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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科24巻12号

1996年12月発行

雑誌目次

「メス」が「ドス」とならぬよう

著者: 森竹浩三

ページ範囲:P.1065 - P.1066

 医者であるわれわれにとっての最大の使命は患者の病を癒し,苦痛を和らげることである.われわれ脳神経外科医に求められることはまず良い手術者であることであるが,その定義は時代により,人によっても異なる.この話題はすでにこの“扉”をはじめ様々な場所でとりあげられてきたが,本欄執筆を機に自分なりに良い手術者となるための心構え,要件といったものを整理しsensible,simple,smooth,sophisticatedの4項目(4S)でまとめてみた.
 まず,sensibleとは良(常)識を備えた人間であることである.外科医のみならず医者にとってこれは不可欠なことである.いかに優れた能力をもった人物でも常識を欠くと恐い.外科医の場合は「メス」が「ドス」になるから(森 政弘著“「非まじめ」のすすめ”講談社文庫より)である.一時期,脳神経外科医の治療に対する果敢な前向き姿勢を鼓舞する言葉として“aggressive”という言葉が学会等でよく使われた.先週ローマで開かれたヨーロッパ小児神経学会の講演でもしばしば耳にした.私には当初よりこの“aggressive”が患者を人と思わない不遜な響きを持つ,患者本位の現代医療にはそぐわぬ言葉と感じてきた.脳神経外科をはじめて間もなく,当時の直接頸動脈穿刺による脳血管撮影や患者を数日間“死ぬ思い”の苦痛にさらす気脳撮影などの検査や,マイクロサージャリ以前の結果の芳しくなかった“果敢な手術”に違和感を抱き,自らのpolicyを表す言葉として“less-invasive neurosurgery”を思いついた.ちなみに,この“less-invasive”のpriorityが小生にあるかどうか確かめたことはないが,当時あまり使われていなかったキーワードであったことは確かである(コンピュータとNO-GEKA.日外宝51巻(5),1982).15年以上も前のその当時は,何事も高度成長時代でこのスローガンは消極姿勢ととられたように記憶している.しかしその後,この“less-invasive”は脳神経外科関連の学会のプログラムなどでよく目にするようになり,最近はやりの“minimally invasive”にも通じている.手術上達の第二の要件はsimpleであることである.芸術や文学など特殊な分野は別として,何事もシンプルに越したことはない.手術に際しては手術台,麻酔者,モニター機器などの配置や各種コードやパイプなどの走行もできるだけ単純な形に整えておく.手術のstrategyも単純な基本操作を合理的な形に組み合わせて構成する.基本的な知識をしっかり身につけ基本的技術を確実に修得しておけば,術中不測の事態が起こっても何かと乗り越えられるものである.最近の手術にはマイクロやドリルシステム,レーザメス,超音波メス,血管内手術,内視鏡など様々な機器が導入され,新たな術式も次々と考案されている.確かに手術成績は飛躍的に向上してきているが,それに伴い選択肢は増え複雑化の一途を辿っている.中には金と手間ひまかけさせる以外の何物でもないと思われるものや,非侵襲性を看板にしているが一旦合併症を起こすと手の打ちようのないものも含まれている.安全で確実なものをめざす医療の潮流のなかでこのようなriskyなものはいくらminimally invasiveでもご遠慮願いたいものである.第3はsmooth.手術に先立ち充分な検討,準備を行い,一旦,麻酔が開始されたならばその後の流れが淀まぬよう2手,3手先を読みながら操作を進める.結果的には“speedy”に通じる.手術が新たな局面を迎えるたびに討論会が始まったり,用意されてない器具類を次々に注文し手術を中断させるなどはもっての他である.第4の要件sophisticatedとはマンネリに陥らず,より洗練された手術を目指すという意味である.手術は芸術とも言われる.磨き抜かれた技術とヒューマニズムに裏打ちされた知性と感性,これらが相俟って素晴らしい作品ができあがる.

総説

Cephalocele

著者: 横田晃 ,   山田治行

ページ範囲:P.1067 - P.1077

I.はじめに
 Cephalocele(頭瘤)またはencephalocele(脳瘤)とは先天的な頭蓋骨の欠損部(cranium bifidum)を通じて頭蓋内容が頭蓋外に脱出して嚢瘤を形成する奇形である.嚢瘤の内容が髄膜と髄液のみのものをmeningocele,神経組織がそのなかに含まれるものをencephaloceleまたはmemimgoencephaloceleと呼んでいるが,本稿ではence—phaloceleと言う用語をmeningoceleと対比させて用いることにする.Cephaloceleについてはこれまで多くの報告があるが,その病理形態に関する詳細な記載は比較的少なく,形態分類には不明確な点が残され,発生病態をめぐる議論には一致が見られない.また,最近になってその存在が知られるようになったcephaloceleの不全型の定義や類似の頭皮異常との異同が新たな問題を提起している.こうした形態上の問題点に加えて,cephalo—celeの発生部位の相違によって合併する頭蓋内外の奇形性異常の頻度や重症度が異なり,患児の予後にも影響を及ぼすことが指摘されている.本稿では自験例(既発表の症例74)に最近の6例を加えた46例)をもとに,cepha—loceleのもつ幾つかの問題点を取り上げてみた.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Combined supra-and infratentorial transpetrosal approachのための開頭の工夫

著者: 澤村豊

ページ範囲:P.1079 - P.1085

I.はじめに
 頭蓋底手術の中でも,特に応用範囲が広く,近年繁用されるようになったCombined supra-and infratentorial transpetrosal approachのための開頭法を解説する1-9)
 このアプローチに対する命名法は多様であり混乱もある.錐体骨の一部を削除して,さらに上錐体静脈洞と小脳テントを切断し,テント上下から主に後頭窩病変に達するという意味合いからは,上記が適切な表現方法であろう.S状静脈洞の前方から後頭窩へ進入するという意味でpresigmoid approachともいわれ,日常最も単純にはpetrosal approachと呼んでいる.

研究

くも膜下出血におけるMR fluid attenuated inversion recovery(FLAIR)法の有用性

著者: 三上毅 ,   齋藤孝次 ,   奥山徹 ,   坂本靖男 ,   高橋明 ,   柴田和則

ページ範囲:P.1087 - P.1092

I.はじめに
 Fluid Attenuated Inversion Recovery(FLAIR)法は,脳脊髄液の信号を抑制したT2強調画像を得ることができる1,2).数年来,FLAIR法を用いて種々の報告がなされているが,大脳皮質病変や脳室周囲病変の梗塞巣や脱髄巣が明瞭に描出されることが知られている1-3)
 くも膜下出血の診断は最近ではCTによってなされている.MRIにおいては,出血はT2強調時間の延長がみられ高信号として描出されることから髄液との鑑別が困難でT2強調画像による診断はできず,他の様々な方法が試みられているが5-8),MRIによるくも膜下出血の診断は一般的とはなっていない.

蝶形骨平面,鞍結節部髄膜腫における視機能障害の特徴と手術成績

著者: 上出廷治 ,   大滝雅文 ,   野中雅 ,   田邉純嘉 ,   端和夫

ページ範囲:P.1093 - P.1098

I.はじめに
 蝶形骨平面から鞍結節部に発生する髄膜腫は,視機能障害で初発するものが多いが,術後視機能を改善させることは必ずしも容易ではなく,むしろ悪化することも少なくない.手術成績を向上させる目的で,同部の髄膜腫による視機能障害の特徴を明らかにし,手術アプローチの選択法と術後成績を検討したので報告する.

症例

Rescue PTAおよびdeferred PTAによる段階的血管拡張が奏効した急性期頸部内頸動脈閉塞症の1例

著者: 須賀俊博 ,   渡辺徹雄 ,   渡辺美喜雄 ,   大和田雅信 ,   千葉明善 ,   吉岡邦浩 ,   細矢貴亮

ページ範囲:P.1101 - P.1106

I.はじめに
 脳梗塞急性期での経皮的血管形成術(percutaneous transluminal angioplasty:PTAと略す)の有用性を示す報告が散見されるようになってきた9,14-16).PTAには,血栓溶解療法成功後,残存狭窄に対するimmediate PTA,血栓溶解療法のみで再開通が得られない場合に迅速に再開通をはかるため行うrescue PTA,発症18時間から1週間の間に施行されるdeferred PTA,血栓溶解療法を併用しないdirect PTAなどがある2,4,15)
 これまで頸部内頸動脈狭窄症に対するPTAの有用性の報告は多い5,6,11,12,16).これに対し,頸部内頸動脈閉塞症急性期においては,経皮的血栓溶解術や経皮的血管形成術が著効した報告がみられるものの9,14,15),再開通に伴う致死的出血性梗塞や頭蓋内血管への塞栓などの合併症の頻度が高く,むしろ禁忌とする報告もある3).特にgolden hourとされる6時間を越えれば,合併症の危険は非常に高くなる.

くも膜下出血にて発症した中大脳動脈完全閉塞を合併した後大脳動脈瘤の1例

著者: 河村淳史 ,   山田洋司 ,   長尾朋典 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.1107 - P.1111

I.はじめに
 くも膜下出血で発症した破裂脳動脈瘤症例において脳主幹動脈の閉塞が合併していることはしばしば報告されている.今回われわれはこのような症例の1つとしては非常に稀な中大脳動脈(MCA)完全閉塞を合併した同側後大脳動脈(PCA)P2部動脈瘤破裂によるくも膜下出血にて発症した症例を経験したので,その発生病態と治療とについて認識すべき点を若干の文献的考察を加えて報告する.

四丘体部choroidal epithelial cystの1例

著者: 丸岩光 ,   寺崎瑞彦 ,   宮城知也 ,   重森稔

ページ範囲:P.1113 - P.1117

I.はじめに
 中枢神経系に発生する嚢胞性病変は,その組織発生起源が多様なため多くの種類がある、著者らは,上方注視麻痺にて発症した四丘体部嚢胞例について,その嚢胞壁の検索からchoroidal epithelial cystと考えられた症例を経験した.そこで症例を呈示し,本症の臨床,病理所見を中心に文献的考察を含めて報告する.

成長ホルモン産生下垂体腺腫を合併したempty sella症候群の1例:経蝶形骨洞腺腫摘出術及びempty sella修復術

著者: 相原英夫 ,   玉木紀彦 ,   上山健彦 ,   石原洋右 ,   近藤威

ページ範囲:P.1119 - P.1123

I.はじめに
 Empty sellaは,1951年Buschら3)によってその概念が提唱されて以来,近年のMRI等の画像の発達もあって,遭遇する機会は増加している.病態生理の面から,primary empty sellaと,secondary empty sellaに分類され15),下垂体腺腫に合併する場合は,すでに存在していたprimary empty sellaに腺腫が生じた可能性と,腺腫の梗塞,出血,変性などの結果としてempty sellaが生じたとするいわゆるsecondary empty sellaである可能性が考えられる.外科的治療に関しては,腺腫を合併しないprimary empty sellaにおいては,臨床症状と画像所見を考慮しつつ,慎重な手術適応の検討が必要であるとされるが17),腺腫を合併する例においては腫瘍摘出術とトルコ鞍内充填術が必要となる.今回私共は成長ホルモン(GH)産生腫瘍に合併したempty sellaに対し,経蝶形骨洞下垂体腺腫摘出術及びempty sella修復術を行い,良好な結果を得たので,特にその手術法について若干の文献的考察を加えて報告する.

Hematomyeliaの形成過程をMRIによって経時的に追跡し得た脊髄髄内海綿状血管腫:組織学的にhematoidin沈着を認めた手術例

著者: 長島親男 ,   増田俊和 ,   長島律子 ,   榎本京子 ,   渡部恒也 ,   森田仁士 ,   高浜素秀

ページ範囲:P.1125 - P.1132

I.緒言
 脊髄髄内の海綿状血管腫(cavernous angioma,CA)はmagnetic resonance imaging(MRI)で特徴的な所見を示すことが知られている1-4,6,9).すなわちT2強調画像におけるCA中心部の高あるいは高・低混合信号域とCA周辺部の低信号域が特徴的であり,これは時期を異にする出血によるもので中心部の信号は主としてmethemo—globin,周辺部の信号はhemosiderinによるとされている1-4,6,9,16-19,23-29).したがってCA周辺の小量の出血は普通にみられるが,周辺から次第に進展してCAから離れた髄内の比較的広い範囲にhematomyeliaを合併することは稀である12-14,21,22).著者らは胸椎10レベルのCAの症例でCAからの血液が神経線維の間隙を連続的に移動して腰膨大部から脊髄円錐におよぶhematomye—liaを作ったと推論される症例を経験し,その形成過程をMRIにて経時的に追跡し,興味ある知見を得た.さらに摘出標本にはVirchow’s crystalとして知られているヘマトイジン7,10,11)の沈着を認めた.このような報告はいまだみられないので以下に述べる.

脳幹部前面に発生したendodermal cystの1症例

著者: 清水匡一 ,   丹羽潤 ,   松村茂樹 ,   前田義裕 ,   大山浩史 ,   下山則彦

ページ範囲:P.1135 - P.1138

I.はじめに
 Endodermal cystは,enterogenous cyst,neurenteric cyst,bronchogenic cyst等を含む総称名で,多くは脊髄前面の硬膜下腔に発生する.しかし頭蓋内特に後頭蓋窩に発生することは非常に稀であり,知りえた範囲では現在までに20例が報告されているにすぎない1-4,6,7,10,11).今回脳幹部前面に局在し組織学的にendodermal cystと診断された1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

自然血栓化ガレン大静脈瘤の1例

著者: 金奉均 ,   石井正三 ,   尾田宣仁

ページ範囲:P.1139 - P.1144

I.緒言
 ガレン大静脈瘤はその特徴的症状および画像所見から広く知られている疾患であるが稀なもので,その中でも自然血栓化ガレン大静脈瘤は極めて稀である1-3,11,12).この自然血栓化ガレン大静脈瘤および側副静脈路として著明な還流異常が認められた1例を経験したので報告する.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第24巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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