   寺田友昭 ,   中井國雄 ,   板倉徹 ,   駒井則彦

ページ範囲:P.825 - P.828

I.はじめに
 脊髄硬膜動静脈瘻spinal dural arteiovenous fistula(AVF)は,一般に後天的疾患とされている1-10).今回,われわれは,この見解を強く支持するような頻回の腰椎穿刺の既往をもつ脊髄硬膜動静脈瘻を経験した.また本症例は,正常圧水頭症を合併していた.脊髄疾患に水頭症を伴った報告は多く見られるが,spinal dural AVFに水頭症を伴ったという報告はわれわれが検索し得た範囲ではみられなかった.spinal dural AVFが水頭症を合併した機序について,若干の文献的考察を加えて報告する.

歴史探訪

てんかん外科の温故知新—歴史年表

著者: 朝倉哲彦

ページ範囲:P.831 - P.844

はじめに
 日進月歩,いや秒進分歩とまでいわれる医学の進歩によって長年人類を苦しめてきた病苦の一翼が克服される曙光が見えてきた.てんかんもその一つである.
 抗てんかん薬も次々と登場し,多くの患者が福音に浴しているが,一方,なお薬物抵抗性すなわち難治性てんかんの患者が存在することは,無視できない.成人で25.6%,小児で13.4%といわれ,てんかん患者の総数を約100万人とするなら,相当な数に上る,ここにてんかん外科の必要性が存在する.現在のてんかん外科は切除外科に加えて遮断外科を経,さらに抑制系刺激療法へと展開しつつある.

報告記

第4回脳卒中外科国際ワークショップ(IWCVS)

著者: 福井仁士

ページ範囲:P.846 - P.847

 第4回の本学会は,1995年6月11日より14日までの4日間米国Chicago市のMarriott Downtown Hotelにおいて開催された.会長はChicago Illinois大学のAusman教授で,名誉会長として故杉田虔一郎教授に敬意が捧げられた.参加者数は400名を越え,参加国は43カ国を数えた.日本人の参加者は参会者名簿で見ても70名を越えた.また,韓国からの参加者も多く,アジアからの参加者は参加者総数の約1/4を占めた.
 Ausman教授によると,応募演題は予想をはるかに越え300題に達し,これをこなすために朝7時から午後5時までのtight scheduleとなった.Topicsの振り分けは,初日は脳動脈瘤,第2日はAVM,第3日は脳虚血,第4日(午前のみ)は,poster awardの表彰と表彰者の講演,ついで企業側からの医療機器の解説宣伝であった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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