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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科24巻2号

1996年02月発行

雑誌目次

脳神経外科医の栄光と悲惨—エピローグ・1

著者: 朝倉哲彦

ページ範囲:P.107 - P.108

 かつて同じタイトルで筆を執ったことがある.その時念頭にあったのは二人の偉大な脳外科医の生涯であった.しかし,実際に筆を進めるとなると万感胸にこみ上げるものがあってそれ以上筆を進めることが出来なかった.やむなく筆を曲げてプロローグ,ゴルフェッサーとした次第である(本誌17巻1989年).
 それ以来情動の変化を伴う文章を書くことは極力避けてきたのであるがいつまでもプロローグのまま置くわけにもいかないので敢えて再びこのタイトルを選んでエピローグとする次第である.尤も今度は筆を執るわけではなくキーボードを叩くのだからなんとか行けそうである.

連載 Functional Mappingの臨床応用—現状と展望・2

Functional MRIによる運動野,感覚野,視覚野,言語野の同定

著者: 伊藤隆彦 ,   浅利正二 ,   大本堯史

ページ範囲:P.109 - P.118

I.はじめに
 近年,血液酸素飽和度の変化を計測するMRIを用いた脳機能の検索が注目を集めている2-13,17-19,22,23).この方法の最大の利点は脳内での血液酸素飽和度の変化を非侵襲的に計測できる点にあり,今後の装置の発展によりさらに精度の高い情報が得られることが期待されている.これまでの報告では,高磁場の装置であるほど鮮明な画像が得られる19)ため,2tesla(T)以上の装置を使用したもの6,8,10,11,13,14,17,18)が多く,また最近ではecho—planar法を用いて撮像法の改善を試みた報告1-3,7,8,18,22)もみられるが,これらについては本誌前号の総説に詳しく述べられている.そこで本号では,1.5Tの一般臨床機を用いたfunctional MRI(fMRI),特にわれわれが現在日常診療に際して行っている現状について述べる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

大後頭孔外側部からのアプローチ:主として顆窩経由法(別名 後頭顆上部頸静脈結節経由法)と後頭顆経由法

著者: 松島俊夫 ,   福井仁士

ページ範囲:P.119 - P.124

I.はじめに
 椎骨脳底動脈分岐部近傍や延髄前面へは,主に大後頭孔外側部からのアプローチが用いられる1,3,4,7-9).farlateral approach3)やtranscondylar approach1,4,8,9)やex—treme lateral approach7)である.本稿では大後頭孔外側部の微小外科解剖をまず述べ,われわれが現在行っている顆窩経由法transcondylar fossa approach),別名後頭顆上部頸静脈結節経由法(supracondylar transjugulartubercle approach)を紹介し,このアプローチの後頭顆経由法(transcondylar approach)との違いを解説する.顆窩経由法は,大後頭孔外側部から硬膜外に頸静脈結節(jugular tubercle)を削除して進入するが,環椎後頭関節の後頭顆(occipital condyle)を温存して行うアプローチである.本稿では,病変の存在する高さや広がりでどのアプローチを選択すべきかについても言及する.

研究

ラトケ嚢胞の臨床病理学的検討:MRIにおける嚢胞壁のエンハンス効果と病理組織所見の関連について

著者: 丹羽潤 ,   田邊純嘉 ,   伊林至洋 ,   端和夫 ,   佐藤昌明

ページ範囲:P.125 - P.133

I.はじめに
 MRIの進歩によりラトケ嚢胞が稀ならず見つかるようになって以来,種々の信号強度を呈する嚢胞内溶液については多くの検討がなされているが,嚢胞壁についての検討は少ない6,8,15).報告例の中にはGd-DTPAで嚢胞壁がエンハンスされたとの記載があるものの,神経放射線学的にも病理組織学的にもエンハンスの意味については検討されていない2,11)
 病理組織学的にみるとラトケ嚢胞の嚢胞壁は一層の円柱上皮から構成されているが,時にこれに連続して重層扁平上皮を有することも稀ではないと報告されている5,16).またラトケ嚢胞に下垂体腺腫を合併していたとの報告もある14)

症候性脳血管攣縮に対するmethylprednisolone脳槽内経時的投与の予防的効果

著者: 大熊洋揮 ,   鈴木重晴 ,   尾金一民 ,   藤田聖一郎 ,   柴田聖子 ,   伊藤勝博 ,   木村正英

ページ範囲:P.135 - P.142

I.はじめに
 クモ膜下出血(SAH)後の脳血管攣縮(攣縮)の成因,病態に関し,最近,炎症および免疫反応の関与が注目されつつある7,11-14,20).こうした観点から抗炎症作用または免疫抑制作用を有する薬剤の攣縮に対する効果も検討され始めている6,21,25,26).ステロイド剤は古くから攣縮に対する有効性が実験的に示唆されてきた4,8,17)が,抗炎症・抗免疫作用を有することからも再評価され3),実験,臨床両面で検討が行われている(Table 1).その投与方法は臨床的には経静脈性投与に限られている3,9,27)が,炎症・免疫反応の展開される部位が主にクモ膜下腔であること10,11,13)などからは,髄腔内投与がより合理的な投与経路と考えられる.われわれはこれまでにmethylprednisoloneの髄腔内投与の有効性を実験的に証明し16),さらに臨床的にはmethylprednisolone溶解液による術中頭蓋内洗浄が症候性攣縮予防効果を有することを報告してきた23).今回,その攣縮予防効果をさらに増強させるため,術中洗浄に加え,同溶液の術後経時的脳槽内注入を103例に施行した.この臨床例をもとに本法の有用性,問題点に関し検討を加えた.

脳腫瘍におけるproliferating cell nuclear antigen(PCNA)発現の解析

著者: 本城康正 ,   土田高宏 ,   藤原敬 ,   長尾省吾

ページ範囲:P.143 - P.148

I.はじめに
 脳腫瘍は頭蓋腔という閉鎖された腔内で発育増殖する新生物であり,腫瘍細胞の増殖能,増殖速度の程度が他臓器の腫瘍以上に患者の予後を大きく左右する重要な因子となる.近年,腫瘍細胞の増殖能を反映する種々の増殖細胞核内抗原に対するモノクローナル抗体が開発され9-11,18),免疫組織学的染色により腫瘍細胞の増殖能の評価が可能となり,病理組織学的所見と併せて脳腫瘍の悪性度や予後の検討に用いられるようになった5,13,15,24,26-28,30.なかでもDNA合成酵素DNA polymeraseδの補助蛋白であるproliferating cell nuclear antigen(PCNA)4,22)の免疫組織学的検索は,パラフィン包埋切片でも可能であるという利点から最近広く行われている1,7,8,12,23,25).しかし,抗PCNA抗体を用いた免疫組織学的染色では個々の陽性細胞の染色強度に差がみられ,測定者による陽性細胞率の値が一定しないという問題点をはらんでいる.また,PCNAは細胞周期のG1後期からS期にかけて特異的に発現する2,6,16,20)と言われているがその詳細については不明である.
 今回われわれは,細胞周期とPCNA発現との関係をC6ラットグリオーマ細胞を用いた同調培養法により検討した.また脳腫瘍におけるPCNAの発現を免疫組織学的染色法及び定量を意図したimmunoblotting法により検索し,その有用性について検討した.

腰椎ヘルニア術後椎間板炎の検討

著者: 今栄信治 ,   五十嵐正至 ,   小山素磨

ページ範囲:P.149 - P.155

I.はじめに
 腰椎椎間板ヘルニア術後の厄介な合併症の一つに椎間板炎があり,非常に強い腰痛を呈することが知られている.以前は症状発現後数週間を経過しないと単純X線撮影で陽性所見を呈さないので,初期の診断は困難とされていたが,近年のMRIの普及により比較的早期に診断することが可能になった.今回,過去16年間に経験した術後椎間板炎の症例について診断から治癒までのMR画像の変化も含めて検討したので報告する.

外側後頭下到達法の手術アプローチに影響を及ぼす後頭蓋窩の形状:骨条件CTによる検討から

著者: 山上岩男 ,   山浦晶 ,   小野純一 ,   中村孝雄

ページ範囲:P.157 - P.163

I.はじめに
 外側後頭下到達法は,小脳橋角部腫瘍をはじめとする多くの疾患に用いることのできる,優れた手術法である.外側後頭下到達法による聴神経腫瘍の手術に関連して,小脳橋角部や内耳道近傍の微小解剖について,詳細な検討が行われてきた1,2,5,8).しかし,外側後頭下到達法の手術アプローチに関連して,後頭蓋窩の形状の重要性について検討した報告はみあたらない.われわれはこれまで,聴神経腫瘍をはじめとする多くの症例に,外側後頭下到達法を用いてきた.その経験から,内後頭稜の発達の程度,側頭骨錐体後面の形状,および錐体後面のなす角度(“petrous angle”)の3つは,それぞれ個体差も大きく,外側後頭下到達法の手術アプローチに影響を及ぼす後頭蓋窩の形態的特徴として,とくに重要であると考え,術前にこれらの形態的特徴をとらえ,手術法の選択や手術手技に工夫を加えてきた.今回,後頭蓋窩の形状をあらわすこれら3つの形態的特徴の重要性を明らかにする目的で,小脳橋角部腫瘍40例における後頭蓋窩の骨条件CT画像を検討し,3つの形態的特徴が,外側後頭下到達法による手術に及ぼす影響と,その対策について考察を行った.

症例

上矢状洞不完全閉塞により頭蓋内圧亢進症状を呈した傍矢状洞髄膜腫の1例

著者: 蘇馬真理子 ,   宗本滋 ,   黒田英一 ,   浜田秀剛 ,   毛利正直

ページ範囲:P.165 - P.168

I.はじめに
 中1/3傍矢状洞髄膜腫は,運動感覚障害,部分てんかんで発症することが多く2),頭蓋内圧亢進で発症することは少ない.また上矢状洞への浸潤は40%に認められるが5),静脈洞内に主に進展しうっ血乳頭で発症する例は稀と考えられる.今回,上矢状洞内に主に進展しうっ血乳頭にて発症した症例を経験したので報告する.

Monoballismを併発した内頸動脈閉塞症の1例

著者: 宇野昌明 ,   上田伸 ,   真鍋進治 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.169 - P.173

I.はじめに
 Ballismは不随意運動の中でも比較的稀な病態とされているが3),臨床診断はその特徴的な不随意運動から比較的容易である6).従来より視床下核の障害で発症するとされ7,8,18),原因としては脳血管障害が多いと報告されている3,9,16).しかし,片側の上肢のみに見られるmonoballismの報告は少なく8),その病態として,内頸動脈閉塞を認めた報告は極めて稀と思われる.今回われわれはmonoballismを併発した対側の内頸動脈閉塞例を経験し,発症早期にMRIで病巣が確認できた症例を報告する.

致死的な腫瘍内出血を来した頭蓋底部chondrosarcomaの1剖検例

著者: 福地正仁 ,   伏見進 ,   米谷元裕 ,   平山章彦 ,   峯浦一喜 ,   古和田正悦 ,   斉藤昌宏

ページ範囲:P.175 - P.180

I.はじめに
 頭蓋内原発のchondrosarcomaは全頭蓋内腫瘍の0.16%のみを占める稀な腫瘍であり,その多くが頭蓋底に発生する3,5).組織像がchordomaと類似して,しばしば鑑別診断が困難である.
 今回,突然の腫瘍内出血で死亡した頭蓋底部chon—drosarcoma例を経験したので,免疫組織学的特徴と腫瘍内出血を中心に若干の文献的考察を加えて報告する.

Neurofibromatosis type 1を合併したdysembryoplastic neuroepithelial tumorの1例

著者: 関貫聖二 ,   坂東一彦 ,   曽我哲郎 ,   松本圭蔵 ,   広瀬隆則

ページ範囲:P.183 - P.188

I.はじめに
 1988年にDaumas-Duportにより提唱されたdys—embryoplastic neuroepithelial tumor(DNT)は,テント上の大脳皮質に発生するmixed neuroglial tumorの一型である.Daumas-Duportらの報告ではDNTとneuro—fibromatosis type 1(NF−1)などの母斑症との合併例はなかったと記載されており1,2),その後DNTの報告例が集積されているが,母斑症を合併したDNTは現在でも見あたらない1-8,11,12).しかしながら両者共に発生学的に胎生期の異常を基盤としており9,10),その合併症はDNTの発生起源を考える上で興味深い.最近われわれはNF−1を合併していたDNTの1例を経験したので報告する.

Currarino triad(直腸肛門奇形,仙骨奇形を伴う仙骨前髄膜瘤)の1例

著者: 三宅茂 ,   上川秀士 ,   児島範明 ,   山元一樹 ,   小林憲夫 ,   山里将仁 ,   東本恭幸 ,   津川力 ,   金川公夫 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.189 - P.193

I.はじめに
 1981年にCurrarinoら2)により報告された直腸肛門奇形,仙骨奇形,仙骨前腫瘤をtriasとする症候群はCur—rarino triadと呼ばれるが,その報告例は未だ少なく稀な疾患と考えられる.今回われわれは,直腸肛門奇形,仙骨奇形を伴う仙骨前髄膜瘤を経験したので症例を提示し,その診断,治療について若干の文献的考察を加えて報告する.

読者からの手紙

Infected subdural hematomaについて

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.195 - P.195

 本誌23巻7号643ページに掲載された論文“慢性硬膜下血腫に生じた硬膜下膿瘍の1例”を,今日の画像時代に報告された非常に珍しいinfected subdural hematomaの臨床例として,大変興味深く拝見しました.私自身30年位前に慢性硬膜下血腫の研究を進めていた頃,僚友の故矢作保治博士がこの報告と似た症例をわが国で初めて学会に発表して注目を浴び,私自身も1例を経験し,以来常に関心を寄せてきたからです.勿論今日のような画像診断法のない時代には症例検討の根拠に限界がありましたが,当時私たちが調べた範囲では,既にこのような症例が外国でinfected subdural hematomaの命名で発表されていました.
 一時我が国の脳神経外科医の関心を呼んだinfected subdural hematomaは,それ以後どういう訳か国内国外共報告症例を見ることがなく(もしかしたら私の見逃しか?),抗生剤療法の進歩にともなって発生しにくくなったのかと思っていましたが,今回の論文を拝見して“やっぱり”と言う感じです.今日慢性硬膜下血腫は人口の高齢化にともなって増加していると思われるので,糖尿病のような感染を起こしやすい余病をもつ人の場合,infected subdural hematomaを発生する機会が増え,早期の鑑別確定診断・治療が必要になってくるのではないかと心配するのは思い過ごしでしょうか?

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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