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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科24巻8号

1996年08月発行

雑誌目次

私の脳神経外科のルーツを訪ねて

著者: 千ケ崎裕夫

ページ範囲:P.687 - P.689

 今回防衛庁からの要請でヨーロッパの軍医の卒後教育を視察してくるよう命ぜられ,ロンドンの郊外のRAMCのOfficer Recruiting Centerとミュンヘンの保健衛生大学を訪れることになった.多少の日程の余裕があるので,ロンドン滞在中に一日オックスフォードを訪れ,以前留学したことのあるRadcliffe Infirmaryに寄ってみることにした.
 イギリスの2月はいつものことながら,暗雲がたちこめ鬱陶しい空模様で時に冷雨が降り,寒々しい毎日であった.オックスフォードは私がBritish Councilの奨学金を得て1965-1967年の2年間の滞在と,その後1969年一寸立ち寄って以来ほぼ30年ぶりの訪問であった.ロンドンのPaddingtonの駅から1時間半ばかりの汽車旅行で,オックスフォードに近付きはるかにオックスフォードの町並みが見え隠れしてくると,30年前の様々な記憶が一度に甦ってきた.オックスフォードの駅は待合い室,カフェ,売店などの装いを新たにして近代的な駅に模様替えしていた.駅から町の中心まで歩いて20分くらいの道のりで,その途中にアメリカ式のモダーンな大きなアーケード付きのショッピングセンターが開設されていたのには一寸驚かされたが,町に入るとTower,林立するCollegeの建物群,Church,古い商店街のすべてが30年前にある私の記憶そのままの姿に残っており,冬にも拘わらずバスで運ばれてきたロンドンからの観光客らの殆どが日本人で町は賑っていた.町の中心から北に200m位歩いていくとRadcliffe Infirmaryがある.ギリシャの神像に降り注ぐ池の噴水のある小さな前庭の周囲には多分200年以上も経ったと思われる旧い煉瓦作りの4階建ての建物や,病院専門の教会が並んでいる.中に入ってみると,新しく中央手術場や病棟が増設されていて神経外科の手術室もそこに移っており,昔懐かしい旧手術場はカンファレンスル,ムに,神経系の雑誌が並べられていたCairns Libraryは広く一般用の図書館に衣更えしていた.しかし,神経外科のスタッフのofficeは昔のままで,奥まった一室には装いも全く昔のまま同じ机,同じ椅子に私の恩師であったMr.Pennybacker先生の代わりにMr.Adams先生が座っておられた.オックスフォードはCushingの直弟子であったSir Hugh Cairnsがロンドンから移ってきて開設された,イギリスの中でも最も伝統のあるクリニークの一つである.奥に通じる廊下の両壁には,このクリニ,クで勉強した先生方の写真が飾られてある.古くはスイスのKrayenbUhl,スペインのObrador,ロンドンのGuy HospitalのFalconer’グラスゴーのJanett,NIHのOmayaなど鐸々たる人々の顔が並んでいる.日本からは自治医大の佐藤教授,岩佐教授,慈恵会医大の阿部教授,滋賀医大の中州庸子先生の若々しい頃の写真が見られた.

連載 Functional Mappingの臨床応用—現状と展望・7

MEGによる高次脳機能検査

著者: 三國信啓 ,   長峯隆 ,   柴崎浩

ページ範囲:P.691 - P.700

I.はじめに
 脳磁図あるいは磁気脳波magnetoencephalography(MEG)は脳内に発生する磁界を頭皮上から測定する検査法で,興奮性シナプス後電位により大脳皮質錐体細胞尖頂樹状突起内に生じる細胞内電流がその磁界の主な発生源である.このため,MEGは脳波と同等の時間分解能を有しつつ,さらに頭蓋骨,脳脊髄液,硬膜などの伝導率の違いによっても歪まない磁場の特性より,高度な空間分解能をも有する.1960年以来の約30年間は基礎的研究の時代であったが,ここ数年,機械や処理理論の改良もあって,てんかんをはじめとする臨床応用が盛んに行われてきている.
 脳の高次機能は,電気生理学的には主に大脳皮質誘発電位の長潜時成分に反映されている.このために施行毎の変動や,ほぼ同時に並列的に活動している複数の部位の解析等の問題を含んでいるが,MEGの非侵襲性と優れた時間および空間分解能から高次脳機能研究に対しての期待は大きく,ここ数年盛んに試みられるようになってきている.ここでは高次脳機能を精神活動の種類により分類し,各種誘発磁場による最近の研究を紹介する.

総説

脳腫瘍とコロニー刺激因子

著者: 栗栖薫

ページ範囲:P.701 - P.708

I.はじめに
 私達の生体内の情報ネットワークは神経系,内分泌系,免疫系より成り立っていることは広く知られているところである.そのmediatorはそれぞれ神経伝達物質であり,ホルモンであり,サイトカイン・免疫担当細胞・抗体である.これらが精巧に反応しあって生体を維持している.中でもサイトカインは生体内の殆どの臓器において産生され,局所においても全身においても多くの作用を有している.現在ではpsycho-neuro-endocri—no-immuno-modulationという概念が提唱され,hypo—thalamo-hypophyso-adrenal axisにおけるIL−1の作用はまさにその代表である.
 一方,炎症部位には白血球が集簇し,局所並びに周囲環境の認識,異物排除,炎症の鎮静,組織修復等を司っている.腫瘍も自己の中に生じた非自己の増殖を呈する特殊な炎症と捉えてよく,事実腫瘍周囲,内部には多くの白血球が集簇している.脳腫瘍も例外ではなく白血球の多寡はあれ,集簇している.コロニー刺激因子(col—ony stimulating factor,CSF)は本来骨髄においてそれぞれの血球幹細胞から分化,増殖していく過程を促進する物質として認識されていたが,近年中枢神経系内においても分子生物学的研究の手法によりCSFの関与が検討されるに至った.まだ研究の歴史が浅く範囲も限定されてくるが,本稿では中枢神経系,なかでも脳腫瘍とコロニー刺激因子について教室の仕事も含めまとめてみたい.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Syringomyeliaの手術

著者: 岩崎喜信 ,   阿部弘

ページ範囲:P.709 - P.716

I.はじめに
 脊髄空洞症は古くから知られている疾患群でありながら11,18),その原因ないしは病態像の研究が本格的になされ始めたのは比較的最近のことである.実際,発生機序に関して理論的な説を唱えたのはGardner6-8)が最初であると言っても過言ではない.
 その後,様々な説が提唱されて今日に至っているが,現在なお,一つの説で空洞症の全てを完全に説明し得るまでには至っていない.その訳は,空洞症という疾患名は何らかの原因で脊髄実質内に髄液そのものあるいは髄液成分にほぼ等しい液体が貯溜し,脊髄実質(主に灰白質)を破壊し拡大伸展してゆく状態の総称であり,原因と考えられるもともとの疾患あるいは合併疾患がさまざま存在するため,病態像が複雑でその臨床的検討,分析が困難なことによる.

研究

虚血性脳血管障害の超急性期診断におけるFID-CTの有用性:パラメータパターンと血行動態との関連性について

著者: 松島直子 ,   大沢道彦 ,   大日方千春

ページ範囲:P.719 - P.722

I.はじめに
 脳虚血巣の病態把握として今日PETやSPECTによる有用性が確立されてきているが,それらは一部の施設にしか備わっておらず,また,緊急時に十分対応できるか疑問である.そこで迅速かつ簡便な血行動態の把握にfunctional image of dynamic computed tomography(FID-CT)のパラメータのパターンが役立つのではないかと考え,血管撮影所見とFID-CTのパラメータのパターンとを比較したので報告する.
 FID-CTとは,dynamic CTで得られた個々のpixelの時間濃度曲線を各パラメータごとに画像処理し,ディスプレイ上に白黒16階調で表現したものである(Fig.1).近年のソフトの進歩により画像処理に要する時間も数分以内となり,発症間もない症例に対する検査として臨床応用しやすくなった.

外傷性くも膜下出血がdiffuse brain injuryの病態に与える影響:破裂脳動脈瘤によるSAHとの比較検討

著者: 福田忠治 ,   御子柴雅彦 ,   福島力 ,   西達郎 ,   中島智 ,   蓮江正道 ,   池田一美 ,   仙石祐一 ,   伊東洋

ページ範囲:P.723 - P.731

I.緒言
 近年,機器の進歩により頭蓋内環境の持続的moni—toringが可能となって,頭部外傷急性期一亜急性期の脳循環・代謝障害の解明が進んでいる.transcranial Dop—pler(TDC)を用いた最近の研究によれば3,19)外傷性くも膜下出血(TSAH)には従来脳血管撮影で診断されていた7,27)より高率にvasospasm(VS)が合併し,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血(ASAH)の場合と同様に転帰へ悪影響を与えていると報告されている.しかしながら著者らはび漫性脳損傷(DBI)に合併したTSAHとASAHの急性期から慢性期に至る各種検査所見を検討した結果,両者の病態や転帰に与える影響には明らかな相違があるとの見解を得た.以下にこれらについて詳述し,TSAHがDBIの臨床経過に与える影響を考察した.

破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血症例の治療成績:転帰に影響を与えた病態因子の解析を中心に

著者: 吉開俊一 ,   詠田眞治 ,   大原信司 ,   由比文顕 ,   坂田修治 ,   松野治雄

ページ範囲:P.733 - P.738

I.はじめに
 破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血に対する治療法は,急性期直達法を中心に進歩してきたが5,6),その治療成績は依然満足できるものではない.それはprimary da—mageに他の多くの病態因子が絡んでいるためである.今回当施設における破裂脳動脈瘤症例の治療成績と転帰に影響を与えた病態因子を解析し,対応策を検討した.

聴神経腫瘍における腫瘍の形態的性状と内耳道拡大に関する検討:骨破壊のメカニズムに関する考察

著者: 高田義章 ,   大野喜久郎 ,   平川公義

ページ範囲:P.739 - P.742

I.はじめに
 聴神経腫瘍に伴う内耳道の拡大は画像診断学的に極めて重要な所見であるが,そのメカニズムは今日でもまだよく分かっていない.腫瘍の緩徐な増大に伴う慢性の物理的圧迫が内耳道壁破壊の最大要素と考えられるが,腫瘍のサイズが大きくても必ずしも拡大の程度が著しいとは限らず,様々な要因が関与している可能性がある.
 今回われわれは,聴神経腫瘍36例の形態的性状および臨床症状と内耳道拡大との関連について検討を行い,内耳道の拡大のメカニズムについて考察を行った.

症例

膜様構造物が原因となった成人発症中脳水道狭窄症の1例

著者: 山崎文之 ,   児玉安紀 ,   堀田卓宏 ,   谷口栄治 ,   梶原佳則 ,   迫田英一郎 ,   江口国輝 ,   橋詰顕

ページ範囲:P.745 - P.748

I.はじめに
 中脳水道狭窄症は,通常小児期に先天性奇形として水頭症で発症するが,青年期から成人期にかけて発症する中脳水道狭窄症も稀ならず存在する.われわれは,中脳水道の膜様構造物が原因と診断し得た成人期発症の中脳水道狭窄症の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

特発性頸動脈海綿静脈洞瘻に対する塞栓術後に発症した網膜中心静脈閉塞症

著者: 深見忠輝 ,   五十棲孝裕 ,   椎野顯彦 ,   中澤拓也 ,   松田昌之 ,   半田譲二

ページ範囲:P.749 - P.753

I.はじめに
 特発性頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)の治療として,血管内手術が用いられることが多くなったが,塞栓術後に網膜中心静脈閉塞症(CRVO)を併発し,視力障害をきたすことがある.一旦CRVOをきたすと,その後の経過が不良であることから,塞栓術によるCRVOを未然に防ぐ必要がある.また,CRVOをきたした際には,早期に治療を開始することが重要で,そのためには視力障害の原因を早期に鑑別診断する必要がある.今回われわれは,CCFに対する血管内手術による海綿静脈洞の閉塞後に,対側の外転神経麻痺と視力障害が出現し,流入動脈の再疎通によるCCFの増悪とCRVOによる症状の悪化の鑑別を必要とした症例を経験した.

「頸静脈球高位」の1例:画像診断および鑑別診断について

著者: 村尾昌彦 ,   小嶋寛興 ,   竹村信彦 ,   土田富穂

ページ範囲:P.755 - P.758

I.はじめに
 頸静脈球は,sigmoid sinusが内頸静脈に移行する部分であり,その上縁はドーム状を呈して通常は鼓室底の下方に位置するが,頸静脈球の上端が鼓室底より高い位置に存在し,鼓室底の骨層の菲薄化や骨欠損を伴い鼓室内に突出したものは,頸静脈球高位と称されている.解剖学的頻度は,Subotic18)らの報告では3.55%,Over—ton13)らによれば6%と,決して稀なものではないが,臨床的には1890年のLudwig11)の記載以来43例の報告があるのみである.
 今回われわれは,難聴,眩暈で発症しCT,MRI,MRA,断層X写真,脳血管撮影等により,頸静脈球高位外側型と診断した症例を経験したので,脳神経外科領域としては稀なこの疾患の画像診断,鑑別診断について報告する.

椎骨動脈first segmentの血管減圧術で難治性めまいが消失した1例

著者: 五十嵐幸治 ,   相馬勤 ,   桑原和英 ,   土田博美

ページ範囲:P.759 - P.763

I.はじめに
 椎骨脳底動脈循環不全の原因としては,椎骨動脈の動脈硬化性病変によるものが最も多いとされている.しかし,めまいなどの臨床症状が頭部回転により反復性に一過性に起こる場合には,機械的圧迫による椎骨動脈のfirst segmentからfourth segmentまでの循環不全を疑わなければいけない2-5).今回われわれは,頭部回転時の難治性めまいを主訴とする症例で,一側椎骨動脈のfirst segmentが星状神経節により機械的圧迫を受け,対側のfirst segmentにも同時に機械的圧迫を受けていたと思われる症例を経験した.この症例に対して片側の椎骨動脈の血管減圧術を行ったところ極めて良好な結果を得たので報告する2-5,8,14)

SPAMM-tagging法にて検出し得た特発性髄液漏の1例

著者: 小林英一 ,   久保田基夫 ,   山浦晶 ,   中野喜正 ,   守田文範

ページ範囲:P.765 - P.769

I.はじめに
 髄液漏の漏孔部位の局在診断に関しては,様々な検査法が考案されているが,いまだ決定的なものがない.近年MRIにて非侵襲的に流速測定が可能となり,脳外科領域にもその応用が期待されているが,今回われわれはspatial modulation of magnetization(SPAMM)—tag—ging法を用いたcine MRIにより特発性髄液漏の漏孔部位を動的に局在診断し得たのでここに報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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