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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科24巻7号

1996年07月発行

雑誌目次

脳神経外科とニューロサイエンスの狭間で

著者: 山田和雄

ページ範囲:P.595 - P.596

 ニューロサイエンスの時代なのだそうである.米国ではDecade of the brainの宣言以来ニューロサイエンスを志す基礎研究者が爆発的に増加し,米国神経科学会は2万人以上もの参加者がある学会となっている.またニューロサイエンス関係の雑誌はいずれもインパクトファクターが高く,なかでもNeuron(17.3),J Neurosci(8.0),Ann Neurol(7.0),J Cereb Blood Flow Metab(5.2)などが高い数値を維持している.さらにNature(22.3)やScience(21.1)などにも毎号必ず数編のニューロサイエンス関連の論文が掲載される(数値はいずれも1993年版による).
 わが国ではここまではいかないものの,若い研究者の間でニューロサイエンスに興味を持つものが増え,代表的な学会である神経科学会,神経化学会ともM.D.,Ph.D.の区別なく活発な討論が行われている.また医学部の学生の中にも将来ニューロサイエンスをやりたいという者が確実に増加している.彼らの話をよく聞くと「せっかく医学部に来たのだから臨床医にはなりたい,しかし臨床医として働く傍,ニューロサイエンス,とくに分子生物学的手法を駆使した研究をやりたい」という学生は確実に増えている.それだけニューロサイエンスが学生を引きつける魅力的な研究分野になっているのであろう.問題はこのような学生の希望に脳神経外科学教室が答えられるかということである.

連載 Functional Mappingの臨床応用—現状と展望・6

機能負荷SPECTとMRI重ね合わせによる脳神経外科術前患者のfunctional mapping

著者: 大槻秀夫 ,   中谷進 ,   橋川一雄 ,   早川徹

ページ範囲:P.598 - P.603

I.はじめに
 手指運動や光刺激など機能負荷により賦活された脳局所の血流増加現象は詳しく研究されており1,2),高次機能も含めたさまざまな負荷による脳のfunctional map—pingがPETで得られている.また臨床にも応用され,eloquent cortex近傍病変に対する術前の機能局在同定に利用されている3,4).この原理はSPECTにも応用され多くの研究報告があり,われわれの施設でも中心溝同定法,機能局在同定法として臨床経験を報告してきた5,6).SPECT装置は全国で1000台以上普及しており,SPECTを用いたfunctional mappingは多くの施設で実施できる検査法といえる.しかし,臨床応用にあたってはさまざまな問題点があり,SPECTをよく理解して用いる必要がある.
 機能負荷による局所脳血流の変化はあまり大きなものではない.血流増加率の高い運動負荷や閃光刺激のような大脳一次領域の機能負荷でも20-30%しか脳血流は増加せず,また,二次領域や高次領域(記憶,計算,言語)の血流増加率となると数%程度と低いので,感度の高いSPECT装置と測定方法を用いる必要がある.血液脳関門が破綻した病変部は薬力学的に均一ではなく,脳血流トレーサーの分布が局所脳血流に比例していない可能性もある.また市販の脳血流トレーサーも固有の性質を持っており,違いをよく理解しておく必要がある.このようにSPECTを用いたfunctional mappingを臨床応用するには,脳血流トレーサーの薬力学的動態とSPECT装置の性能を考慮に入れた,脳血流の変化をよく反映する測定法が必要である.SPECTの空間分解能は機能局在の同定には不十分なので,MRIやCTなど脳解剖画像を参照する必要がある.本稿ではSPECTを用いたfunctional mappingの特徴を以上に述べた基礎的事項より解説し,最後に症例を提示する.

研究

外科的治療を行った小児脊椎管内腫瘍例の臨床的検討

著者: 高橋功 ,   岩崎喜信 ,   小柳泉 ,   飛騨一利 ,   阿部弘

ページ範囲:P.605 - P.611

I.はじめに
 小児脊椎管内腫瘍は比較的まれな疾患であり4,7,8,16),臨床症状も成人と異なることも多く,特に,乳幼児では言葉による症状の訴えが少ないために診断に苦慮する場合がある8)
 また,小児期は脊髄・脊椎を含め身体は発達段階にあり,治療方針を決定するにあたって十分注意を必要とする8)

前頭蓋底部悪性腫瘍に対する手術—Combined transbasal & transfacial approach

著者: 川上勝弘 ,   吉村晋一 ,   松本昊一 ,   河本圭司 ,   辻裕之 ,   久徳茂雄

ページ範囲:P.613 - P.620

I.はじめに
 頭蓋底外科手術は近年,脳外科医にとって限られた施設でなされるものではなくなり,前頭蓋底部や海綿静脈洞部などの領域においてさまざまな手術経験が報告されるようになっている1,5,16).このうち,前頭蓋底の領域では,種々の良性や悪性腫瘍に対して積極的に手術がなされており,特に良性腫瘍の手術術式はすでに確立されていると考えられる3,4,13,15,18,19)
 しかしながら,前頭蓋底部の悪性腫瘍においては,良性腫瘍と異なり一塊とした摘出手術が必要であることから脳神経外科にはなじみが薄く,耳鼻科などとのチームによる手術が必要とされている.このため,脳神経外科領域からの手術成績はほとんど報告されておらず9),手術術式に対しての検討も充分ではないのが現状である.

後頭蓋窩の急性硬膜外血腫:小児10例と成人20例の比較検討

著者: 須山嘉雄 ,   梶川博 ,   山村邦夫 ,   住岡真也 ,   梶川咸子

ページ範囲:P.621 - P.624

I.はじめに
 当施設における30例の後頭蓋窩急性硬膜外血腫について,小児例と成人例とに分けて比較検討したところ,若干の相違点を認めたので文献的考察を加えて報告する.

破裂前交通動脈瘤直達手術(大脳半球間裂法)による嗅覚障害の検討

著者: 伊藤誠康 ,   藤本俊一 ,   斎藤和子 ,   多田博史 ,   田中輝彦

ページ範囲:P.625 - P.628

I.はじめに
 前交通動脈瘤に対する直接手術法としては,Yasar—gil9)(1969)のfrontobasal lateral approachとLougheed4)(1969)のinterhemispheric approach(IH)が基本的な方法であり,各施設でそれぞれの工夫が行われている.われわれの施設では,1969-94年にかけて総数450例の前交通動脈瘤直達手術が行われ,うち434例(96.4%)がIHの症例であった.1979年までは主として,Pool5)(1961)の原法を鈴木3)が工夫開発したbifrontal cranio—tomy,subfrontal and interhemispheric approach(SIH)にて行い,一方1980年からは,現在われわれが行っている,いわゆるposterior interhemispheric approach(PIH)を用いてきた.一般に,IHは習熟を要する比較的困難な手術手技とされており,伴い易い後遺症の1つとして嗅覚障害があげられる.われわれは,SIH及びPIHによる前交通動脈瘤手術症例において,術後anos—mia発生の原因と発生率を検討したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

硬膜動静脈瘻の消失に伴い静脈洞が再開通した静脈洞閉塞の1例

著者: 森大志 ,   後藤博美 ,   笹沼仁一 ,   後藤恒夫 ,   小鹿山博之 ,   小泉仁一 ,   浅利潤 ,   佐藤昌弘 ,   小林亨 ,   菊地顕次 ,   渡辺一夫 ,   古和田正悦

ページ範囲:P.631 - P.636

I.はじめに
 硬膜動静脈瘻(以下D-AVF)の成因,病態についてはいまだ不明な点が多い.とりわけ後頭蓋窩D-AVFでは,しばしば静脈洞の閉塞性病変を合併しており,その因果関係が論議されている3,5,7,9,18,20,21)
 最近,静脈洞閉塞を伴った後頭蓋窩D-AVFの1例を経験し,経時的脳血管撮影で,D-AVFの消失にともない,静脈洞の再開通が確認された.後頭蓋窩D-AVFの成因について示唆に富む症例と考えられたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

遠位部脳底動脈開窓部動脈瘤の1例

著者: 今泉俊雄 ,   斎藤孝次 ,   小林孝 ,   坂本靖雄 ,   古明地隆宏

ページ範囲:P.639 - P.642

I.はじめに
 脳血管撮影上0.23-0.6%に脳底動脈の窓形成がみられるが10,17),椎骨—脳底動脈移行部が脳底動脈窓形成全体の73%を占める19).また椎骨—脳底動脈移行部動脈瘤に窓形成が合併することは35.5%もあり4),動脈瘤形成と窓形成との関連性が考えられている3-5,19,20).だが脳底動脈遠位部の窓形成は脳底動脈窓形成全体の9%を占めるに過ぎず19),まして嚢状動脈瘤を伴った窓形成は極めて稀であり,現在のところ本例を含めて3例の報告しかない1,5)
 脳底動脈遠位部の窓形成に動脈瘤を伴った稀な症例とその手術方法につき検討を加え報告する.

中頭蓋窩から側頭下窩に進展した髄膜腫の1例:翼状突起基部へのinfratemporal approach

著者: 中口博 ,   鈴木一郎 ,   谷口真 ,   桐野高明 ,   市村恵一 ,   丹生健一 ,   山田敦 ,   梶川明義

ページ範囲:P.643 - P.648

I.はじめに
 蝶形骨洞の発達には個人差があり,気胞化が亢じると,翼突板基部から更には翼状突起内部にまで進展することがある2,4,9-12,14).この蝶形骨洞の翼状突起内部への進展部はpterygoid(or inferolateral)extension of the sphenoid sinusと呼ばれる10)
 今回われわれは中頭蓋窩原発の髄膜腫が側頭下窩及び上記のpterygoid extension of the sphenoid sinusへ進展していた症例を経験した.中頭蓋窩から側頭下窩に進展した腫瘍性病変に対しては,側頭下窩を大きく開放する種々のアプローチが考案されている1,6-9,13,15-18).通常であれば腫瘍が翼突板基部〜翼状突起へ浸潤している場合,三叉神経第2枝,翼口蓋神経節,翼突管神経(Vidian nerve)等の障害を恐れ,なかなか機能温存を図りながらの腫瘍全摘出に踏み切れないが,このような空隙が存在し,翼状突起の範囲が内面より境界されている症例では,この空隙を利用して腫瘍摘出を試みる余地が生まれる.症例を呈示し,pterygoid extension of the sphenoid sinusへの外科的アプローチ法について検討した.

外傷性眼窩内conjunctival cystの1治験例

著者: 宮城敦 ,   前田浩治 ,   菅原武仁

ページ範囲:P.649 - P.653

I.はじめに
 眼窩内conjunctival cystは比較的稀な疾患であり,眼窩内epidermoid,dermoid cystの10%程の発生率と報告されている5).その発生要因については胎生期にあるいは後天的に,結膜組織が眼窩内へ迷入し発生するとされているが,今回われわれが経験した症例は,幼児期に穿通性眼窩外傷を受け,その後長期間を経て,眼窩上壁骨折を境に,前頭葉底面にporencephalic cystを,眼窩内にconjunctival cystを合併した興味ある症例であった.眼窩内conjunctival cystの発生要因及びその治療方針につき文献的考察を含めて報告する.

長期透析患者に発生した頸椎後縦靱帯肥厚症による脊髄症

著者: 水野順一 ,   中川洋 ,   橋詰良夫

ページ範囲:P.655 - P.659

I.はじめに
 脊髄症を起こす重要な疾患の1つとして頸椎後縦靱帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal liga—ment:OPLL)はよく知られているが1,2,6,14,17),後縦靱帯肥厚症(hypertrophy of the posterior longitudinal ligament:HPLL)に関してはその病因論を含めて解明されていない点が多い12,15,26)
 われわれは長期透析患者に発生したアミロイド沈着を伴ったHPLLによる脊髄症に対し,前方到達法による脊髄の減圧を行った後,頸椎を用いた自家骨による固定を行い,良好な結果を得られた1症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

内耳道内伸展を示さず小脳橋角部脳槽内に限局した聴神経鞘腫の1例:“脳槽内”聴神経鞘腫

著者: 山上岩男 ,   岡信男 ,   山浦晶

ページ範囲:P.661 - P.664

I.はじめに
 聴神経鞘腫は一般に,内耳孔より外側の内耳道内に存在する前庭神経のglial-Schwann cell junction付近から発生するため6),その初期から内耳道の変化を示し,耳鳴や聴力低下をきたすことが特徴とされている5).一方,内耳道の変化を示さない聴神経鞘腫が存在することも古くから知られており4),聴神経鞘腫はまれに内耳孔よりも脳幹側の前庭神経から発生することがあると考えられている2).しかし,術前検査にて内耳道の変化を認めなかった症例も,手術所見では腫瘍の一部は内耳道内に伸展していたと報告されており1,4),腫瘍がまったく内耳道内に伸展せず,小脳橋角部脳槽内に限局していることが,手術により確認された聴神経鞘腫の報告は認められない.われわれは腫瘍が大きいにもかかわらず,腫瘍の内耳道内伸展をまったく認めず,小脳橋角部脳槽内に限局した聴神経鞘腫(以下“脳槽内”聴神経鞘腫と呼ぶ)の1例を経験した.この症例は一般的な聴神経鞘腫とは異なった臨床的特徴を示していたことから,“脳槽内”聴神経鞘腫の症候学的特徴や治療上の問題点などについて考察を加え報告する.

急性特発性硬膜下血腫10例の検討

著者: 八木隆 ,   鈴木俊久 ,   永田安徳 ,   成瀬裕恒 ,   中川修

ページ範囲:P.665 - P.669

I.はじめに
 急性硬膜下血腫は,主に重症頭部外傷に際して架橋静脈や脳挫傷を生じた部位からの出血により生ずると考えられる.しかし,破裂脳動脈瘤,慢性硬膜下血腫の急性増悪,慢性硬膜下血腫に合併した皮質動脈瘤の破裂,脳動静脈奇形の破裂,軽度の外傷により発生したと考えられる仮性脳動脈瘤の硬膜下への破裂なども,急性硬膜下血腫を形成する原因と言われている1,4,6,9,13,16-18).最近,高齢化に伴い,明らかな頭部外傷が無く,また,出血源となる基礎疾患がなく発症する急性硬膜下血腫症例が増加してきている2,3,5,7,8,10-12,14,15,19-23).このような疾患を,急性特発性硬膜下血腫と呼んでいる.また,重症頭部外傷などの既往があっても,その後日常生活において何等,支障無く生活をおくる患者が増加しており,このことも,頭部外傷の既往のない急性特発性硬膜下血腫発症増加の一因と考えられている19),今回われわれは,15年間で経験した全ての急性硬膜下血腫症例と,その内で急性特発性硬膜下血腫と考えられた症例について検討を加え,急性特発性硬膜下血腫は,それほど稀な疲患ではないと思われたので報告する.

Jefferson骨折を伴った環軸椎回旋位固定の1例

著者: 栗本昌紀 ,   遠藤俊郎 ,   池田修二 ,   増田良一 ,   高久晃 ,   堀江幸男

ページ範囲:P.671 - P.674

I.はじめに
 環軸椎脱臼は,ほとんどが前方脱臼であり回旋性の脱臼はまれである2,6,8).われわれは,環椎破裂骨折(Jef—ferson's fracture)を伴った環軸椎回旋位固定(at—lanto-axial rotatory fixation)の成人例を経験したので,診断および治療上の問題点に関して考察を加えて報告する.

Dumbbell type cervical neurinomaに対する後方到達法の工夫:椎間関節を温存した部分的片側椎弓切除法

著者: 上出廷治 ,   黒川泰任 ,   鰐渕昌彦 ,   朴浩哲 ,   大滝雅文 ,   端和夫

ページ範囲:P.675 - P.679

I.はじめに
 頸椎のdumbbell型神経鞘腫に対する手術療法は,1960年Cloward2)が前方到達法による手術を報告して以来,後方到達法,側方到達法,さらには前方後方同時到達法などが試みられているが,画一的なものはない.報告の多くが腫瘍の進展方向の違いによる手術法選定に注目しており,術後高率に見られる頸椎の不安定性や彎曲変形に註及しているものは少ない.今回われわれはC2,C3レベルの硬膜内外を占拠し,拡大したC2/C3椎間孔から傍椎体部に進展したdumbbell型神経鞘腫を,術後の頸椎安定性保持を目的に,椎間関節,棘突起を温存し,C2,C3の部分的片側椎弓および横突起削除で摘出しえたので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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