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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科24巻3号

1996年03月発行

雑誌目次

脳神経外科医の栄光と悲惨—エピローグ・2

著者: 朝倉哲彦

ページ範囲:P.203 - P.204

 1906年Torontoでpituitary tumorの手術を報告.だがこの年U.C.H.のFullSurgeonをretireした.僅か49歳である.29歳の時の華々しいデビュウから20年快進撃を続けてきたSirが何故登り詰めた頂点からにわかに撤退し始めたのか?ご本人は激務のために本当にやりたいことが出来ないからと洩らしていたらしいが一体何があったのだろうか.幾つかの可能性を考えてみることにしよう.
 栄光に包まれたSirが何故悲惨な最期を遂げるに至ったのかを尋ねる前に先ずその壮絶な最後を見届けなくてはならない.

総説

頸椎後縦靱帯骨化症の病態と外科的治療法

著者: 中川洋 ,   水野順一

ページ範囲:P.205 - P.210

I.はじめに
 後縦靱帯骨化症(ossification of the posterior longi—tudinal ligament:OPLL)は,わが国において脊髄症を起す主要な疾患の1つであり,臨床的にも重要な疾患である.本疾患は1960年に月本26)により本邦における剖検報告がなされて以来,諸家の注目を集め数多くの報告がされてきている1,15,23,27).これらの報告はその殆どが日本からのものであったが,欧米における発生例もいくつか散見され2,4),必ずしもわが国のみに特有な疾患というわけではない.
 本疾患は臨床上の明確な位置付けに比べてその病態生理,すなわち後縦靱帯に何如なる機序において骨化が起り,どのような骨化促進因子が存在するのかといった点は未だ不明のままである.この点を含めてOPLLの診断,治療の向上のために1975年より厚生省班会議が発足し,現在に至るまで各分野において活発な研究がなされている.

研究

脳室内腫瘍の循環代謝:とくに糖代謝動態に関連して

著者: 塩屋斉 ,   峯浦一喜 ,   古和田正悦 ,   飯田秀博 ,   村上松太郎 ,   小川敏英 ,   畑澤順 ,   上村和夫

ページ範囲:P.211 - P.219

I.はじめに
 脳室内腫瘍は発生母地が多様であり,脳室壁構成細胞から発生するependymoma,choroid plexus papitloma,meningioma,脳室壁下細胞に由来するcentral neurocy—toma,subependymoma,subependymal giant cell astro—cytoma(SGCA)などが挙げられる.それらの占拠部位や付着部位,石灰化や嚢胞の有無などの形態学的所見はCTおよびMRIで詳細に検討されているが1,2,7,8,14,25,31,32).なかには鑑別因難な例がみられる.
 今回,循環代謝面から鑑別上有益な情報が得られないものかと考え,positron emission tomography(PET)で脳室内腫瘍の循環代謝を測定し18F-fluorodeoxyglu—cose(18FDG)の動態解析から腫瘍の血管透過性と糖代謝率,増殖能について検討したので文献的考察を加えて報告する.

Splenius typeの痙性斜頸に対するBertrand's Selective Denervationの経験

著者: 平孝臣 ,   川島明次 ,   河村弘庸 ,   谷川達也 ,   臼田頼仁 ,   佐々木寿之 ,   高倉公朋

ページ範囲:P.221 - P.226

I.はじめに
 痙性斜頸に対する外科的治療には,定位的視床手術,神経血管減圧術,末梢神経破壊術などがあるが,これらの適応や効果については議論が多い.痙性斜頸の多くは副神経支配の胸鎖乳突筋や僧帽筋だけでなく脊髄神経支配の頭板状筋などの頸筋群の異常を伴っており,胸鎖乳突筋単独の異常は例外的である4,5,10).末梢神経破壊術に関しては,硬膜内操作で上位頸髄神経前根を切断するFoerster-Dandyの手術6,9)がよく知られている.しかし前根を切断した場合,前頸筋群や肩甲挙筋などの脊髄神経外側枝の支配を受ける筋群にも影響が及ぶために,術後の頸部運動障害,腕の挙上障害,嚥下障害などが高率に発生する9,12).また,この手術では横隔神経麻痺を避けるためにC4以下の前根は切断しない.このためC4—C6脊髄神経からも支配を受ける頭板状筋や頭半棘筋などの後頸筋群に対するdenervationが不十分となる.筆者らは板状筋が症状発現にもっとも関与したと考えられる痙性斜頸の症例に対して,C1からC6の脊髄神経後枝を硬膜外で選択的に離断するBertrand's SelectiveDenervation2-4)を行い良好な結果を得たので報告するとともに,この手術の留意点について考察する.

びまん性軸索損傷後遺症における全般性脳室拡大の意義

著者: 益澤秀明 ,   久保俊朗 ,   中村紀夫 ,   真柳佳昭 ,   落合慈之

ページ範囲:P.227 - P.233

I.はじめに
 われわれは,びまん性脳損傷,ことにびまん性軸索損傷,のあと次第に全般性脳室拡大を生じ,その程度はびまん性軸索損傷後遣症の程度に定性的に相関することを指摘した20,22).今回は,脳室拡大を定量的に測定した結果,びまん性軸索損傷後遺症との相関を確認できたので,改めて報告する.

悪性頭蓋底腫瘍に対するガンマナイフ治療の効果について

著者: 田中孝幸 ,   小林達也 ,   木田義久 ,   雄山博文 ,   丹羽政宏

ページ範囲:P.235 - P.239

I.はじめに
 当院では,1991年5月より1995年6月までに950例の患者をガンマナイフ手術により治療してきた.この中,5カ月以上追跡調査できた悪性頭蓋底腫瘍は19例(2.0%)ある.これまでに,悪性頭蓋底腫瘍として,脊索腫に対するradiosurgeryの治療成績1,2,12)や上咽頭癌に対するガンマナイフ手術の症例報告9,11)についての文献は少数あるが,種々の悪性頭蓋底腫瘍に対するガンマナイフ手術の治療成績をまとめた報告はなく,今回その観点より検討を加えることとした.

脳神経外科領域におけるMRSA感染予防:患者環境からの検討

著者: 藤井正美 ,   安原新子 ,   大本芳範 ,   杉山修一 ,   長次良雄 ,   加藤祥一 ,   山下哲男 ,   伊藤治英 ,   尾家重治 ,   神谷晃

ページ範囲:P.241 - P.245

I.はじめに
 MRSA感染症とは,ペニシリナーゼ産生黄色ブドウ球菌用ペニシリンとして開発されたメチシリンに耐性を示す黄色ブドウ球菌methicilln-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)に起因する感染症を称する.本菌はメチシリンのみならず多剤に高度耐性を示すため,事態をさらに深刻なものにしている.MRSA感染症は1960年代に欧米を中心に問題となり2),わが国では1970年代より報告され7),その院内流行は1980年代より急速に増加し,1990年代にはすべての病院で問題となっている12,13,15,16).なかでも脳神経外科領域では意識障害患者を扱う機会が多く,これらの患者の大部分は全身状態が不良で抵抗力が弱くMRSAに容易に感染するという特徴を持っている.また一度感染するとMRSAに対し十分な抗菌力をもつ薬剤がほとんどないため9),意識障害患者は完全治癒するのが大変困難であり,さらに長期間の保菌により,他の患者への感染源となっている.このような場合に,MRSAに対し感染を防止する目的で種種の消毒剤を個々の特性や副作用などを熟知せず不適切に使用することは,殺菌消毒どころか,菌の伝播を広め,MRSA汚染の原因ともなりかねない.そこで今回われわれは,脳神経外科領域におけるMRSA院内感染予防という観点より,MRSAに感染した患者の周辺環境における菌数の測定を行い,どの場所が汚染されやすいかを調査し,さらにMRSAの伝播防止にどのような消毒剤が有効なのかを検討したので,若干の文献的考察を加え報告する.

症例

延髄原発melanocytomaの1例

著者: 竹中信夫 ,   今西智之 ,   近藤新 ,   大沼田あや子 ,   福田純也 ,   柳下三郎

ページ範囲:P.247 - P.252

I.はじめに
 頸蓋内原発melanomaは比較的稀な疾患であり,その多くはmalignant melanomaである13,16).今回,われわれは延髄原発melanocytomaの1例を経験した.頭蓋内原発melanocytomaに関して渉猟した範囲では髄内に局在するmelanocytomaに関してはLimasらの1例を除き過去に報告は見られなかった11,25).また頭蓋内原発melanocytomaに関するMRI所見及び電顕的検索の報告も少ないので若干の考察を加えて報告する.

血管内手術にて処置し得たmycotic ICA petrous portion aneurysmの1例

著者: 川上圭太 ,   嘉山孝正 ,   近藤礼 ,   久連山英明 ,   丸屋淳 ,   中井昴 ,   細矢貴亮 ,   山口昻一

ページ範囲:P.253 - P.257

I.はじめに
 内頸動脈(ICA)錐体部に生じる動脈瘤は比較的稀な疾患であるが,錐体骨内に発生するため治療の困難な疾患の1つである.この部位の動脈瘤に対しては直達手術が行われることもあるが,一般的にはICAの結紮術,トラッピングが行われる.しかし,ICAの結紮術やトラッピング法は患側内頸動脈を遮断することになり,脳虚血の危険性が常につきまとうため理想的な治療法とは言えなかった.
 今回,われわれは大量の耳出血にて発症した細菌性ICA錐体部動脈瘤に対し血管内手術を行い,親動脈の順行性の血流を保ちつつ動脈瘤のみを塞栓し得た1例を経験したので報告する.

Complex partial status epilepticusを呈した前頭葉海綿状血管腫の1例

著者: 江口隆彦 ,   二階堂雄次 ,   浦西龍之介 ,   金永進 ,   別所啓伸 ,   藤本京利

ページ範囲:P.259 - P.262

I.はじめに
 てんかん重積状態は,痙攣性と非痙攣性重積状態に大別される.後者は,CPSE(complex partial status epilep—ticus:nonconvulsive status of focal onset)とASE(ab—sence status epilepticus;nonconvulsive status of gene—ralized onset)に分類されている1-3).CPSEは,遷延する意識障害を主徴とする病態であるがその報告は比較的少なく2,7),特に腫瘍性の器質的病変に伴った報告は,きわめて稀である7).われわれは,経過中にCPSEと考えられる発作重積を呈した前頭葉海綿状血管腫の症例を経験したので報告する.

L1/2椎間板ヘルニアの1手術例

著者: 物部健彦 ,   藤田豊久 ,   中上由美子 ,   西憲幸

ページ範囲:P.263 - P.265

I.はじめに
 L1-2椎間板ヘルニアは,その発生頻度が0.1-0.7%と少なく,生理的・解剖学的にも下位腰椎椎間板ヘルニアとは異なった特徴を有する.今回われわれは,L1/2椎間板ヘルニアに対し,後方進入法によるmicrodiscec—tomy(Love法)を行ったので,治療上の問題点につき若干の文献的考察を加えて報告する.

大脳基底核部に発生したgerminoma with syncytiotrophoblastic giant cells(STGC)の1例

著者: 上田篤志 ,   田村清隆 ,   宮崎宏道 ,   石山直巳

ページ範囲:P.267 - P.271

I.はじめに
 頭蓋内胚細胞腫瘍は松果体,鞍上部に好発し,基底核部に発生することは少ない2,4,6).今回われわれは基底核部に発生したgerminoma with syncytiotrophoblasticgiant cells(以下STGC)の1症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

Interlocking detachable coilを用いて治療したCCFの1例

著者: 瓦葺健太郎 ,   天神博志 ,   中原功策 ,   朝倉文夫 ,   上田聖

ページ範囲:P.273 - P.276

I.はじめに
 外傷性頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid cavernous fistula;CCF)に対する治療は,detachable ballonを用いて動静脈瘻を閉鎖する血管内手術が一般的によく用いられる2-4,8,9).しかしながらdetachable balloonの操作性は完全なものではない.そこで今回われわれはより操作性の優れたInterlocking Detachable Coil(IDC)(Target Therapeutics Inc,CA,USA)を用いて塞栓術を行った.その結果が良好であったので報告する.

側頭頭頂筋に発生した先天性動静脈奇形の1治験例

著者: 西村敏彦 ,   窪田惺

ページ範囲:P.277 - P.280

I.はじめに
 頭蓋外に発生する先天性の動静脈奇形(AVM)の中で,頭皮下でありながら頭部の筋肉内にみられるAVMは頭皮に限局するscalp AVMと異なり,多数の細いfeederが網目状に存在することにより,治療が困難とされている11,17)
 われわれは,側頭頭頂筋に発生した先天性AVMに,浅側頭動脈より分枝したfeederに動脈瘤を合併した1例を手術的に根治させ得たので若干の文献的考察とともに報告する.

視神経減圧術が著効した慢性肥厚性脳硬膜炎の1例

著者: 堀口崇 ,   後藤和宏 ,   吉田一成 ,   戸谷重雄

ページ範囲:P.281 - P.285

I.はじめに
 肥厚性脳硬膜炎(HCP)は,頭蓋底に好発する硬膜の慢性炎症性肥厚を特徴とする疾患であり,多発脳神経障害をはじめ多彩な神経症状を呈することが知られている1-3,5-21,23-25,27).われわれは,視力障害にて発症しステロイドの効果が一過性であったため直達手術を施行し,視力を著明に改善し得た,眼窩内と連続性を持った蝶形骨縁HCPの1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

前頭部hypertrophic cranial pachymeningitisの1例—(11C-methyl)—L-methionine PETによる局在診断

著者: 高橋和孝 ,   笹嶋寿郎 ,   峯浦一喜 ,   伊藤康信 ,   古和田正悦 ,   岩谷光貴 ,   畑澤順 ,   小川敏英 ,   奥寺利夫 ,   村上松太郎 ,   上村和夫

ページ範囲:P.287 - P.293

I.はじめに
 Hypertrophic cranial pachymeningitisは頭蓋底部に好発し,頭痛,脳神経および小脳症状を生ずる比較的まれな疾患である.これまでは臨床診断が困難で,剖検により確定診断3,4,6,14)されることが多かったが,近年,本疾患のCTおよびMRI所見が報告されるようになった12,15,17,26,27)
 最近,(11C-methyl)—L-methionine PET(Met-PET)所見から病変部位が同定されたhypertrophic cranialpachymeningitisの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

報告記

International Congress on Interventional Neuroradiology and Intravascular Neurosurgery

著者: 高橋明

ページ範囲:P.294 - P.295

 International Congress on Interventional Neuroradio—logy and Intravascular Neurosurgeryは1995年11月19日から22日までの4日間国立京都国際会議場で,参加者500名,参加国27カ国の脳神経領域の血管内手術の専門家を一堂に会して開催された.会長は京都大学脳神経外科の滝和郎先生で,同大学菊池晴彦教授が名誉会長であった.本国際会議は第3回WFITNミーティングと第11回日本脳神経血管内手術研究会を兼ねて開かれたものである.WFITNというのはWorld Federation of Interventional and Therapeutic Neuroradiologyの略で,年1回フランスのVat d'Iséreで開催されてきたWorking Group of Interventional Neuroradiologyというclosed meetingが発展して,1990年1月16日にVal d'Iséreで誕生したFederation組織である.
 日本で初のミーティングが開催されたこの機会に,WFITNのこれまでのミーティングを簡単に振り返っておきたい.第1回は1991年10月11日から13日までAnton Valavanis(Zurich),Jacques Moret(Paris)を会長としてチューリッヒで開催された.この会議は12th International Congress of Head and Neck Radiology,17th Congress of the European Society of Neuroradio-logyとの合同会議だった。この会議のプログラムにWFITNの目的が記載されているので引用しておきたい.

「アジア・オセアニア頭蓋底外科学会」印象記

著者: 河瀬斌

ページ範囲:P.296 - P.296

 1995年11月2・3日,ソウルのヒルトンウォーカーヒルホテルで第3回アジア・オセアニア頭蓋底外科国際学会が行われた.会長は国立ソウル大学のKill Soo Choi教授で,Hee-Won Jung準教授を中心に綿密な会の運営が行われた.内容は4つのシンポジウムを中心に28名の招待演者(日本人7名)と共にレベルの高い発表が行われた.日本人の参加者は50名ほどであった.
 ソウル訪問は3年前のアジア・オーストラレシア脳神経外科学会以来であったが,それ以後のソウルの発展拡大は目を見張るほどであった,市街がオリンピック公園を中心として東方に拡大し,郊外にあった会場のウォーカーヒルは町の中に取り込まれ,地下鉄のない市街は東京よりもひどい交通渋滞に見舞われていた.三星,現代などの巨大企業が競って大病院を建設し,大病院指向の市民を吸収しているので個人病院は経営難に陥っているとのことである.日本より厳しい皆保険制度ができて5年,すでにひずみが生じているようである.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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