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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科24巻6号

1996年06月発行

雑誌目次

反省

著者: 貫井英明

ページ範囲:P.499 - P.500

 長い間様々な場所で様々な人達と酒を呑んでいるので,素面の付き合いでは得られないような沢山の思い出が積み重なって心に残っている.
 もちろん楽しい思い出が多いが,強く記憶に残っていて,時にふっと浮かんでくるのは精神的苦痛を伴った苦い思い出の方が多いような気がするがどうしてであろうか.

連載 Functional Mappingの臨床応用—現状と展望・5

視床の機能的マッピング

著者: 大江千廣

ページ範囲:P.501 - P.506

I.はじめに
 マッピングということばを地図作りのように解釈すると,機能的マッピングとは機能でわける地図作りということになる.そしてさらにこれは通常,形態による分化を探るのではなく,生体で機能を知るという暗黙の了解も含んでいる.そこで,視床の機能的マッピングには長い間ほとんど電気生理学的方法のみが行われてきた.特に人間では,道徳的,技術的問題があり,機能的疾患で治療に必要な手段としてのみ,この方法が適用出来るという制約を考慮しなければならない.しかし,最近のコンピューター化画像の発達で,機能的マッピングの様相も変化してきた.PETスキャン,MRI,MEGなどで脳の機能的状態がわかるようになってきたからである.
 そこで,ここでは電気生理学的手法による視床のマッピングについてこれまでの成果をまとめた上で,新しい方法,即ちPETスキャンやMRIによるマッピングについて簡単に述べたい.ただし,現在のところPET,MRIでは視床の機能分化を論じるに足る成果は出ていないというのが正直なところであろう.

総説

超低体温循環停止法を応用した脳動脈瘤の手術

著者: 長尾省吾

ページ範囲:P.507 - P.515

I.はじめに
 顕微鏡下のマイクロサージェリーによって,脳動脈瘤の大部分は安全かつ確実に根治手術ができるようになった.しかし脳深部に存在する巨大血栓化動脈瘤や流入・流出動脈を確保できないもの,瘤処置に際して,血流遮断が長時間におよぶと予想されるような動脈瘤では,通常の手術手技では根治術は困難である.このような脳動脈瘤に対して,超低体温,バルビツレートで脳保護をはかり,循環停止により無血的に手術を行う方法が報告されている.われわれも最近,右後大脳動脈血栓化動脈瘤に本法を応用して良好な結果を得た(Fig.1)33)
 この方法は約35年前に脳神経外科の手術に導入された,決して新しいものではないが,現在の治療成績1,3,54,56,57)を得るまでに多くの紆余曲折があった.本稿では超低体温循環止(Profound Hypothermia and Cir—culatory Arrest,以下PHCA法)の開発の歴史,PHCA法応用の理論的根拠,本法の実際,利点・欠点,現時点における本法に対する考え方,今後の問題などを中心に述べ,明日からの臨床応用を期待したい.

解剖を中心として脳神経手術手技

BA Top Aneurysm

著者: 永田泉 ,   宮本享 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.517 - P.522

I.はじめに
 顕微鏡下手術が普及し,多くの脳動脈瘤は比較的安全に手術がなされるようになった現在においても,脳底動脈分岐部動脈瘤の手術はいまだに困難な手術の一つであろう.脳底動脈瘤の手術において主に使用されるアプローチはpterional approachとsubtemporal approachである.われわれは主に前者で手術を行っているのでここでは主にpterional approachの実際と注意点について述べる.

研究

Cranio-orbital zygomatic extradural approachによる海綿静脈洞部およびMeckel腔腫瘍の摘出

著者: 金城利彦 ,   六川二郎 ,   銘苅晋 ,   古閑比佐志

ページ範囲:P.523 - P.528

I.はじめに
 近年,海綿静脈洞部腫瘍に対する直達手術が行われるようになってきた1,2,7,8,11,13,14,17,23-25).われわれは主にcranio-orbital zygomatic approach(C-O—Z:Al-Mefty)1,2)により海綿静脈洞部腫瘍の手術を行っている.そのうち,術前MRI所見から海綿静脈洞に限局し硬膜内進展がないと判断した腫瘍に対しては10),より侵襲の小さな硬膜外操作のみで腫瘍摘出を試み,海綿静脈洞部腫瘍11例中4例で満足な成績を得た.海綿静脈洞部腫瘍に対する硬膜外アプローチの方法と症例を報告する.

海綿静脈洞髄膜腫のガンマナイフ治療

著者: 木田義久 ,   小林達也 ,   田中孝幸 ,   雄山博文 ,   丹羽政宏 ,   前沢聡

ページ範囲:P.529 - P.533

I.はじめに
 海綿静脈洞に発生する腫瘍群の中には,髄膜腫,三叉神経鞘腫,脊索腫,下垂体腺腫,転移性腫瘍などがあげられる.これらの中で髄膜腫はもっともよくみられる良性腫瘍である.髄膜腫の治療は,本来手術的摘出が基本ではあるが,海綿静脈洞では出血のコントロール,洞内脳神経群の剥離,温存の他,髄膜腫ではしばしば内頸動脈に浸潤し,狭窄を生ずることから,その処理が問題となる.このため十分なmonitoringを用いたmicro—surgeryでもその全摘出は容易ではなく,手術合併症も少くない7,16).また術後の再発も,頭蓋底部髄膜腫に共通する問題である4,14).ガンマナイフあるいはライナックを用いたradiosurgeryはAVMなどの脳血管奇形のみでなく,聴神経腫瘍,髄膜腫などの良性腫瘍に対しても有用とする報告が多い.今回,ガンマナイフによる海綿静脈洞髄膜腫の治病成績を報告し,腫瘍の発育コントロール,治療後の神経症状の推移について検討した.

人工骨スペーサーを使用した頸椎前方固定術後長期経過例におけるX線学的変化の検討

著者: 今栄信治 ,   半田寛 ,   小山素麿

ページ範囲:P.535 - P.540

I.はじめに
 頸椎前方固定術の問題点に固定部隣接椎間の変化と採骨部痛などが上げられる.採骨部痛に対して移植骨を使わないwithout fusion法10,15)が注目されているが,術野が狭く手術手技上相当な熟練が必要とされる.また近年,自己椎体より採取したものをそのまま加工して挿入する方法4)も報告されているが,これも手技が煩雑で,採取骨自体の耐久性に問題がある.これらに対してわれわれは人工骨スペーサーを用いた1椎間の前方固定術(anterior fusion with apaserum;AAF)を過去10年間にわたり施行してきた.
 今回,AAFの手術方法,手術合併症およびAAF後長期経過例のX線上の変化を隣接椎間を中心に検討しえたので併せて報告する.

くも膜下出血後に見られる赤血球凝集能の経時的変化について

著者: 森健太郎 ,   張嘉仁 ,   須田喜久夫 ,   田島厚志 ,   前田稔

ページ範囲:P.541 - P.548

I.はじめに
 従来,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血(SAH)後に発生する症候性脳血管攣縮(spasm)の発生機序として,血管収縮物質を中心とした血管因子の他,血小板凝集能や血液凝固機能を中心とした血管内因子の関与等,多角的な検討がなされてきた9,13,24).われわれも,血管内因子の1つである赤血球凝集能に注目し,くも膜下出血後に次第に赤血球凝集能(red blood cell aggregation)が亢進する事実について報告してきた18,20)
 今回,われわれは,くも膜下出血後の赤血球凝集能の変化を経時的に測定すると共に,赤血球凝集能に影響を及ぼす血清蛋白因子の経時的測定を同時に行うことによって,くも膜下出血後に認められる赤血球凝集能の亢進の機序について検討した.さらに,症候性脳血管攣縮を生じた患者には,hypervolemic hemodilution therapyを施行することにより,この療法が赤血球凝集能や血清蛋白因子に及ぼす影響についても検討を加えたので報告する.

症例

新生児期に硬膜下血腫で発症し17年後に確認されたoccult AVMの1例

著者: 夫敬憲 ,   中川義信 ,   城福直人 ,   松浦秀雄 ,   福田邦明 ,   遠藤彰一 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.551 - P.555

I.はじめに
 成熟新生児における頭蓋内出血の原因としては出産時外傷が大部分を占めている6,12).今回われわれは新生児期に硬膜下血腫の既往を持ち,難治性てんかん患者との診断で手術を行い,病理学的にAVMの存在を認めたきわめて稀な症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

出血にて発症した悪性線維性組織球腫の1例

著者: 松崎和仁 ,   藤本尚己 ,   神山悠男 ,   熊谷久治郎 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.557 - P.562

I.はじめに
 悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma以下MFHと略す)は,WHOの定義では一部,多形性を示す異型組織球と線維芽様細胞からなり,storiformpatternをとる悪性腫瘍とされる.軟部組織に発生する悪性新生物の10.5-21.6%を占めるとされ,主に四肢,後腹膜に好発する3,22).しかし,頭蓋内に原発した例は文献上散見するのみで,極めて稀である.今回,われわれは腫瘍出血により発症した頭蓋内原発と思われたMFHの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

巨大頭蓋底神経線維腫の1例

著者: 松山武 ,   下村隆英 ,   川田和弘 ,   大西英之

ページ範囲:P.563 - P.566

I.はじめに
 近年,頭蓋底外科の進歩により,広範な頭蓋底腫瘍の摘出術が可能になった.今回,われわれは,非常に稀な巨大頭蓋底神経線維腫に対して手術治療を行い,良好な結果を得たので,文献的考察を加えて報告する.

大脳鎌髄膜腫摘出約4年半後に完全対麻痺をきたした胸髄髄膜腫の1例

著者: 須賀俊博 ,   永山徹 ,   村上栄一 ,   吉岡邦浩 ,   佐野光彦 ,   後藤英雄

ページ範囲:P.567 - P.572

I.はじめに
 頭蓋内での多発性髄膜腫の頻度は,諸家により1—9%と報告されており,また,autopsyによれば,16%にも達するとされている5).これに対し,頭蓋内髄膜腫と脊髄髄膜腫の合併例は,極めて稀である.文献的にも15例の報告を見るにすぎない1-5,7,10,14,16,19-21,23)
 今回われわれは,右前頭葉大脳鎌髄膜腫摘出から4年半後に胸髄髄膜腫による完全対麻痺をきたした高齢者例を経験した.幸い,胸髄髄膜腫摘出により,独歩可能なまでに回復した.このような頭蓋内および脊髄髄膜腫の合併例の特徴および重症脊髄障害の予後判定に関して,文献的考察を含め,報告する.

くも膜下出血と診断された両側性慢性硬膜下血腫の2症例

著者: 徳野達也 ,   佐藤慎一 ,   河上靖登 ,   山本豊城

ページ範囲:P.573 - P.576

I.はじめに
 慢性硬膜下血腫は脳神経外科医が日常的に遭遇する疾患であり,多くの場合診断はCT scanにより一目瞭然である.しかしながら,血腫が脳実質とiso densityを示し脳表との境界が不明瞭なケースがしばしば存在する.今回提示するのは両側性の慢性硬膜下血腫の2症例であるが,いずれも初診時のCTでは診断し得ず,髄液がxanthochromiaを呈したためくも膜下出血が疑われた.慢性硬膜下血腫診断におけるpit-fallを紹介する.

歴史探訪

スクリバ先生が精神鑑定をされた話—Julius Karl Scriba(1848.6.5-1905.1.3)

著者: 朝倉哲彦

ページ範囲:P.578 - P.580

 わが国で最初に行われた脳手術は明治25年(1892)スクリバ先生による陥凹骨折の例であるとされている.わが国で初めてということは華佗(xwaday)以来脳手術の行われていないアジアでも初めてということになる,尤もこの前に頭部の創傷を外科的に処置した例が無いわけではない.まず,ウィリアム・ウイリスが明治元年戌辰の役(1868)において多数の戦傷者を診療しているし,明治10年西南の役(1877)では軍医監として大阪臨時陸軍病院長となった佐藤進が多数の戦傷者を熱心に診療し,石黒忠悳らと穿顱術をも行っている.これはあたかもHorsleyが1886年に行った歴史的脳手術3例が近代脳外科の始まりとされるのに対し,これに先立つMacewenの1876年の脳膿瘍手術,Godleeの1884年のグリオーマの手術があるようなものである.
 しかし手術が計画的に行われ成功したばかりではなくその後に充分な神経学的考察を加えて報告したスクリバの手術を神経外科の嚆矢としたほうがよいだろう.

熱戦記

脳神経外科全国野球大会観戦記—10年の総括

著者: 太田富雄 ,   香月脩二

ページ範囲:P.582 - P.584

 昭和61年(1986年),当時南海ホークスの大阪球場で,第45回日本脳神経外科学会竹内一夫会長の始球式で始まった「第一回日本脳神経外科全国野球大会」以来,昨年の大会で10回を数える.毎年,夏の高校野球が終わる頃,野球好きの脳神経外科医が大阪に集まるこの大会は,まさに“脳神経外科医の甲子園”ともいえる夏の恒例行事となった.
 その後,経済界のリストラに伴う南海ホークスの身売り,大阪球場の住宅展示場への転換により,6回目以降は,これも阪急ブレーブスという主を失ったが,あのイチローのいるオリックスが公式戦を行う西宮スタジアムで熱戦が繰り広げられている.大会は8月末の二日間,全国7地区から予戦を勝ち抜いてきた7チームの間で争われる.なお,大阪医科大学“ビオボンズ”は,一回戦不戦勝チームの練習パートナーとして参加させていただいている.

読者からの手紙

「定位脳手術におけるtwist drillの有用性について」/「青木信彦氏のLetter」に対して

著者: 青木信彦 ,   松本健五

ページ範囲:P.586 - P.587

 最近,貴誌に掲載された松本先生たちの論文『定位脳手術におけるtwist drillの有用性』(脳外23:1093—1097,1995)を興味深く拝読致しました.著者らの強調するtwist-drill techniqueの簡便性と安全性につきましては,小生も賛成でございます.たしかにtwist-drillは本邦では,blindの操作との理由で,あまり普及していなかったようではありますが,著者等の考察における『われわれが渉猟し得た範囲では本邦で唯一の報告は北見等の報告』との表現は不適切であります.小生も,英文ではありますが,少なからずtwist-drill(tappingと表現していますが,同じtechniqueです)について発表しており1-5),国内での学会でも公表してまいりました.また,他の著者による邦文のpaper7)もみられます.そのほか学会発表6)も散見されます.そして本邦における某医療器械会社で発売のtwist-drillの針についての問い合わせもまれではないと聞いています.つまり,本邦でのtwist-drill techniqueについての発表やその実施は著者の述べているほど少なくはないといえます.
 そしてless invasive surgeryを目指す最近の傾向を考慮いたしますと,今後はよりpopularizeされるものと思われます.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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